討伐! コカトリス
ファンタジー物っぽい回がやってきました。
ファンタジーと言えば怪物とかモンスターと戦うやつですね。
でも今回は食糧調達なのでそんなドラマは起こりません。すみません。
以下、主観【小鳥遊すみれ】
大図書館前。大きな噴水のあるグレンツェン記念公園。
グレンツェン中央駅から春の花咲くアーチを抜けて、真っすぐ北へ歩くと異世界との出会いと言わんばかりの景色が広がる。
噴水を背に構えるグレンツェン大図書館も壮観。それ以上に目を引くのは、公園に咲く色とりどりの花々。
中央部分は春の花。春が過ぎても楽しめるように背の高い夏の花も、街路樹の秋の木も、通年を通して季節が楽しめるように工夫された作りはグレンツェン夫人の愛のなせる業。
そしてそれを連綿と受け継いできた人々の努力の結晶。
今日の集合場所は花咲く楽園。ベンチに座って待ってると、ぞくぞくと集まってくる仲間たち。
明らかに季節とマッチしてない服装の集団が集まってくるにつれて、周囲の視線も集まってくる。
季節は春の入り口。早朝だから少し肌寒いとはいえ、厚手の生地のうえ、長袖長ズボン。
スパルタコさんにいたってはあのダサい軍服。本当に着たんだ…………。
「みんな早いな。5分前なのに揃ってるじゃないか」
「アーディくん、おはよう。みんな待ち遠しくて早起きしたみたい。そうそう、一応引率の責任者はユノだけど、ユノのサポートはアーディくんにお願いするわ」
「了解です。ヘラさんはお見送りで?」
「行きたいのはやまやまなんだけど、時間とれなくって。発案者なのに全然顔を合わせられなくてごめんね、みんな」
「いいんですよ。この街で一番忙しいのはあなただと、みんな知ってますから。今だってなんとか時間作って来たんでしょ」
「もぅ、わざわざ察してくれなくっていいのに」
ありがとうの苦笑いを向けたあと、ヘラさんは簡単な挨拶を済ませ、風のように去ってしまった。市長さんって忙しいんだなぁ。
もっとお話しがしたいのに、フラワーフェスティバルの前後は手続きやら準備の確認やらで超忙しいらしい。今日も仕事がてんこ盛り。だけど出庁前に立ち寄ってくれたのだ。
それだけ我々のことを気にかけてくれてるということは、とてもありがたいことだと思うのです。
バトンを渡されたユノさんの隣で、コカトリス討伐が待ち遠しいハティさんが両手をぽむんと閉じて視線を集める。
「さて、それじゃあみんな準備万端。向こうでの役割は現地に行ってから説明する。実際に見てから決めた方がいいと思う」
彼女のやる気に待ったをかけるべく、ユノさんが疑問を投げる。
「それはいいんだけど。日帰りの予定って、電車で行ける所なの? グレンツェンの近くにコカトリスが生息してるなんて聞いたことないんだけど」
「ううん。ここからみんなで時空間移動する。それじゃ、えいっ!」
なんの説明も前準備もなく、ハティさんが手を叩くと、なんということでしょう!
さっきまで噴水のしぶきあがるカラフルな楽園にいたのに、テレビのチャンネルがパッと切り替わるように世界が一変。
原始の生命体が息づく楽園に放り出される。
背の高い南国の木々。
鬱蒼として先の見えない森林。
甲高い獣の鳴き声が響き渡る高い空。
ここはダイナグラフ・キングダム。
人の立ち入らぬ未知の土地。
幸い時空間移動先は一枚岩が地面に埋め込まれていて、草木が生い茂ってないから動きやすい。
動きやすいのだが、この特別感が余計な危機感を煽ってくる。
単純に考えれば儀式の祭壇。生贄があれやこれやされてしまう場所。
これは夢か?
