ヴィルヘルミナの野望
クイヴァライネン家の末っ子、ヴィルヘルミナがお姉さんっぽいことをしようとして失敗する回です。
今まで下の子がいなかった人が友達付き合いとかなんかそんな時に年下の子の面倒をみると、弟か妹ができたみたいで嬉しくなるのかもしれません。
素面でも仕事でも妹のヴィルヘルミナにとって、キキやヤヤは妹扱いしたい存在です。
ヴィルヘルミナは誰に対してもため口です。年上とか年下とかを通り越して友達扱いしている人には相手が年上だろうが誰だろうがため口する変わった性格です。日本でそんなことをしようものなら袋叩きですね。
以下、主観【ヴィルヘルミナ・クイヴァライネン】
キキちゃんとヤヤちゃんを引き連れて、冷蔵庫に保管したあるものを取りに出かけた。
ハティさんが友人からもらったという果実の皮を加工した飲み物。
ククココと紹介された果物の見た目はオレンジ色のナツメヤシのよう。バナナのように皮を剥くと、アメリカンフットボールのような形をした親指大の果肉が現れる。
食感と味は甘夏そのもの。ジューシーで肉厚なそれを歯で嚙み切ると、ぷちぷちと弾ける心地よい食感と、甘味を帯びたほのかな酸味が口いっぱいに広がる素敵フルーツ。
素敵なのは果肉だけではない。バナナのような皮の内側の白いもっさり部分は水と空気に反応して、特別な酵母菌の作用で分解&発酵。2週間もするとヨーグルトのようになるというではありませんか。
残った繊維管も一緒に分解されるため、果物の成長のために運ばれていたビタミンやミネラルも溶け出し、食物繊維と乳酸菌たっぷりのスーパーフードと化す。
ついでに発酵の過程でアルコールも発生するらしく、現地の人々は【食べるお酒】として毎朝常食するらしい。
アルコールが入っているため、子供には加熱してアルコールを取り除いたものが配られるという。
ということは未成年のキキちゃんたちも口にできるということです。
それを聞いてキキちゃんヤヤちゃん、マーガレットにガレットも大喜び。さっそく厨房で煮詰めています。
お酒と聞いてエマが現れた。
ほんとに16歳なのかと疑わしくなる酒の知識と経験。いったいどんな生活をしてたのか疑問に思う。
「それが先ほどおっしゃっていた果物の醸造酒ですか。ふんわりと甘い香りがしておいしそうですね」
嬉しそうに頬を緩ませるリーダーのなんと幸せな表情でしょう。
「そうなの。ヨーグルトみたいな食感で、現地の人たちはフルーツを入れて朝食にするらしいの。原始的だけどシンプルでおいしい。食物繊維と乳酸菌、各種フルーツのビタミンのおかげでお肌もお腹も綺麗になれる。毎朝食べたい逸品なの。煮詰めて蒸溜してるのはまだなので、冷やして発酵させたものをどうぞ。ではまずは、ハティさんからどうぞなの」
「ありがとうっ! 私これ、お酒の中で一番大好き。いただきます」
瓶の中からひとすくい。そのまま食べるのかと思いきや、フルーツポンチにただよう果物を混ぜてぱくり。冷たくて甘くておいしいと満面の笑み。
なんという贅沢な……いや、彼女からしたらこれが正しく、日常的な食べ方なのだろう。
果物が高級品と化した昨今、こんなフルーツで彩るカラフルな食事は珍しい。
ハティさんに倣い、あたしも同じようにしてぱくり。
イチゴの果汁とひんやりヨーグルトの相性たるや抜群のひと言。ヨーグルトの元が柑橘系の果物だったせいか、ほんわりと甘夏独特の香りが鼻を抜ける。
これを夏の暑い日差しの中で食べられたら幸せだろうなぁ。
甘味の噂を聞きつけた有象無象が列を成して押し寄せる。残念なことに全員が満足に食べられる数量はない。
1人ひとすくい。
これが今回の限界である。口惜しや。
とりあえず、激辛料理で死に体の2人を優先します。悪しからず。
「はぁ~~生き返るぅ~~。やっぱり辛いものより甘いすい~つがいいわぁ~~。ところでこれ、私の知らない果実なんだけど、種をもらってもいいかしら」
「うんまぁ~~♪ 地獄と化したタルタロスがオアシスになっていくわぁ~~。この果物、房を見る限りではかなり効率のいい実の生り方をするよな。健康食品としても人気が出そうだし、ペルンノート農場で栽培して売り出してもいいか?」
「ペルンノート農場で栽培してもらえるならショコラにも卸して欲しいの。でも持ってきてくれたのはハティさんだから、ハティさんに聞いてみないと」
「神樹の森のみんなは、『基本的に自分で食べるものは自分で育てる』って言ってた。だからライラたちが育てて食べても問題ないと思う」
「マジか、やった! ――――――もしかして、宴会が始まってさっそくフルーツポンチに走ったレレッチは……」
そう、彼女は果物大好きっ娘。颯爽見つけた新種の果物を甘味の籠から掬い出し、中に入っている種子を独り占めしていた。
1人で何かをもくもくとしてると思ったら……まったく抜け目のないやつなの。
グッジョブッ!
