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みんなでがんばる 1

こわれないしゃぼん玉。つんつんしても簡単には壊れません。

しかしアルマたちが作ろうとしているような、人が入るレベルの巨大なしゃぼん玉は壊れにくいだけではダメなのです。色々と調べると、こんなもん入れるの? みたいな驚きがあります。艶出しにお酒も入れるらしいです。身近にあった分、その深化には驚嘆の一言です。




以下、主観【アルマ・クローディアン】

 グレンツェンの地理は主に5つに分類される。


 まず1つ目はグレンツェン北部にある図書館と本庁。グレンツェン記念公園と東、西、南に伸びる路面電車を抱えて【グランデ・グレンツェン】。

 かつてのグレンツェン伯爵の住まいであるこの場所こそが街の歴史の出発点。

 戦時中に領主となったグレンツェン伯爵はこの地に要塞を築き、王都を侵略しようとする西側諸国を食い止める役目を負ったという。

 血と英知でもって戦争は終わり、要塞は図書館に。戦場は街へと姿を変えていった。

 現在も要塞であった痕跡はそのまま残され、グレンツェンの歴史を学ぶ上で重要な文化財として活躍している。


 2つ目はグレンツェン記念公園の西側に位置する高層の住宅群。元々は遠方からやってくる貴族や身分の高い騎士のための宿泊施設であった。

 現在ではお金持ち向けのアパートだったり、値段や設備に違いはあれど、宿泊客を迎えるホテルに改装されていた。

 増改築が繰り返し行われ、背の高いマンションには土産物屋や飲食店、本屋、スマホショップなど様々なカルチャーが展開されている。

 賑やかで最先端を取り入れながらも、歴史ある姿が整えられたこの場所を人は【オーロラ・ストリート】と呼ぶ。


 3つ目はセントラルステーションから南に向かって伸びる線路の西側。多くの農家の家と6本の川を跨いで田畑が広がる。ここには昔ながらの人々が住んでいて、自然と人の調和した景色にはグレンツェンの歴史が受け継がれていた。

 郷愁を誘う田舎道を歩く人々は【カントリーロード】と名付けて親しんでいる。


 4つ目は路面電車を挟んでカントリーロードの反対側。工房と住宅が混在している東側のエリア。技術革新が進む中で整備されていった街。アーディさんのような技術者や、クイヴァライネン家のケーキ屋さんもこの地に居を構えていた。

 世界中の人々が、本当に好きなことをするためにやってくる。

 それは挑戦であり、勝負であり、浪漫であり、人生であった。

 彼らはこの地を【チャレンジャーズ・ベイ】と名付け、日夜精進を続けている。


 最後の5つ目。グレンツェンで最も新しい住宅街はチャレンジャーズ・ベイのさらに東側。アルマたちの住む【フュトゥール・ストリート】。

 新人・ベテランを問わず、多くの建築家が趣向を凝らして創造した建築群で埋め尽くされている。

 公園もその1つ。設置された遊具はどれもユニークで子供たちに大人気。

 近くにはスーパーもあるし呉服屋もある。生活をするだけなら文句なしのオススメ地域。


 今日はシェアハウスからすぐそこの公園でしゃぼん玉の研究をしています。

 研究というか空中散歩のための実験をしてる。

 まずは昨日、図書館で借りてきた『壊れないしゃぼん玉のつくり方』という本に書いてあった方法を試すこと。

 それはキキちゃんとヤヤちゃんが率先してやってくれた。遊びたいキキちゃんをヤヤちゃんが誘導しながら実験を行ってくれる。もしもキキちゃんだけだったらただ遊ぶだけだったろう。ナイス、ヤヤちゃん。


 そしてアルマはアルマで最も大切な問題に取り組んでいた。

 先日失敗した強度強化と飛行魔法のブラッシュアップである。

 これが完成しないと何も始まらない。

 しかしどうもうまくいかない。

 淡い期待を込めて、もう一度同じ方法を試してみたが結果は同じ。夢ではなかった。夢であるはずがないんだけど。

 飛行魔法関連の書物から、ロケットやヘリコプターなんかの空を飛ぶ系の図鑑や泡理論なる、少し横道に逸れた情報から何かアイデアが拾えないかと思ってみたので、片っ端から読み漁ってみた。当然、そんなに簡単に閃きは訪れない。

