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花吹雪のように、毎日を 1

今回はルーィヒがキキの胸にさげている金水晶のペンダントに食いつく話しです。

物より友情をとった彼女ですが、やっぱりルーィヒも女の子。素敵おしゃれアイテムは欲しいもの。

その前に立ちはだかるは強欲少女ユカ・ストーンフィールド。彼女はなんとかしてユカを説得することができるのでしょうか。




以下、主観【ルーィヒ・ヘルマン】

 約2か月という長くも短い時間の中で紡いだ友との絆が収束している。

 乾杯して、料理を食べて、思い出に花を咲かせ、最後に手を振ったらひと段落がついてしまう。

 それは始まった時から分かっていた。でもこんなにも、今日という日が終わって欲しくないと願ったことはない。

 もったいない。そんな想いがくすぶってしまう。

 だからこそ、最後までたいらげなければ悔いが残るというものです。

 なので今日も全力でぶつかっていこうと思うんだな。手始めに、キキちゃんがつけてるネックレスについて。


 幼くかわいらしい容姿も相まって、キキちゃんは何を着ても似合う。

 元気な立ち居振る舞いと百点満点の笑顔が最高にキュートな少女。

 今日はパーティーということもあって、思いっきりめかしこんでいるではありませんか。


 羽織られた白地のカーディガンは裾に青い刺繍の入ったシンプルなデザイン。

 髪色に合わせた薄い黄色のワンピース。

 それだけでもおしゃれかわいいのに彼女の胸元には、なんと、どんぐりの形をしたネックレスが輝いている。


 ただのどんぐりではない。帽子の部分は金色に輝く黄金。実は水晶の白と金のスモークで幻想的な景色を作り出している。

 そう、あれはまさしく金水晶。ハティさんが文字を教わるお礼にと、ボクとユカに手渡そうとしてケンカしてお流れになってしまった代物。

 きっとそれは塊の金水晶から切り出して加工したものだろう。純粋な塊はそれで素晴らしかったけど、厳かに輝くどんぐりの金水晶も超かわいい。

 欲しい。

 猛烈に欲しい。

 かなり高額なのだろう。とりあえず彼女たちの故郷で手に入るものなのかを聞くぐらいはタダでしょう。


「やぁキキちゃん。今日は一段とおしゃれさんだね」


 くるりと振り返ってワンピースをひるがえし、満面の笑みでおしゃれを自慢するキキちゃん。ぐぅかわっ!


「でしょでしょ。今日のお洋服は暁お姉ちゃんに選んでもらったの。色違いだけどヤヤとお揃いなんだよ。ルーィヒさんのお洋服も似合ってる。腰布がかっこいいです」

「あぁこれは、上着を腰に巻いてるだけだよ。夜は冷えるけど室内は快適だからね」

「なんと。機能的なおしゃれなんですね。かっこいいですっ」


 機能的なおしゃれのつもりはなかったんだが、彼女がそう信じているので肯定しておこう。あながち間違いでもないし。

 教育関係の仕事をしているボクは、子供たちを褒めて育てるタイプ。基本的に間違っていないことや彼らの興味のあることには全肯定。間違っていたならきちんと正したり諭したりもします。


