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シャングリラ、真実の幸福が在るところ 15

 すみれさんはエリストリアさんと子供たちの間に広がる違和感に気付きながら、彼らの情熱と下心に背中を押されてエプロンを着用。材料を揃えていざ出陣。

 砂糖。重曹。卵。おしゃれな小鍋。ティースプーン。

 なんだか見覚えのある材料。どこだっけ。どこかで見たことがあるんだけど思い出せない。


 気付いたのはライラさん。これらをどこで見たのでしょう。


「なるほど。さすがすみれ。エクセレントなチョイスだな」

「ライラさんはこれが何か分かるんですか?」

「ああ、もちろん。いやぁ~懐かしいな。最近じゃ滅多に見ることもなくなったなぁ」

「滅多に見ることがなくなったもの、ですか?」


 むむむっ。最近ということは、少し前まではそこそこ散見されたということでしょうか。

 材料も器材も少ないので、難しい料理工程を持つものではないでしょう。

 記憶を探れどそれらしいものが見当たらない。でもなんていうか、もうそこまで見えてるんだけどなぁ。すごいもどかしいなぁ。


 すみれさん曰く、このお菓子は温度と時間管理がとても重要とのこと。

 必死にメモをとるオリヴィアさん。

 何が始まるのだろうかとわくわくする幼子たち。

 疎外感を感じつつも、そんなわけないと自分に言い聞かせるエリストリアさん。

 そんな彼女を後ろで見て哀れみを抱くメアリさん。

 十人十色のオーラを発しながら、わくわくな時間が訪れる。


 まず卵を卵白と卵黄に分け、卵白と重曹を混ぜ、硬くなってきたら砂糖を少量加えてかき混ぜる。

 砂糖と水をホットスキレットに入れ、125℃になるまで加熱しながらかき混ぜる。


 ちなみにこのホットスキレット。ハティさんの友人が作った便利アイテムのひとつ。

 魔力を流すだけで鍋の温度が上がり、ちょっとした料理を作ってそのまま食卓へ持っていくだけでお皿になる。保温機能もあり、あつあつ料理を楽しめるのです。


 ちょっとした料理。例えばアヒージョなんてうってつけかも。オイルを注いでスライスオニオンと唐辛子を少々。あとはカット済みの冷食野菜や魚介類の詰め合わせを流し込んで温めて出来上がり。

 寝る前にホットミルクを作ってそのまま流し込むというもアリ。

 少量でいいけど、そのためだけに鍋を用意するのが面倒なホットワインも、これなら1杯飲むだけを注いで温められる。

 かゆいところに手が届く!


 デザインもかわいいのではないだろうか。取手の部分はかわいらしくも優しい風合いを持つ木製。

 全体のサイズ感も小さすぎず大きすぎず、手のひらに収まる大きさで収納にも場所をとらない。多分、便利なので棚にしまわないだろうけど。

 これ、めっちゃ欲しいっ!


 ライラさんもそう思いますよね。

 一緒にラブコールしましょう。


「たしかにあると色々と便利そうだな。離乳食とか作る時って温度管理が大変なんだが、これなら魔力を流す、つまり自分の感覚を頼りに自由に温度調節ができる。しかも赤ちゃんが一度に食べきるだけの量で作れるからサイズも手ごろだ」

「ですです。使う場面を選ばないのでとっても便利そうです。屋外でも使えるので、紅茶を飲むためのお湯を沸かす時にも使えます。火を使わないのもポイントが高いですね」


 マジックアイテムも大好きなアルマさんも首をひねる。


「よくよく考えてみれば、こういうものって世の中にあってもいいようなものですよね。でも振り返ってみるとありませんよね、こういうの」


 私も欲しいです、こういうの。

 ではなぜ世に出回らないのか。その理由はライラさんが説明してくれます。


「それはだな、魔法に耐えうる素材が少ないからだ。魔力含有量の低い物質では、魔力に耐えきれずに破損してしまう。魔法にもよるが、特にこういった熱などのエネルギーを発生させるものは魔力的な耐久度の高い素材でないと…………ん?」

「あれ? ということは、このホットスキレットは」


 なんと、調べてみるとこのホットスキレット。魔力含有量17%もの高品質な魔鉱石から作られてるではありませんか。

 もしや、機械文明より魔法文明を選んだがため、このような超激レアアイテムを生んだというのでしょうか。

 いよいよもって欲しい。デザインと機能性を両立させたホットスキレット。

 持ってるだけでおしゃれ感が上がるじゃないですか。


 あっ! ホットスキレットの話題ではしゃいでる最中にお菓子が出来上がっていたっ!

 しまった。世紀の瞬間を見逃してしまいました。

 歓声の中心にはもちろんすみれさん。小鍋の中に薄橙色をしたキノコのような膨らみがある。

 鍋の底でふつふつと沸騰していた砂糖が重曹と反応して成長したのだ。

 アレは見覚えがある。見た目だけではない。御伽噺に出てくる魔法使いの魔法を思わせる、驚きとわくわく感。

 ライラさんが、エクセレントなチョイスと言って褒めた理由がようやく分かりました。


 このお菓子の正体は【カルメ焼き】ですっ!


「大正解ですっ! シルヴァさんに相談したところ、魅せるお菓子作りをするならカルメ焼きがいいということで教えてもらったんです。材料は簡単ですし、シャングリラにはホットスキレットがあるので格段に敷居が低いと思って。あとは分量さえ間違えなければ確実に作れます」

「たしかに。これなら温度管理も簡単ですのでカルメ焼きを作るのに最適解です。とってもワンダフルです!」


 私のワンダフルに、キキちゃんが黄身の詰まったボウルを掲げて小躍りした。


「それにカルメ焼きには卵白しか使わないから、卵黄の部分でプリンが作れる。ぷりんぷりんっ!」


 なるほど、余った卵黄でプリン。1度で2度おいしいとはまさにこのことですね。キキちゃん、ナイスアイデアですっ!

