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幕引きは幕開けの準備 2

以下、主観【エマ・ラーラライト】

 忘れ物を思い出してぱっちりと目が覚めたすみれさん。

 オンとオフの切り替えがはっきりしているところが羨ましい。普通、意識して眠気を跳ねのけるなんてできるものじゃない。

 きっと朝の寝起きもバッチリなんだろうな。ぐぅたらと布団から降りたりしないのだろう。

 いつも元気なすみれさんらしい。

 それもこれも眠るのを楽しみ、朝起きて出会う景色を待ち遠しくしているからに違いない。

 なんだか微笑ましく思えてしまう。


 さぁ、名残惜しくも最後の1杯。

 始まりがあれば終わりあり。

 終わりがあるから新たな始まりがある。

 閉幕は次の幕開けのための通過儀礼。

 ともすれば、喝采の火蓋と同じくらい大切にしなくてはならない。

 今宵の宴の最後の花火は、贅沢という言葉を並べても足りないくらいの代物が用意されていた。


 黄金琥珀の蜂蜜酒。


 グレンツェンの酒蔵が誇る最高級のワイン。そしてなにより、我々キッチン・グレンツェッタが勝ち取った栄光の証。

 なによりも尊く、祝杯をみなと分かち合えるこの瞬間こそが至上の喜びとなる。

 メンバーだけではない。私たちに関わり、助けてくれた全ての人々の笑顔の結晶。

 グラスに注ぎ、手渡すと同時にありがとうの言葉を乗せて笑顔を向ける。

 返してくれる素敵な笑顔を、私はきっと一生忘れないだろう。


「未成年なのでお酒が飲めないのが残念です。あと1年、早く生まれていればっ!」

「えぇ、ガレット様。今年は残念ですが、来年には一緒に黄金琥珀の蜂蜜酒を飲みましょう」

「キキたちはもう少し先だね。でもヘラさんが用意してくれたはちみつレモンがあるから大丈夫。これもすっごいおいしいもん♪」

「うん、すっごくおいしいよね。わたしたちはこれで乾杯です」


 残念ながら未成年の彼女たちには、ヘラさん特製のはちみつレモンで我慢してもらうことにします。

 しょうがないもんね。

 法律で禁止されてるからね。

 その代わりに私たちがめいいっぱい楽しむから、それで許してね。

 内心、そのぶんだけ多く飲めると思って喜んでなんていませんよ。本当ですよ?


 下心というものは顔に出るらしい。ウォルフに指摘されて背筋がこわばる。

 ジト目で迫るウォルフを背後にガレット様へ向かった。

 彼女は今年の冬に成人する。その際には黄金琥珀の蜂蜜酒で乾杯しよう。

 あと少しで魅惑の美酒が楽しめるというのに、あと少し時間が足りないばかりに楽しめないでいた。

 彼女はそうとは悟らせないようにしているが、やっぱり蜂蜜酒を飲みたいに決まっている。

 だっておいしいんだから。

 絶対そうに決まっている。

 そうでないはずがないっ!


 しかし現物を手に入れようとするとなかなかにたいへんである。春に出回る以外に出荷はされていない。

 中古で手に入れるにしても、価格が高すぎるし数も少ない。

 目の前にある樽の中身を少し分けてもらおうにも、1度、封を切っているわけだから鮮度に疑問がある。

 通常のワインであれば、コルクを抜いても適温で保存していれば鮮度は保たれた。だけど蜂蜜酒はコルクを抜いてから鮮度が落ちるのが早いと言われている。

 困ったものだ。特別な日は特別なワインで乾杯したい。


「それだったら私が持ってるボトルと交換しましょうか? 通常出回ってるものだから、樽に入ってる蜂蜜酒とは味わいが異なるけど。それでもよかったら」


 ヘラさんから天啓がフォールンダウン。

 女神を前に膝をつく。


「本当によろしいのですか? 貴重な逸品のはずですが」

「だってせっかくの誕生日なんだったら、めいいっぱい贅沢して欲しいじゃない。ローザもそれでいいよね? あと、エマちゃんは立ち上がってね」

「ええもちろん。代わりと言ってはなんだけど、余った樽の蜂蜜酒と交換ってことでもいいかしら。やっぱりわたしも欲張りたい」

「それはもちろんです! でもみなさんと分配するということなので、量については……」


 全員を見渡すと、彼らは笑顔でサムズアップ。


「いやいや問題ねぇだろ。賞品の蜂蜜酒は全員に配られるべきものだ。法律があるから飲めないとはいえ、それでお預けってのはあんまりだろ。なんだったら俺様の分をガレットに充ててくれてもいいぜぇ~?」

