いきなり挫折 1
今回はアルマが中心のストーリーです。
仲間と共に頑張っていきます。彼女は魔法が大好きなので、魔法がらみのイベントを企画しました。
努力家で向上心が強いですが、考え方はまだまだおこちゃまです。
ツンデレではないツインテールは可愛いと作者は思っています。
どうか温かい目で見守ってあげてください。
以下、主観【アルマ・クローディアン】
しゃぼん玉に乗ってお空の散歩計画。
そう銘打って、自信満々に参加者の募集をかけた。
思ったよりも人が集まらなかった。
基本構想はしっかりしてるつもり。
内容自体も悪くないと自負してた。
とはいえ、やっぱりグレンツェンに来たばかりの無名の新人では仕方がないのか。くわえて、成人したとはいえ15歳。おこちゃまであることは否めない。
経験豊富な大人の参加はなく、同年代の子とそのお友達や姉妹。
ぬぅ、こんなはずでは。
イッシュ・ヴェラン。15歳。
やや高身長ではあるが所詮は子供心が抜けないおバカさん。将来は王国騎士団長になるらしく、それなりに体力と魔力量を持ち合わせてるらしい。
おつむの中身が伴っていれば問題なさそうなのに。
ネーディア・アーザン。15歳。
年相応な悟り男子。キザっぽい切れ長の目。一見するとクールだが中身はやはり子供。
イッシュと幼馴染の間柄。売り言葉をすぐに買い付けるあたりは精神が幼い。
将来は宮廷魔導士になると言ってる。今のままでは面接で落とされそう。
ライラック・バディラン。15歳。
彼女はまだマシそう。しっかりした性格だし積極的に会話に絡んできてくれる。
花屋の長女で家の手伝いもしてるだけあって、幼馴染の2人に比べて視野が広い。
妹を溺愛してるあたり、ヤヤちゃんと気が合いそう。
マーガレット・バディラン。11歳。
ライラックの妹で人見知りな女の子。姉のことが大好きでいつも後ろについて回ってる。
おっとりとしていてマイペース。ある意味キキちゃんとは正反対の性格。
時折明後日の方向を見て夢想してるようにも見えたが、暮れない太陽で暮らしていて、彼女が何を目で追ってるのかは察しがついた。彼女は霊感が強い。
彼ら4人とアルマとキキちゃんとヤヤちゃんを合わせて7人。
正直言って7人では厳しい。しかも子供ばかりが集まる予定ではなかったからさらに厳しい。
年齢制限を設けることもできたが、年下が年上を積極的に募集するのもバツが悪いと思い、全年齢で貼り出したのが裏目に出てしまった。
こうなったら、キッチン・グレンツェッタに行ってるハティさんとすみれさんを当日の助っ人に呼べないだろうか。
普通に考えて当日は2人も忙しいだろう。困った。本当に困った。
何が困ったって、アルマの企画の概要としては、しゃぼん玉の中に人を入れて空中浮遊させ、ふわふわと浮かびながらグレンツェンを一望するという内容なのだ。
その為にはある程度、練度の高い魔力でもって泡の膜を張る必要がある。はたして彼らにそこまでの魔力があるのだろうか。視る限りでは期待できない。
キキちゃんもヤヤちゃんも決して魔力量が多いとは言えない。そもそも2人には企画の準備と客寄せのつもりで呼んでいる。
アルマの魔力なら十分な練度があるけれど、3日間を通して1人で魔法を起動させ続けるのは無理としか言いようがない。どうしたものか。
虎の子を出すしかないのか。
悩むアルマを前に、花屋の長女が会話を弾ませようと努力してくれた。
「ねぇ、アルマはなんでこの企画を立ち上げたの? あ、変な意味じゃなくて。一応15歳は成人ってことで企画の申請はできるけど、今まで15歳で申請した人なんていないから、どうしてかなって」
「それは…………自分の夢を叶える第一歩というか、今の自分がどこまでできるのか試してみたくて」
そう、アルマの夢は魔法でみんなを幸せにすること。
