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恋色の波動 8

 マーガレットちゃんは意にも介さず進みゆく。シェリーさんとエクレールさんに両手を持ってもらって、宙へぴょんぴょんと飛びながら魅惑のすい~つを採りに出かけた。

 すごいなぁ~わたしにはとてもできないなぁ~。

 …………あれ、これってもしかして、女子力の低下を示唆してますか?

 そんなことはないですよね?

 寒かったら誰だって暖炉の前にいたいと思うものです。

 そのはずです。


 それにしても、アルマさんの同年代の男性に対する扱いが異様に雑な気がするのは気のせいでしょうか。

 イッシュさんとネーディアさんのこともぞんざいに扱ってました。まぁ、あの2人に関してはいざこざがあったようですから仕方ないかもしれませんが。


 であるならば――――マルコさんに対するぞんざいな対応は、もしや、気になってるからこそ粗雑な対応をしてしまうというアレですか!?

 恋色なやつなんでしょうか!?

 アルマさんは魔法が大好き。魔法で人々を幸せにしたいと願ってる。

 フラワーフェスティバルで始まった空中散歩は世界中に拡散して話題沸騰中のワードのひとつ。

 それはひとえに情熱と信念の成せる業。

 マルコさんは今はまだ無名だけど、次期騎士団長候補と囁かれるほどの実力と人望の持ち主。

 その2人が、どれだけ関わっているかは分かりませんが、惹かれ合ってしまうのは仕方のないことなのではないでしょうかっ!?


 それを証拠に、キッチン・グレンツェッタに関わりのなかった2人がアイザンロックに来た。

 たんに外国に興味があったということかもしれないけれど、もしも2人がお互いのことを密かに思いあっていたら…………せめて片方が思いを寄せてるのだとしたら…………こんなに胸焦がれることはないんじゃないでしょうかっ!?


 いやいやまてまてガレット・ヘイズマン。

 これはあくまで私の妄想。(ファンタスティック)(・パッションピンク)です。

 ここは様子を見るのです。ちょっとずつ寄せて寄せて様子を見るのです。

 となれば何か良いイベントはないものでしょうか。


 独り相撲をしていると、次の料理が運ばれてきました。

 見た目はハンバーグ。もちろん、ただの挽肉ではない。マグロの赤身を使ったハンバーグ。

 輪切りにした尻尾の部分から肉を削ぎ落し、包丁で叩いてミンチにし、ぶつ切りのトロを混ぜて薄く伸ばして焼く。

 普段見慣れた牛や豚肉の合い挽肉を使ったハンバーグよりもずっと薄い。

 薄いがしかし、さっぱりとした赤身とコラーゲンたっぷりの筋。ジューシーな脂の乗ったトロが魚とは思えない旨味を引き出していた。

 合い挽肉と比べて食感はさっぱりしながらも、ジューシーなトロが口いっぱいに感動を届ける。

 モチモチコラーゲンの筋が歯に当たるたびに幸せを感じさせた。

 極めつけはすりおろした雪りんごをバターで炒めた特製ソース。甘く香ばしいソースが魚肉の旨味を最大限に引き立てる。

 こんな組み合わせがこの世にあったとはっ!


 感動していると、アッチェさんが子供のような笑顔を向ける。


「うまいだろ~♪ シュッカって言って、『捏ねて焼いた肉』って意味だ。あたしはマグロ料理の中で断トツにこれが好きなんだ。調理は簡単。尻尾の部分は端材扱いされがちだけど、創意工夫次第でいくらでもおいしくなる。先人たちには感謝感謝だ」

「ものすっごくおいしいですっ! 今までツナ缶しか食べたことがなかったんですけど、これならいくらでも食べられますっ!」

「ツナ缶? おかわりが欲しくなったらいくらでも言ってくれ。今日は大漁だったらしいから、いくらでも食べさせてあげられるぞ」

「ありがとうございます!」


 おいしいマグロ料理に舌鼓を打つ隣で、アルマさんが初めての味に感動を覚える。


「うっま! マグロは生しか食べたことがなかったけど、シュッカってちょ~おいしいですね!」

「むしろ生食しかしたことがないって嘘でしょ?」


 アルマさんの生食発言にすかさずつっこむマルコさん。

 夫婦漫才でしょうか!

