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うさうさ百裂拳 2

 そんなことがあった数時間前の記憶を反芻しながら、今、幸せに満ち足りた時を過ごしていた。

 口の中で冷たく甘く囁く愛しの君。

 唇に触れるだけで脳の奥は痺れて心が熱くなる。

 うっとりと官能的な感情を湧き起こさせるそれは禁断のスイーツ。

 嗚呼、涙が零れてしまいます。


「ソフィアお姉ちゃん。泣いてるみたいだけど、大丈夫?」

「心配させてごめんね。ここに来るまでに地獄を見てきたものだから、この幸せな時間が尊くて……」

「いったい何が……?」


 いかんいかん。双子を不安にさせてはならぬ。涙を拭いてスイーツを楽しもう。


「みんな楽しんでくれてるみたいでよかったわ。ソフィアさんも涙するほど喜んでくれてるみたいで」

「はい……えぇと……地獄から天国へと赴いた命の喜びという名のトッピングがふんだんにかかってます」

「えぇ~でもでも、バニラエクストリームはお酒だからキキたちは食べられないよっ!」

「バニラエクストラクトだよ。気持ちは分かるけどわがままを言ってはいけません」


 キキちゃんの場合は甘いものが食べたいというよりは、みんなと同じものが食べたいという特別感が欲しいようです。

 しかしヤヤちゃんは単純に甘いものが食べたいらしい。大人たちがバニラのエキスを抽出したウォッカをアイスクリームに振りかける姿を目を見開いてガン見していた。

 よだれを垂らしながら……今にも食いつきそうな勢いで…………恐ろしく目をキラキラさせながら………………。


 キキちゃんを諭しながらも目だけは魅惑の雫を追いかける。

 かわいそうに。法の壁のせいで我慢を強いられるだなんて、見てられない。

 見てられないほどに、切ないほどに輝いてる。

 これはなんというか、私がなんとかしなくてはっ!


「もしよかったらこれをもらってもらえないかしら」

「これは? わぁ、黄色い粒々。これなぁに?」

「あっ、フィンガーライムですね。これはまた珍しいものをお持ちで。間食用のデザート、というわけではないと思いますが、これをキキちゃんたちに?」

「ええ、これをアイスに乗せて食べてみて。甘酸っぱくておいしくなると思うよ。ヤヤちゃんとガレットちゃん、マーガレットちゃんにもあげるね」

「わぁ~ありがとうございますっ!」

「名前は知っていましたが実物は初めてです。いろんな色があるんですね」

「これ、自家栽培してるんですか?」


 お花屋さんの娘であるマーガレットちゃんが驚いた表情を見せた。何を隠そう、フィンガーライムは栽培するのがとても難しいのだ。


「うん。今は黄色と赤と緑色のものを栽培してる。森のキャビアって呼ばれていて、栄養価が凄く高いの。私もフィーアも好きなんだけど、特にゆきぽんの大好物」

「ゆきぽんも食べるんだ。これって種だよね。植えたら木になるのかな」

「木には生るだろうけど難しと思う。苗木の販売もあるから、そっちのほうがいいかな」

「私もそっちをおすすめするよ。フィンガーライムはおいしいんだけど、寒さに弱いし害虫に狙われやすい。特に発芽したてで苗自体が弱い時期のお世話は本当にたいへんだから。それから水もめっちゃ必要。専用の潅水機を使って時間設定して水やりするくらい。正直言って、初心者向けじゃないかな。設備と対策にお金がかかるタイプ。その分、お世話をして実を付けてくれた時は嬉しいけどね」


 植物の話しになるとどこからともなく現れるレレッチ・ペルンノート。めっちゃ詳しく説明してくれた。


「見た目も透明感があって綺麗だし、味も柑橘系のさっぱりした酸味があるからケーキに使えないか考えたんだけど、実自体の値段が高くて自家栽培しようか考えた時期があったわ。でも手入れがたいへんだから諦めちゃったの」

「えっ、これって実1個で結構なお値段なんですか?」

「あっ、ごめんなさい。余計なことを言ってしまったわ。今のは忘れて」


 そう、その手入れのたいへんさと近年流行し始めで希少価値が高いことから果実1個で400ピノほどもする高級品。もう少し分かりやすくすると板チョコ5枚分相当の果実。

 分かりやすいかな?