世知辛い世の中、魔法は誰かを傷つけ、己の身を守るために使われる。それは仕方ない。力があるのなら生きるために使うべきだ。自分だってそうやって生きてきた。
それしかないと思って歩んでいた。
でも、ナコトさんや暁さんに出会って、それだけじゃないって知ったんだ。だからアルマは魔法でみんなを幸せにしてみせるって心に誓った。
これはその最初の一歩。今まで学んできた集大成。内容は子供っぽいと言われるかもしれないけれど、成功させて、笑顔にして、自分の歩んでる道が正しいんだって信じたい。
だからそのためにはまずは準備だ。時間は多いようで限られている。
まずこの3日の間に最低限の資材の調達。人が入るだけの大きさの桶とふり輪の見積もり。
しゃぼん液の購入。
魔術回路のブラッシュアップ。
万が一の事故への対策。
試験運用を繰り返して本番に備えなければならない。
とりあえず出し合った意見をまとめて今できることをしよう。
「しゃぼん玉用石鹸なら玩具屋さんに置いてあるよ。でも人が入れるほどのふり輪はさすがにないだろうから、手作りしなきゃいけないかも。でも一番肝心なのってしゃぼんに飛行と強度を付与する魔法だよね。そこは大丈夫?」
ライラックの心配はもっともである。この企画の根幹だからね。
でも大丈夫。と胸を張って安心させよう。
「ずっと練ってきたのがあるからその辺は大丈夫。でも巨大なのはまだやったことがないから早めに試験したいんだ。とりあえず通常サイズで試してみたい」
試験段階であることを伝えると、マウント男子が顎の裏を見せてきた。
「え~。魔術回路ってオリジナルなの? てっきり市販の簡易魔法符を使うのかと思ってたぜ。大丈夫なのかそれ」
疑問符を向けるイッシュの鼻笑いを叩きのめしたい。
続いてネーディアが援護射撃。
「分からないからやってみるんだろうし、できる目途が立ってるから募集したんだろう。ダメならダメな時に考えればいい。補助金目当ての企画の取りやめは重罪だが、失敗してダメだった分には免除される。本番前の監査でな」
上から目線のネーディアの顎をアッパーパンチしたい。
よし、言葉で殴ろう。
「いやっ! やるからには絶対に成功させる。フラワーフェスティバルには暁さんも来るって言ってるんだもん。恥ずかしいところなんて見せられない!」
「「「暁さん?」」」
おっといけないいけない。向こう側の人々の名前は出さない方がいいんだった。
何を隠そう我々、アルマ、キキちゃん、ヤヤちゃん、ハティさんは異世界人。
無用ないざこざは避けなければならない。
でもまぁここは素直に、アルマの尊敬する素敵な女性だと説明しておけば間違いないだろう。
自然な会話で話しを逸らし、玩具屋さんでしゃぼん玉キットを購入したアルマたちは、雑貨屋さんの横に佇む小さな公園で魔法を試してみることにする。
一般的な直径5cmのふり輪を手に、受け皿に魔術回路を刻んで魔力を注ぐと、細かいアラベスク模様が浮かびあがる。
飛行の魔術回路と、本来は武具に使用される強度強化をアレンジした魔術回路を組み合わせたアルマオリジナルの魔法。
ひとまず受け皿の上に小石を置いて、それをしゃぼんの中に入れて浮かせてみよう。
みんなは期待半分、疑問半分でアルマの手元を凝視した。
これが成功しなければ、アルマの企画は根本から崩壊するだろう。最も大事な部分が成立しないのであれば失敗も同然。誰も信用はおろか、期待を寄せたりなんかしない。
4人は軽い気持ちで参加してるし、少し他力本願なところもあるけれど、それは中心人物であるアルマを少しばかりとも信じてくれているからだ。
なにはともあれ一期一会。ここでやらずにいつやるかっ!
静かに、ゆっくりと、ふわりと持ち上げたまんまるの薄い膜は、それよりはるかに重い小石を乗せて空に浮いた。
一瞬浮いて、そのまま地面に落下。
強度が上がってるから壊れてはいない。しかし中身の重さに負けて落下してしまった。
なんということだ――――そうか!
