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甘いケーキの先に君を想ふ 2

以下、主観【紅 暁】

 やっべぇ~。桜のおかげで場の空気が激寒だよ。

 そりゃあそうだよね。チーズケーキに舌を突っ込んでべろべろやる人間なんて生理的に受け付けないに決まってる。

 男も女もガン引きした。

 どうしよう。この空気、どうやって元に戻そうか。幸いなことに彼女の奇行を意に介さず――――というか、意味が分かってないがゆえに頭の上にはてなマークを浮かべて首をかしげる子供たちがいる。

 彼女たちを焚きつけて火を熾そう。もはやそれしか方法がない。

 それからシルヴァにはあとで謝罪だな。


 あたしは場の空気をごまかそうと、キキとヤヤに話題を振った。


「キキ、ヤヤ。シルヴァの作ったチーズケーキはどうだ?」


 キキは瞳をキラキラさせてぴょんぴょん跳ねる。


「すっごくおいしいっ! チョコレートケーキもおいしいけど、チーズケーキも大好き。これね、このままでもおいしいんだけど、こっちのジャムと一緒に食べるんだって!」


 ヤヤは体を左右に揺らして幸せを表現した。


「柔らかくてコクが強く酸味と甘みの少ないレアチーズケーキと、カラフルなジャムを一緒に食べてみるそうです。白いキャンパスにお絵描きをするみたいで楽しいですよ」


 マーガレットもご満悦。嬉しくて頬を赤らめて満面の笑み。


「甘いジャムもいいけど、新鮮なベリーと一緒に食べるのもよさそう。イチゴとかクランベリーとか、甘酸っぱいのとかと相性よさそうです♪」

「ごめんね。今日は果物は持ってきてなくて」


 シルヴァのごめんなさいにマーリンさんが待ったをかける。


「こんなこともあろうかと、シロップ漬けのフルーツがあるよ。ストロベリー、ブルーベリー、ブラックベリーの瓶。ピーチ、オレンジ、キウイ。それから洋梨、イチジク、ホオズキ。好きに使っていいからね」


 なんて用意がいいんだ。いい女の手札は常に豊富である。それにしても珍しい取り合わせが出てきたな。


「ベリーとピーチあたりはよく聞きますけど、ホオズキのシロップ漬けは珍しいですね」

「そうでしょ。これがなかなかいけるのよ♪」


 さすが料理研究家とあって幅が広い。シロップが甘いこともあって酸っぱい果物のチョイスが多めなのもエクセレント。

 味に変化と深みが加えられて、そのまま食べてもおいしい逸品。食感も色々あって楽しいとあれば目を輝かせて押し寄せるのも無理はない。

 そしてさすがマーリンさん。盛り下がった雰囲気を一手で覆した。

 本当にありがとうございますっ!


 ふんわりとろとろのチーズケーキに甘酸っぱいフルーツと色とりどりのジャムで彩られ、頬張る人々に笑顔の花を咲かせまくる。

 あたしはマーリンさんの持ち出した変化球、洋梨・イチジク・ホオズキのシロップ漬けを頂くことにいたします。


 下半分が果肉の大きな層。上半分は荒く砕いてややペースト状になったもの。2種類の食感が楽しめる。シロップにも果物の甘味がよく溶け込んでいておいしい。

 フレナグランの朝食はパンとジャム、それからミルクが1杯。

 あるいはごはんに味噌汁、簡単なおかずとお新香のセットである。

 あたしは基本的にご飯食だからパンとジャムの朝食は食べない。たまにはパン食もいいかもしれないな。


 これはなかなか楽しいではないか。

 ジャムの種類を変えるだけで味わいが千変万化。

 チーズがジャムを、ジャムがチーズを引き立てている。さすがシルヴァのチーズケーキ。お菓子に対する情熱は半端ではない。

 この子とマーリンさんをアイシャを会わせたい。どんな化学反応が起こるか見てみたい。


 そんなことをしている隙に桜が帰ってきていた。

 シロップ漬けの瓶を眺めながらにやにやとよからぬ妄想をしている様子。

 次に何かいらんことを言ったら速攻で口を塞がねばなるまいて。

 失恋して傷心している桜の気晴らしになればという思いもあって今回の旅行に随伴させた。最初は随分と楽しそうにしてくれたけれど、お祭りの熱気が上がるにつれてテンションと目の色が変わっていく。

