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素敵な出会いは謎のまま

今回はアルマたちが迷い込んだアンティークカフェを巡るお話しです。

突然現れたカフェはどこに行ってしまったのか。

そもそも本当に実在しているのか。

素敵な思い出に想いを馳せながら考察していきます。




以下、主観【ヘラ・グレンツェン・ヴォーヴェライト】

 おいしい食事を揃えて気になる人だけ呼び出しました。

 魔法大好きっ子のアルマちゃん。

 謎を謎のままにはできないシェリーちゃん。

 シェリーちゃんの横にマーガレットちゃん。

 アーディくんは魔導工学の防犯設備を開発していることから強制参加です。

 何を隠そうこの動画に収められている事実は、背筋も凍るような凍らないような、ちょっぴりわくわくするような、不思議な映像が映し出されてるからなのです。

 映し出されてる、と表現しましたが、実際には何も映ってないのです。

 そこになくてはならないものが映ってない。

 超不思議現象を酒の肴におしゃべりします♪


「超不思議現象を酒の肴にするほど奇妙な性格はしてないのですが……」


 奇妙な性格をしてないシェリーちゃん。そこは素敵な謎にときめきましょう。無理矢理にでも。


「でもでも、アルマたちの身に起こったことなんですから、議論しておいて損はありません。それにとっても素敵な出会いでした。またみんなでハニートーストを食べたいじゃないですか」

「ハニートーストっ! わたしもお姉様と一緒に食べたいですっ!」

「ハニートーストじゃないけど、このあとのデザートはジャムを乗せるチーズケーキとか、バニラビーンズ入り超特濃アイスクリームがあるから楽しみにしてね☆」

「うんっ!」


 甘々大好きアルマちゃんとマーガレットちゃん。青春してるようでなによりです。


「ところでなんで俺まで。防犯に関わることなら正式に会議を開いたほうがよいのでは?」


 嫌な予感がして気乗りしないアーディくん。

 実に勘がいいですな。


「もはやそういう次元じゃないの! ほらこれを見て。アルマちゃんたち一行が現れて…………すぐに画面が砂嵐に覆われるの。そうしたらあら不思議! みんなどこかへ消えちゃった。他のアングルのカメラも全部そう。同じタイミングで画面が途切れるの。超不思議でしょ!」

「わぁ~~ふしぎぃ~~」


 慣れた様子で眺めるマーガレットちゃん。霊視ができると、こういうことが日常茶飯事なのかな?


 情けなくもたじろぐアーディくん。マーガレットちゃんの胆力を見習っていただきたい。


「――――――ッ!? え、幽霊的な? いやでも物理的にありえないですよね。テレポートでどこかへ行ったとか」

「いや、それはない。我々の誰もテレポートはおろか、魔法の類など一切発動していない。それはアーディが魔導工学で作った魔力観測機でも証明されている。この一帯はこの時間、魔力の異常膨張、龍脈の乱れ、第三者の魔法の行使などが行われてないことは証明されてる。現地でもアルマと暁が魔法の残滓を見つけられなかったことから、魔法が関与していないことは明白なんだ。だとすると……」