誰もがそう心に言葉を浮かべて互いの顔を見合う。
分からない。何が起こったのかさっぱり分からない。
ワープと言ってたけど、空間移動は宮廷魔導士の中でもベテランの、しかも才能のあるごく少数の賢者しか使えない程の高度な魔法。
それを一度の魔法で、23人からなる人数を移動させるなんて理解できない。
特にパニックに陥ってるのは年上のユノさん。彼女は若干20歳で宮廷魔導士となった才女。常識に縛られるがゆえに、今起こった非常事態に困惑したご様子。
「おおう、待っておったぞ。獣の神にして王とその友人たちよ。さっそくだが準備を始めてもらいたい」
随分と高いところから声が聞こえる。
威厳を感じる声色。
とても人間のものと思えない声量。
「うん、それじゃあ説明するね」
「なんだ、まだ話してなかったのか」
「現地に来てから説明した方が分かり易いと思った」
「なるほど。ハティ殿がそうおっしゃるならそうしよう。おおうそうだそうだ。自己紹介がまだだったな。我はダイナグラフ・キングダムの王。アブラドラフ恐竜王である。申し訳ないが君たちの自己紹介は後にして、コカトリスのとうば
「ゴゲッゴッゴオオオオオオオォォォォォォォォォォッ!」
「AAAAAAAAAAAAA!!!!UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!!」
遠くから野太く不快な鳴き声が聞こえたかと思ったら、全長50mはあろうかというティラノサウルスが天に吠えた。
衝撃で雲に穴が空いた。
王様がUZEEEなんて言うんだ。
さて改めて観察してみよう。
鋭利な爪。
強靭な尾。
歩けば地鳴る屈強な両足。
頑強な頭部。
そして王の貫禄を思わせる鋭い眼光。
どう見てもティラノサウルス。
ハティさんの友人を、原始人的なのを想像した我々としては度肝を抜かれたというか、驚きすぎて声も出ないというか、驚きを通り過ぎて受け入れるしかない現実を素直に受け入れるしかないというか。
命の危機を感じて騒ぎまくるとかそんな次元はとうに超えて、命を諦める準備ができてしまったがゆえの冷静さを感じる。
呆然とする我々をよそに、王様は堂々とした態度でいらっしゃる。
「あぁ、恥ずかしいところを見せてしまったな。我は奴らの鳴き声が生理的に受け付けんのだ。毎朝騒音被害に悩まされとる。あああああもうちくしょううぜええええええッ!」
相当ストレスが溜まってらっしゃる。
怒りのまま理性を失って1人ずつ食べるとかないよね。大丈夫だよね?
今も頭を地面にガッツンガッツンして、腹の中にはびこる鬱憤を吐き出してるけど大丈夫かな。頭は痛くならないのかな。
しばらく地面を揺らして落ち着いてから作戦会議。
まずコカトリスの寝床から餌を撒いて狩猟地区までおびき寄せる。
ハティさんがタイミングを見計らってコカトリスの首を斬首。
斬撃を繰り出しても走り続けるから、トラップポイントまで走りぬいて捕獲。
そんな簡単な流れ。言葉だけなら。
実際は…………
「いやぁ、まさか撒き餌役があたしたち人間とは。さすが恐竜王国。倫理なんて存在しないのね」
がっくりと肩を落として諦めムードのハイジさん。
「コカトリスは自分より大きな存在の前だと逃げだして、小さいものを狙って追いかける習性があるから、恐竜王たちでは逃げてしまうってね。とんだチキン野郎だ」
やらなきゃ食われると思って諦めの極致を放浪するペーシェさん。
「しかも2匹いるから2人が餌ってな。囮役の説明無しで足の速いやつって言われて、ウォルフとルージィが手を挙げたけど、あいつら大丈夫かな」
囮役が俺じゃなくてよかった。心底そう思ってるスパルタコさん。
「ハティさんがいるから大丈夫じゃね? てかそもそも恐竜で鶏を殺しに行かないってどうなの? 逃げるって言っても包囲すればよくね?」
「石化の吐息と猛毒の羽に耐性がないらしいです。ハティさんが備えてるから狩猟時期に頼んでるらしいことをさっき言ってました。ウォルフさんとルージィくんには耐性があるんですか? それとも後付けで耐性付与をしてるとか?」
知識欲が勝るのか、めちゃくちゃ楽しそうな笑顔を作るユノさん。
「いや……俺は何も聞いてませんけど。もしかして何も考えてないとかないよな」
「……それは…………ないと思うけど。多分」
「おっ、2人が血相変えて走って…………なんだこの絵は。地獄かよ」
絶句しかないアポロンさん、クスタヴィさん、ダーインさん。
なるようにしかなるまい、と諦めて2人の無事を祈った。
無表情で本気走りをするウォルフさんとルージィさん。
後ろには斬首されても走り続けるコカトリスの首から下。
鶏もこんな風に走り回ったっけ。大きさは違うけど、本質は同じなのかもしれない。
とにもかくにも2人は撒き餌役を全力で全うし、ハティさんは討伐に成功したらしい。
であればトラップポイントで待機する彼らの最後のお仕事に期待しましょう。
2人が走りぬいて、縄を切って網を張る。
それで捕獲完了という流れ。
タイミングが超重要。
もし間違えれば素通りしてしまう。ルージィさんとウォルフさんの体力は限界が近く、速度が落ちてコカトリスとの距離が縮まっていた。
追いつかれれば毒で即死。
踏み潰されてもデッドエンド。
マジに本気のデッド・オア・アライブ。
現状の再確認をしながら笑い話をしていた面々も、仕事の時間となれば顔が違ってくる。
槌を振り下ろしてトラップを起動させる役とタイミングを出す人。呼吸を合わせて、1、2、3!