 卵が大好きで鶏のお世話をしているリーナちゃんがプリンに食いついた。

 体を左右に揺らしながら、キキちゃんと一緒にプリンを作り始める。カルメ焼きの感動を忘れてしまうほどのプリン愛。本質はエリストリアさんと同じなのかも。


 他の子たちはカルメ焼きに興味津々。まずは下の子から味見して、カルメ焼きの甘さとサクサクの食感に感動の嵐。

 あまりのおいしさに飛び跳ねる姿はかわいいのひと言しかありません。

 きゅんかわですっ!

 しかも感動を分かち合いたいと、自分が貰ったお菓子を、ハティさんやエリストリアさんにも分けて回る姿はもう本当になんて健気なんでしょう。

 抱きしめてあげたいっ!


 それにしてもカルメ焼きですか。子供の頃は必ずと言っていいほど屋台が出ていたカルメ焼き屋さん。

 今ではスーパーのお菓子売り場で売られるようになってしまってか、古臭いと罵られてしまったのか、お祭りの日でも見かけることが殆どなくなってしまいました。


 でも今年のフラワーフェスティバルでは1件、屋台を出しているところがまだあったそうです。

 毎年、カルメ焼きを出店する頑固お爺さんがいて、その筋では結構有名なそう。来年、フラワーフェスティバルに参加することがあったら行ってみようと思います。

 だってあつあつのカルメ焼きは格別なんですもの。思い出補正も入ってます。


 古臭いと言われても、やっぱりおいしいのは間違いない。サクサクの食感にあまあまな味わい。アレンジのしやすさも魅力的です。

 抹茶の粉末をかけてみるのもよさそう。

 薄くジャムを塗るのもいいかもです。

 変わり種では、そうですね。後夜祭で食べたチーズケーキをリスペクトして、荒く削ったチーズなんかも――――――あ、やばっ!


「やっちまいましたね」


 アルマさんの一瞥だけではない。子供たちから冷ややかな視線が送られていた。


「はうぁっ! みんな、ごめんなさいっ!」

「チィーーーーズケェーーーーキってなんのことですかっ!? チーズをケーキに使っちゃうんですか!? その話し、もっと詳しくッ!」


 電光石火の勢いで問い詰められる。

 うっかり、チーズの地雷を踏んでしまいました……。

 それでも、子供たちからじっとりとした目を向けられても、情熱という名のエンジンをフルスロットにして突っ走る人を見るのは胸が躍りますね♪




~おまけ小話『チーズ大好き、エリストリアヒストリー』~


すみれ「エリストリアさんはチーズが大好きということですが、何かきっかけとか思い出があるのですか?」


エリストリア「はい。生まれて初めて食べたのはハティさんと出会ってからです。ピッツァに乗ったチーズにひと目惚れしてしまいまして。それからというもの、チーズが好きで好きでしょうがないんですっ!」


アルマ「ピッツァに乗ったあつあつのチーズは格別のおいしさですよね。特に野菜やキノコ、ベーコンなんかと一緒に食べると最高ですね」


メアリ「それは共感できるのですが、頻度は自重していただきたい。でないと、また子供たちに無視されてしまいますよ? いい加減、反省してください。今度こそ、相手にされなくなってしまいますよ?」


エリストリア「うぐぅ……気をつけます」


アルマ「話しが変わるんですが、ピッツァにトマトがつきものだと思うんですけど、クレアちゃんはなんでトマトを食べないんですか? トマトを育ててるって聞きましたけど」


メアリ「トマトは見て楽しむもので食べるものじゃない、というスタンスのようです。でもフルーツトマトだけは食べるんですよ。甘くてとってもおいしいんです」


暁「あぁ、以前にハティに相談を受けて、胡蝶の夢で品種改良している糖度の高いトマトを譲ったんだ。クレアちゃんはそれだけ食べてたな」


アルマ「どこから湧いて出てきたんですか。びっくりするじゃないですか!」


暁「いやぁ~、アルカンレティアを解放して薔薇の塔を攻略してもらっただろう。そのお礼に何かできることがあったら何でもするよ、って伝えててな。食わず嫌いを無理に矯正するつもりはないが、トマトのおいしさを知って欲しいってハティからリクエストがあったんだ。まぁ解決したかどうかはちょっと怪しいがな」


レレッチ「でもトマトを食べたのであれば課題はクリアなのでは?」


メアリ「それが……フルーツトマトはトマトじゃない、と……。クレアちゃんの中でのトマトの基準が謎なんです。具体的に説明もしてくれません。そもそも、彼女の中ではっきりとした基準がないのかもしれませんが」


すみれ「あぁ~、根拠や具体的な理由は自分の中でも曖昧なやつですね。でもそういうのって結構大事だと思います。素直な心が出所だと思うので」


エリストリア「素直な心って大事ですよねっ!」


メアリ「………………はぁ」

無事にシャングリラにオリーブの木がやってきました。アヒージョにしてもよし、サラダにかけてよし、パスタに使ってもよし。これからシャングリラの食卓により一層の彩が加えられることになるでしょう。

魔鉱石を手に入れたライラたちも新しい魔導への道が開かれそうです。


次回はガレットたちが春のアイザンロックへ赴き、ガラス吹きを体験したり滅多に見られない景色を堪能しに行きます。そこで繰り広げられるガレットの独り相撲にこうご期待!

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