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恋色の波動 9

 自分でも驚きです。脂っこい食べ物が好きだなんて思ってもみなかった。

 動物性の油分は健康に悪いというイメージがあって遠ざけてきた。マグロの脂身は赤身に比べてカロリーが高い。

 だけど栄養は豊富で、DHAとEPAなどの不飽和脂肪酸が多量に含まれている。

 アルマさんは火炙りにすると優秀な不飽和脂肪酸が流れ出てしまうことを知っているので、受け皿を置いて余すことなく堪能しようと努力した。

 ものすごい食への執念を感じます。

 きっとすみれさんの影響なのでしょう。


 アルマさんはルルアさんから、『好きなだけ切り分けて、好きなだけ召し上がって下さい』と言質をとってるからか、3センチの立方体のブロックをピックに刺してにやけ顔をした。

 きっとこんな贅沢な食べ方は暁さんだってしたことがない。と呟いて悪人のような笑い声をあげる。

 そ、それほどまでに嬉しいのでしょうか……たしかにおいしいですけど、なにもそこまで怖い顔をしてにやけないでもいいのでは?


 ちょっと怖い笑顔も嬉しいからこその笑顔。

 ひと口ほおばれば元の素敵なアルマさんに戻って満面の笑みをこぼす。

 続いて私もぱくり。う~ん、おいしいっ!

 見よう見真似でバストさんもぱくり。そのおいしさに感動の嵐。

 プリマちゃんはヘルシーな赤身を選択。というより、脂っこいトロは嫌いみたい。


「猫は陸上生物だから、基本的にチキンとかポークのペットフードを与えてるよ。後夜祭で食べて気に入ってしまった焼き魚は御馳走として3日に一度、焼いてあげてる。プリマとバストのおかげで私も焼き魚を家でよく作るようになった。トロを好きになったらどうしようかと心配していたが、赤身のほうに食いついてくれて本当に良かった。お金の話しになるが、ベルンでトロはなかなか手に入らないし、鮮度にも疑問があるし、値段的にも高いし……」

「グルメ猫ちゃんになるところでしたね。もうすでに手遅れ感はありますが」


 マグロの赤身を一心不乱に食べまくる姿は猫界のフードファイター。


「プリマはなんでも食べるぞ。果物や肉、カリカリとか猫缶なるものとか。しかしやはり白身の焼き魚が一番の好物だ。妾はプリマのことをよく知っているが、ハティのゆきぽんは大丈夫なのか? りんごしか食べているところを見ぬが?」


 バストさんのおっしゃる通り、りんごに食らいつく姿ばかり見る。さすがに栄養過多ではないだろうか。


「そこは大丈夫です。ゆきぽんも基本的に好き嫌いはありません。獣医に相談して、すみれさんがゆきぽん用のご飯を作ってあげてます。りんごを食べてる印象が強いのは、ハティさんがあげまくってるからです。ちゃんと栄養バランスを考えた食事を摂っています」


 それは本当に安心です。他人の家族ながら、いつもリンゴを抱いて踊るゆきぽんの栄養バランスは大丈夫なのかと心配になっていた。

 いくらリンゴが栄養豊富とはいえ、偏食を極めれば体に悪い。

 それにしてもすみれさん。本当に凄いなぁ。ゆきぽんのご飯まで作っちゃうなんて凄すぎる。料理に関しては本当に無敵ですね。


 暖炉の前でくつろぐバストさんとプリマちゃん。お腹もいっぱいになってきたし、もふりたい衝動からプリマちゃんを腕に寄せて背中をなでなで。アゴをちゃいちゃい。

 初めて出会った時はすっごく小さかったのに、猫ちゃんの成長は早いものです。

 もふもふの面積が増えて幸せです。うちもペットが飼えたらいいのになぁ。マンションは原則、ペットは禁止なんです。

 なのでここでいっぱいもふもふしちゃいます。


 もふもふにつられてアルマさんとマルコさんがやってきた。プリマちゃんを挟んで2人でもふもふ…………はっ!

 これはなんだか、いいシチュエーションなのではないでしょうか。

 かわいい猫ちゃんを2人でもふもふ。

 温かな暖炉に照らされて心も体もぽっかぽか。

 どさくさに紛れて手を繋いじゃったりとかしないでしょうか。

 そのままこっそり、ちゅ、ちゅ~~~~とかするんでしょうか。

 いや、このまま進めてみせます。私が恋のキューピッドになっちゃいますっ!