 息のあったコンビプレーというやつでしょうか!

 私のわくわくをよそに、アルマさんは故郷の食卓を思い出す。


「焼くにしてもローストビーフみたいなやつはある。タタキって言うんだけど、ビーフならぬローストツナってところかな。表面だけ軽く焼いて中身は生。スライスした玉ねぎとポン酢で食べるのだ」

「やっぱり生じゃん」


 お酒が入っているせいか、アルマさんが珍しく魔法と工芸品以外のことでテンションを上げる。

 いや、おいしい料理の時はテンションが高かったような気がする。ただ、マルコさんの背中を裾でバンバン叩くほど、絡みが強かった記憶はない。

 これはまさか……やっぱり脈ありなんじゃないでしょうか!?

 お酒の力を借りて越えられない一線を越えようとしているのではないでしょうか。

 なるほど、となるとこのまま手を繋いじゃったり、ま、まさか、ちゅっ、ちゅ~っとかしちゃったりするんじゃないでしょうか。

 そんなことになったら、そんなことになったら私はもうきゃあ~~~~っ♪


 私の中にある『一線を越える』ハードルの低さたるや、世間一般に言われるものと比べると遥かに易い。

 一般人の手を繋ぐハードルはそこまで高くない。

 でも私は一般的に言う教育機関のようなところで育ったことがない。

 勉強はいつも家庭教師が屋敷に来てくれた。

 同年代の異性との交流だって殆どない。

 そんな私が恋愛感情を学ぶ場は、ネットで流通している少女漫画や古い御伽噺だけ。

 空想の世界だけが私にときめきを与えてくれる。

 それが、今、現実に、目の前に、顕れようとしているなら、テンション爆上げで2人を凝視したって異常ではない。決してっ!

 もういっそストレートに聞いてしまおうか。


 よし、まずはジャブを打ってみましょう。

 アルマさんは魔法が大好き。マルコさんも魔法適正が高く、剣も魔法も優秀な成績でいらっしゃる。

 となれば、魔法の話題をふれば食いついてくれるはず。

 アルマさんを釣り上げれば、お人よしのマルコさんも話しに追従してくれるはず。

 よし、これでいこう。


 と、意気込んだのも束の間、満面の笑みでバスケットをイチゴでいっぱいにしたマーガレットちゃんが帰ってきた。

 真っ赤に熟れたイチゴに白い雪りんごも抱えている。

 寒さなんてなんのその。嬉しくて嬉しくてしょうがないといった様子で小躍りを踊った。


 私も一緒に小躍りをして一緒に厨房に入る。ひと口サイズに切り分けてコップいっぱいに詰め込んだ。アイザンロックの湧き水を注いでできあがり。

 普通はフルーツをコップの3分の1ほどまで入れて冷水を注ぐ。

 しかし、あぁ、なんと、ぜいたくなことなのでしょうっ!

 コップの中身の9割方がイチゴとりんごで埋まってしまった。

 赤と白のコントラストが美しい超贅沢なフルーツティー。もはやティーというよりただのフルーツボール。


 目的を忘れて寄り道をするも、寄り道をした先があまりにも素敵だった経験はないでしょうか?