 ヤヤちゃんには一発で理解された。

 ちょっと待って。狂喜するほどチョコレートが好きなわけじゃないからね。チョコ自体は好きだけど。


 このままだとチョコレートの話題にまみれて圧倒されそうなので、そうなる前にキキちゃんから順番に粒々のフィンガーライムをアイスに振りかけていこう。

 カラフルなアイテムを手に入れた子供たちは嬉しそうに笑顔を浮かべ、特別な時間を堪能した。って、いつの間にか1人増えてる。


 三色髪の女の子。小鳥遊すみれちゃん。

 料理がとてつもなく上手で愛嬌がある。

 グリムもルクスもすっかりお気に入りにしちゃって、楽しそうに料理談義に花を咲かせていた。

 私も料理はするけど彼女たちほどではない。キキちゃんと一緒に住んでるということもあるので、ぜひともお近づきになりたい1人です。


「突然すみません。見たことのない赤色の果物が目に入りまして。私にも1つ譲っていただいてもよろしいでしょうか」

「赤色……1つと言わず好きなだけ食べて下さい。たくさんあるとぷちぷち感が増して楽しいから」

「あらぁ~いいもの食べてる。ゆきぽんも食べるかなぁ~?」

「小鳥のゆきぽんの大好物ならうさぎのゆきぽんも大好きなはずです。食べさせてみましょう」


 マルタさんの問いに自信満々で答えるキキちゃん。

 根拠が謎だがつっこむのはやめておこう。

 きっと小鳥のゆきぽんのことを好きになってくれたがゆえの発言に違いない。

 そして私ももっとうさぎのゆきぽんをもふもふしたいので、試しにゆきぽんにも食べてもらいましょう。

 手のひらにフィンガーライムを乗せて鼻先でもそもそしてもらいたい。こんな体験はしたことがない。いつもは硬い嘴でちゅんちゅんされている。

 今日はもふもふ。手のひらをもふもふ。ひゃあ~~~くすぐったい♪


「ソフィアさんもゆきぽんにメロメロですね。かわいくてとってもワンダフルです♪」

「ゆきぽんのかわいさは天下無双ですからね。これほど小さくて愛らしい生き物はハムスターの五右衛門以来です」

「ハムスターに五右衛門という名前とは。ずいぶんとワイルドなんだね」

「メスですけどね。ご主人が相当な変わり者なのでしょう」

「お、女の子にそんな名前を……」

「(五右衛門って名前のハムスター……それってまさか…………)――――――――ハムスターもかわいいけど、うさちゃんもかわいいよね。このもふもふ感があいたっ!」

「食べてる時は……もふもふ厳禁で……」


 忘れてた。

 もふもふしたいがためにうっかり背中を撫でようとしてしまった。

 珍しく同じミスをしてしまった。

 よし、食べ終わったらもふらせてもらいましょう。

 それにしても本当にかわいいなぁ~。

 白くてもっふもふ。うちのゆきぽんも小さな体にふわっふわの羽がもっふもふでたまらないなぁ~。

 今度キキちゃんの家に行って、ダブルゆきぽんのツーショットをおがみたいなぁ~。


 そんな妄想をしていたら食事が終わった。途端、横から白いもふもふを覆う影が伸びる。

 白く輝く細い腕。それはこの世の穢れの一切を知らないような気位を感じさせた。

 否、穢れを一切知らないというか、穢れなさすぎて純粋な心しかないから逆にタチが悪いと言いますか…………悪意なく悪意と同義の行いを平然とするので困ります。

 どこに相談すればいいのでしょう?