 桜はどこに行っても女の尻と胸を目で追う。先日失恋したばっかりだというのに。思っていたより心の回復が早いようでなによりです。

 いや、心の穴を埋めようとしているのか。

 だとしたら狙われているターゲットがいるかもしれない。桜好みのお姉さんキャラがわんさかいるからな。


 ひとまず桜に意識が行かないように、話題の主役を桜に渡さないように気をつけよう。


「ジャムって言ってたけど、これはなんかクリームみたいだな。中身はカスタードクリーム?」

「これはポポーです。森のカスタードクリームと呼ばれていて、栄養価の高いスーパーフードです。味も少し不思議でして、マンゴーとバナナを足したような味なんです」


 シルヴァの解説に桜が食いつく。


「マンゴーとバナナッ!?」

「桜、鼻血が噴き出てるから少し離れて休憩してろ」


 アルマに連行されて空気の冷めた場所へ移動。治療と説教が始まった。

 知っていれば予防もできたけど、まさか1つの木の実からそんなへんちくりんな味のする果物が存在するだなんて想像だにしてなかった。

 それも桜の大好きな果物2トップ。

 下ネタ的な意味でも2トップ。


 彼女にはもう少し他人の目を気にするというスキルを磨いてほしいものです。

 でないと、今のシルヴァみたいに、悪いことをしているわけでもないのに謝ったりすることになる。頭を下げられるこっちの身にもなってくれ。申し訳なくて顔も上げられないよ。


 レレッチの話しによると、ポポーの木は寒いところも熱いところも平気。害虫や病気にも強く、ある程度の手入れと水やり、日当たりの良いところで育てればしっかり育ってくれるため、初心者にも手が出しやすい種類らしい。

 デメリットがあるとすれば完熟して7日程度で腐ってしまう足の早さだけ。採取してすぐに加工してしまえば問題ないそうだ。

 寒さに強く病気、害虫に強い。

 しかも1つの木から沢山の実が成る。

 種を植えて2、3年で実をつける。

 おまけに栄養豊富となれば育てない理由はない。

 できれば種からでなく苗で欲しい。すぐに実をつける樹木が欲しい。


 レレッチに頼めば用意してくれるだろうか。


「樹木はさすがに無理ですけど、苗木の販売を行っている業者はベルンにあるので、そちらに出向かれてはいかがでしょう。ベルンガーデンパークに併設してある販売所に行ってみてください。ポポー以外にもいろんな果樹の苗があるので」

「おおっ、色々あるのか。それはぜひとも行ってみたい。そうだ、あれ、タマリンドの苗もあるかな。先日、ヘラさんからカシューナッツで作った味噌を食べさせてもらってな。それがめっちゃおいしかったんだ。タマリンドの豆でも味噌が作れないかと思ってさ」

「タマリンドの苗はあるかどうかは分かりませんが、業者に依頼すればお取り寄せはしてもらえると思います。ちなみに樹高20mを超えるので気を付けて下さいね。植える場所を選ばないと大変なことになりますので」

「色々教えてくれてありがとうな。本当に助かるよ」


 そう言って頭を撫でてやると、レレッチは幼子のように顔を真っ赤にして嬉し恥ずかしもじもじする。なんとまぁ愛らしい姿でしょうな。娘ができたらこんな感じなんだろうなぁ。あぁ~子供欲しぃ~。

 とはいえ今はどうしようもないのでキキたちキッズのところへ吶喊してぎゅっとハグしたいと思います。


 キキはレアチーズケーキに夢中。

 ヤヤは次はどのジャムを乗せて食べようか悩んで右往左往する。

 シェリーさんにべったりとくっついてまるで本物の姉妹のようなマーガレット。

 たくさんの種類を試してみたいけど、甘いものの取りすぎを気にして真剣に品定めをするガレット。

 みんな本当に甘いものが好きですな。もちろんあたしも大好きです。


 問題があるとすれば最後のおおとり。ハティの作った禁断のアップルパイが控えているということか。ここで沢山食べてしまうとゴールにたどり着くまでに倒れてしまう。今は2、3個に抑えて我慢の子。

 どのみちフレナグランにいるアイシャたち料理大好き人のためにショコラに寄ってからケーキを買って帰る予定だ。急ぐことなはいでしょう。ここは食べ盛りの子供たちに譲るとしましょう。


