決意のココア 2
以下、主観【エマ・ラーラライト】
行ってしまった。相変わらず衝動的に行動する人だなぁ。
行動力があると言えば素敵な響きだけれども、巻き込まれる側はたまったものではない。
心構えをするより先に、首根っこを掴まれてしまうと心臓が飛び出そうになる。悪い人ではないんだけど…………。
ともあれ疑惑の解消についてはハティさんがいれば大丈夫でしょう。元々、彼女のつてでコカトリスも一角白鯨も手に入れたのだ。
ハティさんが手を引いて、お友達に証明してもらえれば説得力が増す。動画に出てきた人……恐竜さんだった、が身の潔白を明かしてくれればなおのこと。
食材の出自の確認以外は全てクリア。とりあえず我々は安堵のため息をついて肩を落とした。
もしも万が一にも、ここで不合格を喰らえば全ての努力が水の泡だったのだ。本番2日前にしてこんなに恐ろしいことがあるだろうか。
事前に企画書を出し、ちょくちょく監査委員の1人であるヘラさんが見にきてたから、おそらく本番の今日も大丈夫だとは思っていても、いざその時になると緊張した。
慣れた様子で案内をしたペーシェさんも、椅子に腰深くかけ、ながぁ~いため息をひとつ。
やっぱり彼女も相当きばってたみたい。
彼女だけじゃない、みんなそう。ただ立って笑顔を作っていたとしても緊張してた。
だからリーダーとして、まずはお疲れ様と労って、本番へ向けて頑張ろうと檄を飛ばす。
芝居臭いぐらいにリーダーっぽいことをしなきゃと気負ったのがバレて恥ずかしくなるも、みな微笑ましく私を見て笑顔を返してくれる。
気恥ずかしくもみんなの心遣いが嬉しくて、ちょっぴり心があったまった。
片付けも終わり、シルヴァさんとすみれさんからホットレモンティーが配られる。
はふぅ~……落ち着いていたらハティさんが帰ってきた。なにやらお土産がどっさりだ。
両手に果物をかかえてご満悦。テーブルに広げるなり、二コラさんとスパルタコさんを連れてアイザンロックへ旅立った。
まるで水を得た魚の如きはしゃぎっぷり。
よほど頼られるのが好きなんだなぁ。
なんだかこっちまで楽しくなってしまいます。
「で、これからどうするんだ。監査は終わったけど、あの様子だとハティさんがいつ帰ってくるか分からないぞ。アイザンロックで宴会とかしちゃいそう」
ぐったりウォルフの指摘はもっとも。
スパルタコさんも一緒だから宴会コースまっしぐら。
「それは……ありそう。スパルタコさんは双子のウェイターさん目当てですし、あの船長さんのことだからお酒を注ぐよね。二コラさんも酒とご飯を食べ始めたら時間を忘れそうだね」
「二コラさんって、母さんの幼馴染だから家族ぐるみで付き合いがあるの。彼は美食家で、悪酔いするタイプではないんだけど、飲み始めると時間を忘れてしまう癖があるわ」
だから当分は帰ってこない。ローザさんは肩を落として諦めムード。
「やっぱりそうか。ビールの飲みっぷりを見てなんかそんな気がした。それじゃあしばらく帰ってこないなぁ。ハティさんには悪いけど、あたしたちは解散にするか。連絡のつけようがないし…………」
ウォルフが目配せをして周囲にどうするか訴えるも、どうしようもないという反応が返ってきた。
もしやすると、アルマさんなら連絡がつくかもということで、ローザさんが電話でその旨、伝えてくださいました。
「ハティは衝撃的に動くから、ミーナたちも対応が間に合わん。あ、このマンゴーは後夜祭で使うからリザーブな」
ミーナさんは今しがたハティさんが持ち帰った果物をキープ。はて、後夜祭でどのように使われるのか。
「ジュースにするんですか? ミックスフルーツジュース。おいしそう」
ガレット様の妄想に寄り添いたい。今はとても疲れてるから甘いものが欲しい。
でも彼女の使い方はひと味違った。
「ジュースもいいけど、マンゴーをペースト状にして隠し味としてビーフシチューに入れるんだ。甘味と酸味がコクを引き上げるのだ。超おいしいぞ、きっと!」
「お、おいしそう…………ッ!」
妄想に拍車がかかるガレット様。甘めなテイストが好きな彼女は特製ビーフシューに思いを馳せる。
「素敵な使い方だわ。とりあえず冷凍庫に入れておきましょう」
ビーフシチューに果物のソース。果物ソースを肉や魚にかける食べ方というのは一般的であるということは知っていた。まさかシチューに入れてしまうのか。
紅茶にジャムを混ぜたり、カリーの下味をつけたフィッシュ&チップスに、カリーソースをつけてダブルカリー味にしたりと、おいしい変化球はそこかしこにある。
彼女のアイデアもその延長線上か。
尊敬すると同時に悔しくもある。
勉強不足な自分が小さく見えてしまって仕方ない。
いやいや、これから頑張ればいいじゃないか。幸いにも料理に詳しい人がたくさんいる。夢のために、一歩ずつ、前へ前へっ!




