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The Daybreak 2

以下、主観【アルマ・クローディアン】

 ふんふふふんふんふ~ん♪

 今朝は早くから空中散歩の準備です。どのくらい早いかと言うと、日が昇るより早く、朝顔に朝露が溜まるよりも早く、暁さんが布団から抜け出して背伸びをするよりも早いのです。


 裏庭庭園までは外灯もあって歩くに困ることはなかった。

 そこから先、演習場は日中しか使われないこともあり、灯りの類は設置されていない。

 恐るべき真っ暗闇。一寸どころか手元も見えない。雲も厚いのか星明かりもなくて心細い。


 そんな時こそベレッタさんのきらきら魔法。どうせなら面白い使い方をしたいとヤヤちゃんが言う。

 マーガレットと一緒に全身きらきら。人間発光体と化して突き進む。

 事情を知らない人が見たら、光の国からやってきた少女と勘違いしてしまうかもしれません。


 真っ暗闇の中に光がふたつ。資材の準備をするには十分な灯り。お散歩の準備を手早く済ませ、入り口にギミックを仕込みます。

 本日開催のスペシャルイベント【The Daybreak】。

 日の出とともに空中散歩でお空に舞い上がろうという企画です。


 一般向けに開放しようかとの話しもあったが、それだと人が集まりすぎて大変なことになる。

 肝心の日の出の時間はあっという間。その瞬間の煌めきにこそ意味がある。

 限られた時間を楽しむためには人数を絞らなければならない。そういう理由で、一般公開は無しとあいなりました。

 その代わり、空中散歩のメンバーが選んだ少人数だけに声を掛け、彼らに楽しんでもらおうと考えたわけです。


 イッシュはお父さん。

 ネーディアはお母さん。

 ライラックとマーガレットもお母さん。

 アルマは暁さんを含めた4人。

 キキちゃんとヤヤちゃんはすみれさんとハティさん。

 ベレッタさんはシスターを呼んだのだけれど、修道院の催し物の準備もあるため欠席。代わりにお世話になっているヘラさんと、ヘラさんのお友達を招待しました。


 シェリーさんはお仕事ということで断念。

 マーリンさんも仕事で欠席。

 一番楽しみにしてそうだったのに、残念です。


「いやぁ、にしても飛び入り参加させてもらっちゃってありがとうな」


 満面の笑みを向けてくれる暁さん。

 もったいないお言葉です。世界のため、なにより暁さんに喜んでもらうため、それ以上に、暁さんに褒めてもらうため、アルマは頑張ってるのですから。


「いえいえ、暁さんには是非、アルマたちが今日のためにどれだけ頑張ってきたか見ていただきたく思います。それに暁さんも桜もアルマの大切な人なんですから。もちろん、リリスさんも琴乃さんもですっ!」

「面と向かって言われると恥ずかしいものですね。私もアルマのことは大事に思っていますよ。個人的にはもう少し胸があると良いのですが」

「おだまりっ!」


 このやろう。

 まるで口の減らんやつよのぉ。

 余計なことを言わなきゃいいのに。

 桜は黙ってれば美少女なのに。もったいないやつ。


「えぇと……あのあのっ、入り口に設置したレンガ造りの壁はなんでしょうか。まだ来られていない方もいらっしゃるのでしたら邪魔になるのでは?」


 よくぞ聞いてくださいました!

 琴乃さんの疑問はもっともだ。一応、ゲストのみの参加なので、立ち入り禁止の意思表示をしておかないといけない。

 そういうわけで、レンガの壁を設置しました。


 そしてもうひとつ、この壁には重要な役割があります。それはずばり、空気感!

 非日常の入り口にはそれ相応の演出というものが必要だと思うわけです。

 身近なところで言うと、ナマスカールの出入り口なんてその典型。

 ナマスカールはカリー屋さん。ナマスカールの飲食店では、内と外を区別するために日除け布が用いられていた。

 店長さんはお店はこういうもんだと思って取り扱っているだけかもしれないが、そのような文化のない人々にとって、珍しい入り口は不思議の国への旅の前触れ。

 背をかがめ、布を払って足を踏み入れた先は見慣れない景色。

 あの一瞬に『何があるのだろう』と思わせるわくわく感があると思うのです。


 それらの空気感をリスペクトしたのが妖精の門(フェアリーゲート)

