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心の底、素直な気持ちを 1

フラワーフェスティバル最終日。無事に幕を下ろそうとしていた時間に爆弾を投下するヘラ市長。表彰台に立つことになったエマ、レレッチ、アルマの3人は市長に引率されて大舞台へ。

緊張して意識が飛んでしまいそうなエマ。

死なずにみんなの元へ戻ることができるのか。




以下、主観【ペーシェ・アダン】

 3日連続の晴天快晴。気温は春にしては高めの22度。風は微風が吹き抜ける。

 最終日にして初日の熱気に負けず劣らずの盛況ぶり。3日目だし、突如としてメニューの変更を断行したこともあって客足が少なくなることを覚悟していた。

 だけど良い意味で裏切られた結果が目の前に広がる。


 鋼鉄のカーテンを越えた先に驚くべき長蛇の列。お昼前にお腹を空かせた親子連れ。カップルの姿も見える。

 中には昨日も一昨日も見た顔が並んでいた。それだけキッチン・グレンツェッタを気に入ってくれたということはとても嬉しいことである。


 しかし……しかし少しはゆっくりできると思っていたのに、目論見が外れてちょっと残念。

 なぁ~んてことは口が裂けても外には出さない。もちろん、顔にも出したりはしない。

 つまらないことで水を差してしまうなんて愚の骨頂。あたしの評価が下がってしまう。


 水だけではない。今、我々は燃えている。もしかしたら売り上げ勝負で1位を取って、黄金琥珀の蜂蜜酒を樽で手に入れることができるかもしれないのだ。

 お酒好きのエマは今朝から頭の中がお酒でいっぱい。2日目までは通常運転だったのに、目に見えて1位を獲る気まんまんでいる。


 開店前から並ぶお客さんの数を数え始めた時からそう。ガッツのポーズで鼓舞する彼女のなんと欲望に忠実なことか。

 触発された面々もやる気まんまん気力十分。

 こんなバーニングしている中に油を注げば大爆発。取り扱い注意です。


「どうかしましたか、ペーシェさん。ため息をつかれていたようですが?」

「え、あ、いやその、今日で祭りも終わりかと思うと名残惜しくてさ。思い返せば色々あったなぁ~……って」


 ほんとはエマを見て、かわいいな〜って思ってついたため息です。本人に言うのは恥ずいので誤魔化しました。

 でもお祭りが終わるのがちょっぴり残念というのは本心です。

 そうとは知らないエマ・ラーラライト。お祭りを最後まで楽しまんと、ガッツのポーズで満面の笑みが溢れ出る。


「そうですね。本当に、本当に沢山の出会いがありました。でもそれはこれからも同じです。まずは今日のこの日を満喫しましょう!」


 おーっ、と天に拳を掲げて志を同じくする同志一同。

 なにも残念がることはない。最後まで全力で楽しめばいい。クールダウンをするのは祭りが終わってからでも遅くはない。そう思うとなんだかやる気が湧いてきたぞ。

 さぁ最終日、フラワーフェスティバル開幕だ!


 お客の流れは上々。アーケードに沿って続く人の波は沢山の笑顔で溢れている。

 最後尾の案内をするルーィヒと展示の案内をするあたし。

 交互に交代を繰り返してお互いの持ち場を行ったりきたり。

 だからというか、単純に目立つというか、目の端に止まったエマのそわそわした表情。

 まだ蜂蜜酒のことで頭がいっぱいなのだろうか。


 否。彼女の目線の先には今日から始めた新メニュー。自分が関わったものであるせいか、評価が気になって仕方ないらしい。

 まったくかわいいやつよのぉ~。そういうことならと、ホールマスターのヴィルヘルミナに合図を出す。


 察しのいい彼女はエマの顔を見てにやり顔。全てを感じ取った優秀な兵士が食事中のカップルのところへ駆け出した。


「いらっしゃいませ。本日はキッチン・グレンツェッタへお越しくださり、誠にありがとうございます。本日限定で提供しておりますメニューなのですが、お味はいかがですか?」


 これが聞こえたエマは心臓どっきんこさせて硬直した。

 カップルさんの評価やいかに?


「鯨肉っていうのは初めて食べたけど、どれもおいしいよ。ステーキなんかは特に好きだな」

「私はサラダがおいしいと思う。特にこの塩が素敵。キラキラしていて本当にダイヤモンドみたい」

「お気に召していただけたようでなによりです! どうぞフラワーフェスティバルを、最後までお楽しみください!」


 丁寧に一礼。そしてあざといまでの満面の笑顔で去っていくヴィルヘルミナ。

 いつもあんな感じで接客してるのか。

 普段の彼女とのギャップが激しすぎて別人にしか見えない。

 実は双子か二重人格なのではないだろうか。そんな噂まで流れる始末。


 ともあれ、ヴィルヘルミナのおかげでお客の生の声を頂けました。

 エマの肩をポンと叩いて笑顔を向ける。すると彼女も、安心したような柔らかな表情に戻ることができた。

 自信がついて不安の消えた彼女は強い。さっきよりも声に張りが出てきた。笑顔も自然なものになっている。

 内心、心配そうにエマを見ていたティレットとガレットも安心したようでなによりです。

 さぁ、このままラストまで突っ走るぜ!

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