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自分にできること 1

寒い時期は鍋ですよ。食材を切って、出汁を入れて、煮込んで、食う。終わり!

超簡単ですね。野菜を入れていれば勝手に水分が出るので、火入れをしたまま放置しない限り焦げたりもしないんで後片付けも楽々です。簡単調理で美味しい。実に効率的な料理だと思います。

すき焼き、キムチ鍋、水炊き。最高ですね。〆はうどんです。




以下、主観【小鳥遊すみれ】

 コカトリス討伐の翌日。改めて今後の方針の再考と、白鯨狩猟についての打ち合わせを行うため、エマさんと合流ののち、路面電車でセントラルステーションへGO。

 アルマちゃんたちは開館と同時に図書館へ入ると意気込んで朝早くに出て行ってしまった。

 ハティさんは白鯨狩猟の打ち合わせのために現地の人を連れてくるということで早朝より外出。

 そういうわけでシェアハウスの鍵を閉める。のだけれど、実は家に鍵をかけるなんて初めてのこと。渡されたちっちゃいギザギザの小物を扉にある鍵穴に差して回すだけ。

 ガチャリと音を立てて鍵が閉まる。扉を引いても開かない。

 もう1度回す。ちゃんと開いた。

 もう1度回す。びくともしない。

 おぉ~~!

 ちゃんとできたっ!


「おはようございます、すみれさん。鍵が閉まらないのですか?」


 振り返ると、エマさんが不思議なものを見る目で見つめていた。

 そうだよね。みんな普通にできるから、できない人を見ると首をかしげちゃうよね。

 島には私とおばちゃんたちしかいなかった。だから家にも小屋にも鍵をかけるなんてことはしなかった。

 これもグレンツェンに来てから初めての体験です。


「ううん。ちゃんと閉められた。初めてだったから緊張しちゃって」

「え、家の鍵をかけるのが初めて? そ、そうなんですか。それじゃあ行きましょう」


 舗装された石畳を進み、スーパーの前を走る路面電車の到着を待つ。

 路面電車には誤って線路に入ってしまわないように柵が設けられている。柵には記念公園と同じように格子状のアーチに蔓が伸び、葉っぱの緑と黄色、赤の花々が咲き乱れていた。朝日に輝くお花のトンネルである。

 電車に乗って内側から見る景色はどこか郷愁を誘うものがあってとっても綺麗。

 草花の隙間からこぼれる日の光が通り過ぎると、先頭から後尾まで、ついつい追いかけてしまいそうになった。


 終点地点のスーパー前。エンドステーションを旅立ち、多くの職人が工房を構えるクラフトステーション。

 昔ながらの商業施設が立ち並ぶショッピングストリートステーション。

 そして街の中心地、セントラルステーションへ。


 クラフトステーションとショッピングストリートステーションはエンドステーションと同じく簡易的な作り。ベンチと雨避けのアーチがあるだけ。

 対照的にセントラルステーションは別世界のような景色が広がった。

 煉瓦造りのトンネルを抜けると、屋根付きの駅には何台もの路面電車が待機してる。電車を降りれば売店もある。個性的な飲食店も立ち並んだ。


 特に好きなのが昔ながらのガス灯の明かり。ふんわりと明るくなって、オレンジ色の光は心がぽかぽかしてくるよう。

 昼は天窓が駅を照らし、夜は星空とガス灯が光と影の芸術を作り出す。


 空を見上げ、ちぎれた雲を追いかけると先日の記憶が蘇った。

 天を穿つ咆哮を放った恐竜王。

 ダイナグラフ王国にて、コカトリス討伐のために囮役となったウォルフさんとルージィさん。あの後は大丈夫だったのだろうか。大事なければいいのだけれど。


「ウォルフさんとルージィさんは大丈夫ですか? コカトリスに追いかけられて筋肉痛になったって言ってたけど」

「はい。今、動けない2人をティレットお嬢様とガレットお嬢様が看病しています。なので今日は私1人です。2人とも体力に自信はあるということでしたが、あんな化け物に追い回されたらたまりませんよ」

「あぁ、うん……。本当にお疲れさまでした」


 必死の形相で追いかけられている2人の顔を思い出すだけで冷や汗が出てしまう。

 それほどに壮絶で、可哀相な状況だった。

 だから普段はハティさんが1人でやっつけてるなんてことは口が裂けても言えない。

 絶対に……っ!


 集合場所のキッチンに着くと、すでに何人かのメンバーが揃ってる。

 ルーィヒさん。クイヴァライネン3兄妹。アーディさんにベレッタさん。スパルタコさん。ローザさん。アダムさん。ミーナさん。

 ハティさんと、隣には知らない女性。紫がかった長い髪。あったかそうなクリーム色のジャケット。腕を組んで仁王立ち。

 第一印象としてはちょっぴり怖そう。だけど、豪放磊落な姉御肌って感じがした。


 私とエマさんの着席を合図に、まとめ役のアーディさんが立ち上がる。


「それじゃあ、メンツが揃ったんでそろそろ話しを始めようか。まず初めに残念なお知らせだ。まとめ役に抜擢されたユノさんなんだが、急遽仕事が入って顔を出し辛くなった。なんでも、グレンツェンやベルン王国周辺の魔獣の出没に異変が起こったんで、その原因究明に駆り出されたそうだ」


 魔獣。悪い魔力の影響を受けて動物が狂暴化してしまうという怖い存在。

 古来より人に害をなし、恐怖の象徴として君臨してきた彼らの異変とはいかに。

 悪い想像をして、周囲がざわめくのも仕方がない。

 ルーィヒさんがゆっくりと立ち上がり、不安を口にした。


「ちょ、それってもしかして魔獣が大量発生したってことですか? この辺は龍脈が安定していて、年々右肩下がりに出現数が下がってるってニュースでやってますけど。もしもの場合はフラワーフェスティバルが中止とか!?」


 それは困る。

 絶対に嫌だ!