 ★ ★ ★ 【アルマ・クローディアン】


 なんだろう……ガレットから強烈な恋色の波動を感じる。

 目を爛々と輝かせ、何かしてやろうと意気込んで、鼻息が耳元まで届いてきた。

 まさかとは思うが、アルマとマルコをくっつけようとしてるんじゃないよね。

 そりゃあマルコはお人好しだし、剣も魔法も達者。同年代の中ではトップに入るほどの優等生。


 でもなんかなぁ~猫被ってる節がぷんぷんするんだよなぁ~。

 中身が狼ならまだいい。アルマが感じるのはそういう男っぽさではない。

 研究色の強いリンさんのような変態的性格。息をするように人に迷惑をかけられるはた迷惑な自己肯定感の強さ。

 そんな雰囲気を感じてならない。ぶっちゃけ、あんまり関わりたくないなぁと思った。

 ペーシェさんの弟さんだからよくしてるだけで、そうでなければ話しを合わせたりはしない。

 その程度の評価です。


 そもそも、万が一にもアルマがマルコとくっついてしまった場合、取り巻きの女性たちが黙ってないだろう。

 なぜかは分からないが彼女たちはマルコに好意を抱いている。

 そしてこれも謎だが、マルコは彼女たちに好意はあれど、恋愛感情的な好意を抱いてないように見える。尊敬する友人。そこ止まり。

 あれだけべったりくっつかれて発展しないということは、もしかするとマルコには好意を寄せる女性がいるのかもしれない。あるいは同性愛者。

 もしかするとこの中にいるのかも?


 マーガレットは年下すぎる。しかし成長すると美人になるだろうなぁとは思う。

 姉も母も顔立ちが整っていて柔和な笑顔は母性的な印象。ウェディングブーケのデザイナーを目指す彼女は、きっと素晴らしい幸せのコーディネーターになるだろう。


 ガレットも小柄でかわいらしく、絵に描いたような女の子。しっかりちゃっかりしているところもチャームポイント。少し小悪魔的なところも男の子の好きそうな急所である。


 シェリーさんは老若男女を問わず愛されるスーパーレディ。倍近くも年が離れてるが、愛に年齢は関係ないという。彼女の場合は誰に好かれていても不思議ではない。

 最後に自分(アルマ)か……。魔法が恋人のアルマには全く分からない。

 人として好きな人はたくさんいる。しかし異性として好きとかどうとかっていう感覚がまるで分からん。みんなはどうやって判別するのだろうか。

 直感で分かるとかなんとかいうけど、意味わからん。

 基準を教えて欲しい。赤い糸を繋ぐ魔法を開発してからのたまわってくれ。


 さて、喫緊の課題はガレットの恋色の波動から逃げおおせる方法である。そんなに難しい話しではない。マルコと距離を取ればいいだけの話しだ。

 そしてアッチェさんに雪国で重宝されている魔法の話題をふろう。

 そうすれば絶対アルマ結界が形成され、恋色波動砲なんて軽く防いでみせようというもの。

 ふふふっ、策士な自分が少し怖いですな。


 策士笑いを浮かべるアルマの背後に大きな影を感じる。

 悪寒が。背筋に悪寒が走った。


「ふははは~っ! ええのぅええのぅ。猫も人も(わっぱ)は愛いものよのぅ。ガレットも前に来て座っておくれな」

「真ん中ですか…………っ! わっかりました!」

「ちょ、バストさん……いきなりどうしたんですか?」


 がっつり掴まれて引き寄せられてしまった。離れたかったのに、アルマの意に反して密集してしまう。

 振り返るとそこには哀愁漂う表情のバストさん。これは突き放しづらい。


「なぁに、少し昔のことを思い出してな。ウルタールが栄えていた頃、いつかこんなことがあったと思い出しておったのだ。今はもう見る影もないが――――これからだ。これからまた、彼の日の幸福を……取り戻して……みせ…………ぐぅ~」


 寝たっ!

 まさかのバストさんホールド。しかも寝てるはずなのに結構な力で押さえつけられている。これが猫の神の実力か。

 いやそんなわけないか。


 ともあれ、これではアッチェさんのところに行くことができない。マルコから離れられない。いやちょっと待て、まさかとは思うが、自分でも意識してないところでマルコを意識してる?

 いや、そんなはずはない。素直なアルマのことだ。そう思っているなら自覚するはずである。

 そうでないならやはり恋愛感情を抱いてないに違いない。

 そう思うとなんだかちょっと安心しました。だけどアルマも女の子。異性に興味が微塵もないわけではない。

 魔法と比べて一毛くらいはある――――はず。


 仮にマルコと結ばれるとなると……っ!

 サンジェルマンさんとレーレィさんの義娘になるわけか。

 ペーシェさんの義妹にもなれるのか。

 それはちょっと魅力的かもしれない。魔法も剣も集団戦術も、その他諸々の知識も経験豊富なサンジェルマンさん。

 きっと世界でも有数の賢者であることに疑いの余地はない。

 そんな彼から学べるのなら、これ以上の幸運はないだろう。


 レーレィさんは料理上手。教え方も上手いらしく、パーリーの総菜コーナーは花嫁修業をする場としてふさわしいと、もっぱらの噂である。

 その知識と技術を買われ、アルバイトでありながら結構な高給取りだそうだ。

 実際、彼女の作る料理はおいしい。話し上手なレーレィさんを目当てに訪れる固定客もいる。


 ペーシェさんは頼りになるし優しいし、アルマの興味のない分野や未知の知識を有している。

 特に素晴らしいのは【特異な魔法】と言って見せてくれた黒い魔法。

 性質は桜と似たようなところを感じたそれは、アルマの識らない未知の力。

 是非とも解明したい。

 アルマも使ってみたい。

 スパルタコさんのズボンを真っ二つにしたいわけではないけど。

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