息も詰まるようないい匂い 1
今回はアポロン主観で進む物語です。
片思いをしているハティになんとかアプローチをしようと試みるアポロン。
強力な助っ人を味方につけながらどうにかこうにか恰好をつけようと頑張ります。
彼の恋心は実を結ぶのでしょうか。それとも撃沈してしまうのでしょうか。それとも別の方向へ躓いてしまったりするのでしょうか。青春まっさかりです。
以下、主観【アポロン】
日もすっかり暮れて長針は午後の8時を指した。料理も少なくなって、ラストを飾るデザートの話しで盛り上がる。
デルレン親方なんて、ずっとアイスクリーム製造機の横でその時を待っていた。
スイーツ大好きな女子を筆頭に、そろそろいいんじゃないだろうかとそわそわする。
結局ここまできてしまった。
話しをする機会を伺いながら、とうとう間隙を突けないで最後を迎えようとしている。
このままではいけない。なんとか話しをするきっかけを、掴むとか待つとかは言ってられない。
自分からねじ込んでいかないと今日が過ぎ去ってしまう。
彼女は、そう、花より団子を地で行く人だから。
となれば料理を持って横に座るのがベスト。なのだが、彼女の座るテーブルには山と用意された料理の皿。
フードファイターも根を上げそうな量を意気揚々と平らげた。
ハティ・ダイヤモンドムーン。
なんという胃袋なのか。栄養は全部、胸に運ばれるのではないだろうかと思わずにはいられない。
たわわに実った2の果実。男も女も釘付けになるその柔らかな母性は見た人の目を離さない…………と、それは置いておいて。問題なのはきっかけ作り。
彼女の目の前には予め用意された全ての料理がある。
有り体のものを差し出しても新鮮味がない。彼女の興味を引くような工夫が必要となる。
結論は明白。今ある材料と料理で新しいプレートを創造すればいい。
ポテトサラダにフライドチキンを添えるとかそんなレベルのものではない。
何かを組み合わせて新しいものを作る必要がある。実際にはそこまでしなくても、彼女であればなんでも喜んで口に入れるだろう。
しかしそれはなんか、料理人としてのプライドが許さない。くわえて、ポイントアップが必須条件なら、創作に向けて思考するべき、だと思う。
「やぁアポロン。何をそんなに悩んでんの?」
「普段から凄い食べるって聞いてるけど、綺麗なプロポーションだし、栄養は全部…………ッ!」
「胸に?」
やべーっ!
不意に虚を突かれて本音でたーっ!
ハティさんの親友、紅暁を前に失礼をしてしまう。とにかく取り繕おう。
「じゃーなーくーてっ! いや……その……本当においしそうに食べるなぁ、と思って」
「いいのいいの。同性でも二度見する大きさだから。男ならなおさらでしょ。見た目もめちゃ綺麗だし。中身も女の子らしくてかわいらしいし。まぁ、あたしの嫁の方が百億倍かわいいけどなっ! そして旦那は百億倍カッコいいっ!」
自信満々に胸を張る暁のなんと清々しい物言いだろう。
本気で好きになった人たちを誇りに思うからこそ、延々と彼らの良さを語って聞かせてしまうのかな。
本当に羨ましいと思う。
思うがままに生きてるって感じだ。
生き生きとして飾り気がない。
自分の信念を貫く姿には尊敬の念を覚える。
あ、そうだ。彼女はハティさんの親友なんだ。ここでハティさんのことを聞いてみるのも悪くない。
いやむしろ、長年の付き合いのある暁から見たハティさんの姿を知っておくことは必要不可欠に違いない。
そうと決まれば善は急げ。本当に急がないと時間がないので簡潔に打ち明けよう。
「♪♪♪ ははぁ~ん、そういうことね。これはまたお目が高い。まぁ見た通りおいしいものが大好きだ。食べることは生きること、って感じの人生だったからな。少なくともあたしたちと一緒に旅をした時は。シャングリラに住み始めてからは落ち着いたというか、安心できる家族が手に入って、大変な時期も乗り越えて順風満帆になったからか、大人びた様子が見えてきたな。グレンツェンに来てからは好奇心旺盛な少女らしさを取り戻した感はあるけど」
「家族……もしかして既に決まった人がいるとか?」
「それだったら結婚指輪を付けてるだろうよ。そもそも恋愛感情という概念がハティの中にあるのかが怪しい。聞いたほうが早いな。しかしアポロンやあたしが直接行くと、恋色センサーを常時開通してるやつらに捕まって祭り上げられる。そういうのは好みじゃないだろう。こういう時こそ、酔っ払いの既婚者の出番だ」
「酔っ払いの既婚者の出番と聞いてやってきました~♪ なになに? 恋色なお話しなのかな~?」
酔っぱらっていてもそういうセンサーだけは元気なんだから女性って怖い。
