にゃんにゃん大作戦! 2
キキちゃんとヤヤちゃんの両手をつないでお姉さん。
ぶんぶん振って楽しさを共有してます。
しばらくすると、見慣れた背中が見えて来た。
ハイキートーンのエプロンを着た自慢のママだ。
「あらあらいらっしゃい。2人がキキちゃんとヤヤちゃんね。ライラックとマーガレットから話しはよく聞いてるわ。私は2人の母でシトラスって言うの。よろしくね。あらまぁかわいらしいねこちゃんにうさちゃん。貴女がバストさんですね。初めまして」
「妾はバストだ。よろしく頼む。それにしてもここは華やかで素晴らしい場所だな。お主が作っているそれは栞かな?」
視線で示したそれは作りかけの押し花。
紙面の端に並べられ、真ん中にメッセージを入れられるようにしたママのオリジナル。
「ええ、ここでは押し花の手ほどきをしています。額に入れてポートフォリオにしてもいいですし、栞としても人気ですよ。是非、素敵な思い出を作っていって下さいね」
いつもにこにこ笑顔のお母さん。滅多に怒ることもなく、柔和で優しくて、それでいて芯の通った強いお母さん。
わたしの自慢のママなのです。
でわでわさっそく、手ほどきと洒落込みましょう。
空いている作業台に手を引いて、まずはあらかじめ用意された試作品を見て想像した完成図をデッサンです。
それから好きなお花を選んで花びらをぷちっ。
好きな形にちょきちょきちょっきん。
細長い長方形の紙面に、のりでもってぺたぺたぺったん張り付けた。
キキちゃんとヤヤちゃんはシェアハウスで暮らしているみんなをイメージした花びらを、1枚ずつ等間隔に張り付けるシンプルなスタイル。
それぞれの花びらの下に彼女たちの名前を書いて絆をアピール。
最後にたくさんのハートをマジックで描いてフィニッシュ。
彼女らしいかわいくて賑やかな栞のできあがり。
ヤヤちゃんは少し凝ったデザインを目指した。
ペンで書いた虫たちが花びらを咥えて運んでいる様子を描いている。
アリさんに毛虫さん。蜂さん、クモさん、ちょうちょさん。
虫さんたちの大行進。デフォルメされていながらも、しっかりと特徴を捉えられた造形はまさに画伯のそれ。
ヤヤちゃん、なかなかに絵が上手。
バストさんはこういう手芸に関してあまり得意ではない様子。
であればと乗り出したのは、なんとゆきぽんとプリマ。
スタンプ台の上を通過して、そのまま画用紙の上へダダダダッシュ!
縦横無尽に駆け巡り、リアルな肉球柄の栞が完成してしまった。
わたしも欲しいっ!
「ナイスダッシュ! キキの栞の上も走って走って! 裏面をたくさんぷにぷにして!」
「私のにもお願いします。肉球柄の栞にして下さいっ!」
「わ、わたしも欲しい。この上にお願いしますっ!」
それから2匹は大忙し。
あっちへぷにぷに。
こっちでぷにぷに。
小さな画伯の頑張る姿を見た他のお客さんもこぞっておねだり。
サービス精神旺盛な2匹は、これまたぷにぷに走りだす。
肝心のバストさんは…………楽しそうなゆきぽんとプリマを見て感涙した。何が彼女にそうまでさせるのだろう。でもバストさんも楽しそうでよかった。
楽しいことになると時間を忘れてしまうのが女の子。ゆきぽんとプリマに気を取られている隙に、キキちゃんとヤヤちゃんが栞を30枚近く作った。
故郷に帰ったら友達や知り合いに配って回ると意気込んでいた。
よっぽど気に入ってくれたようでわたしも鼻が高いです。
楽しい時間はいつまでも続いて欲しいものだけど、そろそろ次の場所へ行かなくてはお昼ご飯に間に合いません。
我々には空中散歩の宣伝と、アルマさんたちのお昼ご飯の配達、そしてお祭りを楽しむという大切な使命があるのです。
ここはお姉さんのわたしがしっかり時間管理をしなくてはなりません。
ということで、名残惜しくはありますが、3人に移動の催促をしようとしたその時、見慣れぬ白い小鳥が現れたではありませんか。
グレンツェンでは見たことのない種類。
白くてもこもこしていて、まるで雪の妖精さん。
つぶらな瞳に小さなくちばし。
もっふもふの毛並みは雪のように白く輝いている。
誰かのペットか、あるいは群れからはぐれた小鳥かな。
なにはともあれ、わたしだって女の子。こんなにもかわいらしい小鳥さんを見たらもふもふしてみたいと思うものです。
そっと近づいて、ゆっくりゆっくり近づいて…………はっ、気付かれた。
飛び去ってしまう。
ぴょんぴょんと逃げられたら、もう触らせてなんかもらえない。
小鳥の動きになんて人間が追いつけるスピードではないのだ。ここはイチかバチか…………。
「お願いします。もふもふさせて下さいっ!」
――――――逃げられた!