ちなみに、と続けてフルーツポンチの中に入っている薄い黄色のブロックを取り出してライラさんの前に差し出す。
実はマンゴーのような見た目で味はマンゴーと桃を掛け合わせたような甘い味わい。繊維質が強いのか食感は桃に似ていた。
名を【プルプル】と呼ばれるそれは全長30cmほどにもなる大きな果実。
特徴は完熟して食べごろの合図にある。実を持って左右に振ると、ゼリーのようにプルプルと震えるのだ。
ただそこに置いて触ると桃のような弾力しかないのに、振り回すとプルプルと揺れる謎の新体験。
切り分けてフォークに刺し、左右に振ってもプルプルする。食べるとやっぱり桃のような嚙み心地。
好奇心に揺さぶられ、心の荒ぶるキキちゃんは頭をヘッドバッドさせながら食べていた。
すると、なんと、お口の中で暴れるそれは弾力の強いゼリーのような食感だと言うではないか。
謎すぎるぞプルプル。
面白すぎるぞプルプル。
「ぷるっぷるしてるっ! 桃とマンゴーを一緒に食べてるみたいでおいしいっ!」
「桃とマンゴーッ! 我々も種を貰って栽培しましょうっ!」
「桜はちょっと黙ってて」
「私も欲しい。是非とも種を譲って欲しい」
「これの種もレレッチは回収してるのか?」
当然回収済み。しかし難点があるのだ。
「うっ…………あるにはありますが、マンゴーやアボカドの近縁種みたいで、1つの実に種が1つのタイプのようです。ですので、ここには種が3つしかありません……」
「種は乾燥させて粉末にするとコーヒーみたいになる!」
「朗報だけど、今はそうじゃなくて」
ハティさんの天然発言に、珍しくマーリンさんがノリツッコミ。
続いて暁さんが話題を戻す。
「えっと、あたしたちはまた別日にハティから種なり苗なりを貰いますので結構です。ちなみになんだが、ククココとプルプルって1つの苗でいくつくらいの実をつけるんだ?」
「ククココは花火みたいにわぁーってたくさん生る。私より背が高い。プルプルは3個だけ。すっごく背が低い。このくらい」
このくらい、と示したのは地上からだいたい約50cmくらいの高さ。そんなに低い樹高でラグビーボールくらいの大きさの実が成るとは。しかも3個だけ。実に面白い。
世界とは広いですな。
「3個だけ。しかもこんなに大きな果物なのに膝ぐらいまでの高さしかないなんて、かなり珍しいタイプの果物みたいね」
「個人的にはククココのほうが優先度が高めかな。沢山生るなら商業的にも有利だ」
「なるほど。どっちかって言うとあたしもククココのほうがいいですね。沢山収穫できるのはありがたい」
「そんな……桃とマンゴー…………」
「桜は果物の先に何を見てるの?」
アルマから、桜は下ネタ大好きと聞いていたが、よっぽどの重症である。こいつやべぇな。
引き気味の笑いが漏れる中、そんなこととも知らないキキちゃんたちがホットヨーグルトを携えて現れた。
ノンアルコールと化したククココ酒――ノンアルコールだから酒ではないが――のご登場。
ついでに蒸留したククココ酒も現れた。エマがほくほくの笑顔。すでに味見はすませたようだ。
ヨーグルトと果物をミックスしてぱくり。おいしさと、みんなと一緒に同じものを食べるという満足感を得た笑顔のなんとかわいらしいことか。
あたしは末っ子ゆえに妹や弟という存在はいない。だから小さな子供を見るとお姉さんっぽいことをしたくなる衝動に駆られるのだ。
この時のために温めておいたアイデアがある。
それはヨーグルトアイス。アルコールを取り除いたヨーグルトククココを冷凍してブロックアイスにするというもの。
これでかわいい子供のハートを鷲掴みなのっ!
「あ、それならもう準備済みよ」
「な、なんとっ!?」
「くわえてクランチ入りチョコレートを重ねてチョコ感を足し算した。きっとめっちゃおいしいぞ♪」
「なんでそんなもんを持ってんのっ!?」
くっ……やられた。
本職の姉には敵わないということかっ!
