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どんなに時代が変わっても 2

 安全をアピールするも、火薬草の変異種など見たこともない人々は懐疑の視線を送っていた。

 歴史を振り返ってみると、平和利用などされてこなかった不遇の植物。

 それはこっちの世界もあっちの世界も同様。主に兵器として活躍するにとどまっている。

 そもそもなぜ私が火薬草などに興味を持ったのか。それは幼い頃、名付け親のエイボンが見せてくれた実験に感動したから。

 本来なら火を嫌う植物なのに、火をつけると爆発するとか超面白い。

 かの日の感動を大切にして今に至る。


 私だって戦争は嫌いだ。こんなにも面白く、感動を与えてくれた存在が人を傷つけるためだけに使われるだなんて我慢ならない。

 だから私は延々と火薬草の実験と平和利用を模索してきた。


 時には料理に使ったこともある。火炎の代替品として使えば、一瞬の火力と凄まじいエネルギーの放出で、なんかこういい感じになっておいしい料理ができるはず。

 当然、料理は爆散。見るも無残な焼け焦げと残骸と、お腹の虫の鳴き声だけを残して消し飛んだ。

 友人からは、『やってみないと分からないことはある。けれど、やってみなくても分かることもある』と怒られた。

 小妖精(フェアリー)たちからは、『またマーリンがくだらないことをしてる』と呆れられたものだ。


 結局のところ、無理なものは無理。葉っぱはどうしようもない。

 鉱夫にすら購入を断られるのだからどうしようもない。

 ただ、諦めなかったからこそ、星を捕まえる帽子を完成させるに至った。

 私の研究は無駄ではない。と、自分に言い聞かせておくようにしている。


「その、『星を捕まえる』っていうのはどういうことですか? たしかに帽子の内側は星空でいっぱいです。でもいまいち、捕まえるというのがよく分からないのですが」


 新しいおもちゃを買ってもらった子供のような笑みを向けてくるアルマちゃん。憧れと羨望の眼差しを向けられて、私は得意満面になる。


「まぁなんていうか、捕まえるっていう表現は砕けた言い回しであって、実際に捕まえるわけではないの。帽子を持って網で虫を捕るように振ると、魔法を込めた特殊繊維が星空と同じように輝く光を転写するというわけ――――って言って分かるかな?」