 と思ったら、シルヴァから残念なお知らせが。


「すみません。ショコラではレアチーズケーキの販売はまだなんです。もう少し試行錯誤といいますか、試作を重ねようと思ってまして。なにぶん新ジャンルなうえに、見知った食材が縁も所縁もないケーキになるものですから。商品として売れるかどうか」

「うぅむ、そうか。もしよかったら大まかなレシピだけでも教えてもらえないだろうか。うちでも作ってみんなに食べさせてあげたいのだが」

「そのくらいなら大丈夫ですよ。でもレシピは作り手以外には他言無用でお願いします」


 さすが商売人。抑えるところはきっちり抑えてる。こういう人は信頼できる。

 そしてなにより嬉しいのはあたしのことを信用してくれたということ。まだ知り合って間もないというのに……いや、となると少し警戒してもよいと思いながらも、これはお互いの信頼を深めるチャンス。あるいは賭けとも言える。

 彼女の言葉を守るなら信頼できる者としてよい関係を築くことができる。そうでなければ言わずもがな。

 当然、裏切る気は毛頭ないがな。


 さて、少しクールダウンといきますか。

 まずもってキキたちを始め、ヤヤもアルマもハティもしっかり異国の地に足がついていた。

 隣人にも恵まれて本当に楽しそうにしている。これなら安心して勉学に打ち込めるな。

 講義自体はまだ開催されてないようだけど、今回のお祭りに運営側として参加することで、彼女たちの魅力はぐっと成長した。

 それはあたしの望む形のひとつ。

 そして彼女たちの幸福な未来のために必要な経験である。


 よきかなよきかな。正直、かわいがっていた妹のような存在を手放してしまって少し寂しかった。なにより不安だった。ヘラさんのことは信頼しているけれど、異国の地に出すとなると彼女たちの無事を心配しない日はない。

 それも今回の旅行で無事解決。


 残る希望的観測として、キキとヤヤはともかくとして、アルマにいい人ができないものか。

 魔法一辺倒のアルマ。恋人ができればもっと視野が広がるだろう。視野が広がればそれだけ可能性が広がる。アルマにはぜひとも恋というものを知って欲しい。

 今のところ、恋ではないにしろアルマの琴線に触れる少年と出会わせてしまい、彼をフルボッコにするために魔法の研究をしている。

 向かうべき場所は憎いあんちきしょうをこてんぱんにする方向じゃないよ。もっとドキドキするほうに行こうよ。

 そう諭すも相当に頭にきているようで口では分かったというも、態度が正反対。ぶっとばす気概満々である。


 はぁ~~~~~~成長するためなら動機はなんでもいいと言ったものの、誰かを傷つけるために魔法の研究を進めるのはなぁ~~~~~~違うと思うんだよなぁ~~~~~~。

 空中散歩なんて素敵魔法を作ったからほとぼりが冷めたと思ったのに、復讐と憎悪の炎はしっかりくすぶってるんだもんなぁ~~~~~~アルマって意外と執念深いんだよなぁ~~~~~~。

 だがそれがアルマの原動力でもあるから深くは追及しないことにしている。


 そう完結して子供たちがきゃいきゃい騒ぐ景色をほっこり楽しんでいると、アルマが血相変えてやってきた。

 眉を吊り上げ、どこで覚えたのか滑らかな足運びで躍り出る。

 魔法職と言っても桜と組手をしていたこともあって、アルマは中近接魔法職。初めて薔薇の塔(ダンジョン)に入った時、桜とあたしが前衛。アルマが後衛のつもりでパーティーを組んだつもりだったのに、アルマと桜が飛び出していくんだから驚いた。

 しかも桜はアルマの影に潜んでサポート役をこなす。まさかの全員前衛。バランスの悪さたるや。

 まぁ2人の戦闘力が高すぎるのでバランスがどうのこうのって関係なかったんだけどね。


 よくも悪くも積極性と好奇心の塊。そんなアルマがあたしの胸の中に飛びこんで、こなかった。酔いのせいか顔を真っ赤にして桜をなんとかしてくれと懇願する。

 とりあえず嫌な予感しかしねぇぜ!


