引っ張りアルマ 2
日も暮れて愛しの我が家。
やらかしてしぼむ心が1割。
モツが手に入る希望が湧いてるんるん気分が9割。
そういうわけで嬉しくってずっとにやけ顔なのです。
酔ってるのかと見紛うほどに頬を紅潮させ、ハティさんと帰ってきたものだから、晩御飯をすませてきてしまったのかと勘違いさせてしまうほど。
今日はもうきっとずっとにやけ顔。きっと明日もにやけ顔。
なにせ嬉しいのはモツが手に入るということだけではない。
暁さんたちがグレンツェンのフラワーフェスティバルを満喫するために訪れるのだ。
数日前に会ったばかりなのに、それまでの時間が濃密すぎて遠い昔のことのよう。
体感的に久々に会う気がして、今からとっても楽しみなのです。
久々に会うと言えば、暁さんと一緒に桜も来る。かれこれ十年来の大親友。
彼女はアルマと違って肉弾戦を得意とする暗殺者。
アルマが最も信頼し、そして最も尊敬する存在の1人。本人に直接そんなことを言うだなんて恥ずかしくてできないけれど、九死に一緒を潜り抜けてきた戦友として、心の底から敬愛していた。
大親友にみっともない姿は見せられない。明日も本番前のリハーサルを予定している。気を抜かずにしっかりやってるところ見せつけたい。
アルマは元気でやってると知らしめたい。
「明日は暁さんも来るんだ。後夜祭にも来てくれるかな?」
すみれさんもわくわくが止まらない。毎日が楽しそうで、アルマまで楽しくなっちゃう。
「キッチンの方々さえよければ、絶対来ると思いますよ。暁さんはお祭りが大好きですから」
「それじゃあみんなに相談しておくね。暁さんにはキッチンとしても、私個人としてもとってもお世話になったから、いっぱいお礼がしたいの。まだ使ってはないけど、マグロの解体包丁のお礼を言いたくて」
そういえばそんなの渡したな。
身近になさすぎて忘れてた。
「そういえば解体包丁が台所にはないようですが、自室で保管されてるのですか?」
ココアのコップでおててを温めなながら、足をぷらんぷらんさせてるヤヤちゃんも幸せそう。
彼女も海産物が大好きだから、マグロがいつ食べられるか気にしてるみたい。
「ううん。やっぱり包丁だし、大きいしで、スーパーの店長さんに相談してお店に置いてもらってるの。あそこ以外で使うところもないだろうし、個人で持ってると、やっぱりちょっと危ないから」
「言われてみればたしかにそうだよね。あんな大きな包丁、台所で抜刀しても振り回せない」
「ということはマグロ料理が食べられるということですか? アルマはネギトロ丼が好きです。刺身も兜煮も大好物ですっ!」
「マグロはどこもおいしいもんね。その時になったら教えるから、楽しみにしててね♪」
「「「やったぁ~♪」」」
キキちゃんとヤヤちゃんとハイタッチ。ハティさんはガッツのポーズで満面の笑み。
またひとつ、楽しみが増えてしまった。
グレンツェンにいると楽しみが尽きませんなぁ~。
お祭りが終わったあとの魔法の講義も楽しみだ。
ショコラで空中散歩も是非やりたい。
アーディさんに魔導工学についても教えてもらいたい。
レナトゥスの魔術師たちにも会ってみたい。
やりたいことが多すぎて、楽しみが多すぎて目がくらんじゃう。
いやぁもう、しっかりしようとしたけど、ついついにやけちゃいます。
さぁさぁ明日よ、輝かしい太陽よ、息づく全てに祝福あれっ!
どこの世界でも情熱をもってことに当たる人というのは輝いているものです。
アルマもそんな1人。企画課のリナも技術職のミレナも、アルマと仕事をしたいと思えるほど、強烈に惹かれています。
でもそういう人って何かしらやりたいことがあるもんですから、なかなか引き入れることってできないもんなんですよね。
次回は、小話を挟んで暁主観のストーリーです。異世界をいいことに、お姫様が暴れまわります。手綱を握っているつもりの暁もたいへんです。
解き放たれたお姫様と下ネタ大好き娘がいます。街の案内にローザを連れて歩きながら異世界ギャップを楽しむお話しです。




