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フラワーフェスティバル開催! 6

 手早く片付けを終えて家に帰るも、時計の針は19時を過ぎていた。

 普段から晩御飯だけは豪勢にする我が家も、本日は出来合いの総菜の並ぶ食卓となる。

 買い置きしていたインスタントのスープ。

 レンジに入れるだけでおいしいパスタの冷凍食品。

 他にもまだまだ用意はしていたけれど、疲れて食欲が湧かないので、今晩はこのへんでストップです。


 お湯を注ぐだけ、火を通すだけ。それだけでこんなにおいしい料理が居並ぶ姿はまさに文明の利器。

 だけどなんていうんだろうなぁ、何か少し物足りない気がする。

 真心とか丁寧さとか、どうも欠けてるように思えてしまう。

 もちろん、類稀なる才能と、企業努力の結晶だということは理解している。彼らの努力が世界中の人々を笑顔にしているという事実もあった。


 だからこそ、手作りの温かさの大事さだとか、付加価値だとかって大切なんだと実感する。

 もっと具体的に言うと、インスタント食品はおいしいけれど、そのおいしいは私のものではなく、商品を開発してくれた人々に向けられている。

 だけど手作り料理は作り手に彼らの感謝が向けられている。

 そう思うとインスタント食品は、仮に私がみんなに提供しても虚しい。そんな感じ。自己顕示欲が強いのかな?


「なぁ~に難しい顔してんだ? 明日も早いんだから、さっさと寝ようぜ」

「うん、ちょっとインスタント食品について思いを馳せてただけ」

「なんだそりゃ。珍しく変なことを言うなぁ。変なことを考えながら寝ると変な夢を見るぞ。ちなみに今日のあたしはあまぁ~いすぅいぃ~つの夢を見る♪」


 そう言うと、ウォルフは幸せそうな顔をして、鼻の前に細長く乾燥したしわしわの黒い棒を愛おしそうに嗅ぎ出した。

 変な棒ではない。乾燥させたバニラビーンズである。セチアさんが迷惑をかけてしまったお詫びとして、キッチンのメンバーにとプレゼントしてくれたものだ。


 甘く優しい香りを放つバニラの香り。本来は全員にとのことだったけれど、暁さんの提案で、欲しい人と大切に扱える人に渡し、あとはお菓子屋さんのシルヴァさんに使ってもらう運びとなりました。

 たしかに物はとても素晴らしい。そして彼女の言う通り、こういうものは大切に扱ってもらえる人の手元にあるべきだ。

 汎用的なものならともかく、今回は少し知識と技量の必要なもの。勉強すれば扱えるけど、興味のない人にとっては無用の長物。

 お菓子を作らない男子たち含め数名は己から辞退。その代わり、ショコラでバニラビーンズを使ったお菓子を提供する際、無料で食べさせてもらえる特権を得た。

 ギブ・アンド・テイク。美しき消費社会。


 でもって私はお菓子作りにも興味があるので2本ほど頂いて帰りました。

 ウォルフは枕の中に入れて、毎日甘い香りを楽しむために手元に置いた。

 それからはもうずっと頬を緩ませて全力リラックスモード。猫にマタタビ。ウォルフにバニラビーンズです。


 ミーナさんはベルンの子供たちに見せてあげると言っていた。液体のバニラエッセンスはスーパーでも市販されている。逆にバニラビーンズは珍しい。せっかくだからチビたちに見せてやりたい、と。


 スパルタコさんも母親が弟たちのために時々、クッキーを作るらしいので持って帰った。

 それに意中の人にプレゼントしたいとも。

 乾燥地帯で育つバニラ。きっとアイザンロックにはないはず。これを使ったお菓子でびっくりさせたいそうですよ。


 すみれさんもせっかくなのでといくつか持って帰った。甘いもの好きのヤヤちゃんをはじめ、たくさんのサフランを贈ってくれた人に、もっときちんとお礼がしたいと意気込んでいる。


 ベレッタさんとアダムさんも修道院の子供たちにと手に取った。院の屋上で採取するハチミツクッキーに使ったらもっとおいしくなるだろう。

 別れ際には素敵な笑顔で手を振った。


 クッキーに使ってもよし、シュークリームにカップケーキ。ホワイトのケーキやガレット・デ・ロアも捨てがたい。

 何に使おうか。

 いつ使おうか。

 想像しただけで胸躍る。


 ――――――はっ!

 こんなことを考えていたら眠れなくなる。

 明日だって早いのだ。早く寝て早く起きねば。

 1日目にたくさん人の入ったところは2日目は少ない傾向にあるらしい。ということは、明日はまだ落ち着いた営業になるかもしれない。

 休憩時間をとって、少しだけでいい、せっかくなのでお祭りを見て回りたい。

 運営側でお祭りを楽しもうとは言ったけど、やっぱり客側として楽しみたいと思うのは当然のこと。

 特に私と同じように、グレンツェンに来たのが初めての人たちだってそのように思ってるに違いない。


 こんなことを思うのは不謹慎かもしれない。

 だけどちょっぴりだけでもいい、せめてお昼を過ぎてから、ゆっくりできる時間があるといいな。

フラワーフェスティバル初日も無事に終わり、事なきをえたかと思いきや、最後の最後にハプニングを起こして自分で片づけた小鳥遊すみれ。

うっかりミスは誰にでもあるものです。大事なのは昨日より今日。今日より明日をよりよくすることだ。


次回は、マーガレットたちがフラワーフェスティバルを楽しむ回です。

プリマのペットシッターであるバストと待ち合わせ。大好きな母親が開催する押し花教室に向かいます。キキちゃんたちを引率するぞ、と年上の貫禄を見せようと頑張ります。

そんなマーガレットの前に白くてふわふわな生き物が!

マーガレットは新しくできたお友達と仲良くなることができるのでしょうか?

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