肩車 2
やっぱりというか当然というか、見慣れた景色とはまるで違う。
恐ろしいほどの人通りに、見慣れない看板がずらりと並ぶ。
そこらじゅうにカラフルな風船のアーチ。
活気ある出店の掛け声。
輝くばかりの楽しそうな笑顔。
これがお祭り。お屋敷でメイドをしていた時は、野外のお祭りに制限がかけられていて、お嬢様たちも窓から外を見るばかりだった。
だから彼女たちも、私もウォルフも待ち望んでいた世界。
毎日毎日楽しくてしょうがない。
日常は非日常で、お祭りなんて別世界の楽しみとすら感じる。
右に左にきょろきょろと見渡して浮足立つ。見知らぬ人の楽しさや嬉しさがそこかしこで弾けていた。
綺麗な火花が心に移って、私の気持ちも楽しくなってしまう。感情は伝染するという。なるほど、こういうことなのかもしれないな。
ハティさんもそうだ。物珍しいものに目移りした。
あっちへふらふらこっちへふらふらおぼつかない。
目当てのかき氷屋さんにたどり着くまでに日が暮れてしまいそう。
「えっと、ハティさんはこういうお祭りは初めてですか?」
「お祭りはいっぱい経験したことはある。けど、グレンツェンはなんていうんだろう……人だけじゃなくて、花や動物たちもみんな喜んでる。すっごくキラキラしていて綺麗だね!」
「本当ですね。花壇のお花たちも、いつもよりずっと華やいで見えます。さすがフラワーフェスティバルです。あっ、あそこがレレッチさんのかき氷屋さんの最後尾のようです。凄い……すさまじい人の数です…………」
前評判から期待されていた妖精のかき氷。
ふわっふわの果物の氷菓子となれば誰だって魅了される。ヤヤちゃんのはちみちゅダイヤモンドも相まって、キラキラ要素は抜群。
商品が素晴らしいことはもちろんのこと、クスタヴィさんが作ったという食品ディスプレイも見逃せない。
ペーシェさんの手掛けたフライヤーの完成度も恐ろしく高い。
クスタヴィさんの手掛けた食品ディスプレイはファンシーな仕上がり。妖精が持つ小さな壺から蜂蜜を流しかけている。透明感のある本体は暑い夏に涼しさをもたらしてくれること間違いなし。
ペーシェさんのフライヤーはセクシー&エレガントな大人のイメージ。
バーテンダー風な背景とかき氷、削り出す前の果物氷のバレットを並べて照明を調整。キラキラ感が増幅されている。
今月の月刊グレンツェンの表紙にもなったデザインは、感性の鋭いペーシェさんならではの作品。
展示物、広告、そして商品。どれをとっても一流の仕事で固められていた。
まさかこれをアマチュアがやってのけたとは思うまい。
これぞ学術都市グレンツェンの人々の成せる業と呼べるだろう。
様々な講義が行われ、好きに受講して学ぶことの多いグレンツェンでは多趣味多芸は珍しくない。
なにより『好き』を尊重するヘラさんの教育方針が光っている。私もここで生まれて育ったなら……いや、その考えは拾ってくれたヘイズマン家に失礼だ。
これ以上、考えるのはやめておこう。
しかしさてさて、かき氷を食べたいハティさんには悪いけど、あまりに行列が長すぎると休憩時間をオーバーしてしまう。
そんな細かいことなんて気にするな、ってスパルタコさんたちは笑って言うのだろうけど、私は気にするタイプなので気になります。
もしも待ち時間が長いようなら諦めるしかない。キラキラした笑顔でかき氷を見つめるハティさんには悪いけど…………。
まずはそう、どのくらいの時間を要するかを知りたい。
ちょうど最後尾には案内の看板を持った女性がいる。彼女に聞けば、どのくらいの時間で頂きにたどり着けるかが分かるだろう。
すみません――――と声をかけようとして言葉の後半が抜け落ちた。
なんだこの人……背中が全開なんですけど。
背中どころか横っ腹まで丸見え。
というか横乳まで放り出して……なんなんだこの人。
暑がりなのでしょうか?
貧乳に対して煽ってるんでしょうか?
「あらぁ、いらっしゃいませ♪ 最後尾はこちらです」
ガッ!