「あたしのは少なめで構わないよ。ベルベットさんと旦那さんと、あたしの3人分だけあれば十分だから」

「そ、そんなっ。これはみんなで勝ち取ったものです。公平に分けるべきものです――――でも、みなさん本当に、ありがとうございますっ!」


 感謝とともに喜びのあまり熱い涙が頬を伝う。

 仕えるべき主人が愛されているということは嬉しいことだ。自分のことのように嬉しくなって、『よかったですね』と声をかけると満面の笑みで頷いた。

 愛らしくてかわいくて、いつも一生懸命で頑張り屋さん。そんな貴女のことを、私を含めてみんなが愛している。

 これほど嬉しいことがあるだろうか。


 なんだか喜びで胸がいっぱいになって体がふわふわしてしまう。

 これが幸せっていうものなのだろう。

 誰かを想って涙を流せるって、とても素敵なことですね。


     ★     ★     ★     【ウォルフ・カーネリアン】


 後夜祭も無事に終わり、人気のなくなったセントラルステーションに立つ。

 線路を照らす街灯の光の前に数人の影。

 四方に広がる影が楽しかった数日間を思い出して小さく揺れた。

 グレンツェンへ来てすみれたちと出会い、友達作りの一環として参加したフラワーフェスティバルのキッチン・グレンツェッタ。

 ヘラさんの無茶ぶりとハティさんの天衣無縫な行動力で、あれよあれよという間にとんでもない規模へと膨れ上がる。

 正直、最初はどうなるものかとひやひやしていた。

 仲良しこよしでなんとなく終わりを迎えるのだろうと思ってたのに、随分とまた、大勢を巻き込んで世界は広がっていったもんだ。

 ま、終わりよければ全てよし。

 振り返れば何もかもみな懐かしくなるものよ。


 ――――ただ、最後の最後にエマが謎の失神をしなければ。


「きっと一気に疲れが押し寄せてきて眠っちゃったんですよ。一番頑張ってきたんだもん」

「その通りです。ルーラーとしての責任もあったでしょうし、最初から最後まで気張りっぱなしだったんですから。仕方ありません。ゆっくり眠らせてあげましょう」

「そうだな。まぁ今日くらいはあたしの背中でぐっすり眠るがいいさ。そしてたまにはあたしが朝飯を作ってやろうかな」


 料理を勉強したいということで、料理はエマに任せっぱなし。たまに腕を振るうのも悪くない。


「それでしたら私にも手伝わせて下さい。頑張ってお料理上手になりたいですっ!」


 ガレットお嬢様はやる気満々。


「その必要はありませんよ。ウォルフの料理はそんなに難しくありませんから」


 ティレットお嬢様がお茶目にからかう。


「お、おいおい。まるであたしが手抜き料理をしてるみたいじゃないか。簡単に作れておいしいって言って欲しいなっ!」


 談笑の中に笑いを添えるティレットお嬢様も随分と成長なされたようでよかった。

 それになにより、少し心に余裕もできたらしい。

 来るべき日に向けて魔法の修行ばかりをしていた。息抜きのつもりでキッチン・グレンツェッタに参加して、ずいぶんと眉間のしわがとれたようだ。

 とはいえまだまだ、これからどう転ぶかは分からないけど。


 南へ向かう電車が1つ。影を連れて走り出す。

 西へ向かう電車が1つ。また影を連れて走りだす。

 東へ向かう電車が1つ。ついに影はなくなった。


 みなそれぞれの家へ戻り、いつもの生活へと戻るのだろう。

 朝を起きておはようと囀り。

 夜には布団をかぶっておやすみの合図と共に幸せな夢の中。

 嗚呼、願わくばそんななんでもない日常が、ティレット様とガレット様に訪れることを祈ります。




~~~おまけ小話『今はまだ内緒の話し』~~~


暁「いやぁ~ついに終わってしまいましたな。フラワーフェスティバル」


シェリー「毎年、国王様の護衛としてだけ参加してたから、今年はとても新鮮だった。それもこれもアルマがいてくれたおかげだ。つまり暁が彼女をグレンツェンの留学に推薦してくれたおかげで今の私がいる。どうか礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


暁「いやいや、お礼を言うのはこちらですよ。アルマのことを大事にしてくれてありがとうございます」


ヘラ「ふふふっ。アルマちゃんを通じてすっかり仲良しになったわね。これからもっと長い付き合いになるだろうから、なにとぞよろしくお願いいたします♪」


シェリー「ええ、魔鉱石の件、ぜひとも贔屓にして欲しい」


暁「それはこちらこそです。ぜひとも共同研究ができる体制を整えていきたいと思っています。ね、ヘラさん?」


ヘラ「そうねぇ。他にも色々と計画してるんだけど、ベルン騎士団にも1枚噛んで欲しいわ。お互いがお互いにウィンウィンになれるお話し」


シェリー「それは願ってもないのですが、具体的な内容とは?」


ヘラ「そ~れ~は~……ここではまだ言えないの~♪」


シェリー「もしかして、ローザがさっき言ってた地下室の植物と関係が?」


暁「それもまだ秘密です♪」


ライラ「随分とじらすじゃないか。それは今度の七夕祭りの際には教えてくれるのかな?」


ヘラ「それはもう、メリアローザに行けば全てが分かるわよ♪」


暁「否が応でも分かりますよ♪」


ライラ「そっかそっか。それじゃあその日まで楽しみにしとこっかな♪」


シェリー「私は不安でしょうがないんですけど……」






アルマ「暁さん、メリアローザがベルンやグレンツェンとは異世界の関係にあるって言ってないよね……。どうする気なんだろう……」

フラワーフェスティバルが終わり、すみれたちは自分たちの生活に戻っていきます。

キッチン・グレンツェッタを通じて多くの出会いと友人と経験を得た彼らはこれからも自分の感情という名の欲望に驀進していくことでしょう。


そして次回はオリーブの木が欲しくて欲しくてたまらないハティがフラワーフェスティバル翌日の疲れ切ったレレッチのところへ吶喊していきます。常人では付き合いきれないバイタリティを炸裂させる彼女に待ったをかけたレレッチ。だけど彼女の願いを積極的に叶えたいと思うレレッチ。

それをいいことにハティの魔法を解析するためにライラとマルタが動きます。

前半はライラ、後半はマルタ視点で進みます。

マルタは最後の最後に思いっきり地雷を踏みぬきますよ。

彼女たちも欲望と下心の化身として日々を邁進していきます。

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