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 小鳥遊すみれは、島を出て初めて踏み込む、学術都市という大きな世界に、不安と期待を胸に、初めての友達、初めての共同生活への一歩を踏み出します。

 ハティ、アルマ、キキ、ヤヤと出会い、そして新たな友達とともに、新しい今日を始めます。

 




以下、主観【小鳥遊すみれ】

 路面電車に乗って東へ向かう。都市が大きくなるにつれて拡大していった居住区画が広がっていて、学術都市で学ぶ多くの人々が住む。

 世界中から人が集まるせいか、様々な建築様式の家が隣同士、肩を並べて家主の帰りを待っていた。


 綺麗なモザイク柄は家屋だけでなく、公園、食料品店、日用雑貨店。どこまでも伸びる線路がある。

 煉瓦造り。

 木造建築。

 テラコッタ。

 うちっぱなしのコンクリートのような外装の建物。

 廃墟に似せた住まい。

 異文化と、それぞれの価値観が詰め込まれているけれど、どれも調和がとれていて、とても美しい街並みだと感じた。色だけでない、心に響くものがここにある。


 新しくできた友人も、新しい生活にわくわくしてる。不動産屋さんでばったり出会った4人とも一緒に電車の中。横に座っておしゃべりタイム。


「ねぇねぇ、すみれの髪の毛って地毛なの? すごい癖っ毛だし、オレンジ色にピンク色に赤色の髪が生えてるって、超面白いな」


 獣人のウォルフさんが私の癖っ毛を手のひらで押した。

 フィジカルな話題を振ったウォルフさんに、エマさんが声を尖らせる。

 

「ちょっと、気にしてるかもしれないのに、いきなりフィジカルな話はご法度でしょ。ごめんなさい。彼女はちょっと無神経なところがあって」


 隣に座るエマさんはとても社交的で淑女な女性。

 ウォルフさんに髪の毛をぴょんぴょんされる私は、同年代の人と遊んでいるようでとても楽しい。

 だからウォルフさんのことは何も気にしていないと伝えよう。


「え、そんなことないです。大丈夫ですよ。ちなみにこれは地毛です。おばちゃんにはとってもかわいいねって言われて、比べるものがないからそうなのかなーって思ってるんだけど、変かな?」

「そんなことないよ。めっちゃかわいいと思う。よく似合ってるよ」

「そう? えへへ、ありがとう」


 笑顔が素敵で、私の髪の毛を褒めてくれた女性はウォルフ・カーネリアンさん。この辺では珍しい獣人。狼の耳と尻尾をもってる。とってもふさふさで気持ちよさそう。

 丁寧な言葉遣いの人はエマ・ラーラライトさん。2人ともヘイズマンさんの召使いだそうで、学術都市には付き人として同行しているらしい。


 今私たちは、路面電車に乗ってヘラさんが抑えてくれた物件に向かっている最中。

 ウォルフさん、エマさん、ティレットさん、ガレットさんは、4人でシェアハウスができる場所を探していて、不動産屋さんに相談していた。タイミングよく出会った私たちは、一緒に部屋を見て決めに行こうとしているところ。

 なにせ基本的には2人でシェアハウスか、独り暮らしできる物件が圧倒的に多いものだから、4人も入れる部屋となるとなかなかない。

 この機を逃して他の人達に入られたら一緒に住めなくなってしまう。だからヘラさんが抑えている物件の内、1件は手放すので、すかさず住まおうという計画です。


 ティレットさんは上流階級の人間。グレンツェン市長のヘラさんとは何度かパーティーで顔を合わせたことがあるらしい。

 でも、人気者の市長とちゃんと話をしたことがなかったそうで、お礼の言葉とともに、楽しそうに世間話をしている。

 妹のガレットさんは私と同じくらいの身長なせいか、ちょっと親近感が湧いちゃうな。

 島には同世代の子がおらず、友達と呼べる人はいなかった。島の外に世界があることなんて、つい最近知ったこと。初めての出来事ばかりで心臓が爆発しそう。

 だけど、たくさん友達を作って、たくさん遊んで、おいしいものを食べて、がーるずとーくもしてみたい。

 だからこれが最初の一歩。

 勇気を出すんだ小鳥遊すみれ。

 頑張れ小鳥遊すみれ!