「それはアレだ、どうか我慢してくれ。あとでもふもふさせてもらおう。気持ちは分かるが子供の前で泣かないでくれ。それから姫様、気持ちは分かりますが順番は守って下さい」

「ごめんなさい。あまりにもふもふしていたので、ついたたたたたっ!?」


 なんと肩に乗せられたゆきぽんが姫様のほっぺたを乱打。

 うさうさパンチを炸裂させているではないか。

 それはもうプロボクサーの素早いジャブを思わせるような鋭いパンチでほっぺた(サンドバッグ)を豪打した。

 ただじゃれているのだろうか。いや、なんか怒りに似たオーラと表情を匂わせている、ように思える。

 口には出さないがもっとやれと、私は心の中で叫んでゆきぽんのセコンドをする。

 うさうさ百裂拳をくらった少女は物理的な痛みと精神的なダメージによって瀕死。


 ハティさん曰く、『順番は守らないとダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメェッ!』ってゆきぽんが言ってる、らしい。

 なんてできた子なんでしょう。ゆきぽんの爪の垢を煎じて姫様に飲ませてあげたい。


 そうして不埒な輩を成敗したゆきぽんは、私の肩の上に乗ってほっぺたをすりすりしてくれました。

 ひゃあ~もふもふでふわふわでくすぐったくて気持ちいい。

 なんて愛らしい生き物なのだろう。これほど愛嬌のある小動物はそうはおるまいて♪




~おまけ小話『どうぶつ談義』~


キキ「ソフィアさんもすっかりゆきぽんにメロメロですな」


マルタ「それはそうですよ。あんなにかわいらしくて人懐っこい子はなかなかいません。それこそ肩に乗ってもふもふしてくれるなんてワンダフルです♪」


ライラ「マルタの家にはゴールデンレトリーバーがいるんだっけ。キキちゃんくらいなら乗れるんじゃないか?」


マルタ「サイズ的には大丈夫ですが、なにせもうおじいちゃんなので、乗せて歩くのは難しいですね」


ベレッタ「動物の背中に乗る、ですか。とってもいいですよね。毛皮がもふもふしていて、夢のようでした」


マルタ「ベレッタちゃんも子供の頃に大型犬の背中に乗ったことがあるのですか?」


ベレッタ「いえ、あの子は大きな金色の狼さんです。ハティさんのご実家に行った時に乗せてもらいました。とっても賢くて人懐っこいんです」


マルタ「ベレッタちゃんが乗れるくらいの大きさの狼? そんな種類は聞いたことがありません。それに金色の体毛。突然変異でしょうか」


ティレット「フェインはそういう種類の様子でした。体長3mほどもあって、シャングリラの家族の一員でしたね」


ライラ「3m!? いいなぁ~。私も動物の背中に乗ってみたいなぁ~」


キキ「キキも乗ってみたい。それにハティさんの家にも行ったことないから行ってみたい」


ハティ「うん、今度行こう。オリーブの木を貰ったあとに、晩御飯はシャングリラで食べよう」


キキ「やったぁ~♪」


マルタ「私もフェインちゃんに会ってみたいです。ご一緒してもよろしいでしょうか?」


ハティ「うん、いいよ。大歓迎」


ライラ「オリーブの売買のあとってことは、エメラルドパークに行ったあとか。私も連れて行ってもらっていいかな?」


ハティ「もちろん」


ライラ「よっしゃ!」


ヘラ「――――ハティちゃんの実家ってことは」


暁「みんな知らずに異世界旅行ですね。先日行った面々もいるようですが、きっと気付いてないでしょう。ハティもあたしと同じで、異世界とかどうとかって頓着ないんで説明してないでしょうし」


ヘラ「あらまぁ。でもせっかくだし、私も行きたいなぁ~。今後の参考にもしたいし」


ローザ「今後の参考。それってもしかして、先日、暁さんから受け取ったハーブの苗と関係が?」


ヘラ「ふふふ。それはまだ内緒なの♪」

スイーツがソフィアの心を癒し、ゆきぽんの正義感がソフィアの心を救いました。

お転婆姫様に振り回されっぱなしの彼女にとって、溜まっていた鬱憤をちょっぴり解消できた瞬間です。


次回は前半が夜咲良桜。後半を紅暁の視点で進む物語です。

暁がお礼の品として持参したチーズをシルヴァが特製のレアチーズケーキにします。さっぱりとした味わいのチーズケーキにジャムを乗せて食べることを提案するのですが、果物大好きな桜が暴走します。下ネタと果物が三度の飯より好きな桜。いったいどんな騒動になるのでしょう。

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