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にゃんにゃん大作戦! 3

以下、主観【ソフィア・クレール】

 湯気を立てて私の食欲を誘惑する(ニク)いやつ。

 鯨、牛、鳥 (?)のお肉と香ばしいナッツに和えられた胡椒のパンチ力が鼻を抜けて脳天直撃。

 あわせてキンキンに冷えたビールときたら至福のひと言。

 たまにはがっつり肉料理ってのもいいよねぇ。カロリーのこととか気にせずに、思いっきり食べて食べて食べまくる。

 女の子にだってこういう時間は必要です♪


「ソフィアにしてはよく食べるなぁ。いつもカロリーカロリーって言って死に物狂いで計算してるのに」

「今日はチートデイだからいいの。むしろ全力で食べまくるんだから」


 今日のこの時のために、必死になって調整したんだから。

 お肉、かき氷、アイス、ワイン、チーズ、ホットドッグにTボーンステーキ。

 遠慮せずに食べまくるっ!


 対してフィーアはスローペース。

 貴女こそ、いつも騎士団の仕事で体力使ってるんだから、もっとたくさん食べないと。


「あの、あまり暴飲暴食は。グリムじゃないのですから」

「大丈夫大丈夫。グリムと違ってちゃんと計画的に食べてるから」

「それなら良いのですが。それで、あの……今日はルクスアキナもここに来ているということですが、パティは来ていないのですよね?」


 デーシィは不安そうにそわそわとあたりを見渡す。

 魂を分けた姉妹といえど、性格の不一致というものはあるものです。


「安心しなって、来てないよ。デーシィはパティのことが苦手だもんな。パティのせいだけど」

「ええ、姉妹なのだから仲良くはしたいのですが、どうも苦手で……」


 パティというのは我々の姉妹の1人。中身がないけどどういうわけか傲慢。

 気の弱いデーシィの上げ足を取っては、私やフィーアに怒られる残念な妹。

 彼女は神立なんとかって言う学園に通っていて、学校生活を満喫中。

 彼女だけが満喫して他の人たちに迷惑をかけてなければいいのだけれど…………。


 デーシィは姉妹の中では三女の立ち位置。

 シャハルサハと呼ばれる国で占い師をする彼女は、すっかり褐色の肌になってしまった。

 占いが得意なデーシィは、よく当たる占い師として評判を得、豪族などの有名貴族にも仕事を依頼される、その筋では結構な有名人。


 物腰柔らかくおしとやかな表面とは裏腹に、少し嫉妬深いところが珠に傷。

 だけど人一倍家族想いで優しい性格の彼女は、きっとどこにいっても愛されることだろう。


 フィーアはベルン騎士団第二騎士団員の1人。仲間想いで情に厚く、頼れる姉御肌だと噂が聞こえる。

 男よりももっぱら女性にモテるところがむず痒いところと嘆いてたっけかな。

 あまり出世欲はなく、その日暮らし的な性格。


 フィーアは私とベルンで一緒に暮らしている。姉妹の中で最も身近な存在。

 彼女も私のことをよく好いてくれていて、自分の名前の【フィーア】と言うのも私の名前からとったと言っていた。


 他にパティとアーディアにも声を掛けたけど、用事があって断られてしまった。

 ティアは行方不明で連絡つかず。彼女のことだから、どうせ世界中をうろうろしてるのでしょう。

 たまには顔を見せて欲しい。そういえばいつから見てないんだっけ。もうそれほどに記憶の彼方。

 大切な家族なのだから、少しぐらい連絡があってもいいのでは。頼りが無いのは元気な証拠?

 とは言っても心配になる。それが長女というものです。


 私の家族はあと1匹。シマエナガのゆきぽんがいる。

 白くて丸くてちっちゃくて、もっこもこのふっわふわ。

 つぶらな瞳も小さな嘴もかわいらしいのひと言に尽きる彼女は今、1人でお散歩の真っ最中。

 そろそろお腹も空く頃だから戻ってくると思うけど。


 噂をすればなんとやら。餌らしきものを咥えて帰ってきた。

 ふわふわと降り立つその姿はまるで妖精。かわいい。かわいいの権化!


