春風の妖精 6
お祭りの前日入りを相手にしたイベントがいくつかある。
オーロラストリートでは、この機に売れ残りの商品を捌くためのバーゲンセールが開催されていた。
カントリーロードでは、各家庭で作られた地産のジャムや土着の食べ物、レモネードなどを売っている。
大図書館前の公園はすでに屋台で賑わっていた。
チャレンジャーズベイの各工房では、体験会などが催されている。
我々はローザの勧めで、ステラの溶接体験会に参加した。
ここではあらかじめ用意された鉄製のパーツを自分の好きなように組み合わせ、接着させるというもの。
単純だが想像力がかき立てられて面白い。子供も大人も楽しめる企画のひとつ。
さすがグレンツェンと言うべきか、パーツの基本形は花びら。同じものを組み合わせると、スミレの花になったり菊の模様になったりと分かりやすい。
どこにでもありそうなデザインになるけれど、自分で作ったという特別感があるのは大きい。同じものを作っても作り手が違えば別物になる。
接着だけでなく、色付けもできるとなればさらに千差万別。自然では咲きえぬ色を咲かせることができるのだから面白い。
さっそくリリスがスミレの花をカラフルな色に塗り替える。
琴乃はリリスとお揃いのパーツを自分の好きな赤色に塗った。同じ物でも色が違うと印象が変わる。なかなかどうして良いではないか。
キキとヤヤもスミレの花。グレンツェンと言えばスミレの花と言ってお揃いの形と色。
仲良きことは素晴らしきかな。
アルマは大好きな金木犀と銀木犀。小さな花びらがかわいらしい。
桜は名前の通り桜の花びら。簪に溶接して、沢山咲かせて色を付けるととっても華やか。
桜の花びらと鉄の重厚感が艶やかさと力強さを感じさせる。まさに彼女の性格を体現したかのようなアクセサリー。
「暁は作らないの? せっかく来たんだし、何か作って行けば?」
語り掛けてきたのはアルマがお世話になってるというミレナ・ゼイ氏。
物腰柔らかで頼れる姉御肌。アルマの好きそうなかっこいいお姉さん。
「うぅむ。装飾品とか付けないから、自分が着飾ってるイメージが湧かないんですよね」
「よく見ると着てる服はハイカラだけど、イヤリングとか腕輪とかしてないね。髪色もそうだけど、素が派手だから小物とかなくても映える。それじゃあプレゼントにとかどう?」
「そうだなぁ。それじゃあジャンヌへのプレゼントに何か作ろうかな。バラが好きだから、バラをモチーフに……普段は髪を下ろしてるから、ポニテ姿が見てみたい。ヘアゴムにしよう」
よし、と構えて桜から驚きの指摘が耳に入った。
「暁さんってポニテ萌えですよね。修道院の女の子たちの髪を梳いた後は全員ポニテにしてましたし」
「え、そうだったか?」
「え、気付いてなかったんですか?」
涼しい顔で、桜はさも当然のように語る。
子供たちを全員、ポニテにしたっけか?
した気がするな。
ポニテ萌え……ポニテ萌え……言われてみればポニテは好きかもしれない。
具体的に何がどういいかは説明できない。しかし、なんかこう、さっぱりしていながら女の子らしい可憐さを放ってるというか、多分そんなところが好きなんだと思う。
自分がポニテにしかしてないから、同種の人間に寄るというのもあるかもしれない。
とにかくあたしはポニテが好きだ。
理由はどうだってよかろう。
そんなわけで、ジャンヌの髪をポニテにするべく、ヘアゴム用のアクセを作ります。
内側から外側へのグラデーションを意識しながら、ピンクから赤へ着色。ジャンヌのポニテを想像しながら、花びらを一枚一枚丁寧に溶接。
美しい金髪のポニテに生える赤色のバラ。
くるりと舞う彼女はまさに可憐な華そのもの。
あぁ~~……ジャンヌ。君はなぜジャンヌなんだい?
「見たこともないほど頬が緩んでいますけど、ジャンヌという方はどんな人なんですか?」
リリスは興味津々で疑問を投げかける。
応えるのは作業に集中するあたしに代わり、桜が対応してくれた。
「私も見たことはありませんが、ジャンヌさんは暁さんのお嫁さんです。金髪巨乳の可憐な少女だそうですよ。暁さんにゾッコンだそうで、暁さんが他の女の子と会話をするだけで闇のオーラを放つほど嫉妬心の強い方だそうです。でもそんなところが超かわいいらしいです」
桜も一度は見てみたいとよく言う。襲わないかどうか心配である。
「へぇそうなんだ。お互いに愛し合ってるんだな」
「暁さんの気持ち、よくわかります。嫉妬してもらえるほど一途に思われたいです!」
桜は愛されるより愛するほうになりそう。
「え、でもその方って女性なんですよね。暁さんも……女性?」
琴乃の疑問はもっとも。あたしはマイノリティだからな。
「女性同士で愛し合ってるってことだろ? 性の多様性ですな」
ミレナさんの見識は広い。
「本質を捉えなさい。幸福の追求をした結果なだけです」
リリスもよくわかってらっしゃる。
「はぁ……そういうものなんですか……」
琴乃はまだまだ世間を知らないらしい。
思われてるってだけで幸せを感じる。少なくとも、あたしはそういう性格なのだ。
さて、ジャンヌのことを思ってたらちゃちゃっと完成しちゃったぞ。
「よぉ~しっ、でっきった♪ どんなもんよ。なかなかかわいくできたんじゃないか? というわけで、試しに金髪のリリスに付けてもらいたいんだが、よいかしら?」
胸のサイズは違うが、金髪のリリスにポニテにしてもらってイメージを掴ませてもらおう。
思った通り、金髪ポニテに良く似合う。キラキラの金髪に赤色のバラ。緑色の葉がアクセント。歩くとアクセが揺れて躍動感もバッチリ。
ふわりと回ると春色ドレスが宙に舞う。金髪ポニテがふわっと踊る。
かわいいよリリス。ポニテのリリスかわいいよリリス!
「あぁ~~~~ッ! ジャンヌッ、愛してるうううぅぅぅーーーーーーッ!」
叫び、今すぐに会いたい気持ちになった。
いっそハティに頼んで連れてきてもらえばよかったと後悔してる。
「魔導防殻が全部ぶっ飛んで弾けるほどの咆哮。愛が止めどなく溢れてるっ! (リリス)」
「ここまで言われると一度見てみたいです (琴乃)」
「だな。愛のオーラが炸裂してる。はぁ~……結婚かぁ。全然現実味ねぇなぁ…… (ミレナ)」
「すみません。ついつい大きな声を出してしまいました。あとリリスは今日1日ポニテな (暁)」
「まさかのご指名! いいですけどねっ! (リリス)」
「ありがとうっ! (暁)」
やったね!