 一見するとただの門。しかし、きらきら魔法で描き出した光の妖精が壁に空けられた鍵穴を覗き込んでいる、という像を設置。

 それを見た人は、この先に何かがあるに違いない。きっと未知のわくわくやどきどきが待ち受けているはずだと胸躍らせるはず。


 アルマの思惑通り、壁の向こうからテンションマックスでアゲア元気な声が貫通しているではありませんか。

 さぁさぁフェアリーゲートのギミックを見たらどんな驚愕の声を漏らすのでしょう。


 妖精に向かって合言葉を捧げると、妖精は光の粒になって鍵穴へ向かい、壁はアーチを成す門へと変形するのです。

 そこから見える景色はそう、ヤヤちゃんたちが作り出してくれた光のお絵描きで彩られた世界。

 今も暇潰し――――もとい、訪れる人へのおもてなしのためにみんなで楽しくお絵描き中。


 空中散歩の結界をぐるっと囲うように闇のキャンパスに光が浮かぶ。

 特に凄いのはライラックのお母さん。お花屋さんとだけあって、色とりどりの光の花束を描き出した。

 あたかも極上のガーデンテラスに迷い込んだかのようです。これは写メに収めて永久保存ですな。


 変形するギミックを付与したクリスタルパレスのアーチ。出入口となってヘラさんとお友達が登場。

 挨拶するよりも早く駆け抜けた金色の風は、踊るように繰り出して光のお絵描きの虜になる。

 彼女の後ろを追いかける仕事姿のシェリーさん。ヘラさんの後ろには、天真爛漫な妖精のような少女を温かな目で見守る夫婦の影が並んでいた。


 高貴な出で立ちさながら、奥には護衛と思われる重装甲の鎧を着た人々。グレンツェンでは見ることのない王様が如き出立ちの人。


 ――――――というか、ヘラさんの友人と言って紹介してくれた男性は雑誌で見たベルンの王様そっくり。

 そっくりっていうか……そのまんまなんですけど。


「あら、そういえば伝えてなかったわね。実は私とラファエル王は友人関係なの」

「わぁ~お、びっくりぃ~。それは初耳でした」


 さすが世界のグレンツェンの市長様。

 交友関係が広くてござる。


「いやぁ驚かせてしまったようで申し訳ない。改めましてラファエル・ベルンです。どうぞお見知りおきを」


 生で見るとよりいっそう映えるイケオジ感。

 ナイスミドルは眼福ですな。


「アルマ・クローディアンです。本日はわざわざのご足労、ありがとうございます。どうぞ楽しんでいって下さい!」


 平静を装いながらも、内心穏やかではないアルマ。

 ヘラさんの友人が国王様だということはまさに僥倖。問題は国王様が空中散歩を気に入ってくれるかどうかということである。

 噂では、こういったアクティビティ系の催し物が大好きとのこと。

 好印象を抱いて重用してもらえるとアルマとしては嬉しい限り。

 でももしも気に入らなかったら…………考えても仕方がない。今できる全力を出すだけです!


 陽が昇までのしばしの時間、お姫様に手を引かれた両親は光のお絵描きに夢中になっている。

 随分と情報通なお姫様なようで、これを発案したのがヤヤちゃんだということを知っていた。

 ヤヤちゃんを捕まえて楽しそうに遊んでいるシャルロッテ姫。

 ヤヤちゃんを盗られて悔しそうにしているリリス姫。

 はっきりとした根拠は無いのだけれど、この2人、気が合いそう。


 あ、そうか、行動力の化身なんだ。

 リリス姫は窓から風に乗って市井に降り立っては、堂々と遊びに出かける性格。

 シャルロッテ姫は変装や替え玉まで使って王城を抜け出し、隣町にまで出かける始末。

 遊びたい盛りのお転婆娘。ドッペルゲンガーを見ているようだ。悪い人たちじゃないんだけどなぁ。周りの人たちは大変そうです。


 さてさてそろそろお時間です。

 日の出まで残り10分を切りました。それではお集まりの皆々様に挨拶といきましょう。


 おはようございますの挨拶から始まって、アルマの夢を語る。

 魔法で誰かを幸せにしたい。

 今日の空中散歩はその足掛かり。

 その完成のために色々とあった。

 仲間や支えてくれる人々のおかげでたどり着けた。

 1人では決して成し得なかった偉業。

 空中散歩のメンバーだけじゃない。ステラ・フェッロの職人さん。留学を推挙してくれた暁さん。スタートを切るきっかけをくれたマーリンさん。優しく見守ってくれるヘラさん。空中散歩を楽しんでくれる全ての人たち。

 全部がなければ今日のこの日はなかった。


 全てのものに感謝と祝福を。

 喝采と、感謝の言葉を浴びて、胸の奥から熱が込み上げてくる。

 もう一度、満面の笑みでありがとうを放ちました。


 さて、簡単に挨拶を済ませ、まずはヘラさんに搭乗していただきましょう!


