フラワーフェスティバル開催! 4
国際化が進む中で『魔力を変換して行使する技術』全般のことをひとくくりに【魔法】と定義された。
しかしその実、その土地その土地で魔法の行使の仕方や概念、【四大元素】【五行】【チャクラ】【氣】などなど呼び方は様々。
例えば今、ゆきぽんが使っているのは華国で培われた【禹歩】と呼ばれるもの。特別なステップを踏むことで術を発動させるという。
形式が違うだけで魔力を媒体に使った技術という点では魔法と同じである。
余談ではあるが、剣闘士の中には好んで禹歩を使う者がいる。
禹歩の特徴は、魔力が足の裏に集中して表面化しづらく、知識を持ってたり対策をしてなければ術が発動するまで気づきにくいこと。
また、慣れれば魔法と併用して同時に発動できること。術にもよるが、使用魔力が能力に比べて少なく、コストパフォーマンスが高いこと。
一般的によく知られている魔法に隠れて相手に気づかれぬように禹歩を使い、奇襲に近い形で優位を取れるという側面がある。
ある特定の地域でのみ発展してきた禹歩は、時代の中で細々と研究されてきた。近年はその有用な能力に可能性を見出した研究者たちによって光を浴びつつあるのだ。
しかしまだまだマイナーな技術であることは違いない。そんな代物を教え込んでいるとは。本当になんなのこの人。マジで全く底が知れない。
にしても動物が魔法を使うのか。サーカスや鷹匠なんかは動物に魔法を仕込むと聞いたことはある。
まさか、うさぎや猫にまで覚えさせられるとは。人間も負けてられませんな。
あっちへぴょんこぴょんこ。
こっちへぴょんこぴょんこ。
くるっと回ってどやぁっ!
これはなんだ。
癒しの舞いかな。
かわいさで疲れが吹っ飛んでいく。
もふもふもふもふ。はぁ~触りてぇ~。
「よし、準備出来た。それじゃ、ゆきぽん。まずは私のバッジの匂いを覚えてほしい。それからすみれのバッジを探してみて」
そう言うと、ちっちゃなゆきぽんを手のひらに乗せ、胸元のバッジをくんかくんかさせる。
途端、背後のアポロンさんから強烈な嫉妬と羨望の、それはまさに魂からの叫びとでも言うべき本音がぽろり。
「う、羨ましい…………ッ!」
そりゃあまぁ、あの巨大な果実をぽよんぽよんしているところを見れば男性はもちろん、正直同性だってちょっと触ってみたくなる。
風呂場で見てしまったから分かるけど、マジででかいし張りがあるんだよなぁ。一体何キロあるんだろう。
もはや嫉妬を通り越して神々しさすら感じるレベル。嫉妬する気すら起きないレベル。
準備の整ったゆきぽんは机に着地。かわいらしい鼻をぴくぴくさせて何度も何度もテーブルを回る。
ひとりひとりの顔を見ながらひと回りしては首をかしげ、再び一周しては首をかしげて不思議そうに我々の顔を覗き込む。
何かおかしなことでもあるのだろうか。やっぱりうさぎの嗅覚では探索不可能ということなのか。
一縷の希望は潰えてしまったのか。そうではないかと思い、すみれはがっくりと肩を落とす。
励ますために、ぽんと肩に手を置いて、
「帰り際に探してみよう。あたしも手伝うから」
と伝えると、
「ありがとう…………!」
と涙目ながらに満面の笑み。
ああああああーーーーーーッ!
お持ち帰りしてえええええええーーーーーーッ!
すみれのため息につられてみんなも残念と唸りを上げる。
と、何やら考え込んでいたゆきぽんが動きだした。すみれの前に出て、手に乗せて欲しいと合図を送る。
すくい上げるように小さな手のひらに乗るゆきぽん。懸命に体をゆすって近づきたい場所へと誘導する。
到達したるはすみれの左胸。そして、鼻先を胸につっこんでぐりぐりしているではないか。
あ……あぁ…………アァァァーーーーーーッ!
羨マシイッ!
チクショウアタシダッテサワッタコトナイノニッ!
すみれのふくよかな柔らかおっぱいをふにんふにん。
鼻でつんつん、手でぽんぽん。
アッ!
嗚呼ッ!
チックショォオッ!
ダメだちくしょうもう、アーッ!
アーーーーッ!
クソがッ!
ちくしょうクソがッ!
「ペーシェさん…………」
どん引きのエマ。
「うるさいぞペーシェ。とりあえず落ち着け。そしてお前はもう先に帰れ」
「帰らねぇよクソがッ!」
頭ブリッジのまま、ルーィヒをにらみつけて怒鳴りつけた。
「そんなことより、すみれの様子がおかしくないか?」
見ると彼女は小さな体をガクブル震わせて目を右へ左へ回しているではないか。
ゆきぽんで感じたのか。そうなのか!?
そこがウィークポイントなんですか!?
挙動不審なすみれ。今までにない顔をしていろんな色の汗をかいてるではないか。そういえば額に触られるのを極度に嫌っていた。
まさか胸もなのか。
胸もダメなのか!?
心配して駆け寄るも、細かく唸るだけで反応がない。
どうやら中身は自分だけの世界に没入して抜け殻が魂を探しているらしい。
こういう光景……どこかで見たことが、ある、よう、な…………。
そうだ、小さい頃にスパルタコが失くしたオモチャをとったとらなかっただとか言って友達を疑った挙句、そのオモチャは自分の鞄の中にあってフルボッコにされる前のタコ野郎そっくりじゃないか。
――――――まさか、そのまさかなんですか?
ゆきぽんは依然としてすみれの左胸をぷにぷにする。
否、左胸のポケットに頬ずりしている。
そのポケットは飾りのようなもので、ペンも入らないような小さなもの。入るとするなら例えば…………牛革のバッジとか。
あ、この顔は何かを思い出した顔だ。
驚愕と疑問と、今にも後悔で叫びたくなりそうな表情を固めたまま、左胸のポケットに指をつっこんで何かを取り出した。
それは金色に輝く絆の証。
友と短くも濃密な時間を過ごした思い出の品。
欲しい欲しいとねだるゆきぽんにそれを手渡すと、弟分のプリマの前に差し出し、彼はその感触をぷにぷにの肉球で確かめて頬ずりをし始めた。それはもうさぞ気持ちよさそうにごろんごろんと体を揺らす姿はかわいらしいの権化。
釘付けになるのも仕方がない。ただ1人、すみれだけはそれが自分のものであると確認。
魂からの叫びが木霊した。
「みなさん本当にごめんなさいぃぃッ!!!」
なんか、もう本当に、すみれってばかぁわゆいなぁッ!
あれだけ大騒ぎして、表情をころころさせて、実は自分が持ってました。ってさ、面白すぎるんですけど。相変わらずおちゃめな子だよ、まったくもう。
あまりに素っ頓狂な結末にみなみな様は大爆笑。今日の疲れが全部吹っ飛んでしまったよ!
真面目に頭を下げるすみれってば健気なんだから。
見つかったんだし気にしなくていいって言っても、涙を浮かべて謝るばかり。
罪滅ぼしが必要ならと、後夜祭の料理はうんとおいしいものを出してくれればそれでいい。そう提案して全員賛成。
すみれは涙を拭って、絶対おいしい料理を出しますと元気を取り戻してくれた。
そうそうそうそれ。
やっぱりすみれは笑ってる顔が一番かわいい!