デカッ!
てか、まさかノーブラッ!?
振り向き揺れた乳房の勢いそのまま、衝撃波で吹き飛びそうな体が強張った。
「――――ええと……たいへんなおっ……ではなく、行列のようですが、待ち時間はどれくらいになりそうですか?」
「そうねぇ……少し並んでいるように見えるけど、滞りなく進めば5分から10分ってところかしら。回転率はいいほうだから、それほど待たなくても大丈夫だと思うわ」
「そうですか。ありがとうございます」
そのくらいならと、最後尾に並んで待つことに。
なによりもうハティさんが並んでいた。フードの中で休んでいたゆきぽんも、いつの間にか肩に乗っかってわくわくしている。
こんな2人に諦めようだなんて言えるわけがない。
それにしても――――世の中は不公平だッ!
いや、そんなことは物心ついた頃から誰もが知っている真理。
とは、いえ、しかしッ、なんだアレはッ!?
背丈がある分、大きい大きいと思っていたハティさんよりも圧倒的に大きい果実を2つぶら下げた彼女の暴力的なスタイル。
前髪で隠れてよく見えなかったけど、一瞬揺れた隙間から見えた表情から察するに超美人。
スタイルも顔もいいだなんて。世界は理不尽に満ちている。
あんなに母性的で顔もよかったら、男性から声をかけられまくりなんだろうな。
彼氏か……彼氏がいる生活ってどんな風景なのだろう。全く想像もつかない。
はぁ~~~~~~~~~~…………………………………………さて、切り替えていこう。
気温は24度。
日差しも良好。
少し早い夏空日和。
冷たいものが食べたくなるのは人の性。
ならば、かき氷屋さんに行列ができるのも頷ける。少し離れたジェラート屋さんは客入りがイマイチ……………いや、相対的に減っていると言えるのだろう。そうに違いない。
道行く人たちや列に並んでいる人たちの視線が看板娘に注視されているような気がしなくもない。
そんなわけはないだろう。そんなわけないと信じたい。
大きいだけが全てじゃない。私はそれを知っている。
はぁ~~~~~~~~~~…………………………………………よし、切り替えていこう。
もう半分だ。あと少しで頂きに達する。そうすれば下山できる。
魔の誘惑から解放されるのだ。
はぁ…………。気にしすぎと分かっていても、気にしてしまうのが人の性。
楽しいはずのお祭りなのに、どういうわけか心はブルー。
涙が零れないように空を見上げておこう。
天を仰いでため息がひとつ漏れました。
天を見上げて黄昏ていると、足元から小さな声が聞こえてくる。反射的に目線を下にやると、困った表情を浮かべた女の子がいた。
6歳くらいの女の子。ということはもしかして迷子かな。
フラワーフェスティバルに携わる人間は、警備としての役割も任されている。暴力沙汰の予防、対策、鎮圧から始まって、警察への通報や救護義務。
落とし物の届け出、もちろん迷子の案内も。それはキッチン・グレンツェッタを運営する我々もそう。
しかし、だからというわけではない。ただ困っている人がいて、手を差し伸べられるところに私がいる。
誰かを待つのもいいかもしれない。だれど、だったら私が動けばいい。
自然とそう思い、長蛇の腹から飛び出した。
「お嬢ちゃん、もしかしてママとパパとはぐれちゃったの?」
「うぅ……うん……。さっきまで隣にいたのに、振り返ったらいなくなってたの…………」
どうやら人混みに紛れて両親とはぐれてしまったらしい。さっきまで目の前にいたということだから、人だかりに紛れて見失ってしまったのだろう。
だとすれば、ご両親はまだ近くにいる可能性が高い。
両親。私には聞きなれない言葉だ。物心ついた頃には孤児として修道院に預けられた私には無縁の存在。
小さな頃には両親なるものが迎えに来てくれるかもしれないと期待したこともあった。
でも結局現れず、今も見知らぬ空の雲。
浮かんでは千切れて消えていく。
正直に言えば、羨ましいなと思った。
そしてすぐに暗雲を引き裂いて、早く見つけてあげたいな。早くこの子を笑顔にしてあげたい。楽しいお祭りを台無しになんてさせたくない。
そう思ったのです。
ともあれ声を上げようにも喧騒のただ中。
離れ離れになった子供に気づいていないのか、戸惑っている夫婦の姿もなし。
時間が経つにつれて彼女の不安は増すばかり。
どうすれば――――――はっ、そうだっ!
