誰かの為、そのために 2
以下、主観【小鳥遊すみれ】
お昼過ぎの休憩にはミーナさんと一緒にかき氷を食べに行きました。
道中は後夜祭で出す料理の相談もできて楽しかった。みんな大好きビーフシチューと二口で食べられるミニミニロールキャベツ。
煮込んだトマトベースのソースはお米とチーズを入れてチーズリゾット。
さらに炒めた挽肉も一緒に混ぜて旨味を足し算。これなら一度に大量に作れるので、ビュッフェ形式の後夜祭にもってこい。
想像しただけでお腹が空いちゃいました。家庭的で元気いっぱいのミーナさんとは一緒にいてとっても楽しいです。
最後はハティさんとエマさんのコラボレーション。
ハティさんが料理を作って、そこからぽぽぽーんと生まれるエマさんの発想力。
まるでハティさんが植えた種をエマさんが育てて花を咲かせたような流れ業。
ちっちゃなきっかけから大輪の花が開く。それってなんだか、とってもわくわくどきどきしちゃいます。
「あれはただ……あるもので何ができるかとか、必要に迫られたといいますか、ハティさんの閃きがあってこそです。彼女はそういうふうに思ってはいないのでしょうけど」
エマさんがたじたじである。
「でもきっかけを拾ってモノにできるって凄いじゃん。そこはヤヤちゃんみたいにドヤ顔したってバチは当たらないと思うけど?」
ウォルフさんはエマさんを褒めながら茶化す。
「ですです。ぜひぜひドヤ顔をしてみてください」
「え……ドヤ顔を……ど、どやぁ……?」
ウォルフさんの無茶ぶりにエマさんが応えるも、かなり恥ずかしそうに顔を赤らめている。
謙虚なエマさんが無理やりドヤ顔をしようとして、中途半端な表情を見せるものだから思わず笑ってしまいました。失礼と分かっていても、面白くって仕方がない。
電車を降りて帰り道。まだ真っ赤な顔をして俯くエマさんの手をガレットさんが握りしめた。
なんだか今日は手を繋いで帰りたい気分です。
だったら私もとティレットさん。続いてウォルフさんに私にハティさんも横一線。みんなで仲良く歩きます。
こうして両の手を握ってもらって家路に向かうと、不意に懐かしい風景が脳裏をよぎった。
そう、故郷の島でおじちゃんたちと一緒に家へ戻る時は、こうして手を握ってもらったっけ。小さい頃なんかは空を飛ぶようにぴょんぴょん跳ねたものだ。
そのためには両隣が私よりずっと背が高くないといけない。ハティさんは私よりずっと背が高いから大丈夫そう。ウォルフさんは……背は高いけどさすがに無理かも。
「どうした、すみれ。あたしの顔に何かついてるか?」
「ううん、そうじゃなくてですね。小さい頃には両手を持ってぴょーんってやってもらったなぁ~って、思い出していたところなんです」
「両手を持ってぴょーんか……あたしは両親の記憶がないから分からないな。ティレットとガレットはそういう経験あるの?」
「私はそういうのは記憶にありません」
「両手を……そういうことはあまりありませんでしたね。家柄かもしれませんが」
そうなのか。ぴょーんってしないのか。ちょっと残念だなぁ。ハティさんはどうだろう。
「ハティさんはどうですか?」
「ううん、私は小さい頃から1人だった。でも、あーちゃんと暁がいつも一緒だった。別れたあともクレアたちと一緒だった。クレアにはよくぴょーんってやったり、肩車をしたりしたよ」
「そ、そうなんですか。きっとものすごく高いんでしょうね」
――――――あれ?
ティレットさんはお父様がご存命だけど、母親はガレットさんを出産した際にお星様になったと聞いている。
ここだけの話し、実の妹のガレットさんは既に亡くなっていて、年齢が同じで容姿もそっくりなガレットさんを養子にした。ここにいるガレットさんも両親の記憶は無い。
ウォルフさんは記憶喪失で拾われ、ヘイズマン家のメイドとして雇われる。
エマさんも修道院育ちで親を知らない。
ハティさんは気づいたら、親友の暁さんと黝さんと一緒にいた。
私も実の両親の顔は知らない。
なんだか、よく考えてみると似たような境遇の人たちが集まっている。
キキちゃんもヤヤちゃんも、物心ついた頃には暁さんのところで生活していたという。アルマちゃんは幼い頃から桜ちゃんと一緒に暮らしていて今に至る。
ここまで似たような状況の人が集まるだなんて珍しい、のかな?
運命的な何かを感じます。
そう思うとこの出会いは必然で、嬉しくて、不謹慎かもしれないのだけど、天が与えたもうたご褒美のような気がしてきました。
運命的な出会い。なんだかとっても胸躍るワードです。
我が家に戻ると、元気いっぱいの笑顔でキキちゃんとヤヤちゃんがお出迎え。暁さん御一行もホームステイ。
晩御飯はおいしい食事に楽しい話題と幸福盛りがてんこ盛り。なんて素敵なことでしょう。
今日のお夕食は、なんと暁さんの手作り&チョイス料理。
寄せ鍋と、ダボラカルダで食べた中で気に入った物を買ってきて下さったとのこと。
大人数で色とりどりの料理に囲まれる。なんて素敵なことでしょう!