 きっとマーリンさんに相談すれば何かいいヒントがフォールンダウンするだろう。だけど簡単に人に頼るのもどうかと思うので、それは最後の手段。

 しかしこのままでは時間に間に合わない。うぅむ。


「あの、アルマちゃん? 何か困ってるの?」

「ふわぁっ! ベレッタさん、いらっしゃったんですか。気づきませんでした。すみません」


 振り返るとベレッタさんが心配そうに見つめてた。

 自分の世界にのめり込みすぎて気づかないなんて恥ずかしい。


「ううん、こっちこそ驚かせてしまってごめんなさい。あまりに真剣に悩んでたものだから、声をかけようか迷ってしまって」


 紹介しましょう。こちらはベレッタ・シルヴィアさん。

 生まれつき魔法適正が高く、宮廷魔導士として将来を期待されていたが、その重圧のせいで人と関わるのが怖くなってしまい、人見知りになってしまった。

 修道院育ちで面倒見のいい性格のお姉さん。赤茶色の長い髪と優しそうな目元がセクシー。

 昨日、図書館で初めて会って、アルマの企画の話しをすると、是非手伝わせて欲しいということで、本日、フュトゥール・ストリートの公園で待ち合わせた次第であります。


 基本的に企画の二股はしないことが多い。1つのことに集中したいという意味もあるのだが、それとは別にイベント保険料を個人で手続きをし、支払う手間が発生するからだ。

 イベント保険とは、事故や怪我の発生する可能性の高いお祭りなんかで治療費などが補償される保険のことである。

 グレンツェンでイベントの運営をする場合、助成金の中から自動的に支払われる。ベレッタさんやマーリンさんのように正式に参加登録はしてないけど、他のイベントに手伝いや売り子などで行動する場合には、任意ではあるが保険に加入するよう勧められる。


 そこは個人の自由なので払ってるかどうかをわざわざ確認はしない。だけど、とにかくアルマの想いに興味を持って参加してくれたのがなにより嬉しい。

 色々と議論を重ねている最中、キキちゃんにベレッタさんを強奪されてしまった。

 まだ話しの途中だというのに。自由人なんだから、もぅ。


 ベレッタさんが連れ去られ、次に来たのは救いの女神・マーリンさん。


「あ、アルマちゃん見っけ! 企画は進んでる?」

「マーリンさん!? どうしてここが分かったんですか?」

「連絡先を交換するのをうっかり忘れちゃってたから、アルマちゃんを探知魔法で探してたのよ。でももうおやつの時間ね。よかったらお茶にしない?」


 突然現れたマーリンさんはまさに渡りに船。豪華客船のベテラン船長。

 アルマとしてはさっそく本題に入りたいところ。しかし船上パーティーのお誘いとあらば断わるわけにもいくまいて。

 マーリンさんはみんなを呼んで木陰に集合。バスケットの中から蔓の種を取り出して地面に撒くと、みるみるうちに成長して、ベンチとテーブルに早変わり。

 円形のテーブルの周りをCの字型のベンチが囲んでおやつタイム。


 よく見ると蔓は規則的に編み込まれていて、座ってもお尻が痛くない。背もたれもほどよい弾力があって座り心地は抜群。これほど精緻な魔法が使えるマーリンさんとはいったい何者なのか。

 質問をしてもはぐらかされる。いい女には秘密は付きものということですね。あまり詮索するのも失礼だ。ここはそういうことにしておこう。


 プレーンなバタークッキー。

 華やかに香るローズティー。

 大切な友人から教えてもらったという自慢の甘納豆は絶品のひと言。太郎さんが作る甘納豆に似てる味。


 優雅に紅茶を飲み下し、はふーっと安堵に似たため息をついて視線をアルマに落とした。


「それでそれで、あれから進展はあった?」


 楽しそうな口調のマーリンさん。アルマの企画のことを本当に素晴らしいものだと評価してくれてる証拠である。

 超嬉しくて笑顔になっちゃう。けど、


「それが、恥ずかしながら全然ありません。空を飛ぶ関係の書物から何かヒントがないか調べてみたんですが、特に何も得られなくて。気球や飛行機からは着想を得られませんでした」