「やべえッ! こっち遅れた1匹通過!」
「何やってんだタコ野郎ッ!」
「とにかく離れろッ! 毒は空気中で殺菌されるが時間がかかる。逃がした奴は最後の砦に任せろッ!」
ルージィさんはあらかじめ確認していた横道に逸れて離脱。
ウォルフさんは機を逸して獣道を走り続ける。タコ野郎、あとでぶっ殺す。そう呪いながら。
命を懸けて走りきったゴールは深緑色の巨大なアーチ。もとい恐竜王の股下を駆け抜けて、万事に供えて構えていた王の顎が騒音の元凶に襲い掛かる。
頭を失った体は簡単に捕まり、日ごろの憂さ晴らしにと地面に叩き付けられた。
全長30メートルの巨大な鶏を無事討伐。
いったい何キログラムのお肉がとれるだろう。お肉になったらかわいくみえます。不思議ですね。
「あぁ~、毒がちょっと入っちゃったよもぅ。げほっ。1週間は下痢が続くんだよなぁ」
下痢で済むんだ。
「さて、それはそうと、いやぁよくやってくれたぞ、小さくも素晴らしき我らが隣人よ。疲れたであろう、我ら秘伝の強壮剤を飲むといい。褒美もたんと用意した。受け取ってくれ! ガァーハッハッハッハッハッハ!」
超がつくほどご機嫌麗しい王様のご厚意で、彼の家族から南国の果物から秘伝の飲み物。香辛料や鉱石が贈られる。勇者の証にと剥製にしたコカトリスの頭もゲット…………。
見た目はちょっと怖くて大きい恐竜さんたち。みんな友好的でとってもいい人たちばかりなのが分かると、だんだん彼らの優しさに寄り添うように話しが弾む。
ダイナグラフはどんなところなのか。
果物のおいしい食べ方とか。
昆虫食も意外にいけることとか、色々。
コカトリスの血抜きが終わるまで、みんなが異文化交流に華を咲かせる中、ユノさんとアーディさんはハティさんの隣に座り、ちょっぴりお説教タイムを始める。
「おいハティ。今回は結果的に死傷者ゼロで済んだが、今後はこういう危険かつ難易度の高い討伐をする時は事前に話しをしておいてくれ。俺も確認しなかったのは悪かったが、死人が出てからでは遅いからな。それと、どうやらお前は規格外らしいが、他のやつが誰も彼もそうとは限らない。お前がこれまでどんな生き方をしてきたかは知らないが、俺達はチームなんだからな」
「そうね。恐竜王さんもおっしゃっていたけれど、事前に説明はして欲しかったかな。今後はきちんとお願いね」
「ん…………ごめんなさい」
しょんぼり顔のハティさん。デザートの芋虫を食べながら反省中。
物珍しいと恐竜王が前に出て、面白いものだと大笑い。
「ハッハッハッ! ハティ殿もそんな顔をする時があるのだなあ。しかし小さくとも素晴らしき者どもではハティ殿を測れまい。なにせ獣の神にして王なのだからな」
「その、獣の神にして王というのは何ですか?」
ユノさんな聞かれ、ダイナグラフの恐竜王は空を見上げ、小さく唸って答えを返す。
「具体的なことは我にもハティ殿にも分からん。我は我の遺伝子に刻まれたままにそう感じておるでな。あぁ、あと……」
今回の作戦はハティさんが大勢で協力してコカトリスを討伐したいと申し出て、知恵を絞った結果の行動だった。
彼女としてはサプライズで喜んでくれると期待しての発案だったと王様に耳打ちされると、アーディさんもユノさんも難しい顔になってしまう。
規格外というか世間知らずというか、感覚が常識外れしすぎて理解しがたい反面、悪意や考え無しの行動ではなかったということは、今後、改善がみられるということ。
彼女は文字が読めないから文字を勉強するためにグレンツェンに来たという。
今の自分ではダメだと思って行動してる。
省みて、前を見て、進もうとしてるのだ。
彼女のこれからの成長に期待です。
やれやれ、終わってみればもう日も落ちかけて夕暮れ時。
綺麗に処理された巨大なコカトリスの肉を部位ごとに切り分けて、冷蔵庫に収めて今日はお開き。
次の狩猟は北の国だから、あったかい服を準備とのこと。またお洋服屋さんに行くことになる。やったー!