「寄せ鍋なんて切って煮て終わりですけど」
「余計なことを言うな!」
桜ちゃんが情緒に欠けたことを言うと、すかさずアルマちゃんのつっこみが入る。夫婦漫才のようだ。
アルマちゃんの言葉に暁さんが続く。
「おいしければなんでもよいのだっ! だよな、すみれ」
「ですです。おいしいのが一番です。何より『誰かの為に』というのが嬉しいです♪」
「そうですよね~。ガサツで無骨な桜は骨付き肉でもしゃぶっとけ」
「食べますとも。私だって手伝ったんだから。働かざる者、食うべからず。です」
「ぎくぅッ!? それって私のことを言っていますか……?」
働いてない人がいた。個人的には働かざる者食うべからず。だがゲスト。ここはぐっと我慢の子。
「リリスさんはいいんですよ。なにせお…………っぱいが大きいですから」
「…………え?」
「ごまかすにしてももっと言いようがあったろう。でも桜らしくてかわいいぞっ!」
なにかを誤魔化された!?
でも特に問題なさそうなのでスルーしましょう。
そんなことよりデザートです!
本日の甘味はなんでしょう?
「デザートにはアップルパイがあるよ。今回は雪林檎を使った特別なアップルパイ。きらきらあまあま。気に入ってくれたら嬉しいな」
「「「「「「「「「やったぁっ!」」」」」」」」
ハティさんのアップルパイはとっても甘くておいしいと評判を得ている。ケーキ屋さんのシルヴァさんだって太鼓判を打つほどの代物です。
しゃきしゃきしっとりのリンゴと、とろとろあまあまなリンゴの二重奏。
ほろにがパリパリのカラメルソース。
さっくさくのパイ生地に乗せて食べると、それはもう幸せの味が口いっぱいに広がって体がふわふわ~ってなっちゃいます。
おいしい時間が待っていると聞いただけで今日の疲れが吹っ飛んじゃいました。
手を合わせていただきます♪
お腹いっぱい幸せいっぱい。
夜のお星様を眺めながら入るお風呂も今日はひと味違います。
セチアさんが作っているというバスボムを投入。
緑色の湯舟。
緑茶の香り漂う湯気。
なんと緑茶風呂です。
夢のようです。
うっかり飲んでしまいそうです。
なんでも、香りの成分さえあれば意外と簡単に作れるらしい。ということは、グレンツェンに咲いているお花から香りをもらえば、花香るバスボムが作れる。
今年の七夕に暁さんに招待されてメリアローザに行く時、セチアさんに頼んで作り方を教えてもらおう。
私も作ってセチアさんみたいに人のために何かをしてみたいな。
アルマちゃんもキキちゃんもヤヤちゃんも、沢山の人の笑顔を作ってる。空中散歩はすごい評判だ。食事をしている人たちからも特に面白かったと声が聞こえる。
パンフレットを置いているせいか、それを手に取った人は空中散歩でキッチンの料理はおいしかったと言ってくれていた。
いやぁよかった。人の顔の見えないところで本音は出るものです。
おいしかったと言ってくれたのなら、頑張った甲斐がありました。少し気持ちが楽になりました。
緑茶のお風呂に身を委ねる三色髪の小鳥遊すみれ。
太陽のような真紅のポニテをタオルで巻いてる暁さん。
ふわふわロングの金髪ツインテを、暁さんと同じにタオルに巻いたアルマちゃん。
はふーっとため息を漏らしながら、心地よい水圧を全身で感じた。はぁ〜、やっぱりお風呂っていいですね〜♪
「お風呂さいこぉ〜♪」
「ですね〜♪ 最高といえば、キッチンの装飾も料理も最高に素晴らしいと思います。それに、すみれさんの笑顔を見ると、こっちまで笑顔になっちゃいます。本当に楽しそうにしていて、幸せが伝播するというのはああいうことを言うのですね~」
「あたしたちも今日もお昼はキッチンに行ったよ。いつ行っても元気いっぱいで楽しいな。みんなウチのフレナグランに来て欲しいくらいだ。あぁ~このまますみれをお持ち帰りしたいな~」
「それはとっても嬉しいです。私も暁さんの故郷に行ってみたいです。ヤヤちゃんの話しでは、料理上手な人が多いということなので、是非に学んでみたいです。そういえば暁さんってどんなお仕事をされているのですか?」
「そうだな~色々やってるな~。街の見回りとか~喧嘩をしている若いやつらの相手とか~時々は塔を登ったりとか~子供たちと一緒に遊んだりとかかな~。基本的に遊んでるかな~。あ、でもちゃんと仕事はしてるよ~」
なんかちょっと物騒な単語が聞こえたのは気のせいですかね?
聞き間違いですよね?
「暁さんの真の仕事は忙しくしないことです。暁さんが忙しくしてるとみんな緊張しちゃいますから。そうですね~、グレンツェンで言うとヘラさんのような立ち位置です~。見えないところでとっても努力してる人です~」
「おっ、嬉しいことを言ってくれるな~。そうだな~忙しくしてるとみんなびっくりしちゃうからな~。すみれは何かやりたいことは見つかったのか~?」
湯船に肩までつけて足を伸ばして全力リラックスの2人。
真似して私も全身全霊でリラックス。天窓から臨む星空を見つめ、私のやりたいことを考えてみる。
考えてみるが、
「私は~~~~~~~~あぁ~~あぁ~~あぁ~~まだ分からないです~。でもみんなの素敵な背中を見てると、なんだかとっても胸がぽかぽかしてくるんです。だからあんなふうになりたいなって思ってます~」
「そうかそうか~。じっくりゆっくり考えるといい。焦る必要はない。自分がこれだと思った物を見つけるのも、また人生だ」