「うおぉぉぉ~~~~~っ! 具体的な原理は分かりませんがめちゃくちゃロマンチックですっ! もっと詳しい話しを聞かせて下さいっ!」

「わたしにも聞かせて下さいっ!」


 きらきら魔法の発案者のベレッタも、夜空に瞬く星々のように瞳をきらきらさせて前のめり。

 鼻高になる私は内心得意満面。だけど、


「ふっふっふっ。こればっかりは企業秘密なのだ。でもこっちの魔法だったら簡単だからいいよ。って言っても現代で使う場面はかなり少ないけど」


 言いながら、魅惑の香り放つ彼の隣へ踊り歩む。グレンツェンの歴史と努力の結晶【黄金琥珀の蜂蜜酒】。

 通常、蜂蜜酒というものは蜂蜜にイーストを混ぜて発酵させる簡単なもの。

 しかしこれはワイン。赤ワインをベースに蜂蜜の味とスミレの花の香り燻る魅惑の美酒。

 樽越しにも素敵な香りが放たれている。くわえて、市販品は必ずガラスのボトルやパウチに封入された。

 コルク独特の香りの移ったボトルも、ワインそのものの味を楽しめるパウチも、それぞれの愉しみ方がある。

 そう、市販される物しか手に入れることのできないそれが樽に入っている。

 樽、つまり専用に加工された木の香りを含んだ黄金琥珀。これは通常では決して手に入らない超超超貴重な体験。

 こんな機会を無駄にはできない。


 無駄にしないためにどうするか。

 もちろん1杯はいただきます。

 でも私は好きなことにとことん強欲。

 それだけでは物足りない。

 それだけでは満足できない。


 太古の昔より人類は香りを楽しんできた。

 香水や石鹸。アロマキャンドルだってそう。

 そのために必要なのは香りの元。それを源泉から別の物へ添加させるには科学的な方法ともう1つ、魔法での方法がある。

 私がかつて作った古の魔法。

 誰も知らない古い魔法。

 私のお気に入りの魔法の1つ、【移り香】。


 樽に髪を押し付けて魔法を行使する。触れている部分からどんどん匂いが移ってきて、夜のような黒髪が金色に輝き始めた。

 香りの元となる物質をマナに変換する際に起こるマナの着色現象。マナには属性ごとに異なる色を持っている。

 傾向別では火が赤。水が青。土が茶色。風が薄緑色といった具合。これは練度の高さや性質にも依るが、基本的には自然界が持っている物質の色彩と同義のものが顕れる。


 今回の場合も同様、黄金琥珀の蜂蜜酒と同じ色で染め上げられた。

 じんわりと広がって色と香りが広がっていく。髪全体に波及する頃には、息をするたびに蜂蜜酒の甘やかな香りが鼻をくすぐる。

 なんと素晴らしいことでしょう。これならずっと黄金琥珀の蜂蜜酒を愉しんでいられる、わけではないのだけどね。


 髪は成長してしまう。つまり劣化は避けられない。その前に、香りの成分を閉じ込めたマナを取り出して加工する。

 石鹸やアロマオイル。バスボムだって黄金琥珀色に染め上げられる。

 はぁ~~楽しみですなぁっ!


「すんすん。これは……間違いなく黄金琥珀の蜂蜜酒の香りです。私もぜひやってみたいです」

「エマちゃん、いつの間に背後に。残念だけどこの魔法は結構難しいの。魔力量も練度も必要ないんだけど、魔法自体の難易度が高いのよ。魔術回路的にもそうなんだけど、マナに色があると反応し辛いの」

「それはつまり、えっと……」


 エマちゃんの疑問にアルマちゃんが答える。


「無色のマナとの相性が良いということですね」


 魔法に詳しくないエマ・ラーラライト。疑問を取り除くため、ティレットちゃんが言葉を繋ぐ。


「たしかに、補助魔法の類の殆どは理論上、無色に近いほうが効果が高いと聞いたことがあります。しかし人間のマナには必ず色がついています。無色に近いと言ってもどうやって?」

「魔力の脱色化って知ってる? あれを自分の体内で行うの。魔剣やマジックアイテムに使われる物にもマナは宿ってる。当然、物にもマナはあり、色はついてる。それを使用者の用途に合わせるために、一度、色を抜いて着色する。その時と同じ脱色化現象を利用すれば、己の内に内在する魔力の色も脱色して無色にできる。でもマナの脱色化を人の力で行うのは非常に難しい。そういう理由で難易度が超高め。物のマナを脱色するのはもっと難易度が高い。かくいう私にもそれはできない」

「補助魔法にしても必ずしも無色でなければならないことはないのでは? たしかに移り香の魔法はアルマでも極めて難しいですが」

「まぁね。使うに際して無色のほうが簡単ってだけ。でも移り香の魔法は他の補助魔法と比べて格段に無色じゃないと難しいのよ。なんせこの魔法は――――って、どうして移り香の魔法を知ってるの?」

「えぇ……えっと……アルマは沢山の魔法に関する本を読みましたからね。その中にあったんです。それとアルマの知り合いにアルビノマギの方がいらっしゃるので、その方に使ってるところを見せていただきました」

「アルビノマギ? 超レア人物じゃんッ!」

「さすがマーリンさん。アルビノマギの言葉知っていらっしゃるとはッ!」


 どうやらエマは魔法の話しを理解することを諦めたようだ。

 代わりにシェリーとユノが疑問を引き継いだ。


「アルビノマギ? 白色魔力とは?」

「マナに色を持たない人のことをそう呼びます。たしか記録にあるだけで1億人に1人程度の割合ですね。でも通常の魔法が上手く発動しないことから、魔力適正が低いと勘違いされてしまうケースも想定されるそうです。なので人数はもっと存在してると言われてます」