「ゆう……れい…………」


 マジか。という顔をする。

 この話しを聞いて、大多数の人はそんな顔をするでしょうね。


「アーディさんは幽霊とか苦手な人ですか?」

「いやそういうわけじゃないが、出会ったことがないもんでな」

「でもでも、周りにいる幽霊さんたちもびっくりしてる様子です。それよりハニートーストです。どんなでしたか?」

「えぇッ!?」


 マーガレットちゃんが爆弾を投げつけて発破。アーディくんの脳が凍死。

 少女はカロリー爆弾のほうに興味津々。


「あぁそれはね、こんなのだったよ。すっごく甘くておいしかった。今度うちにお泊りに来て。そしたらヤヤちゃんが朝食に作ってくれるよ」

「本当に? 絶対行くっ!」


 朝食に作るんだ。朝からかっ飛ばしてるなぁ。

 肝っ玉の据わった子供たちはスイーツトークに花を咲かせながら、摩訶不思議な現象など気にもせずに食事を楽しんでいる。

 大好きな本を取り上げられて号泣していたアルマちゃんを慰めるため、赤ワインソースを使った仔牛のレバーに、バターで炒めたリンゴを添えて彼女の前へ出しておいた。

 それはもう嬉しそうにきゃっきゃきゃっきゃと笑顔を弾けさせて踊り出している。


 幽霊だとかそんな話しはどうでもいいから早く食べたいと、よだれを垂らして待ち構えていた。

 幽霊や不思議現象なんかよりモツ料理。魔法が絡んでないので全く興味を示さない。

 そんな一途なアルマちゃん、青春してるわっ!


 アルマちゃんの大好物を作ってくれたのは意外にも毒物大好きっ子のケビンくん。

 風邪を引いた時なんかにお母さんが作ってくれた郷土料理のひとつらしい。

 たまたまスーパーで安売りをしているモツを見かけ、懐かしさに駆られて仕入れたそうな。

 男子といえどさすが1人暮らし。なかなかどうして料理も上手。

 各種ビタミンと鉄分が豊富なレバー。クセがありながらもコクの強い赤ワインソースと絡めておいしさが昇華。

 甘口に炒めたバターリンゴと合わせて食べると絶品のひと言。

 これはぜひ、うちでも作りたいひと品です♪


 さて、アーディくんには魔導工学を用いて謎のアンティークカフェを見つけられるかどうかの相談をしてみましょう。

 できれば私も行ってみたい。

 おしゃれなアンティークショップに私も行ってみたいっ!


 願望丸出しで嘆願するも、険しい顔色を窺わせる彼は天才児。

 なんとかならないかと再度お願いするも、返事はすぐにできないとのこと。

 すぐにできないってことはどうにかこうにかして頑張ってくれるってことよね?

 期待してもいいのよね?


「期待してもらっても困るんですが。できるだけ善処はしてみます。今回は無害だったようですが、グレンツェンの防犯機能に引っかからない存在にほいほい出入りされても困りますし。しかし魔法とか、あまつさえ幽霊でさえない存在。もはや見当がつきません。見当がつかないと対処のしようもありません。シェリーさんは何か心当たりがありますか?」

「恥ずかしながら全く心当たりはない。それどころかそれと気づくまで、一切全く、不思議現象だとすら気付かなかった。私や暁、アルマまで違和感に気付かなかったんだ。相当な難題だと思う。警備の方ではどうですか。何か手がかりというか、痕跡のようなものはありましたか?」