膜には飛行が付与されているが、中身の重さはそのままなんだ。解決するためには飛行魔法と同じ要領で、中身の石ごとしゃぼん玉を術者が操らないといけないわけで。
実際には人間が搭乗するので、人を浮かすだけのパワーが必要なわけで…………。
いきなり計画が破綻する音が聞こえる。アルマとしたことが。こんなことになるとは。
奢った。実際に試してなかったのが致命的。頭の中と現実は違うって分かってたはずなのに。いや分かってたら地に伏してないよね。どうしよう。
「うわぁこれマジで壊れねぇや。ぐにぐにするけど割れねぇ!」
イッシュは好奇心旺盛な赤子が如く、アラベスク模様に輝く構造色のしゃぼんを握りしめる。
「だ、大丈夫ですよアルマさん。空に飛ばなくても、そう、しゃぼんの中に入って走り回るのはどうですか? これだけ強度があれば多少乱暴に扱っても大丈夫でしょうし、それはそれで楽しいアトラクションになると思いますよ」
違うんだよ、ヤヤちゃん。
走るだけじゃダメなの。
それなら空気で膨らませたビニールの珠に入ればいいだけだもん。
「アルマは…………アルマはしゃぼんの中に入って空中遊泳したいのっ!」
そう、夢にまで見たしゃぼん玉での空中遊泳。それが実現できると思ったのに。
ちくしょうやり直しだ。立ち止まってる暇なんてない。
とりあえずイッシュ、失敗作で遊ぶのやめろっ!
取り返そうと手を伸ばすと、どういうわけかイッシュの手の中から失敗作がなくなってる。キャッチボールでもしたのか。それとも渡すまいと嫌がらせか。こっちは真剣に悩んでるっていうのにふざけないでよ。
顔面チョップを入れてやろうと顔を睨みつけた。眼光鋭く突き刺すも、彼の視線はアルマの背後にある。顔はなぜか青ざめていた。
彼の視線の先には1人の女性。手には失敗作が握られて、おでこをこすりながらこっちへ向かってくる。
どうやらしゃぼんの操作を誤って、見ず知らずの人にぶつけてしまったらしい。マジでいらんことしぃか。やりやがったなこの野郎。
謝罪を連呼するイッシュの頭を撫でて許す黒髪の女性のなんと心の広いことか。
使い込まれた黒塗りの三角帽。内側は夜の星座が輝いて明滅した。
20代後半だろか、落ち着き払った物腰には誠実な色気さえ感じる。
「これ、もしかしてあなたが作ったの?」
夜の魔女のまっすぐな瞳にアルマが映る。
「えぇ、はい。アルマのオリジナルの魔法です。たいしたものではないのですが。それより、お怪我はありませんでしたか? 大丈夫ですか?」
「あぁ、怪我のことなんて気にしないで。それより面白いものを作るのね。でもしゃぼん玉が割れないように強度強化の魔法をかけるのはわかるけど、なんで小石が入ってるの? 飛行の魔法を付与してるのはなんで? グレンツェンで流行ってる遊びか何か?」
なぜだかめっちゃぐいぐい来る。
ここに至るまでの顛末を説明すると、彼女は目を輝かせてアルマの魔法を絶賛してくれた。
素敵な夢だと、面白い魔法だと全肯定してくれる。この温かな感覚、どこかで味わったことがある。
そうだ、暁さんに褒められる時もこんな感じだ。彼女の太陽のような優しさに触れて、またぎゅうっと抱きしめて欲しくって、ずっと頑張ってきたんだった。
報われたような気持ちになる。現実は失敗作が1つできあがっただけ。現実はなんて残酷なのだ。
それを愚痴ると彼女は優しい笑顔を見せてくれるのだ。
「失敗なんて誰にだって付きものでしょ。アルマちゃんは失敗を恐れずに頑張ってる。それってとっても大事なことだと思うわ。ねぇ、よかったら私にもアルマちゃんの夢を応援させてくれない?」
「いいんですか? とても嬉しいことですが、ええと」
「自己紹介がまだだったね。私はマーリン。マーリン・ララルット・ラルラ。グレンツェンに住んでるわけではないけれど、是非お手伝いさせて欲しいの。私も魔法が大好きで、あなたの魔法に興味があるわ」
「いいんですか? とっても嬉しいです。ありがとうございます!」
思わぬ助っ人を手に入れて世間話もそこそこに、彼女は夕暮れの中に消えていく。
不思議な雰囲気の人。優しくて寛容で、とっても素敵な女性だった。
マーリンさんも加わり、色々と話し合った結果、魔術回路の改修をアルマとマーリンさん。
しゃぼん玉関係をキキちゃん、ヤヤちゃん、マーガレットちゃん。
その他、看板や資機材をイッシュ、ネーディア、ライラックが担当することとなりました。
がんばるぞっ!




