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甘いケーキの先に君を想ふ 1

今回は前半が夜咲良桜。後半が桜のせいで精神的に憔悴してしまった紅暁視点で物語が進みます。

果物と下ネタが大好きな桜。失恋して傷心していることも相まって、欲情丸出しなうえ、人の目もはばからずドン引きするようなことばかりするのでアルマも暁も振り回されてしまいます。


ちなみに、果物を身体の一部として表現する習慣、あるいは文化は世界中に見られるらしいですね。

国や言語は違えど、考えることは同じってことです。




以下、主観【夜咲良 桜】

 グレンツェンに来て今日の今日まで食べて食べて食べて食べて食べまくった。

 お姫様の護衛とはいえ、彼女の友達という体でお供に並んだ手前、一緒に楽しい時間を共有しないというのも変な話し。

 というわけで、リリスさんと一緒に食べ歩きを楽しんだ。しかし楽しかったのは3件目が終わったところまで。

 4件目からはただただ地獄の堂々巡り。食べ続けることがこんなにも苦痛なことになるとは。


 食べる=苦痛。


 フレナグランのアイシャさんが作った、栄養満点だが味が激烈に最低な丸薬くらいのものだと思っていた。

 そもそも物資が有限なメリアローザで満腹になるということがない。腹八分目。それでいっぱいいっぱい。


 それがどうだ。異世界というだけで状況が一変。これほど物資が飽和した世界があろうとは想像だにしなかった。

 スーパー(商店)に行けば所狭しと並んだ商品の数々。

 雑貨屋に行けば色とりどり、様々な形をした日用品、らしきものども。なんに使うのかも意味不明な、便利なのかどうかも分からない品々。

 心をくすぐる香りを放って足を止めようとする料理たち。

 スイーツなんて、カラフルでデリシャスで驚きばかり。


 最も驚いたのは夜だ。

 まるで昼のように明るいではないか。

 街灯が夜の暗がりを消し、光で人々の行く道を照らす。

 なんて素晴らしい世界だろう。異世界は夜を完全に支配下に置いたと言うのだろうか。

 闇に生きる夜咲良桜(くノ一)としては少し居心地が悪い気もするけれど。


「どうした、桜。天井ばっかり見て (アルマ)」

「いや、本当に昼みたいに明るいなって思って。フレナグランとかの食堂でも、マジックアイテムの光とか提灯とかってあるから夜もまぁまぁ明るい。だけどここはその比じゃないなって (桜)」

「そうだね。たしかにめっちゃ明るい。だけどメリアローザの夜の光も好きだな。マジックアイテムの光とか提灯の灯りとか、グレンツェンの月明かりも明るいけどさ、夜空はメリアローザのほうが綺麗だと思う。メリアローザのほうが断然明るいと思う (アルマ)」

「え、メリアローザには電灯ってないの? (マルコ)」


 マルコと呼ばれるハーレムクソ野郎が横槍を入れてきた。美人に囲まれてちやほやされてるどぐされ野郎。

 立場を変えるか、できないならぶん殴ってやりたい。

 平静を装い、アルマの友人としての態度を取り戻そう。と思うも、嫉妬の炎を消しきれないと見たアルマが私の前に出た。


「夜空が明るいからあんまり必要ないかな。空が曇ってたらその限りでもないけど。まぁそもそも、夜になったら外に出歩いたりしないけどね」


 そんなことより、と切り返したのはヴィルヘルミナ。アルマと仲のいい異世界の友達。


「夜空もいいけど次はチーズケーキなの。暁さんに貰ったチーズと、お姉ちゃんの趣味で作ったやわらかぁ~いチーズケーキ」

「柔らかい? チーズケーキって柔らかいものでは?」


 疑問に思った言葉が私の口からそのまま出た。


 ヴィルヘルミナの話しによると、グレンツェンを含む欧州では、チーズをケーキに使うということ自体が非常識だとのこと。

 そもそもそのまま食べておいしいチーズをどうして甘いケーキにしてしまうのかが意味不明。そんなレベルらしい。


 チーズケーキをそういうものだと思っていたアルマと私はカルチャーショック。個人的には果物のほうが好きだけど、もちろんチーズケーキも大好き。

 食べるか、と聞かれれば2つ返事で食いつくだろう。

 それを彼女たちは奇異な目で見るというのか。なんてことだ。


 シルヴァさんが言うに、近年では濃厚で柔らかいチーズケーキも主流になりつつあるが、まだまだ発展途上だと言う。それを今日、ここで試食も兼ねてお披露目するとか。

 試食というので味はどうなのか。

 発展途上というので味はどうなのか。

 少し疑問もあるがアルマが言うに、シルヴァさんの作って出すスイーツは間違いなくおいしいとのこと。

 アルマが信頼するなら大丈夫でしょう。

 彼女は人を見る目があるので大丈夫でしょう。

 自信満々のシルヴァさんがチーズケーキの説明に入る。


「今回作ったのはレアチーズケーキと呼ばれるものです。倭国人の暁さんたちは馴染み深いかもしれませんが、我々グレンツェンに住む人々には初体験の人もいると思うので、少し説明を入れておきたいと思います」