「なるほどね。自分で色々と調べてるんだ。アルマちゃんは頑張り屋さんなんだね」

「頑張るのは当然です。でも頑張ってダメでしたでは通用しません」

「その辺のところをちゃんと理解してるだなんて凄いわ。大人でもなかなか受け入れようとしない部分なのに」


 それから彼女は、そうねぇと思考を巡らせた後、仲良くお菓子を食べる3人に簡単な質問を投げかけた。


「もしも、しゃぼん玉で空中散歩ができたとしたら、どんな気持ちになると思う?」


 ヤヤちゃんは、

「ふわふわ空を飛んだら、街を一望して、地上では見られない新しい景色を見て、この街をもっと好きになるかもしれない」


 続いてキキちゃん。

「ハムスターボールみたいにぐるんぐるん回りそう」


 最後にベレッタさん。

「無重力みたいになってしゃぼん玉と一緒にふわふわ浮いて、地平線に沈む夕日を見たら、なんかこう、綺麗だなって、うっとりしそう」


 正直言うと、こんなに違った意見がでてくるとは思ってもみなかった。

 アルマはふわふわ浮いて空中遊泳をしたら、なんか楽しいだろうな。メルヘンでファンシーな感覚にわくわくするなぁと思っていた。みんなそんな想像をしてると思ってた。

 ヤヤちゃんとベレッタさんはしゃぼん玉の中で見る景色について思いを馳せる。

 キキちゃんにいたってはもうそれ、しゃぼん玉じゃなくてもいいやつだし。


「ね? こんなに素敵な想像をさせることを成し遂げようとしてるアルマちゃんはやっぱりカッコいいと思う。だから頑張りましょう。みんなでね」

「マーリンさん…………アルマを励まそうとして?」

「励ますなんてたいそうなものではないけれど、ただ、アルマちゃんが想像している以上に、あなたは素敵なレディだってことに気付いてもらいたかったの」

「マーリンさん…………っ!」


 なんて凄い人なんだろう。

 腐ってたアルマを気にかけてくれて。

 こんな上手な方法で心を洗い流してくれて。

 色々と具体的な褒め言葉が浮かんでは沈んで、だけど尊敬できる人という単純な形容詞がいつまでもアルマの心を照らした。

 なんだかやる気が湧いてきた。下を向いてあれこれ考えていた自分がバカみたい。

 さぁ、紅茶を飲んだら再開だっ!


 だけど、そうそう良いアイデアがポンポン生まれるわけもなく、布を巻き付けた巨大な針金のふり輪で巨大な浮遊用しゃぼん玉を作ってはみるものの、強度はおそろしくあるくせに全く浮かない。

 やっぱり人間1人を浮かすのは相当なパワーが必要だ。とてもアルマ1人ではこなせない。


 もっと魔力の練度を上げるか。しかしそれには時間が足りない。圧倒的に足りない。

 そうこうしている間に陽も落ちて、やれやれ今日は解散かという時間になって転機が訪れた。

 すみれさんとハティさんがみんなで討伐したコカトリスのモツを引き取ったというのだ。食通のシルヴァさんが言うには、グレンツェンでは動物の内臓系は食卓に上がらない。レストランでも滅多に見ない。そもそも内臓って食べるものなのかという質問をされる始末。


 ならばアルマが全部買い取りたいので融通して欲しいという願いが叶ったのです!

 何を隠そうアルマ・クローディアン。モツ鍋モツ煮込みが大好物なのです。

 鶏も猪も牛も豚もそれぞれ違っておいしいモツ。

 コカトリスなる珍獣となればそれはもうおいしいに違いない。

 それがこんなに、冷凍庫に入らないほどの量なんてひゃっはぁー♪

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