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一期一会の白昼夢 2

 マジカルウェザーショーは大図書館から少し離れた実験棟。セントラルステーションからチャレンジャーズ・ベイへ南西に向かって歩くと現れる。

 ここでは科学的な実験や物理実験室も用意されており、定期的にイベントも開催される場所。大図書館の中に実験室が無い理由は火器の利用が多いことが挙げられる。また、講義も開催されるのだが、なぜかよく爆発するということで図書館の近くにこれを置くことはできなかった。

 なんでみんな爆発が好きなんでしょう。マーリンさんも火薬草が大好きで料理に応用できないか実験していた時期もあったらしい。

 爆発を用いた料理……想像もつかないな。


 受付と案内を兼ねた事務室の前にはパンフレットがずらり。フラワーフェスティバルで開催されている予定表にはしっかりとマジカルウェザーショーの文字が踊る。

 他には液体窒素を使った超電導と小型リニアモーターの実演。

 フライドアイス販売。

 レーザー彫刻で世界に1つだけのアクセサリー。

 粉塵爆発実演。

 などなど、面白そうな演目が並ぶ。それにしても最後の……粉塵爆発とな。やっぱり爆発させるのが好きなんでしょうか。アルマにはよく分かりません。

 会場は2階奥。フライドアイス屋さんの隣です。体は前を向いているけれど、フライドアイスと聞いて顔だけそっちに向いてしまう。よそ見をしながら浮足立つ。あとで買って食べよう。ついつい甘いものに目がいってしまうアルマです。


 部屋に入る前に入場料を払ってパンフレットを受け取るスタイル。配布物には展示されている気象情報が分かりやすく記載されていて、これだけでも一読の価値あり。これは永久保存ですな。

 フライドアイスを食べながら受付をしている少女はフィティ・ランメルス。ベルン寄宿生でアルマと同い年の15歳。明るい茶髪に快活さ漂うポニーテールが印象的な彼女はシェリーさんを見るなり飛び上がって一礼。揚げ粉を口元につけてキリッとした表情を示した。


「こんにちは、シェリーさん。そちらの2人は件の空中散歩のお友達ですか?」

「ああ、こっちの金髪ツインテールの子が君と同い年のアルマ・クローディアン。空中散歩の発起人だ。それから隣の彼女はベレッタ・シルヴィア。修道院育ちで私の義妹になるな。ベレッタはフラワーフェスティバルが終わったあとにユノの助手になるから、その時は色々と助けてやってくれると嬉しいよ」

「ユノ女史の……助手に…………ッ!?」


 凄い真っ青な顔をしてるんですけど……。

 悪い夢でも見たかのような表情を見せ、何かしらの決意をしたかのようにベレッタさんの顔を覗き込み『困ったことがあったらなんでも言ってね!』と力強い握手を交わす。不安が募るベレッタさん。それほどまでに危険な相手か、ユノさん……!


 挨拶もほどほどに、いざマジカルウェザーショーへ。

 四方は真っ黒なカーテンで覆われ、長机の上に立方体の箱が並ぶ。それぞれにゴーグルが2つ。箱の中にはマイクロサイズの360度カメラが設置されており、カメラの映像がゴーグルに映し出されるという。

 小さな立て看板には箱の中で発生している気象現象の名前と、発生地域から始まって、過去、人や自然環境にどんな影響を与えたのかを記載していた。実録が具体的に示されると現実離れした自然の驚異を現実的に捉えることができて、世界が立体的に見えるような錯覚を覚える。

 今日はそれにくわえてVRゴーグルで異常気象のただ中を体験できるのだ。実際に身におきる危険ではないけれど、なんだかそこに自分の身を置くような気がしてドキドキが止まらない。

 さてさてまずはどれにしようかな。端から端まで堪能しようかな。


 ゴーグルをかけて見える世界は講義室のそれではない。視界全てが別世界へと変わり、あたかも箱の中に入り込んだかのような視覚的錯覚。右を見ても左を見ても今までいた世界とは別の異世界。空は暗く、泡状の雲が渦巻く。悪天候の兆候を見せる珍しい雲。箱の中だというのにずっとずっと遠くまで雲が広がり続けていた。

 これこそ宮廷魔導士レナトゥスに所属する魔術師たちの技術と情熱の結晶。

 気象条件とは、主に一部の気圧や湿度、風向きや風の強さによって作り出される。この条件をコンパクトにしようとしても所詮は立方体の箱。どうやっても箱の中だけでは再現できない。

 ではどうすればよいか。

 箱の壁の面に、それより外側で発生している気象条件を与えてやればいい。この方法であれば、あたかも一部の地域のみを切り取ったかのようにして、あらゆる気象状況を再現せしめるのだ。


 ゆえに見えている映像は箱の壁のように平面ではなく、奥行きを持って実在感のある世界を構築することができている。

 なんと素晴らしいアイデアかっ!

 魔術師の技術と情熱もさることながら、VRゴーグルなる機械も素晴らしい。まさに陰陽和合。手を取り合う二つの世界。

 太陽にできる円環の虹は浮遊要塞アルカンレティアを想起させる。

 千の落雷は神々の怒りのよう。

 海の上の蜃気楼。

 地平線に落ちる緑色の四角い太陽。

 吹き荒れる火山雷。

 どれもこれもアルマの知らない未知の世界。

 世界にはまだまだ知らない謎や不思議に満ち溢れているっ!