「ハティさん、この子を肩車してあげてもいいですか?」
「いいよ。でもどうして?」
「ハティさんは背が高いので、この子を肩車させれば上から人込みを見渡せるでしょうし、この子が高い位置にいれば目立つので、親御さんも見つけやすいと思うんです」
「うん、わかった。それじゃあゆきぽんは頭の上に移動してね」
頷いてしゃがむハティさんの頭の上に、ゆきぽんがぴょんと飛び跳ねるのを見て、少女がひとつ笑顔になった。
かわいいうさちゃんに癒されて、背中をなでなでして嬉しそうにしている。
そのまま少女はハティさんの肩に乗り、ゆきぽんは少女の肩に乗った。
ハティさんが立ち上がると、建物の2階に届いてしまいそうな巨大なトーテムポールの出来上がり。
ハティさんだけで凄い高いのに、女の子を肩車しただけで実身長よりもずっと高く見える錯覚。
でもおかげですぐに見つかるだろう。ゆきぽんが鼻を鳴らして後ろへ誘導。すると人の波を縫って向かってくる人影が2つ。
どうやらもう見つかったようだ。不安だった心の雲もすっかり晴れて、笑顔で手を振る少女はとても楽しそう。
心配していたご両親のことなんて気にすることなく、楽しい思い出を語っていた。
パパよりも肩車が高かったこと。
かわいいうさちゃんが肩に乗って頬ずりしてくれたこと。
優しいお姉ちゃんに出会えたこと…………って、それって私のこと?
とにもかくにも彼女が笑顔になってよかった。
満面の笑顔でありがとうをいただいて、元気よく手を振って『よいお祭りを』。
「お父さんとお母さんに再会できてよかったね。ありがとう、エマ」
「そ、そんな。こちらこそです。それにお礼を言われるようなことなんてありません。困っている人を助けるのは当然じゃありませんか。それより、また最後尾に並びなおしですね。もう時間もギリギリなので戻りますか? 楽しみにしていたのに、ごめんなさい」
「ううん、そんなことない。ありがとう」
残念だけど、我々の休憩時間はここまで。先ほどまで並んでいた場所なら、買って食べて戻ってで間に合っていただろう。
だけど、列を離れた瞬間に長い人のうねりができている。仕方がない、人生には諦めが肝心な時もある。
それに後夜祭でかき氷をご馳走してくれるとのこと。また機会はある。
が、気付くと踵を返して歩みだそうとする私の足を止める音が響いていた。
最初はひとつ、ふたつになって、いつしか会場の喧騒は大きな拍手の音色に変わっている。
何事か。何かイベントでもあったのかな。
パレードの時間はとっくに過ぎたはずだけど。
「やぁ、エマ。素晴らしい働きだった。見てたぞ今の。ハティも素敵だったよ。さすがは我が友たちよ。心から誇りに思う」
背後から聞き覚えのある声。清々しく、力強い声の主は、
「え、あっ、暁さん!? どうしてここに? それにこの拍手は……」
「みんな見てたぞ。女の子の心を救った英雄を称えずにはいられまい?」
なんと、この拍手は我々に向けられたものだった。
当たり前のことをしたつもりだったのに、それはどこにでもある小さなことで、だけどこんなにも人の心を感動させて、それを自分が起こした波だと言うのなら、なんていうか、すっごく恥ずかしいというか、こそばゆいというか、嬉しいけど緊張しちゃうっていうか。
こんな経験なんてかつてなくて、どうしていいか分からなくて、笑顔を浮かべて手を振ってみたけど、これでいいのかな。
あぁなんだか恥ずかしい。