 アルビノマギ。魔力に色を持たない者。

 なるほど、どこかの誰かが本にして伝達したと。

 それをアルマちゃんが発見して、アルビノマギの人物に使用してもらった、と。

 うぅむ、なるほど筋は通っている。が、解せぬことも多数ある。

 この魔法を知るのは私、華さん、エイボン、ウィズ、アライア、レリア、ポピンだけ。

 この中で本に書きそうなのはエイボン、ウィズ、アライア、レリアの4人か。しかし魔法的な知識を付与して伝えることができるのはエイボンとウィズだけ。


 エイボンは新しい魔導書を書いていない。

 ウィズであれば私にも分かるように、妖精図鑑のように図書館に収蔵しているはず。

 可能性があるのはポピンが転生を続け、アルマちゃんに伝達した線。

 可能性がゼロではないが確率はゼロに近いな。

 残りはシルフィだけど、彼女にはこの魔法を教えていない。

 だけどあの子は末恐ろしいセンスと勘の持ち主だったからなぁ。何かしらを感じ取って開発した可能性もある。

 生真面目な子だったから、作った魔法は本に記していたし、どこからともなくアルマちゃんの元へ流れたという可能性も否定できない。


 どこから流れてしまったのか。本人に聞けば解決するのだろうけど、どういうわけか真相を隠してる様子なので突っ込まないようにしましょう。

 別に悪用されるような危険な魔法じゃないし。

 また別の機会にお話ししましょう。

 むしろ話しの種が見つかったと思って喜ぶべき。そう、何事もプラス思考が大事。


 きっとアルマちゃんも私が異世界からの異邦人だということには気づいてるはず。

 一角白鯨を狩猟しに行った時、私はこっちからあっちの世界へ行き、異世界の地・アイザンロックを知っていたということは、ハティちゃんたちからの土産話で聞かされていた。

 異世界人でなければ知らない情報だと勘づいてる。

 彼女が直接、アイザンロックに行ったことがあるのかどうかまでは分からない。

 だけど私のようにほいほいと異世界を渡れる時空間転移(ワープ)が使えるなら、空間転移(テレポート)なんてバンバン使えるはず。

 つまり一緒に世界旅行を楽しめる仲間ということ。

 素晴らしいじゃないかっ!

 まだ見ぬ世界を、素敵な仲間と共に楽しめることは最上の喜びである。

 いつか必ず、やるべきことが済んだなら、めいいっぱい旅行しよう。


 とりあえず私が異世界渡航してることがバレても大丈夫な人間がいるというのは、今後に使えるカードかもしれない。

 彼女は口も堅そうだし、信頼もできる。

 ふりふりフリルの金髪ツインテール魔法大好きっ娘を助手に据えたい。


 そのためにはまず、移り香の魔法で作る素敵アイテムを餌に求心力を得ようと思います。

 集まった女子を中心に、黄金琥珀の蜂蜜酒の香りがするアメニティグッズが欲しいと迫られた。

 もちろん、みんなに配るだけの数は作るつもりです。今日まで関わってきて、楽しい思いばっかりさせてもらっちゃったから。

 これからの良好な関係も含め、一生懸命よいしょしておきたいところです。


「石鹸が欲しいです。はちみつの香りのする石鹸が欲しいですっ!」


 ギリギリ未成年のせいで黄金琥珀を楽しめなかったガレット。せめてお風呂で楽しみたい。


「しかしこれ、どうやって香りを移すんですか? 魔法で移すんですか? もしかして特殊な溶剤で髪を溶かすとか? 髪を切るんですか?」

「髪を切るとすると、つるつるに……!?」


 ペーシェちゃんって、ちょいちょい恐ろしい想像するのよね。賢い子なんだけど、ベクトルがぶっ飛んでる。

 大丈夫。髪は女の命です。そんなことはいたしません。


「そこは大丈夫。髪を洗うように水の中に香りを溶かす。そうすれば香りを持った溶液のできあがり。そうして各種素材と組み合わせて、楽しい魔法と科学の始まり始まり、ってね♪」