     ♪     ♪     ♪


 フライドアイスをほおばって、最寄りの公園でひと休み。

 快晴の空を見上げながら素晴らしい体験を思い出してはアルマの頬が緩むのでした。

 怖い景色もいっぱいあったけど、綺麗で神秘的な世界もある。夜空に浮かぶオーロラ。キラキラなダイヤモンドダスト。雲が虹色に輝く彩雲。一度は実際にこの目で見てみたいなぁ。


「よっぽど気に入ったみたいだな。ずっと空を見上げて彩雲を探しているようだが」


 そういうシェリーさんも空を見上げる。


「ありふれた気象現象だって書いてあるので、今に浮かんでないかなぁ~、と」

「ありふれているかもしれないけれど、すぐにすぐは難しいかも。でもとってもよかったね、マジカルウェザーショー」


 ベレッタさんも空を見上げる。

 アイスクリームをもちゃっと食べて両袖を天に掲げた。空に浮かぶ雲を掴みたくて、まだ見ぬ世界を掴みたくて。


「いやぁ、来てよかったです。フィティともお友達になれましたし。もしかしたらベルン国際空港の展覧会に呼ばれるかもって言ってたんで、開催されることになったら是非みんなで行きましょう。アルマもベルンに行ってみたいです」


 待ってましたと言わんばかりの勢いでシェリーさんが食いつく。


「アルマならいつでも大歓迎だ。観光で来るなら秋のモンスターカーレースが見物だぞ。なんせ国王様が始めたお祭りな上に盛大にやってるもんだから、シューティングスターレースと並んで『世界二大レース』なんて呼ばれてるからな」


 モンスターカーレース。平均時速約200kmで走行する魔改造車を操り、あらゆる障害物を破壊してゴールを目指す狂気のレース。

 基本的に2人1組で乗り込み、1人は運転。1人は魔法や大砲、大泥棒の相棒よろしく蒟蒻以外ならなんでも切れる刀やなんかを使って障害物を蹴散らしたり走行の補助を行う。

 ちなみにここでの障害物とは、運営側の魔術師たちが用意したゴーレムやトラップはもちろん、敵レーサーも含まれる。殺人レースじゃんッ!


 え、ちょっ、あの優しそうなベルン国王がコレを好き好んで開催するの?

 マジですか。

 ギャップ萌えも起きないよ。

 どんな大会でも選手には参加の条件として『死亡同意書』を書かせるうえ、毎年過激なレース展開のせいで国によっては放送禁止にされているほど凄惨極まりないらしい。

 それでも熱狂的なファンや国技にしている国もあり、世界各地で行われる大きな興行である。

 移動系魔法以外はなんでもござれのアリアリのアリ。最も盛り上がるのは最終直線ともう一つ、世界広しと言えどモンスターカーレース専用のコースにおいてベルン・グレンツェン間にしか存在しない180度の折り返し地点【地獄の門(タルタロス)】。

 ターンに失敗した車もろとも地獄行き直通の玄関口。

 ここで何人もの人たちが涙を飲んだとか悪態をついたとか。

 そもそも時速200km以上で走行してるのにどうやってターンをするの?

 ちょっとアルマには理解不能なんですけど。


 愕然とするアルマに、シェリーさんは淡々と現実を教えてくれた。


「だいたいあそこで参加者の95%がリタイアすると言われている」

「ほぼ死んじゃってるじゃないですか……」

「そこは大丈夫だ。一応、コース全域に命大事に(セーフティ)の魔方陣がかけられてるから、死ぬ直前で離脱させられる」

「魔法の名前がなんか嫌ですね……」


 人を馬鹿にしてるとしか思えねえ。

 唖然とするアルマの意識を変えようと、ベレッタさんがレースと共に催される興行に焦点を当てる。


「レースは見ていて心臓に悪いけど、来場者のための興行として世界中からサーカス団がやってきたり、いろんなところから出店が出るから楽しいよ。私はどっちかと言うとそっちが楽しみかな。修道院の子供たちも見世物を目当てによく遊びに出かけてる」

「な、なるほど……家族でモンスターカーレースを目当てに旅行に来ていても、興味もなく連れ回される人もいそうですもんね……」


 さすが世界規模の興行。レースだけであるはずがなかった。

 シェリーさんは思い出したように同僚の顔を脳裏に浮かべる。


「たしか今年こそ優勝するってマルタが意気込んでいたな。去年と一昨年は準備こそしていたが、相方を予定していたライラさんが産休で休んで出られなかったから。代わりを探したが見つからなかったらしい。私も誘われたが断った」

「それは……そうでしょうね……」


 マルタさんってユノさんを連れてベルンから前祝に参加したお姉さんだったっけ。

 エマさんの話しでは駐車場へ駐車する際、ぐるぐるスピンで滑り込んだって言ってたな。

 半信半疑だったけど本当にやったんだろう。人は見かけによらないものだ。見た目だけなら世話好きで動物好きゆるふわお姉さんなのに。なんというギャップ。しかし萌えない。

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