 彼女は私の友人が住む国に生息している小鳥の一種。

 ひと目見た時からハートを撃ち抜かれてしまい、どうにかこうにか手懐けることに成功した。

 今ではなくてはならない家族の1人。


「おかえりなさい。あら、咥えているこれは……ブックマーク? どうしたのこれ。まさか、勝手に持ってきちゃったの?」

「全力で首を横に振っていますね。誰かから頂いたのでは?」

「それもいいんだけどさ……足元がヤバいことになってるんだが……」

「足元……にゃあッ!?」


 なんと、足元に猫の大群。大群というかもう絨毯。ねこねこ絨毯祭りです。

 誰かが猫を呼び集める能力を身に着けてしまったのか。

 はたまた天変地異の前触れか。

 動物は地震や津波を察知して一斉に行動するという事例が世界各地で確認されている。

 まさかこれもそうなのか。


 それにしても、足に触れるもふもふの感覚がたまらなく気持ちいい。

 どうしよう。どうしようこれ。食事中じゃなかったら全力でもふもふしてるところですよこれ。

 えぇ~い、ままよ。そぉ~れそれそれ、にゃんにゃんにゃ…………ん……んんッ!?


 特に毛並み立ちの良い1匹の猫の背中をにゃんにゃんすると、突然目の前に女の人が現れた。

 黒く長い髪に黄金の瞳。胸の上に乗せているのは……たしかシェリーさんのペットの子猫のプリマ。それから雪うさぎのゆきぽん。

 ということは、この人が猫の神・バスト。


 やだ、どうしよう……なんだか気まずい。

 しゃべらない猫なら気兼ねなくにゃんにゃんできる。

 だけど人間に変身できる猫となると、なんか違う。にゃんにゃんの感触がイマイチだとか言われたらショックで寝込む自信がある。

 そもそもにゃんにゃんされて嫌な心地になったりしないかな。猫は猫、人間は人間の感性でそれぞれ別とか?

 考えても分からない。とにかく申し訳ないことをしてしまったような気がしてならない。


 後ろめたい気持ちに押しつぶされそうな私を見て彼女はにこりと笑い、遠くに見える友人に声を投げた。

 全力で向かってくる小さな影。あれはたしか……キキちゃんとヤヤちゃん、それからマーガレットちゃん。

 みな空中散歩のメンバーで、今はしゃぼん玉をふわふわさせている時間ではないのだろうか。

 それとも別行動なのかな。あるいはお昼ご飯。


 なんにしてもこちらへ来るようだ。もしかして、このブックマークの持ち主か。

 それで猫を使って小鳥のゆきぽんを探していたのだろうか。凄い方法を使うなぁ。

 さながらにゃんにゃん大作戦。

 いいなぁ、にゃんにゃん大作戦。


「見つけた、白くてかわいい小鳥さん!」

「貴女がこの小鳥さんの飼い主さんですね…………あれ、貴女はたしか……」

「初めま…………お姉さんはたしか……」


 あ、そういうえば。ヤヤちゃんは固有魔法(ユニークスキル)で、マーガレットちゃんは霊感で姫様の変装を見破ったんだっけ。

 ということは、私の変装ももちろんバレてるに違いない。

 しかしそこは根回し上手のヘラさん。このことは内緒のしょと言い聞かせ、2人には他言しないように口封じをしていた。

 なのでシャルロッテ(ジュリエット)と一緒にいた(フレイヤ)のことも他言してはいけないと、寸前のところで踏みとどまる。

 しかしそうなると逆に何かを隠してることがバレバレ。さぁどう切り抜ける、ソフィア・クレール。


 そうだ。きっとこの栞を追いかけて来たに違いない。であればこっちに話題を振ろう。

 と、した途端。デーシィから横槍が飛んできた。


「もしかしてお知合いですか」


 ……そっちに話しは広げなくていいの。

 もし私がフレイヤだということがバレたら、芋づる式に姫様のお忍び散歩がバレてしまう。

 それはまずい。

 たいへんよろしくない。

 そんなことが世間にバレてしまえば、国王の信用が落ちてしまう。ここは私が食い止めなければ。

 と、するも、空気の読めないフィーアが追い討ちをかける。


「もしかして前に言ってた、前祝ってやつで会ったのかな。いいなぁ、あたしも仕事じゃなかったら一緒に行ったのになぁ」


 はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?

 ちょっとフィーア何言ってんの!?

 他人事みたいに何言ってんの?

 グレンツェンとベルンのことをよく知らないデーシィはともかく、あんたはベルン騎士団の関係者でしょうが。余計な口出ししないでちょうだい!


 ほらもうヤヤちゃんとマーガレットちゃんがやっちまったって顔してる。こんな小さな子たちに気を遣わせないで!

 とりあえず、こいつの口には肉を詰めておこう。2人前も注文したんだし、さっさと食べて次に行かなくちゃね!