 お洋服から入って、本題のネックレスに話題を移す。

 どんぐりの金水晶を褒められた彼女は嬉しそうに頬を赤らめて、『これは暁さんから誕生日プレゼントに贈ってもらったものなんだ』と自慢した。

 なるほど特注品なのか。どうりで手の込んだ作りなわけだ。

 となると市販はしていないのか。だが諦めるなかれ。アルマちゃんが胸にしているネックレスも金水晶に間違いない。

 それはどんぐりに加工される前、手ごろなサイズになるように本体から切り離されたものであると推察できる。

 ならば金水晶のネックレス自体は市販されている可能性が高い。


 さりげなく手に入るのかどうかという質問を投げかけると、分からないという回答。でも暁さんなら知ってるかもと彼女を召喚してくれた。

 ありがとうキキちゃん。今度何かおいしいものを食べさせてあげる。


 太陽のような輝く赤毛のポニーテール。握手して、挨拶を交わす。

 と、同時に、暁さんの召喚に巻き込まれるようにして現れた金髪碧眼のフィアナ嬢が割って入った。


「すみません。その話題なのですが、わたくしも聞かせていただいてよろしいでしょうか?」

「もちろんいいよ。で、金水晶のネックレスの在庫なんだけど、好評につき完売しちゃったんだ。だからもう在庫がない。ごめんな」

「そ、そうなんですか……残念です」


 そりゃこんだけ神秘的なら誰だって見逃さない。

 宝石商の娘曰く、奇跡の産物だそうだ。父親に教えても、作り物か合成石なんじゃないかと笑われたらしい。

 諦めるしかないか。

 諦めたくはない。

 気持ちがシンクロしたお嬢様が祈るように食い下がる。


「新たに入荷される予定はありますか?」

「今のところ目途はないんだ。あれが採掘されたのもたまたまだったしなぁ。金水晶が採掘できたのは4つだけだった。それに今は採掘を禁止してる。かなり特殊な鉱床なんだ。すまんな」

「その1つがハティさんの持ってるもの。他の3つは加工して販売されてしまったんだな?」

「いや、2つは丁度いいサイズだったからネックレスにしたんだけど、1つは大きすぎて宝飾品には向かなくってな。でも綺麗だし縁起もいいってことで、薔薇の塔のエントランスに飾ってある。今では御神体なんて言われて守り神的な存在になってるよ。最後の1つはハティに渡した。何かあった時の交渉の材料に使えって。ハティの金水晶を見たってことは、何か交渉事でもあったの?」

「いえ、交渉事ではなくてお礼の品として。ただ、渡す相手が2人に対して物が1つだったのでケンカしてしまって。ケンカの原因になるんだったらこの話しは無しってことになってしまいまして。でもやっぱり欲しいなって想いが心の隅にありまして」


 首のうしろをぽりぽりとかいてあの日のことを思い出す。

 喧嘩せずに真っ二つになった金水晶をもらっとけばよかった。いや、ペーシェならともかく、ユカとお揃いの金水晶は嫌だな。うん、受け取らなくてよかった。


「ちなみに大きすぎる金水晶は具体的にどれくらいの大きさなのでしょうか」


 さらに食い下がるお嬢様。それはボクも気になってた。


「たしか概ねの高さ、幅、奥行きとも50cmぐらいだったかな。放射状に六角柱が伸びてるから、1個の体積とか細かいサイズはわからん」

「「ご、50cm…………」」


 とんでもない大きさだ。シャコ貝くらいの大きさがあるってことか。

 脳裏によぎるのは水晶の台座になっている金の量。ハティさんが持っていた金水晶だって相当な量の金がくっついていたというのに、50cmほどの大きさとなるとどれだけ重いのか。

 比例して水晶も相当な大きさになるだろう。なるほど、御神体と呼ばれ崇められるにふさわしい。


 しかしそうか。やはり金水晶は手に入らないか。

 ハティさんに、物を受け取るよりも友達でいてくれるほうが嬉しいと言った手前、大きな声では言えないけれど、やっぱり欲しいものは欲しい。

 あまり光物に興味はなかった。でもあれだけは別。

 ネックレスでもなんでもいいから手に入れたい。できればキキちゃんが首にしているどんぐりの金水晶と同じデザインで。


 ため息をつく我々に、暁さんが疑問をぶつけてくる。


「お礼の品として渡そうとしたってことは、ハティ自身は手放して問題ないということだよな。もしもハティとユカって子さえよければ、現物を預かって加工したものを2人に渡すこともできるけど、どうする?」


 女神降臨。


 っと、まずは強欲少女ユカに連絡をとらねばならんのか。

 正直に言って面倒くさい。どうせまたごねるに違いない。

 うわあぁぁぁ面倒くせいぇいぇいぇつっても暁さんに言われてしまうと従わざるをえない。

 さっそくユカに連絡を取り、金水晶の名前を出すと、ボクの話しを聞くことなく全速力でキッチンに来るという。

 制止も聞かず電話を切ってしまった。


 できれば電話越しに許可が欲しかった。こっちにくると何かと面倒なことを言うに決まっている。

 しかもユカは正真正銘の部外者。それを招いた……わけではないが、結果的にそうなったとなればみんなに迷惑をかけかねない。本当に彼女は人を困らせる天才だ。

 反面、ハティさんは暁さんの提案を凄いと褒めて快く受け入れた。ユカにもハティさんのような純真な心を持って欲しいものです。

 彼女に純真で素直で社交的で謙虚な性格があれば、金水晶の問題が解決される。

 ユカもボクもハティさんも大団円でハッピーエンド。

 全てが丸く収まるというもの。

 丸く収まる気がしないけど。

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