表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/1085

にゃんにゃん大作戦! 4

 テーブルに置くなり、6等分されたリンゴはカレーのCMのようにぱったりと倒れて花が開いた。

 そして一心不乱に食べ始めるゆきぽん。

 プリマものそのそと近づき、鼻で匂いを確かめてぱくり。両手で掴んでバリバリ食べ始める。

 我が家のゆきぽんもぴょんぴょんと歩いて小さな嘴でつんつんぱくり。見たこともない勢いで食べ始めてしまって驚くばかり。

 おしとやかとは無縁の食べっぷりに感嘆の音が漏れ出てしまう。

 できればもう少しおしとやかに……まぁそれは人間の感性だよね。動物には無縁だよね。


 しかしこれはチャンス。食事に夢中になっている隙にもふもふできるのではないでしょうか。

 そうとなれば善は急げ。うさぎのゆきぽんの背後から手を……触れようとした瞬間に足で蹴られた。結構強烈なんですけど!?


 ――――気を取り直してプリマにGO。背中を撫でるように撫でるように……今度は尻尾で弾かれた。なんか悲しい!


 ――――――小鳥のゆきぽんはそんなことしないよね。飼い主だもんね。いつも一緒にいるもんね……羽で手を叩き落された!?

 もう……なんていうか…………食事の邪魔はしちゃダメだよね。


 拒絶されてショックを受ける私に追い打ちをかけるが如き哀しき視線が集まる。

 やめて……これ以上、惨めな気持ちにさせないでっ!


 気の利くデーシィが両の手をぱたんと閉じて注目を集める。


「え、ええと、もしよろしければ何か占いましょうか。わたくしは占い師でして、素敵な栞をいただいたお礼に。もしよろしければですが」

「お姉ちゃんは占いができるの!? じゃあねぇじゃあねぇ――――キキの将来の恋人がどんな人か教えてっ!」

「あ、キキにはまだそういうのは早いのでいいです」


 素早い姉の拒絶。

 妹がぷりぷり怒る。


「もぉーう! ヤヤは横から余計なことを言わないのッ!」

「お姉ちゃんのガードが堅いな。でもまぁ将来のことなんていくらでも変わるし、お姉ちゃんなら妹の幸せを願わなくっちゃな」

「ぐくぅっ……それはそうですが……」

「はい。そういうわけでお願いします」


 フィーアのファインプレーでキキちゃんとヤヤちゃんの拳が鞘に戻る。

 まだ納得いかないように妹を睨む姉。

 きっと今までずっと後ろをついてきた妹が離れてしまう姿を想像して寂しくなってしまうのだろう。

 そう思うと、ぷっくりと膨らませた頬袋もかわいく見える。


 対して私はどうなのかな。うん、特に何も思わない。みんなが元気で生活してくれるならそれ以上のことはない。

 もしかして私ってドライ?

