表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/1086

春風の妖精 3

 左薬指に収まるであろう宝石の輝きから目を背けるようにして、日陰に咲く花を追いかけた。

 本当によく手入れされた庭園だと感心させられる。

 セチアの手掛けるフラワーガーデンも素晴らしいが、やはり規模が違うな。西から東までずぅーっと花の道で敷き詰められて、見て回るだけでも日が暮れそうだ。

 多種多様な花が咲いてるから全然飽きない。飛び回る虫も季節によって雰囲気を変えるのだろう。

 四季もあることからたくさんの変化を楽しめる。

 なるほど、世界中の人々を魅了しては移住したくなる理由がよくわかる。


 咲き誇る花々が素晴らしすぎて、時間を忘れる2人を野放しにしていると、本当に太陽が沈んでしまいそう。

 お祭り前日にしか見れないものは沢山ある。

 今日は我慢してそっちへ行ってもらいましょう。

 もう少しだけちょっと待ってと、あうあうしてしまう背を引いて、アルマたちのいる演習場へ引きずりましょう。

 好きが強いのはいい。でも、強すぎて目的を忘れがちになっちゃうから困るんだよなぁ。


 演習場へ向かう途中は、背の高い針葉樹に囲まれた。ただ生えてるだけに見えるこういう木々なんかも、きちんと手入れされてるのだろう。

 人の通る道は整備され、道端の草は同じ高さで切りそろえられている。

 枝の根本にある小鳥の小屋も、人の手が加えられて自然と共存しようとする姿勢が見てとれた。

 人間は自然の一部であり、別種の生存圏を侵害していく。だからせめて棲み分けや共存、資源の還元をしていく義務がある。これはまさにその体現。


 現在、メリアローザではアルスノート王国との街道を整備しようと準備している。

 我々も自然とのあり方を忘れず、自然との共存にきちんと向き合っていかなくてはならないな。

 野盗を嫌って宿場町を建設しようとしてるのに、動物たちの住処や食料を奪い、食べ物を狙って襲われたのでは本末転倒。

 もう少し意識して詰めていかなくては。


「暁さんが仕事モードの顔をしています。お祭りを楽しみに来たんじゃなかったんですか?」


 リリスに指摘されてはっとなる。いかんいかん。油断すると仕事脳になっちゃうな。


「んん? いやぁすまない。なにせグレンツェンは未来の世界みたいなもんだからな。学ぶことが多くて目移りしてしまうよ」

「たしかに話しを聞く限りでは、魔導工学は同程度に発達しているようですが、機械を用いた技術というのはあまりないそうですね。パソコンとかスマホとか。電子レンジや白物家電全般も」

「ぱそ……しろものか…………全然分からないな」


 ローザが何語を喋ってるのか分からない。グレンツェンにある固有名詞なのか。あとで詳しく聞いてみよう。


 ローザは疑問符を浮かべるあたしを見て話題を変えてくれる。


「でもこちらの世界にないものもありますよね。キキちゃんたちが見せてくれた紅葉珠のお守りも、この世界にはありません。特に驚いたのは、アルマちゃんが作ったっていう魔力保存器(マギ・ストッカー)。この世界ではまだまだ研究段階です。完成品なんてどこの国も作れてないんですよ」

「え、そうなの? 猫にあるおもちゃ屋さんが造った万華鏡をあれこれしてたら出来たって簡単に言ってたけど。そんなに難しいものなのか」

「わたしたち基準ですが、それに携わった人たちって全員天才なのでは…………?」


 天才っていうか、全員子供っぽいな。

 火がついた時の本気の大人は誰にも止められん。好きこそものの上手なれ、というやつか。

 桜は華恋を思い出して苦笑い。だけどどこか楽しそう。


「特に龍の職人さんたちは、なんだかんだで無理難題をこなしてくれますよね。華恋さんの注文するアクセサリーなんか、最初は『無茶言うわ!』って言いながら作り上げてしまいます」

「いったいどんな無茶ぶりを…………?」


 いろいろやらかしてるから全部は説明できんな。想像しやすいだろう例を引き合いに出そう。


「石に穴を空けてくれとか言ってたな。言うは易しだけど、石って穿つと基本的に割れるから。いやぁもう目が血走ってたぞ。密度が左右対称になる部分を見つけて、成型して、慎重に穴を空けて、って。意地と執念と職人技の成せる業だな」

「どっちも凄いですね…………あっと、そろそろ見えてきますよ。随分と大きな声が聞こえますが、何か揉めてるのでしょうか?」


 たしかに大きな声が聞こえる。声の主はアルマかな。

 数日会っていないのに、懐かしく感じるかわいいかわいいアルマの声。今は随分と声を荒げているが、ぷりぷり怒ったアルマもかわいいぞ♪

 さぁて何が理由で揉めてるのかな?

 まさかイッシュとネーディア絡みじゃないだろうな。

 仲良くやってくれてるといいんだが。


 アルマの声を聞いてダッシュしたのはリリス。アルマいるところにキキとヤヤあり。

 妹にしたい2人めがけてまっしぐら。知らない人たちは、凄い勢いで美少女が突貫してきたと面食らう。

 知ってる2人は、なんでここにいるのと素っ頓狂な表情をした。そりゃあそうだろう。知らせてないからな。サプライズだっ!