 今まさにそんな感じ。


 我々はイチゴとリンゴを切ってはコップに詰めて冷水を注ぎ、お世話になった人たちへ振舞った。

 ガラス吹き体験をさせてくださったアッチェさん。

 マグロを捕獲してくれた船長さん。

 おいしい料理を作ってくれた海万歳の方々。

 アルマさんやマルコさんにも手渡して、ありがとうの笑顔をいただきます。

 どういたしまして、と返して胸が熱くなった。

 冷たい空気なんてなんのその。

 笑顔を見るだけでぽかぽかとあったかくなっちゃう。

 なんて幸せなことなのでしょう。


 ビューティフルでデリシャスなスイーツティーに舌鼓を打っていると、アルマさんが飛び上がってルルアさんの手元を凝視した。

 まるで高級ステーキ店で見るかのようなお肉の塊が運ばれてきたではありませんか。

 プレートには霜降りの大トロの塊と、アルマさんが小躍りしながら歌っていた希少部位が並ぶ。

 頭部にある頭肉(鉢の身)。1匹から2枚しかとれず、非常に脂が乗っていて炙って食べると絶品だそうな。

 頬肉も1匹から2枚しかとれない。最も筋肉の発達した部位のひとつである。

 新鮮なら生でもいけるらしいけど、筋肉質で繊維が多いため、シンプルな塩焼きが食べやすく美味だそう。

 最後にエラの近くにあるカマと呼ばれる部位。白っぽく、ややピンク色をしているカマは塩焼きにして食べるのがベスト。

 炙って食べるのもアリだそうなので、ひとつは塩焼き、もうひとつは炙って食べることにします。


 ぬぅ~~…………それにしてもマグロですか。

 アルマさんはトロを生で食べている。生食文化のない我々には非常に奇異な光景に見えてしかたがない。

 多民族国家のようなグレンツェンでも相当に異質な光景。

 そもそも魚を生食する文化を持つ国がそんなに多くない。

 新鮮な魚が沢山獲れ、新鮮なうちに調理して食べることのできる倭国のような土地柄のある場所だけ。

 もっとも、そういう国であっても例外は存在する。


 例えば、甘エビの獲れる地域ですら、養殖業者の人は『よくこんな虫みたいなものを食べるよな』と言い放つ始末。

 売れるから養殖しているだけで、現地で消費されてはない。

 タコにしたってそう。見た目が最悪なデビルフィッシュは輸出先があるから漁に出るだけで、地域や国によっては現地民でさえ手を出さない雑魚。

 気持ち悪がって食べたり、それどころか触ろうとも思わない。

 そう考えると、倭国人って本当に何でも食べるよね。すみれさんも、『グロイは美味い』なんて言ってたっけ。

 グロイはグロイでしょ……と思う。けど、食べたらおいしいんだろうなぁ。食べないけど。


 そんなことを考えながらも、アルマさんが持つピックの先から香る、非常に香ばしい匂いを放つそれを無視できない自分がいた。

 炙りトロ。初めての体験に驚き、勧められるままにぱくり。

 火が通ってるなら大丈夫だろう。そう思ってのぱくりである。


 もぐもぐ――――――うっ、うまいっ!

 物凄く脂っこい。強烈な旨味が口いっぱいに広がって鼻を抜ける。お魚って炙るとこんなにジューシーになるものなの!?

 固定観念の崩壊と新たなる境地にたどり着いた感動に認識を改めざるをえない。

 これ、下手をしたら牛肉よりずっと脂っこいのではないでしょうか。

 めっちゃ胃もたれする感じ。でもそこがいいっ!


 マルコさんは違うみたい。


「うっ……おいしいけど、もの凄く脂っぽい。魚の脂ってこんなに強烈な味がするんだ……。おいしいけど、そんなに多くは食べられないな」

「マグロのトロは好き嫌いがはっきり分かれるよね。脂っこいのが苦手なら赤身をおススメするよ。赤身とトロを一緒に食べてもいいかもね」

「んん~~~~~~~っ! ちょーおいしぃ~っ! もっと食べていい?」


 マーガレットちゃんはいける口。


「ええ、もちろんです。たくさんあるので、たーんと召し上がって下さいね♪」

「ありがとうございますっ! こんな経験、滅多にできるもんじゃないので堪能させていただきますっ!」


 アルマさんはひたすらに炙っては口の中に放り込んでいく。

 シェリーさんは大人だけあってお酒を共にしたいみたい。


「ん~~、魚料理には白ワインってのが通説だが、これは赤が欲しくなるほどジューシーだな」

「お酒ならいくつかありますが、せっかくなら氷酒がおススメです。雪りんごを使った甘めのお酒です。野菜にもお魚にも合いますよ♪」


 あぁ、お酒。あと数ヶ月で成人なのに。

 仕方ないのでお魚さんを堪能させていただこうと思います。


「私ももう少しいただきたいです。こっちの希少部位というものはどんなふうにして食べるのですか?」


 アルマさんにご教授願い、暖炉の前でトロを火炙り。

 紅色の身からふつふつと脂が躍り、一瞬で白く化粧がなされる。身は翻りこうばしい香りを放つそれをぱくり。おいしいっ!

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