けど、この胸の奥に灯る熱さは一生大事にしたいと思えるものだったのはたしかです。
でもやっぱり恥ずかしさが勝って、そのまましれっと去ろうとする私を呼び止める声に耳を傾けてしまうのはお人好しからでしょうか。
去りたいのに足を止めてしまう。
だけどこれは止めてよいものでした。
なんということでしょう、みなさん私に列の前を譲ってくれるというのです。
彼らはみなキッチンに訪れてくれたらしく、バッジを見てそうだと気付いてくれたそう。
時間が無い中で来てるんだし、いいものを見せてくれたんだからと笑顔で横入りさせてくれた。
さらにその前の人も前を譲ってくれて、その前の人も譲ってくれて――――結局、あっという間に先頭へ出てしまう。
なんてありがたいことだろう。ひとりひとりにお礼を言って、くるりくるりと踊り出た。
レレッチさんもその様子を見ていたようで、自分のことのように喜んでくれる。
ティレットは貴女のような親友であり家族を持って羨ましい、と。私にとってそれは最上級の褒め言葉。
ティレット様を持ち上げてもらえることほど、嬉しいことはない。
「エマは何味のかき氷にする? ハティさんはリンゴでよかったんですよね。ゆきぽんが2人が到着するより早く来て、リンゴ味のかき氷を模した食品サンプルをバシバシ叩いてるんだけど……」
「うん、リンゴが食べたい」
「私は…………私もリンゴにします」
なぜならゆきぽんが、私の目を凝視して食品サンプルをバシバシ叩きまくっているから。
すっごい勢いで要求してくる。めっちゃかわいい。これほど欲望に忠実でいられたなら、ある意味で人生は薔薇色なのかもしれません。くふぅっ!
かき氷の表面はふわふわの雪のよう。
散りばめられた黄金のはちみちゅダイヤモンドと淡い黄色。リンゴの味の雪原が太陽に照らされてキラキラと光り輝く。
見た目も味もマーベラス。乙女心をくすぐるとはまさにこのことです。
暁さんに手を引かれて相席を申し込まれた。どこも人でいっぱい。どうせ相席をするなら一緒に食べようと誘ってくれる。
願ってもないこととお礼を言って席に着くと、どうやら他にも相席をしている人がいるらしい。
この繁盛ぶりでは仕方がない。幸いなことに彼らも私たちと同じかき氷を食べている。これなら話題にことかかない。
「まぁ! エマさんもかき氷を召し上がっていらっしゃるのですね。リンゴがお好きなのですか?」
「いえ、リンゴも好きなのですが、ゆきぽんにせっつかれてしまいまして。でも彼女もご両親を探す手伝いをしてくださいましたから――――――あれ、私の名前…………ッ!?」
かき氷を4つも抱え、そのおいしさに舌鼓を打つ女性。気さくに声をかけてくれた声色には覚えがある。
艶やかな金色の髪。
透けるような白い肌。
瀟洒な白いワンピース。
高貴な生まれと分かる仕草。
この人、どこかで見たことがある。そう、お昼ごろに突然現れて、元気いっぱいにキッチンの中を駆け巡り、白鯨の工芸品やゆきぽんを模したフェルト人形に食いついた少女。
シャルロッテ・ベルン姫。
わぁ~お、びっくりぃ~。
そんな表情をしていたに違いない私の顔を覗き込んで、悪戯っぽい笑顔を見せる。
どうすればいい。こういう場合はどうすればいいのだ――――――っていうか、彼女がここにいるということは、この席で相席してる人って、やっぱり国王様と王妃様じゃないですか!
しかも暁さんってば、相手が王族でも全然気にした素振りも見せずに会話してる。凄いッ!