 いえいえ、みんなを心の底から信頼してるだけです。


 ストローからジュースを吸い上げたり押し出したりして不機嫌な音を立てるヤヤちゃんを後目に、キキちゃんは晴れやかな笑顔でデーシィの一挙手一投足を追いかける。


 彼女の占いは砂盤。ジオマンシーとも呼ばれ、古くから存在する占術の1つ。

 無作為に砂を地面に落とし、その形でこれからの未来を予知するというもの。

 霊感的な部分と決まった形による組み合わせ、さらに占星術を組み合わせることでより正確な未来予知を目指す。


 特に彼女の場合は霊感的な部分の感度が高く、9割以上の確率で占いが的中してしまうらしい。

 らしい、というのも、私はまだ彼女に占ってもらったことはない。

 それはひとえに、デーシィの固有魔法(ユニークスキル)確定(パーフェクト)事象(ヴィジョン)】に由来する。

 結論から言えば、彼女が見た占いの結果を確定させ、将来、必ずその事象を発現させるというもの。

 良い結果ならともかく、占いで出た悪い結果も必ず起こってしまう。とてつもなく恐ろしい。不可避の未来である。

 無論、これは彼女がユニークスキルを発動させて占いに臨んだ時の話し。そうでない時は未来を変えられる。

 予知するだけで、未来を見ているわけではないのだから。


 だから彼女は占いを行う前に必ず口に出して伝える言葉がある。

 当たるも八卦。当たらぬも八卦。未来は誰にも分からないこと。

 人生は塞翁が馬。良いこともあれば悪いこともある。決して良い結果ばかりが出るわけではないこと。

 そして良くも悪くも、人は未来を変えられること。

 それらに納得できる人にだけ、彼女は力と才能を行使してきた。


 占いましょうかと言ったのに、やりますかやりませんかと聞くのも少しおかしな話しに聞こえるかもしれない。

 だから彼女は最初に『もしよろしければ』と念を押したのだ。デーシィはあくまで装置にすぎず、起こりうる未来の責任は占ってもらう本人にあるから。


 キキちゃんはそれらを聞いて少し悩み、分かったと了解。前のめりになってデーシィの眼を見つめている。

 しかし待て。占いをするのはいいんだけど、ここには道具がない。

 前に見た時は砂盤という砂の入った大きな器で占っていた。

 何か代わりのものを使うのだろうか。

 人が歩いた跡の砂をすくい上げるわけにもいかない。

 花壇の土を勝手に拝借するわけにもいかない。

 一体どうやって占うのだろう。


「そうですね。キキちゃんの栞を使わせいただけますか?」

「栞を? どうやって使うの?」

「両手に持って机の上に落として下さい。落ちたその形で占います」

「砂じゃなくてもいいの?」


 疑問に思う姉の言葉を優しく包み、デーシィは肯定の笑みを向ける。


「ええ、伝統的に砂を用いますが、落とした時に形が変わらず残るものであれば大丈夫です。小石や飴玉でも大丈夫です。ですが、水などの流体では無理ですね」

「なるほど、そういうものなのね」

「それじゃあさっそく机の上を綺麗にしましょう!」


 まっ平になった机の上は青白く輝く鏡のよう。

 椅子に登ったキキちゃんの両手にたくさんの栞。

 自分のタイミングを見計らってパラパラと落としていく。

 ランダムに舞う花びらが積み重なって、規則性のない景色へと彩られた。素人目には何も分からない。ただただ栞が無造作に転がっているようにしか見えない。

 プロのデーシィは一枚一枚に目を配り、真剣な表情を浮かべる。


 彼女の目には我々には見えない何かが見えているのだろう。未来か、あるいは過去か。

 それにしても……この栞、全部キキちゃんが作ったのか。

 シンプルなものからカラフルなもの。ペンで動物や昆虫の絵を描いた上から花びらをコサージュしたものまで色とりどり。

 普通に売り物に見える。

 センスいいなぁ。


 デザインに関心して見入っている一般人の隣で、占い師は眉間にシワを寄せた。

 普段から温厚な性格で険しい顔など見せたことのない彼女が、姉である私に見せたことのない剣幕。

 それから空を見上げ、太陽の光に隠れた星辰の位置を確認し、キキちゃんに重たい言葉を告げ始める。


「キキちゃん……悪い結果と良い結果が出ました。心して聞いて下さいね」

「「「ご、ごくりっ…………」」」


 キキちゃんはともかく、姉のヤヤちゃんと友達のマーガレットちゃんまで固唾を飲んで見守った。

 ほんとうに仲良しさんだなぁ。


「まず悪い結果から……キキちゃん、貴女は今年中に失恋します」

「ガーンッ!」


 いきなりの爆弾発言。

 これは少女でなくてもメンタルクラッシュ。

 魂の飛び出したキキちゃんの絶望の表情たるや、見てるだけでハラハラしてしまう。

 告げた本人がおおわらわ。

 でも、


「で、でもですね、悪いことばっかりではありません。失恋はしてしまいますが、彼との出会いによって、その後の運命は大きく好転します。その人の出会いによって、多くのものを学び、祝福に満ちた人生になるでしょう。失恋こそしてしまいますが、わたくしが占ってきた中で、これ以上ないほど最高の運勢の持ち主です。気を落とすことはありません。失恋してしまうと言っておいて心苦しいのですが…………」

「失恋をバネに成長するのか。キキちゃん自身が強くないとそうはならない結果だな」

「だね。とまぁ言っても、大手を振って喜べない所がむず痒いかも……」


 結果を最後まで聞いて復活のキキちゃん。

 ポジティブな彼女はすっかり笑顔を取り戻した。


「――――むむむ。でもでも、未来は変えられるんですよね。キキがその人を好きになるってことは、キキはその男性を好きになるってことで、もしかしたら恋愛成就する未来もあるかもですよねっ!」

「ええ、もちろん。その可能性は多分にあります。未来は誰にも分からないのですから。あくまでこれは『占い』ですので」

「ちょっと待って下さい。その人と結ばれてしまうと運勢が下がるのではありませんか。逆のことが起こる可能性だってありますよねッ!?」


 心配性のお姉さんが待ったをかけた。

 本当に心配してるのはそっちかな?


「もちろん、その可能性はあります。ですが、彼との出会いによって失恋しても運勢が好転するので、結ばれたならさらに良い運勢になると思います。少なくとも下がることは無いと思いますよ?」

「ふぁッ!」

「ヤヤちゃん…………妹想いもここまでくると考えものだな。あ、ソフィアはここまでしてくれなくていいからな」

「家族のことは愛しているけれど、私はきちんと度をわきまえているつもりです」


 そもそも心配するような問題児もいないし。

 パティ以外は。


「むむぅ、キキは運命に打ち勝って見せます。もっともっといい女になって、失恋なんて回避しちゃうんだからっ!」

「うん、その意気だよ。応援してるねっ!」

「――――――――イッ、ヤッ、ダッ!!」

「「「「「ヤヤちゃん…………」」」」」


 それからしばらくの間はぷっくりと頬を膨らませて不機嫌を露わにするヤヤちゃんなのでした。

 そこがまたかわいいっ!

幸せの白い鳥の先には見覚えのある気がする女性の姿。お忍びで散歩に出かけていたお転婆姫様の護衛。ソフィア・クレール。

彼女はフィーアと2人暮らし。シマエナガのゆきぽんを飼っており、換毛期に採取できるわずかな羽を加工して枕を作ろうと企んでいます。

しかし、シマエナガの体重は8gほどの超小柄な鳥。いったいいつになったら枕ができるのでしょう。


次回は、アルマ率いる空中散歩の様子をお送りいたします。魔法で人々を幸せにしたい。そんなアルマの夢の第一歩は果たして円満成就するのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