ウォルフは姉ではないが。しかし姉属性を持つのは確か。
はぁ……まぁそれはそれでいいとしましょう。くよくよ考えたって仕方ない。
次回に期待いたしましょう。
圧倒的な敗北感にやる気を削ぎ落とされ、ぐったりと椅子に座りこむ。
遠くでエマとマーリンさんとルクスアキナさんがククココ酒の蒸留酒を飲んで歓喜の叫びを上げていた。
プルプルを含む果物とヨーグルトを合わせて楽む子供たちの姿も微笑ましい。
物珍しい鯨のロースト肉に舌鼓を打つ者ども。
あたしの隣には巨大なコカトリスの頭の剥製。
どれもこれも、ハティさんがもたらしたもの。背が高くて整った顔立ちに抜群のスタイル。
子供っぽい笑顔からは想像もできないほど魔法が得意。
世界中に友達がいて、全ての人々が彼女のためになら努力は惜しまないといった様子。
ちょーかっこいい。
どうしたらあんな風になれるのか。
まったくもってミステリアス。
いつかあんなカッコいい女性になりたいな。
「あらあら、もうおねむちゃん? あんまりお酒は強くないんだから、ほどほどにしておかないともったいないわよ?」
ぬ、我が姉の登場である。ククココのブラックアイスを手にほくほくの表情。
普段ならあたしもかぶりつくところ。だけどちょっと疲れが押し寄せてきたかもなの。
「う~ん……酔いもあるけどさすがに疲れたの。ちょっとねzZZZ…………」
「相変わらず寝るのが早い……。まぁでも、本当に頑張ったね」
大好きなお姉ちゃんの腕に抱かれて夢の中。
はぁ~、それにしてもキッチン・グレンツェッタに参加してよかった。
しれっと日帰りの海外旅行にも行ったし、驚きや感動に満ちた出会いもあった。
とっても濃密で楽しい日々。
こんな刺激の強い日常はもう来ないかもしれない。
それでもいい。
それもいい。
ゆっくり流れる時間の中で楽しむ3時のおやつも最高です。
あとはあたしの夢――――モーリシャス島、失踪したドードー鳥を見つけて、世界最高の布団を作って、史上最高の睡眠を体験するだけ。
いつかきっと出会えるはず。
いつかきっと成し遂げてみせる。
いつかきっと……必ず…………。
~おまけ小話『ドードー鳥の行方』~
リリィ「ヴィルヘルミナさんの夢はドードー鳥を見つけて羽毛布団を作ることなんですね」
マルコ「でもドードー鳥って絶滅したんじゃ」
ヴィルヘルミナ「ちっっっげえええぇぇぇぇしッ! ドードー鳥は人間の乱獲から逃げるために住処を変えただけだしッ!」
マルコ「ごめんっ!」
アルマ「そんなてきとーだから出番が回ってこないんじゃないの?」
マルコ「うおあぁぁぁッ!」
ペーシェ「ざまぁ。しっかしどこに失踪したんだろうね。モーリシャス島って孤島でしょ? しかもドードー鳥は飛べないって話しだし」
アルマ「世界に名だたる不思議ですね。海を泳いで渡ったとか。鴨みたいに」
リリィ「それだとさすがに見つかっているのでは?」
ペーシェ「海を渡れるなら世界各地にドードーがいそうだよね。ヴィルヘルミナはどう思う?」
ヴィルヘルミナ「それなら既に見当はついてるの」
アルマ「なんとっ! その心は?」
ヴィルヘルミナ「ズバリッ! 夢の中なのっ!」
???『なかなか鋭いけど、半分だけ正解なのだ♪』
ヴィルヘルミナ「半分だけ正解!? もう半分は…………って、誰がしゃべった?」
ペーシェ「いや、誰もしゃべってないけど。あたしにはヴィルヘルミナが1人で突っ込んだようにしか見えなかった。みんなは?」
アルマ「アルマはなにも」
リリィ「私もなにも言ってません」
ヴィルヘルミナ「もしや、ドードーの声かっ!?」
???『…………そんなわけないのだ』
ヴィルヘルミナ「ふぁッ! 今たしかになんか聞こえたの!」
シルヴァ「ずいぶんとまた寝坊助さんみたいね。ごめんなさいね。ちょっとおねむちゃんなの」
ヴィルヘルミナ「数分仮眠しておめめぱっちりなの。幻聴でもボケでもないのっ!」
リリィ「オカルトですか? もしやオカルトですかっ!?」
アルマ「どうした、リリィ」
マルコ「リリィはオカルトの類が大好きなんだよ」
アルマ「それで突然消えたアンティークカフェの話しの時に話しに入りたそうにしてたのか」
ペーシェ「意外な趣味」
ヴィルヘルミナ「ぐああああっ! ほんとに聞こえたんだって!」
シルヴァ「まぁまぁ。モーリシャス島には家族で行くんだから。その時に真偽を確かめましょう」
???『ふっふっふっ。これは面白いことを聞いてしまったのだ♪』
ドードー鳥を見つけて世界最高の羽毛布団を作る。それがヴィルヘルミナの夢。
お菓子屋さんの娘ですが、それは全部姉に任せて、自分は自由気ままに生きる予定です。まさに末っ子って感じですね。
姉は姉で自分のしたいことが家業なのでいいのですが、そうでない場合は地獄かもしれません。
そもそも失踪したことになっているドードー鳥を見つけることができるのでしょうか。
次回は郷土料理のロールキャベツを見て郷愁と衝撃を受けるアナスタシアのお話しです。