「それがまったくさっぱりちんぷんかんぷん。ベテランの警備員とか、警察の方にも問い合わせたんだけど手がかりなし。久しぶりのお手上げ状態」

「専門機関でお手上げなら、俺なんかもっとどうしようもないんですけど」

「手がかりかどうかはわかりませんが、店主さんから譲ってもらった超素敵オルゴールならありますよ。これがそれです」


 報告にあった黄金のオルゴール。ランダムな音程を奏でながらも、素朴で美しい音色を響かせてくれるとアルマちゃんが絶賛した代物。

 音も見た目も美しい。6面に張り巡らされた歯車の心地よいノイズにも癒される。

 金ピカなのに不思議とけばけばしくない雰囲気は、厳かで神々しさすら感じた。

 音につられてやってきたのはミレナちゃん。オルゴールを発展させた絵本を作る職人としては気になって仕方ない様子。


 さっそく中身の構造に興味を示し、透視するも――――何も見えないとのこと。

 彼女は魔法職ではないが、職人が使う魔法の扱いだけは超一流。それこそ通常の魔法使いなんかよりも断然、熟達しる。

 にもかかわらず、内部の構造が隙間さえも見えない。まるで作りかけの3Dオブジェクトのようにのっぺりとして見えていた。

 魔鉱石について話し込む親方を引っ張り出して透視するも結果は同じ。

 使用されている鉱石も不明。おまけに製作過程においても全くの謎と判断された。


 デルレン親方はステラ・フェッロの最上位の職人。職人として名を上げてからは発条式の腕時計を製作している。

 修業時代に探求した鉱石の知見はいまだ健在。彼の知識の中には最先端技術によって合成された合金ですら頭の中に入っている。

 鑑定の魔法を使えば、記憶の中にある情報と照合させてどの鉱石がどの割合で配合されているかが全てまるわかり。

 なのに、彼に鑑定できないということは、これは未知の金属。

 あるいは未知の素材で作られていることになる。

 あるいはもっと別の、概念的な何かだろうか。

 奇妙なのは鉱石の種類だけではない。通常であれば鉄と鉄を結合させた部分には継ぎ目がある。

 たとえ研磨していても、職人の目にははっきりと見えるもの。なのにそういった痕跡も見当たらない。

 完全に、最初からこのようにして作られた。そうとしか考えられない。

 考えられないが、それは物理的に不可能だ。物事には順序というものがある。

 これはそれを無視していた。


「ありえねぇ。長くこの仕事をしているが、こんなもんを見たのは初めてだ。なぁアルマ。これをどこで手に入れた?」


 驚きと興奮が隠せない。

 謎が更に深まった。


「隠れ家的なアンティークカフェ……あっ、ベイにある天蓋が窓ガラスになってるカフェじゃないほうのカフェで……って、もうどこかへ消えちゃったんだっけ。そこの女店主さんに譲ってもらったんです。これは大切にしてくれる人に譲ると決めていたそうで。アルマがそれを譲り受けました」

「カフェと店主の名前は?」

「えぇと…………あぁ~……アルマとしたことが、どっちも確認してませんでした。シェリーさんはどうですか?」

「路地は暗かったし狭かったからな。私も見落としていた。店主さんの名前も聞くタイミングとか脈絡もなかったし」

「そうか。個人的にも興味があったけど、仕方ないなぁ……。名前がわかれば何か手がかりになると思ったが。そもそも屋号を出していない可能性もあるな」


 残念、と漏らした次の言葉は、ハニートースト食べたい、だった。私も同感です。


 でもまぁ、とこぼしてポジティブに捉えようと思います。

 話しを聞く限り、危険はなさそうだし。


「ミステリアスで素敵な思い出ね。防犯的な観点から言えば存在を解き明かしたいところだけど、そういうふわっとしたものってなんだかドキドキしちゃうよね!」

「俺としては不安でしかありませんが。まぁベレッタの話しを聞く限りでは無害そうですね」

「あら、話しは聞いたのね」

「えぇ、それはもう楽しそうに。ただ、突如現れて消えたってとこは聞いてませんでした。彼女も半信半疑だったのでしょう」


 不安と言いながら楽しそうに語るアーディくん。義妹の笑顔が見れて嬉しかったのだろう。


「あっ、そうだ。ヤヤちゃんの固有魔法(ユニークスキル)なら何か分かるかも」


 思い立ったら即行動のアルマちゃん。ヤヤちゃんのユニークスキルと言うと、見たものの情報がまるわかりになるというスーパーチート能力。

 鑑定の魔法とは違い、あらかじめ用意した情報で照合するのではなく、対象そのものから情報を得るというヤバいやつ。

 彼女であれば古代兵器の使い方だろうが相手の弱点だろうが、誰が誰を好きでどのくらいの好感度なのかもまるっと見え見え。


 さっそく見ていただきましょう。

 彼女はうんうんと頷きながらなるほどなるほどと相槌を打つ。

 数秒ののち、余計に気になる言葉(爆弾)を投下。


「彼女は静かな暮らしを望んでいるので、これについては秘密としますっ!」


 彼女って誰!?

 静かな暮らしってどういうこと!?

 秘密にするなら秘密にするって言わないでっ!

 余計に気になっちゃうからっ!