と、喜んでばかりはいられない。
しょんぼりした分、私はハティさんを励ましてあげたい。
「ハティさん、お疲れ様。私はついて行っただけでなんにもしてないんだけど。なにか出来たらよかったんだけど」
「大丈夫。すみれにはすみれにしか出来ないことがある。すみれの出番はこれからだと思う。よろしくね」
「うん! あ、それと、いっつもあんな風に頑張ってるの? ハティさんは凄いんだね」
「ううん。いつもは遠距離から狙撃して頭を撃ち抜いてる。あんまり近づきたくない。今日は特別。みんなと一緒だった。みんなで頑張れるようにって考えたんだけど、怒られちゃった。まだまだだね」
「そ、そうなんだ……一緒に頑張ろう!」
「うん!」
凄くいい笑顔だ。意を唱えることをためらうほどの素敵な笑顔。コカトリスを狙撃で倒せるだなんて、みんなにはとても教えられない。
みんなで一緒に何かをするのは楽しい。でも今回みたいなのは適材適所というか、わざわざみんなで行かなくてもよかった気が……………………まぁもう終わったことだし、いいか!
~おまけ小話『見た目は大事』~
すみれ「今日の晩御飯は胡椒餅と酢豚だよ~。パイナップル入りです」
キキ「パイナップルってなに?」
すみれ「南国で採れる甘酸っぱい果物」
キキ「え!? 酢豚に果物を入れるの?」
ヤヤ「なんと! それは初体験です」
すみれ「そっか。じゃあパイナップル入りとそうでないのと作っておくね」
アルマ「すみれさん、もしかしてこれってパプリカですか?」
すみれ「うん、そうだけど、なにか変だったかな?」
アルマ「いえ、アルマたちの中では、パプリカでなくピーマンなので」
すみれ「そうだったんだ。色が鮮やかになるからこっちのほうがいいかなって思ったんだけど。今度はピーマンを入れるようにするね」
アルマ「個人的にはパプリカでいいと思います。ピーマンよりパプリカのほうがおいしいので。ピーマンはちょっぴり苦いので」
キキ「キキもパプリカ好き。カラフルで綺麗で、熱を通すとちょっぴり甘くなる」
ヤヤ「私も賛成です。料理は見た目も大事ですからね」
キキ「それヤヤが言えることなの?」
ヤヤ「どういう意味?」
すみれ「ヤヤちゃんの料理は見た目が刺激的で、すっごく面白いと思う。味はもっと素敵。水炊きと卵焼きを合体させた料理には驚かされちゃった」
ヤヤ「どやぁっ!」
はい、ファンタジーにして王道のドラゴンの登場がありません。
その代わりに恐竜が出てきました。殆どのファンタジー物の映画にドラゴンはつきものなのに、なんで恐竜って出てこないんだろうと思っています。不思議なもんです。見た目は似てるのに。恐竜の方がカッコイイと思うわけです。でもきっとみんな空が飛べる方がいいんでしょうね。空を飛びたいです。