 突貫しに行くのは分かってたからあたしもダッシュ。

 キキとヤヤをリリスの妹にはさせまいと必死に阻止。割って入ってハグしてビズ。

 2人は誰にもやらんと声を上げた。


「ちょっと暁さん! 感動の再会を邪魔しないでください。いくら暁さんでも許しませんよっ!」

「キキもヤヤも誰にもやらんぞっ! 嫁に行くまで誰にもやらんっ!」

「「むぎゅ~……く、くりゅちぃでしゅ……」」


 キキとヤヤはあたしの妹だっ!

 リリスにだって、リンさんにだってやるもんかっ!


「暁さん。気持ちは分かりますが2人が潰れそうですよ。久しぶり、アルマ。随分と大きな声を出していたけど、なにかあったの?」


 桜の挨拶に、久方ぶりの親友は、


「ええと……どちら様ですか?」

「は?」

「え?」

「ん?」


 アルマは超絶かわいくおしゃれをした桜を見て、頭の上にクエスチョンマークを絶え間なく生み出す。

 首をかしげ、体を傾け、過去の記憶を探っていた。しかしどうやら見つからない。

 こんな女の子はどこにも見当たらない。


 彼女のことをよく知り、万年ポニテに黒装束の桜しか知らないアルマには想像もできないことだろう。

 まさか桜が白地に桜吹雪の超かわいい衣装を身にまとい、春風とともに登場するなど、アルマには想像もできないのだ。

 結局見た目では分からず、魔力の波動で個人を特定したようだ。目の前にいる少女が桜と分かってもなお信じられないと目を開いて絶句。

 あまりのギャップに爆笑が全身から放たれた。

 お腹を抑えて地面に転がっては、窒息死しそうなほどに大爆笑。聞いたこともないほど生き生きと大きな声を出す。


「そんなに変かなぁ。すっごくかわいいと思うけどなぁ」


 通常の感性を持ち合わせるライラックは興味津々に桜の衣装に食いついた。もっと褒めてあげてくれ。


「変というか、アルマが見てきた桜の姿とあまりに違いすぎて驚いてるんだ。まぁ2人の仲だからこその反応というか、久しぶりに会った友人のあまりの変貌ぶりにどう返していいか分からないんだ。きっと」


 アルマのは嘲笑も少し混ざってるかもだけど。


「そういうものなんですか? それにしても本当に素敵なドレスだね。こんなのどこで売ってるの? なんていうブランドの服?」

「春色の桜吹雪。とっても綺麗。腕のキラキラは何?」

「本当に、春を告げる妖精さんみたい」


 ライラックもマーガレットも、ベレッタも瞳を輝かせて羨ましがる。そうだろうそうだろう。かわゆかろうて。

 めっちゃ褒められて照れてる桜、かわゆいぞ♪

 普段見せない乙女な赤面が見れて満足です。


「ええと……これは全部、暁さんに特注で作ってもらった服なので、特定の商品とかそういうものではありません。このキラキラしているものは貝殻の真珠層を切り出してはめ込んだものです」

「オーダーメイドなの!? どうりで似合ってるわけだ。いいなぁ、私も欲しいなぁ」


 ライラックも似合いそうだ。ここはアルマの後継人として、彼女の友人の好感度を上げておきたい。


「メリアローザに来ることがあったら作ってあげるよ。その時はライラックの花の絵を持参して欲しいな。土地柄もあって、メリアローザにはライラックは咲いてないから」

「本当ですか!? 是非お願いします!」

「もちろん、女に二言はないっ! その時はマーガレットもベレッタも一緒にな」

「ふわぁ……ありがとうございますっ!」

「いいんですか? わたしにまで」


 いいもなにも、あたしが見たいんだ。

 晴れ着に身を包んだ美少女たち。最高じゃないか。

 ということを言うと引かれそうなので、心の内に留めておきます。


「良きに計らえっ! でだ、アルマはそろそろ起き上がりなさい。恥ずかしさで桜がぷるぷるしてきたぞ。怒りが爆発する前に褒めてやれ」


 地面を転がり回るほど面白いものじゃないだろうに。


「ぷっくふふふふふ…………ッ! ちょーにあってる。桜ってばちょーかわいいよ。ぷふふっ。あの着た切り雀の桜がこんな、髪を下ろして、スカートにドレスを着て、しかも春色コーデでおしゃれなんて――――――ぷふぅーーーーーーッ!!」


 アルマだって着た切り雀だろうが。

 さすがの桜も怒り心頭。今にも殴りかかりそう。


「くっ……驚くだろうとは思ってたけど、ここまで笑われるとは心外なんだけどッ!」

「あっはははは、ごめんごめん。本当によく似合ってるよ。普段からおしゃれすればいいのに。桜はフツーにかわいいんだから」

「なっ……褒めたってなにも出ないんだからね。でも、まぁ、ありがとう」


 いやぁ~仲良き事は素晴らしきかな。やっぱりおしゃれをすると乙女心がくすぐられるようだ。無理を言って私服を新調させた甲斐があったというもの。

 めちゃくちゃ嫌がる桜を組み伏せて採寸した時はもう大変だったからな。暴れるほど嫌がらなくったっていいのにな。

 アルマの笑顔と、赤面しながらも内心は褒められて喜ぶ桜の顔が見れただけで大満足です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