フランクに話しているようだけど、言葉遣いも丁寧で言い回しも清々しく厭らしさの欠片もない。
前にアルマさんが暁さんの鞄持ちをしながら身振りや会話の勉強をしたって言っていた。なるほどこれは勉強になる。
まとまった時間ができるなら、私も暁さんの鞄持ちをしてみたい。
「あの……もしよろしれけばお話ししませんか? 私、同年代の女の子とおしゃべりすることがあんまりなくて、ぜひ」
眩しいばかりの笑顔向けられて、背後を確認するも人影なし。ということは、
「えぇっ!? わ、私なんかでよろしいのですか?」
「えぇもちろん。ひとまずはこの、ちっちゃくて愛らしい子のことを聞いてもよろしいでしょうか?」
傍らに見えるは白くて丸く、リンゴを見つけると跳んで抱き着く無邪気な子。
女の子でなくてもこんなにかわいらしい動物を目にすれば、手に乗せたくなるのも頷ける。
姫様も例外ではなく、手のひらの上に乗せてもふもふ。スイッチが入ったようにゆきぽん必殺のコンボが炸裂。
腕を伝って肩に乗り、そのまま頬を頬ずり。これをくらって魅了られない人間はいないだろう。
腕を伝って時計回りにぐるりと一周。姫様から王妃様、王妃様から王様へ。暁さんを飛び越えて、桜さん、リリスさん、琴乃さん、ハティさんと続いて最後に私ももふもふしてもらいました。
ご褒美とありがとうの気持ちを込めて、かき氷をひとすくい。無心に食べる姿も愛らしい。
これは小動物ブームが来るかもしれません。
背中をなでなで。
顎をなでなで。
手のひらに乗せてもっふもふ。
随分と気に入ってしまったようです。できるなら連れて帰りたいと思うほど。
さすがにそれはまずいので、機会があればハティさんにアイザンロックに連れて行ってもらえないか聞いてみましょう。
答えは是。ゆきぽんが里帰りしたくなったら一緒に行こうと約束をとりつけた。
それっていつになるか分からないのでは……なんてことはとても言えない。
だってお姫様の目がキラキラとしていて、とても水を差せる雰囲気じゃないんだもの。
お姫様の、ハティさんに注がれていたキラキラ光線が私へ戻る。
リーダーになった経緯や、現地へ食材を取りに行った時のこと。
特に異国での話しは閉じこもり気味なお姫様にとって極上のスイーツに勝るもの。前のめりになって迫られる。
気づくとリリスさんも私の横に座って前のめり。おしゃべり好きな女子に挟まれてしまった。
語りたいことは多くある。キッチン・グレンツェッタが始まって、今日までずっとわくわくどきどきしっぱなし。
アイザンロックでのことも、ダイナグラフでのことも、グレンツェンでのことも、何もかもが楽しくて昨日のことのように思い出せる。
何もかもが楽しかった。だけど…………。
「おいおいリリス。話しを聞きたい気持ちは分かるが、エマとハティはそろそろ戻る時間だろう。すまないな、エマ。その話しはまた今度、あたしも聞きたいから、後夜祭で聞かせてもらっていいかな?」
空気の読めるできる女は気遣いもできる。
さすが、暁さん。たすかります。
「えぇ、それはもちろん。楽しみにしていてください」
「ありがとう。あたしたちも色々と持ち込むつもりだから、楽しみにしていてくれ」
後夜祭、と聞いて驚いたように目を見開くお姫様。
なにか気に障ることを言っただろうか。
「後夜祭ッ!? それってフラワーフェスティバルの後に開催されるのですか? 大花火の後にですか!?」
「いいえ、キッチン・グレンツェッタと空中散歩のメンバー。それからレレッチさんの妖精のかき氷。それらに関わって下さった方々を招いてのお疲れ様会でして、公式のものではないんです」
「お疲れ様会……ほほぅふぅ~ん…………ということはシェリー様も呼ばれていらっしゃるのですね」
「まだ来られるかは分かりません。アルマさんが確認しているはずです。シェリーさんは空中散歩のメンバーですから」
何故だろう。何か悪いことを考える笑顔をして、嬉しそうに微笑んでいる。
噂ではこのお姫様、たびたび城を抜け出して街へ繰り出しては遊び歩いているそうな。
そういうのは御伽噺やファンタジーの中の物語。おしとやかで極めて聡明。魔法適正も高いうえに勤勉清楚。努力の人。
そんな彼女だからこそ、あらぬ噂も立つのでしょう。
事実は噂通りだなんて思ってもみない私。
それどころか、変装したお姫様と既に会っただなんて想像の外。
このあと、後夜祭にて人生最大の声量を発することになるなど、知るよしもなかった。
見事、エマとハティは素晴らしい時間を過ごしたのでした。
それにしてもゆきぽんは可愛いくて便利な子です。
そこにいるだけで話題になってほんわかした空気を作ってくれるのでめちゃくちゃありがたい存在です。
次回はエマ主観で進む話しです。
大盛況のうちに2日目を終えたキッチン・グレンツェッタ。
盛況すぎてお祭り3日目に提供する食材が無くなってしまった。
創意工夫と気合で乗り切れるのか!