 腕を組んで首をかしげるアーディさん。どうやら困った事態にくわえ、不思議な現象が起きてるようだ。


「いや逆だ。突然に激減したらしい。魔獣そのものが発生しなくなったのか、はたまた何かの前触れなのか。とにかく龍脈史に精通しているユノさんが呼ばれたってことだ。それともう1つ」

「まだなんかあるんすか?」


 魔獣の出現数が激減?

 とにかく安全なようでよかったです。


「本当に申し訳ないんだが、俺のラボの奴が余計なことをしたせいで、展示予定のゴーレムの改修をしなくてはいけなくなった。だから俺もここから先、積極的に参加することが難しくなる」

「マジすか。それじゃあリーダーは誰がするんだな。ユノさんやアーディさんの代わりなんて誰が」

「じゃあ俺やる。俺!」


 スパルタコさんが手を挙げて、一同沈黙。沈黙に殺されたスパルタコさんは静かに手を下げた。

 呼吸を整えて、改めてアーディさんが指名したのは、


「…………俺としてはエマ、お前が適任だと思う」


 名指しされて一瞬、何が起こったのか分からないと首を傾げ、自分の名前が呼ばれたことを認識すると、目を見開いて飛び上がった。

 何で私が。年長順なら次はハティさんがやるべきでは。そんな顔をする。


 アーディさんは驚いたエマさんをなだめ、落ち着くように言って理由を聞かせた。


「理由としては視野が広いことと、メイド時代の経験が役立ってると思ったからだ。俺やユノさんが引っ張っていくような会議の場では積極的に発信こそしないが、チャットの中ではしっかり自分の意見を言ってくれるし、ゴールを見据えて計画的に現実的な発案をしてくれただろう。角が立つ言い方もしない。誰とでも気さくに話してる所を俺もユノさんも認めてる。気配りもできる。みんなのことをよく見てる。もしも俺がお前のことを知ってたら、まっ先にリーダーに推薦してたよ」

「そ、そんな。私だってグレンツェンに来て間もないですし、正直言ってあんまり自信は……」

「大丈夫だ。お前ならできるさ。反対のやつはいるか?」


 周囲からはエマなら安心だと合唱が始まる。私もそのうちの1人です。


「いや、エマならいいと思うっす。しっかりしてるし行動力あるし」


 スパルタコさんも賛成。


「ミーナもエマに1票! だーいじょうぶ。ミーナたちも一緒なんだから!」

「うん。エマはみんなと仲良しだし賢いから、私からもお願いします」


 ミーナさんもシルヴァさんも賛成に1票。


 企画が立ち上がってから短い間に、エマさんはスマホの中で色々と提案をした。

 プライベートでも一緒にご飯に行ったり、買い物に出かけたりしてる。

 私が料理を振舞った時も積極的に隣で学ぼうとした。それはティレットさんから召使いという立場を忘れて、自分の好きなことをして欲しいとお願いされてることにも起因してる。


 キッチン・グレンツェッタの一員ということもあるけれど、元々社交的なエマさんは誰かと過ごすのが大好き。せっかく友達になったのなら、もっと関わっていきたいという行動がもたらした結果だった。

 ミーナさんとはご飯を一緒にしたり、押し花が趣味のガレットさんと、刺繍が好きなハイジさんを繋いだり。おいしい料理を出す店を知りたいと言って、クイヴァライネン兄妹と食べ物屋さん巡りをしたりと、積極的に活動していたのだ。


 とはいえ突然の任命のまま放り出すのはあまりに酷ということで、アーディさんがあらかじめ作成しておいた工程表を参考に全体を進行してくれということで壇上を譲り、足早に食堂を出て行ってしまった。


 ということでエマさんは少々の緊張を残しながら、さすができる女と言うべきか、円滑に話しを進める。

 寄り道をしようとするスパルタコさんをいなして話しを軌道に戻す。

 散乱した意見を取捨選択し、ひとつの方向性にまとめ上げる。


 鮮やかな手腕で小難しい議題を解決。ふにゃふにゃだった骨子がようやく形になった。

 メインの出し物は鉄板焼き。

 鯨肉が手に入ってから料理の種類をもう1つくらい増やせないか検討する運び。

 テイクアウトのサンドイッチはほぼ確定。

 恐竜王から貰った大量の果物を使ったトロピカルジュースも可決。グレンツェンでは南国の果物は珍しい部類なのでインパクト抜群。


 キッチン・グレンツェッタの宣伝部長にスパルタコさん。

 動画や看板、フライヤー制作はパソコン周りに強いペーシェさんと、色彩感覚が鋭いハイジさんを中心に感性の豊かな面々。

 主軸である料理の準備はエマさんを中心に脳筋メンバーと料理好きな人々。

 食券機やジューサーの手配、動作確認などはクスタヴィさんとケビンさんが担当。

 ひとまずはこんな感じで決まってはいる。大事なのはお互いがお互いを助けられるように柔軟に動けるようにとのこと。

 がんばるぞっ!

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