なにはともあれ、ヘラさんが恋色な話しを持ちかけても不自然ではない。彼女は歩く青春まっさかり。桃色話しは大好物。
しばらく時間を置き、料理でも持って来いということなので先達の言葉に従うことにする。
自分はこういった流れとか所作とか、それ関係のモノゴトの経験が薄い。
ここは先人達の言葉を信じるしかない。
さて、料理を持って来いと言われたけれど、ここから何を作ろうか。
ポイントアップをするなら新作料理。だけどそんなに時間はかけられない。
うぅむ、ポテトは完売御礼。フライドチキンやビーフシチューも底が見えている。
レバーはかなり残った。ケビンの出身地であるベルン北部の郷土料理。
グレンツェンとベルンは距離にして200km離れていること。
古くからの宗教的対立もあって食事の内容が違うこと。
諸々の理由もあって、ベルンとグレンツェンの伝統料理にはメリハリがある。
国際化が進んだ昨今になり、様々な料理がグレンツェンに流れこんだものの、それでも扱いに困る食材は多分にある。
レバーもその1つ。ちなみに、倭国人が好んで食べる物も含まれる。グロテスクな魚とか。珍味とか言われる謎の物体とか。
レバーと共に供されるバターで炒めたリンゴは殆ど無くなった。みんなリンゴだけ食べたようです。
おいしいからね。
リンゴはみんな好きだからね。
「ちょうどいいところに。アポロン、手伝って欲しいことがあるんだが、今、時間いいか?」
「いいけど、手伝って欲しいことって?」
意外にも厨房にはルージィがきた。航空会社の御曹司、という肩書きを持ちながら、まったくそのような振る舞いはない。
どこにでもいる普通の男子である。
「リンゴのバター炒めが少なくなってきたから作っておいて欲しいって。みんな持って帰りたいんだとさ。材料もあるし、ここで作っておいてくれると楽だから。ちなみにレバーはいらないそうだ」
「そういうことなら手伝うよ。でもレバーばっかり残っても困るんだけど」
「それはアルマが全部持って帰ってくれるだろう」
「ああ、嬉々として持って帰ってくれそう。なんにせよ、廃棄だけは避けないとね。ヘラさんに怒られる」
「それは嫌だな」
「キキのこと呼んだ?」
『嬉々として』に反応して現れたキキちゃん。事情を説明すると、手伝いたいと名乗り出てくれた。
続いて一緒にいたソフィアさんも手を挙げる。彼女もリンゴ炒めを持って帰って妹に食べさせたいということなので、手伝ってもらうことに。
ゲストなのに申し訳ない。だけど彼女にはキキちゃんと一緒の時間を過ごしたいという思惑もある。
ならばなおのこと、断る理由はない。
男2人はフライパンの準備。
女子2人はリンゴの芯を取って8等分に切り分ける。
まるで姉妹が仲良くキッチンに立ってるようで微笑ましい。と、傍から見るとそうなのだが、ソフィアさんは少し焦っていた。
お姉さんとしていいところを見せようとしたのに、リンゴのカットはキキちゃんのほうが早いし上手。
迷いなく刃を進めていく。
きっとゆきぽんとすみれに鍛えられたのでしょう。幼子の日々の精進が垣間見える。
さすが暁が留学に推挙するだけはある。
たっぷりのバターをフライパンの上に溶かし、薄くカットしたリンゴをフライパンに放り込み、バターがまんべんなく絡むようにひっくり返していく。
強火で外側はとろとろ。中は火が通っていながらもしゃきしゃき食感を残すように気を付けながら鍋を振る。
味と食感の違いで変化を生む。
これがプロのこだわりというものです。
「マジか。俺には無理そうなんだが」
「いや、無理して真似しようとしなくていいから。これは個人的なこだわりみたいなものだし。それに焼き加減の違う料理があっていいと思う」
「そう言ってもらえると助かるよ。キキ、ソフィアさん。プレートを持ってきておいてもらっていいですか?」
焼き色の変化を楽しんでいたキキちゃん。彼女はリンゴに夢中ということでソフィアさんが足を運んでくれた。
ぱちんぱちんと油の跳ねるに音に心躍らせているのか、キキちゃんは腰をふりふりさせて踊る。
しきりにおいしそうと言って目を輝かせる少女のなんと愛らしいことか。
娘ができたとしたらこんな感じなのだろうか。夢想して、隣に思い人がいる姿を想像した。
そこで突如、現実にぶちあたる。自分よりも背の高い女性。僕の身長は185cm。なかなかの高身長を自負していたのに、それを超えてくる人が現れた。
しかも女性。
しかし身長以外はドストライク。
金髪巨乳で天衣無縫。料理好きな僕としては健啖家なところもポイントが高い。
子供好きで面倒見もいい。大人びた様子を見せながら、時折見せる子供っぽい笑顔がスーパーキュート。
時々振り回されることもあるけれど、それはそれで刺激的な毎日が送れそう。