「あ、あの、まだちゃんとお話できてなかったよね。私ね、小鳥遊すみれっていうの。ガレットさん、だよね。よ、よろしくね」

「ふぁえっ!? あ、はい、こ、こちらこそ。よろしくおねがいしましゅ」


 緊張のあまり、ガレットさんは言葉をかんでしまって赤面。

 お付きのウォルフさんが間に入って、積極的に仲をとりもとうとした。


「お、なんだなんだ。さっそく友達ができたじゃん。ガレットは人見知りなんだけど、仲良くしてやってくれな」

「は、はい! もちろんです!」

「ちょっとウォルフ。ガレットお嬢様にはガレットお嬢様のペースってものがあるんだから。あなたみたいにガツガツ行かせようとしないでよ。でもありがとう。私たちとも仲良くしてくれると嬉しいです」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」


 やった!

 こんな短時間で9人も友達ができちゃった。

 よーっし! この調子で頑張るぞ!


 そのままの流れにまかせて会話を弾ませていく。好きなもののこととか得意なこととか。

 ガレットさんの趣味は押し花作り。額縁の中に季節を切り取るのが、単に綺麗ということもあるけれど、儚く咲いた瞬間に想いを馳せるのが心地よくて、素敵だと言ってくれたお姉さんの表情が忘れられないんだって。


 エマさんの好きなことはお料理をすること。自分の作った料理で誰かにおいしいって言ってくれるのが嬉しくて、幸せを感じるのだそう。


 ウォルフさんの特技は剣と魔法。その力量はベルン騎士団の戦士や、宮廷魔導士にも匹敵すると自慢している。

 ヘアアレンジメントも得意だそう。それで私の髪の毛に興味を示したのかもしれない。


 ティレットさんの怖いものは幽霊。この世ならざるものの存在がどうしようもなく怖いらしい。

 好きなものはボードゲーム。これはまさに僥倖ではないでしょうか。


 私の趣味は麻雀。

 特技は鶏を絞めて綺麗に捌くこと。お魚も得意です。

 好きな物は肝油と炭。って言うと、なぜだかみんな、きょとんとした顔をした。変だったかな?

 それと、なぜかは自分でもわからないんだけど、おでこを触られるのがとっても嫌。他人の手がおでこに近づくのすら嫌。理由は言葉にできない。なんかすごい嫌なの。

 おばちゃんは、『倭国の人間は、昔からおでこを触られるのがとっても屈辱的で、その遺伝子を受け継いでるから』だと言っていた。よくわからないけどそうらしい。


 電車を降りて徒歩5分。

 2階建て屋上テラス付き。

 ハティさんの高身長でも窮屈でない天井の高さが売りの好条件物件。


 1階は玄関を抜けてみんながくつろげる広いリビング。キッチンには白物家電が備え付け。机にソファー、テレビまで。庭は小さいけれど、屋上は家主のヘラさんが趣味で植えてるプチ農園&お花畑。

 友達を呼んでバーベキューをしてもいい。天体観測も楽しめる。

 2階は個人の寝室。部屋が4つにトイレが1つ。

 一番の売りは露天風呂。グレンツェンではサウナが一般的。前の住人は倭国人だったらしく、改装して増築したものを残していってくれた。

 天井はマジックミラーになっていて、星を眺めながら体を湯に浸せるとなればもう最高だ!


 星が好きなキキちゃんはおおはしゃぎで駆け回る。夜まで待てないといった面持ちで、露天風呂の話を聞いてから、(から)の湯船の中で空を見上げて動こうとしない。

 きっと彼女の心の中には、たくさんのキラキラな流れ星が映っているに違いない。


 星空を夢想するキキちゃんを風呂場からなんとか引き離して次の物件へ。

 1つの建物に4世帯が入れる大きさ。元々は貴族用のアパート。アパートというには広すぎるほどの大きさとゴージャスさ。2階もあって、敷地面積はさっき見た一軒家の2倍。

 備え付けの家具も家電も高級志向が強く、デザインも洗練されている。ログハウス調のおしゃれな内装。二世帯住宅のように、1軒で2つの家族が住める構成。ちなみに、片方は5人暮らしの家族が既に居住済み。