 どうやらペーシェちゃんは私が丸坊主になること。人毛から作られるアイテムの衛生面を心配していたようだ。

 そりゃそうだ。素敵な香りを放っていても生理的に受け付けなければ元も子もない。

 ひと昔前ならこんなことは気にも留めなかっただろうに。いやぁ時代は変わったものですなぁ。


 時代は変わった、か。

 時代が変わっても、楽しい時間はどこにでもある。

 それだけは決して変わることがない。本当に、とても幸せなことじゃないか。


 ひと心地ついたところで席についてグラスを傾ける。と、ソフィアが隣に来て私の顔をのぞきこむ。


「どうしました、マーリンさん。物思いに耽っていたように見えましたけど?」

「どんなに時代が変わっても、楽しい時間はどこにでもあるなぁって思って」

「そうなのかもしれませんね。とても羨ましいです」

「羨ましいだなんて。幸せに貴賤はないのだから。でもそうね。インヴィディアじゃないけど、誰かに羨ましがられるのはいいものね」

「ではずっと幸せですね。私はずっとずっと、貴女を羨ましいと思ってますから♪」


 楽しそうに微笑んでグラスを打ち合うソフィアは本当に強い女性だ。

 心を引き裂かれるほどに辛い過去があったというのに、それでもなお乗り超えて未来へ進もうとしている。

 どんなに険しい未来だって打ち砕いていけるだろう。

 私も若いもんには負けてられない。全力でこの時間を愉しまなくてはっ!




~おまけ小話『心配事は減らない』~


ルクスアキナ「ククココ酒が出てからずっと飲んでますね。私のカクテルも飲んで下さいよぉ~」


マーリン「ありがとう、ルクス。貴女の作ってくれるカクテルは絶品よ。料理別に出してくれるからいろんなお酒が飲めて楽しいわ」


エマ「ルクスさんのお酒は味もそうですが種類が多くて楽しいですっ!」


ルクスアキナ「色々と取り揃えてあるからね。今日は特にパーティー向けのやつ」


グリム「お酒もいいですが料理です。さすが料理上手が揃っているだけあって絶品料理の数々。パーリーでも扱いたいものが沢山あります」


ソフィア「相変わらずの花より団子ね」


暁「この子たちがルクスが言ってたお姉さんたちか。8姉妹なんだっけ?」


ソフィア「お初にお目にかかります。長女のソフィアです。ルクスが大変にお世話になっているようで」


暁「いやぁそんなことはないよ。どっちかって言うと、あたしのほうがお世話になってるしな」


グリム「そうなのですか? ヤケ酒専門の居酒屋ということですが、何か涙に溺れるようなことでもあるのですか?」


マーリン「なにそのエグい居酒屋は」


暁「涙に溺れるようなことはないが、ルクスの胸に埋もれることはよくしてる」


エマ「でも暁さんはルクスさんより年上ですよね? そういうこともあるのですか?」


マーリン「それは比喩表現ではなくて直接的な意味なのでは?」


暁「大人の女性にもな、年上年下に関係なく甘えたい時もあるのさ」


エマ「そう、なんですか?」


マーリン「悪いけど私に振らないで」


ソフィア「ねぇルクス。暁さんは悪い人ではないと思うけど、大丈夫なのよね?」


ルクスアキナ「大丈夫大丈夫。暁ちゃんってば、ちょ~きゃわいいんだからぁ♪ もぅめっちゃ興奮するっ!」


グリム「大丈夫じゃないのはルクスのようですね」

なんだかんだで生きがいがあるなら長生きするもんだと思います。

そのためには健康です。体が動かないとメンタルがへこたれてしまいますからね。マーリンの場合は不老なので一般ピーポーとは違いますが。


次回はペーシェがボッチしているとリリスが物凄い勢いで絡んでくる話しです。リリスはお姫様ですが腹黒なので下心全開です。敵に回さないように仲良くしようと頑張ります。

そしてペーシェとベレッタの秘密 (固有魔法)の正体が明かされます。




※今更ですが……登場した時に説明すべきだったんですが、作中に登場した【ククココの実】【プルプル】という果物は想像上の産物です。現実には存在しません。


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