そうだよね。人の言葉なんて分からないよね。
残念無念…………と、そこへキキちゃん。件の栞を餌においでおいでしている。
しかも近づいている。
まさかの展開。
まさに僥倖。
しかもきっちり食いついた。
食いついて離さない。
その隙に背中をなでなでしている。
賢い!
羨ましい!
それならば。それで釣れるならわたしも……わたしの栞でだって釣れるはず。
だがしかしいかんせん、裏面は肉球スタンプで彩られているが表面は真っ白。
なぜなら家で作ればいいやと思って何もしなかったのだ。
ぐっ……こんなことなら、こんなことになるならわたしもしっかり作っておくべきだった。
でも、もしかしたら、ワンチャンスあるんじゃないでしょうか。
ダメもとでもやってみる価値はあるかもしれない。
「そぉ~れ……こっちの栞もどうかな。ふぁっ!?」
飛んで逃げられた。しかもキキちゃんの作った栞をくわえたまま。
こんなことならしっかり作り込んでおけばよかった。とほほ。
がっくりと肩を落として涙がぽろり。あんなにかわいくて、もふもふした小鳥さんなんてそうはいない。
千載一遇のチャンスを取り逃がしてしまうだなんてもったいない。
ため息をつき、椅子に腰を深く落としてため息をつく。
なんかしなくちゃいけないことがあった気がするんだけど思い出せない。
落胆が頭の中に満ちていく。もうそれ以外に考えが及ばない。
さっきの小鳥さん、かわいかったなぁ。せめて写真だけでも収められたらよかったのに。欲張っちゃったかなぁ。
「もしかしてもふもふしたかったの?」
「もふもふ……したかった…………」
「それじゃあ時間の許す限り探してみましょう。特徴的な小鳥さんだったので、すぐに見つかると思いますよ」
キキちゃんとヤヤちゃんの励ましが心にしみる。
だけど、
「でも、もう時間が……」
ぐすん。
ぽろり、頬を伝う涙ひと筋。
悲しみの流れ星を見たバストさん。ショックとともに流れ星をキャッチ&リリース。
「泣くな、マーガレットよ。大丈夫だ。この街にはたくさんの猫たちがいるだろう。彼らに手伝ってもらおう」
「ねこ…………?」
自信満々な笑顔を浮かべた彼女は、手を叩いて猫たちに呼びかけた。
すると、次第次第に大きくなってくる地鳴り。と、人々の驚いた様子の叫び声。
あっという間に足元はもふもふの猫ちゃんたちで埋め尽くされて――――あぁ、きっとここは天国に違いない。
そぉーれそれそれ、にゃんにゃにゃんにゃんにゃにゃにゃんにゃん♪
満足です。久しく満足なもふもふでした。
さて、小鳥さんはキキちゃんの作った栞を持って飛び去ったがゆえに、彼女の栞の匂いを覚えて追跡させると言うのだ。
酋長と思しき猫とバストさんの会話によると、あの白い小鳥はフラワーフェスティバルのためにやってきた旅行客の家族らしい。
ゆえに、追跡班と飼い主の捜索班とで別れて二正面作戦を仕掛けると提案している。
題して【にゃんにゃん大作戦!】。
今ここに世紀の決戦が始まろうとしているっ!
というか、バストさんって猫ちゃんたちとおしゃべりできるの?
わたしにも猫語を教えて欲しいっ!