 残念なことに、ゴージャス物件の室内に飛び出した梁がハティさんの高身長にぶつかる。彼女が住むには少し我慢するところが多いかも。


 キキちゃんが露天風呂を気に入ったのと、ハティさんの身長に合うということで、2階建て屋上テラス付き物件に決定。

 私もヤヤちゃんもアルマちゃんも、特にこだわりがあるわけでもない。ティレットさんたちもハティさんの背丈を気にして譲ってくれた。

 2階建ても素敵。だけど、キキちゃんが気に入ってしまったし、4人で住める少ない物件を手に入れられただけで儲けものと喜んでいる。

 落ち着いたらお互いの家でパーティーをしようと指切りげんまん。

 荷物を置いて街歩きの準備に入った。

 だけど、ひとつだけ気がかりがある。ハティさんたちだけでシェアハウスする予定だったはずの輪に、私が突然入ってよいのだろうか。


「話の勢いで一緒に住むことになりましたが、よかったのでしょうか? 4人で住む予定だったのに」


 水を差すようで申し訳ないと思いつつも、たくさんの人たちと一緒に暮らせる嬉しさが勝って笑顔になっちゃう。

 質問すると、どうやら彼女たちも同じ気持ちでいてくれたようだ。


「私は構いません。大勢の方が楽しいですから」

「そーだよ! すみれお姉ちゃんと一緒がいい!」

「アルマもすみれさんと一緒にご飯したり勉強したりしたーい!」

「何も気にしなくていい。せっかく同じ場所で同じ時間を過ごすんだから、どうせなら楽しい方がいい。私もすっごく楽しみ」


 全員快諾。快く受け入れてくれる彼女たちの温かさたるや、言葉にできません!


 生まれ育った島を出て、大好きなおばちゃんとおじちゃんたちと別れて寂しかった。船に乗って故郷が遠のいていく姿を見て、海に飛び込んで全力クロールしてしまいそうになった。

 だから、彼女たちの笑顔を見て報われた気持ちになる。

 受け入れられたような気がして嬉しかった。

 涙が出るほど胸が熱くなって、心に描いた言葉を唱える。


「みなさん。不束者ですが、よろしくおねがいしますっ!」



~おまけ小話『お化け』~


ティレット「お題を見た瞬間からもうすでにテンションが下がってます」


ガレット「お化けは私も怖いですっ!」


キキ「お化け。見たことないからよくわかんない。ティレットさんとガレットさんは見たことあるんですか?」


ティレット「いいえ、一度もありません。でも目に見えないと怖くないですか。夜中、真っ暗闇の廊下で――――はっ! もしかしたら、夜にトイレに行こうとしても、なかなかたどり着けなかったのは、幽霊のせいで道が遠くなってたからかもしれませんっ!」


ウォルフ「いや、単純にお屋敷の廊下が長すぎるだけだろ。それにびくびくしてなかなか進まないから、めっちゃ時間かかって、そう感じるだけじゃね?」


ヤヤ「ぶっちゃけ幽霊はいますよ。でも基本的に危害を加えてきたりしないので、大丈夫かと思います。こっちから彼らのテリトリーに入っていかなければ」


すみれ「入って行くと危害が及ぶんだ。それは気をつけないと」


ティレット「ぴぎゃっ!?」


エマ「え、見えた時ってどうしてるんですか?」


ヤヤ「無視します。あと、話しかけてきても無視します。お寺の尼さんに教わりました。そういうのは、見て見ぬふりをしたほうがよいと。見えたら成仏させに行くから、寺院の誰かに教えてほしい、と」


エマ「鋼のメンタルッ!」


ガレット「寺院の人、凄いッ!」


ティレット「今年のやることが終わったら、私、その寺院に弟子入りして、幽霊を成仏できるように修行しに行きますっ!」


ウォルフ「そこまでせんでも…………」

 無事にシェアハウスが見つかったすみれたちとティレットたちは、次に街へと繰り出します。

 そこには彼女たちのまだ見ぬ世界が広がっていて、新しいものに、初めてのことにわくわくとどきどきで胸を高鳴らせることでしょう。

 さて次回は、お昼ご飯を食べるために、路面電車に乗って、グレンツェンに古くからある大衆食堂・ヘイターハーゼへ赴きます。

 そこにもまた新たな出会いが待ち構える。すみれは新たな出会いとも友だちになることができるでしょうか?

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