 しまったという顔だけを残し、脱兎の如く背を向けて走り去って行った。

 みんないい大人なのでその背を追わなかったのだが、彼女がこれ以上、何も言わないということはカフェの件にしろ、オルゴールの件にしろ、我々には無害ということであろう。

 賢いヤヤちゃんであれば、危険が孕む物事を放ってはおかない。

 そこは彼女をよく知るアルマちゃんが保証してくれたので安心でしょう。多分。


 結局、謎は謎のまま。

 だからこそ、いいっていうのもあるよね。

 これはきっとグレンツェンの噂になって広まるでしょう。

 ミステリアスも魅力のひとつ。

 もっともっとグレンツェンが魅力的になるわ♪




~おまけ小話『暁の右目』~


桜「市長的にはそういう謎を放っておくのって大丈夫なんですか?」


ヘラ「大丈夫大丈夫。こういう迷信とかオカルトとかを観光の目玉にする場所だってたくさんあるし。それに今回のは悪いイメージを与えるようなものじゃなかったし。むしろ出会いたいくらいの素敵な謎だわ!」


シェリー「そういえば、暁も知っている銘柄の豆を使ってたよな。となるとやっぱり幽霊とかじゃないってことか。幽霊的な存在である可能性は否定できないが」


暁「いや、霊的な存在ならあたしの右目が反応してますね。なのでその線はまずないでしょう。しかし魔力的なものでもない。本当に不思議です」


アルマ「もしかしたら……このオルゴールが本当にアルマと出会いたがっていたとか。そう思うと超絶嬉しいです。運命を感じますっ!」


ヘラ「ここまでくるとその可能性のほうが断然高い気すらしてきた。本当だとしたら、こんなに素敵なことってないわねっ!」


シェリー「謎と言えば暁の右目はどうなってるんだ? 眼帯の下の眼球が、なんというか、人間のものとは思えないんだが。縦長瞳孔だし」


暁「これは両親の知人から譲ってもらったものなんですよ。目を失って困ってたので助かりました」


シェリー「いまなんかりかいしがたいことばがきこえたんだが…………?」


暁「知人にいただきました。いっぱい目をもってるんですよ。その中からお気に入りのものを頂戴しました。いやぁ本当に便利なんですよ、これ」


ヘラ「いっぱい目をもってる知人ってマッドなサイエンティストな印象。大丈夫な人なの? いろいろと」


暁「百眼魔神さんはいい方ですよ。目をくれましたし。ただ少し困ることもありまして。右目は発光体なので暗闇の中だと目立つんですよね。あと寝る時も眼帯をして抑えておかないと、眩しくて寝られません」


シェリー「発光体の眼球ってなんなんだ!? ちょっとこっちに――――うわ、本当に光ってる。しかし金色でめっちゃ綺麗だな。魔力の流れが見えるってことだけど、他に何か見えるのか?」


暁「少し先の未来が見えますね。あと、眼帯越しに前が見えます。なので眼帯をしていても右目が見えている状態で生活できます」


アルマ「そうなのっ!? だから眼帯で見えないはずの右側にも普通に反応できてたんだ。知らなかった」


アナスタシア「そういうのって気配で察知してたんじゃないんですか!? 殺気とか気配とか」


暁「まぁよっぽどの殺気や気配なら目を瞑ってても感じるが、普段は目で物を見てるよ。みんなと同じようにな」


アナスタシア「そ、そうだったんですか…………てっきりサムライの持つ特殊能力か何かかと思ってました………………はぁ……………………」


暁「長い溜息だな。普通に感知魔法を敷いてればいいだろ。あたしはそういうのできんけど」


ヘラ「それより、少し先の未来が見えるって凄くない?」


暁「いえあんまり使えませんよ。1秒先くらいまでなんで、私生活ではまるで役に立ちません」


アルマ「以前にコップが床に落ちそうになったのをナイスキャッチしてましたよね。コップが落ちるのが予め分かっていたかのような動きでした。あれは魔眼のおかげなんですか?」


暁「いや、あれはただ単に落ちそうと思って見てたコップが落ちたから拾いに行っただけだ。そもそも未来視は見ようとしてないと見えないからな。常に発動させてはないよ」


シェリー「魔眼より凄くないか、それ…………」

結局、謎は謎のままでした。

でもミステリアスな現象に引き寄せられるのは人の性。分からな疑問も魅力の一つではないでしょうか。


次回は暁とライラとアナスタシアが珍しい鉱石について語ります。

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