「さ、桜が、桜がまたいらんこといってるんです。止めて下さい止めて下さいっ!」

「またいらんことって。いつものことじゃないか。止めるけどな」


 アルマが涙目で懇願してきた。

 アルマの背後で桜がぷんすこ怒ってる。いったいなにがあったというのか。


「あっ、暁さん。ヘラさんが(がん)として教えてくれないんですっ!」

「頑としてって、何を?」

「綺麗なお姉さんのおっぱいいつとこおッ!」


 こいつも酔いが回って本性を隠す理性が失くなってるな。

 舌も回ってないし。

 このままでは誰かを襲いかねない。

 そうなる前になんとか処置をしなくては。

 まずは諭して、それでダメなら眠らせよう。

 そもそもそんなのヘラさんに聞いたって教えてくれるわけないじゃん。そりゃあヘラさんは大人だし市長なんだから、なんの店がどこにあるのかぐらいは把握しておろう。

 だとしても、15そこらの少女にそんないかがわしい場所を教えるわけがない。

 聞くなら成人男性にしなさい。


「桜、そういうことは公共の場では

「暁さんみたいな無い乳に顔をうずめても楽しくないんですよッ!」


 手刀!

 ――――はっ!

 ついつい反射的に桜の首元を叩いてしまった。

 しかもみんなの見ている目の前で…………。

 もはや取り繕うこともできず、冷たい空気の流れる中を、まるで氷の海を割って進むようにして桜を椅子の上に寝かせる。その寝顔は愛らしく、年相応のかわいらしさを表していた。どんな人間でも寝顔ってのはかわいいもんだな。


 心配してきたペーシェがひと言。


「いや、寝顔っていうか、気絶顔ですけど」


 振り返って、あたしは彼女の肩を軽く叩く。


「まぁ、細かいことは、気にするな」


 そう、これはどうしようもなかったんだ。

 みんなで楽しい時間を謳歌するための緊急処置。

 彼女だってお酒が入ってなければここまでの暴挙をしでかすことはなかったんだ。多分。

 よし、これから桜は酒厳禁だ。

 幸い、彼女もお酒が好きで好きでたまらないっていう性格じゃないしな。

 そのところは不幸中の幸いだったかもしれない。


 …………桜、いい夢を見るんだよ。




~おまけ小話『ギャップかわいい』~


暁「気付けのつもりだったんだが、少し力が入りすぎてしまったようだ」


ヘラ「普通、少し力が入ったくらいで気絶なんてしないけど?」


ペーシェ「ずいぶんとまた思春期な子ですね。見た目からは想像つかない」


暁「見た目はあたし好みにカスタマイズしたからな。めっちゃかわいいだろ」


ハイジ「中身とのギャップが萌え」


ペーシェ「レベル高いな……」


暁「まぁどうか許してくれ。彼女も多感な年頃なんだ。それに先日失恋してだな。癒しを求めてる。根はいいやつなんだ」


アルマ「根はよくても幹と枝葉、花、実は危険なので気を付けて下さい。毒です。猛毒です」


暁「もぅほんと桜のことが大好きだからって心配性なんだからぁ♪」


アルマ「心配しているのは桜じゃなくて他の人のことですよっ!?」


ハイジ「根っこ以外は毒なのか」


ペーシェ「綺麗な花には毒があるというが、彼女はそれを地で行ってるな」


アルマ「毒しかありませんけどね」


ハイジ「辛口っ!」

言葉で諭すことを優先するつもりでいるものの、周囲には言葉で言って聞かない人が多すぎるので、結局暴力に訴えてしまう紅暁。彼女は特に酔っ払いの相手をする時は早めに手が出ます。泥酔していると、どうせ言っても理解できないことが分かっているからです。こういうところが、暁が自称商人と揶揄される由縁でもあります。

桜は桜で独り相撲をとりながら、自分だけが楽しい時間を過ごせたので満足しています。公共の場ではある程度、調和が必要なので、彼女にはそこらへんの機微を覚えてもらいたいものですね。


次回はついにフラワーフェスティバルの最終回。禁断のアップルパイを食べて締めとなります。

すみれ視点で進む物語。彼女は生まれて初めて外界へ出て、友達を得、同じ時間を共有し、共に切磋琢磨した時間を惜しみながらも未来へ向けて歩みを進めます。

立ち止まることはできないのですっ!

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