「最初は暁ちゃんじゃなくて私でいいの?」

「はい、やっぱりグレンツェン市長が最初に日の出を拝むべきだと思います。暁さんは2番目です」

「もちろん。やっぱり長が最初じゃないと。あたしは桜と2番目を行かせていただきます。次は空中散歩のメンバーなんだっけ?」

「それなんだけど、国王様方を優先してください。我々はあとからで結構ですので。それにもうお姫様が…………」


 お姫様が鼻息荒くして突進しそうな形相で構えている。とまではさすがに言葉には出せなかった。

 事実だが、言葉に放つと失礼にあたる。

 アルマとしては言われて嫌ならやるなよ、と思うけど、そう思わない人もいた。

 お姫様がそうであるかどうかは不明。それでも触らぬ神に祟りなし。

 先頭が譲るのでしたら、こちらとしても問題ありません。


 ヘラさんをふわり空へ舞い上げる。

 続いて暁さん&桜。暁さんは体外に魔力を放出し辛い体質なので、桜に引率してもらいます。

 3人目は両親を押しのけてお姫様。シェリーさんを引っ張り出して空中散歩。シェリーさんは護衛の仕事中です、と断るも、そこは賢いお姫様。護衛の一環だと断言して手を取らせる。

 さらに畳みかけるように、あながち空中散歩とは無縁でもないでしょう、とトドメを刺した。

 ここまで言われてはと、内心嬉しそうに白け始めた空を目指す。


 さぁさぁタイムアタックの始まりです。

 次々に生まれる虹色の球が空へ浮かんでふわりふわり。風を受けて揺れている。

 体が浮いた瞬間は驚いた顔を見せ、慣れてくると笑顔が咲いた。

 彼らが空を見上げ、笑顔を見せる刹那、アルマの心に喜びが降り積もって幸せな気持ちになる。

 グレンツェンに来てよかった。

 素敵な仲間に、尊敬できる人に出会えて、アルマはなんて幸せ者なんだろう。

 本当に、本当に全てのものに感謝を!


「最後はハティさん、すみれさん、ベレッタさんですね。ではではさっそくどうぞ!」


 どうぞと促すと、3人はお互いの顔をみやってうなずいた。

 アルマにではない。3人の内でなにか考えがあるようだ。

 ハティさんが笑顔でアルマに語りかける。


「それなんだけど、アルマとベレッタが先に一緒に乗ってほしい。私とすみれは後で行く。すみれが振り輪をふわってしてみたいんだって」

「え、でもでも、最後の人は地上に残らなきゃですし……」

「大丈夫。私なら魔力で振り輪を振れる。それにすみれはまだ魔力の調整が不得手だから、私が一緒にいてあげなくっちゃ。それにベレッタとアルマは大の仲良しでしょ?」

「はわわ……そういうことでしたら、是非にお言葉に甘えさせていただきます。ベレッタさんもそれでよろしいでしょうか?」

「うん、もちろん!」


 嬉しい!

 大好きな、尊敬する人と一緒に空中散歩。

 かけがえのない思い出が増えました!


「やったやった! ありがとうアルマちゃん、ベレッタさん。それじゃあいくよっ!」


 すみれさんも願いが叶ったと大喜び。

 楽しそうな彼女を見て、アルマも笑顔になっちゃいます。


 それでわでわ、ベレッタさんと身を寄せ合って勢いよく空へふわり。

 地面が遠く、空が近く、ゆっくりゆっくり舞い上がる。

 いつ堪能してもたまりませんなぁ、この浮遊感。

 このまま世界を1周しちゃいたい。

 お日様と一緒に手を繋いで、世界を渡り歩くことだってできそうだ。


 ふと耳元でベレッタさんの声が触れる。

 素敵。そのひと言だけを呟いた。

 恍惚なため息をついて、始まりを照らす景色に酔いしれる彼女は恋をした乙女のよう。

 それもそのはず、春を彩る緑の絨毯の先、煌々と照らされて輝く海。

 地平線の先にはこの世界で最も眩しい君。

 夜の終わりと朝の始まりを告げる者。

 なんて、なんて美しいのだろう。

 この世にこれほど心奪われる笑顔があるだろうか。


 はしゃぎまくっていた姫様方も、元気いっぱいに走り回っていたキキちゃんもヤヤちゃんも、誰も彼もが息をひそめて彼の光臨を見つめた。

 いつもそこにいてくれて見守っている。

 生きとし生ける者に豊穣をもたらしては生命に感謝を、喜びを感じさせてくれる大いなる存在。

 朝と夜のコントラスト。

 今日のこの瞬間はきっとずっと心に残ることだろう。

 そしていつまでもアルマたちの心を照らしてくれるに違いない。


 息づく全ての命に、祝福あれっ!

アルマの夢が現実のものとなり、本人もまた、夢の実現をかみしめることができました。

彼女はこれからも、たゆまぬ努力で多くの人々に感動と笑顔を届けることでしょう。


次回は、フラワーフェスティバル二日目。アルマが気になって気になって仕方なかったマジカルウェザーショーに訪れます。暁たちとも合流してお祭りを満喫する回です。

立て続けに素敵な出会いが待っています。不思議な出会いにも遭遇します。いったいどんな一日になるのでしょう。

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