 ここで暁さんから当然の疑問が湧き出た。


「えっ、こんなにチーズがいっぱいある国なのに、レアチーズケーキは普段から食べないの?」

「暁さんから見ると不思議に思われるかもしれませんが、しょっぱいチーズを甘くする意味が分からない、という人はいっぱいいます。実際、私もケーキの研究のために外国から輸入したチーズケーキなるものを食べるまでそうでした」


 なんと、異世界ではチーズケーキが共通言語化してないのか。それはなんともったいない。


 シェリーさんも興味津々。奇妙なものと思いながらも、おいしそうだと前のめり。


「全くないというわけではないが、一般的ではないのは事実だ。ケーキと言えばショートケーキかスポンジ、チョコレートが主流だからな。もちろん、タルトやクッキーなどなど色々あるが」


 老舗料理店で働くダーインは首を傾げて眉をひそめる。


「ヘイターハーゼでも使ってないな。挑戦的な料理はしばしば作られるけど、チーズをケーキっていうのは……本当においしいのか?」


 目配せをした先の人々も小さくうなずいて肯定を示す。

 なかには聞いたこともない単語が飛び交う現状に戸惑う人もいる様子。


「本当に一般的ではないようですね」

「そうなんだよね。ふいに食べたくなるんだけど、ないんだよね。ちなみにこっちには固いプリンがあるよ」

「プリンは柔らかいものでしょう?」


 固いプリンなんて想像もつかない。

 しかし、ヴィルヘルミナは自然な口調で肯定する。


「固いプリンもあるよ」

「本当ですか?」


 固いプリンか。聞くだけではどうもピンとこない。

 お皿の上でぷるんぷるんと揺れるプリン。さながらたわわに実ったおっぱいを思わせる様相は私の欲情をかきたてる魅惑のスイーツ。それが固いとなると……うぅむ、どうにも想像がつかない。女体のどの部分に当てはめればよいのだろうか。


 引き締まったみぞおちからおへそにかけての筋肉?

 揺れぬ厳かな胸をお持ちの人の細い二の腕?


 どれもなんだかしっくりこないなぁ。どうも私は固いプリンというものを好きになれそうにない。やっぱり柔らかいプリンが素晴らしいと思います。


 思考を現実に戻すと暁さんが試食していた。彼女からキッチンのみんなに渡したものだから、それをそのままお返ししているようでなんだかもやもやするものがあるものの、やはり最初は素材を提供してくれた暁さんから食べて欲しいというシルヴァさんの願いで、白く柔らかなケーキをぱくり。

 想像以上のおいしさに絶賛の嵐。しかし、たいていのものならおいしいという暁さん。彼女がバカ舌ではないにしろ、味に関する情報を鵜呑みにするのは危険である。それを知ってか知らずか群がる群衆。慎重な私は少し時間を置いていただきます。


「これはおいしいな。うちでもレアチーズケーキは時々作ってるけど、これはなんていうか、少し味が濃いというか、いつも食べてるのと違う」


 ケーキを平らげた暁さんから賛美と感謝の言葉がシルヴァさんに贈られる。

 シルヴァさんは誇らしげに秘密を語った。


「はい、通常の製法で作ってもさっぱりとしていておいしいんです。でもそのままだと少し薄味かなと思いまして。それはそれでおいしいんですけど、今回は焦がしバターを使用してコクと風味を強めにしてみました。原材料が同じ牛乳ですから相性も良いかと思いまして」


 なるほど。彼女の情熱は本物のようだ。

 それではさっそくぱくり。うまいっ!

 隣でリリス姫様も大絶賛。


「なるほど。ひと工夫するだけでこんなに味わいが違うんですね。とってもデリシャスですっ!」

「わぁっ、たしかにおいしい。外側は少し硬いですが、中はしっとりとしてとろけるようで…………まるで………………うぅ~ん」


 ぺろぺろ。

 ついうっかり、お皿を傾けて舌でケーキを舐め回す。

 何をしてるのだろう。シルヴァさんが横から私の顔を見てしまった。


「ん? どうしたの? そんなにお皿をかたむ――――ひっ!?」


 うぅ~ん、このソフトな硬さの外側はまるで唇のような感触。

 中身のとろとろ加減もさることながら、唇の感触に似たチーズケーキの滑らかな裏側はしっとりと濡れた舌のような肌触り。濃厚なディープキスをしているような快感に襲われる。

 あぁ……これが愛しのスカサハさんだったら…………今ごろは何をしてるのだろうか。


 かっこよくて頼りになって、いつだって私の前に立って戦ってくれた。

 大きすぎず小さすぎず、絶妙なふくよかさを持ち、柔らかくも張りのある胸。

 引き締まったくびれにやや大きめなお尻。

 涼し気な目元は氷のように冷たく、そう思っていると、とてもかわいらしい笑顔を見せて私の心をどぎまぎさせた。

 極めつけは夜のように輝く瞳と艶やかな長い黒髪。

 夜の女神を思わせる彼女は星空の元で最も煌めく存在。

 唯一無二の我が君よ。

 愛しの我が君よ。

 今、貴女はどうしているのですか?


 私は貴女を想って絶頂しています…………。


 ドン引きする人々の中で、暁さんだけが動いた。

 小さく重い声色で私に語りかける。


「おい…………桜…………悦に入ってるところ申し訳ないのだが、そろそろ現実に戻ってもらおうか。それから少しは人目を気にしてくれ」

「ふぇ…………ああ、すみません。ちょっとおトイレに行ってきます」

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