「…………あれ、お姉さんとどこかで会ったっけ?」


 2人の様子を鋭く観察したキキちゃんが首をかしげた。いかん。取り繕わなくては。


「え、ううん、きっと人違いよ。それよりここには何か用があってきたんじゃないの? たとえばほら、ゆきぽんが持ってきちゃったブックマークのこととか」


 そらしそらし。

 冷や汗たらり。


「なんでゆきぽんのことを知ってるの?」

「違うよ。こっちの小鳥さんの名前もゆきぽんなの。ダブルゆきぽん。分かった?」

「えぇ~! 小鳥さんもゆきぽんって名前なの? 偶然! あっ、そろそろお昼にしなきゃ。お昼、ご一緒してもいいですか?」

「え、えぇ、もちろん」


 やったーと叫んで大はしゃぎ。些末なことなど忘れてお腹の虫の意のままに、ヤヤちゃんとバストさんは行列に並び、キキちゃんとマーガレットちゃんは椅子を取りに走り出す。キキちゃんが純粋な子で良かった。


 それにしても、この様子だとゆきぽんが勝手に取ってきてしまったわけではなさそう。

 ではなぜああも大仰な恰好で彼女を探し回っていたのだろう。かわいいから。なくもないけどそこまでするかな。


 椅子を揃えて前のめりになる少女が2人。目線の先は肉ではない。小鳥のゆきぽんに注がれていた。

 まさか食べるために……それはさすがに考えすぎか。であればやっぱりかわいいからかな。


「もしかして、小鳥のゆきぽんに興味があるのですか?」


 子供好きなデーシィが切り出してくれた。


「はい、どうしても、どうしてももふもふしたくて探し回りました。そのためにグレンツェンじゅうの猫ちゃんたちに探してもらって…………案外すんなり見つかったけど」


 手段がすごいな。

 見ると体中が猫の毛だらけ。全身でもふりまくったようだ。

 羨ましい。


「そうだったの。凄い情熱。ところでこのかわいい栞はゆきぽんが持ってきたものだけど、これについては何か知ってる?」

「それはゆきぽんにもふもふさせてもらう代わりにあげたやつ。ゆきぽんが欲しそうにしてたから交換したの」


 まさかのギブアンドテイク。


「そうなの!? でも本当にいいの? とっても凝った作りのように見えるけど」

「大丈夫。いっぱい作ったから。ほら!」


 そう言って、キキちゃんのバッグからたくさんの栞が飛び出した。

 総じてかわいらしく、インテリアとしても十分な見ごたえ。

 なるほど、ゆきぽんはこれに魅了されてしまったわけか。そして交換条件としてゆきぽんにもふもふさせてもらったと。

 なにはともあれ窃盗疑惑が晴れてよかった。

 そしてゆきぽんのことをかわいいと思ってくれるキキちゃんたちに、好感度がアップする私がいます。


 そうだ。これを機にお友達になりましょう。

 この流れでうさぎのゆきぽんをもふもふさせてもらおう。

 私だって女の子。かわいいうさちゃんをもふもふだってしたいのです。

 猫ちゃんだってもふもふしたい。


 思った矢先、なんの気なしにデーシィがうさぎのゆきぽんの前に手を置いておいでおいで。

 くんくんと鼻をぴくぴくさせて手に乗った。手乗りゆきぽん。羨ましいっ!

 砂漠の国のシャハルサハ。猫はいるらしいがうさぎはおらず、生まれて初めて本物を見たそうな。

 手に乗せて背中を撫でると嬉しそうに目を細めるうさぎのゆきぽん。

 くっかわ!


 そのまま腕を伝って肩へ登り頬をすりすり。

 う、羨ましいッ!


 フィーアも倣ってゆきぽんを誘惑。腕を伝って頬をすりすり。

 恨めしさ極まる。


 いやいや順番的に私の番。のはずなのに……手を差し伸べるなり見向きもせずにどこかへ跳んで行ってしまった。

 跳んで行った先にはハティさん。彼女の手に真っ赤なリンゴ。リンゴめがけて跳びついた。

 しがみついて離れない。あたかも接着剤でくっついているかのような様には執念じみた何かすら感じる。

 しかしそこがかわいい。

 ぐぅかわっ!


「ゆきぽんが見えたからお昼ご飯と思って来てみたんだけど、今日はたくさんお友達ができたんだね。よかったらみんなで食べて」


 それだけ言って、ゆきぽんwith-APPLEを机に置いて仕事に戻っていく。

 ちなみにこの場合の『みんな』とはダブルゆきぽんとプリマの3匹。

 人間は入ってない。

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