アルマの幸せ、ここにあり! 6
ベルンでは寄宿生に座学も教えるサンジェルマンさん。その癖なのか前半は座学。後半は実践。ということで、小休憩を挟んで庭へ繰り出す。
更地となって白い肌が剥き出しになった地面に、実際にクリスタルパレスで簡単な小屋を作ってみようということになりました。
まずは基礎の基礎。レンガを積んで壁を作ってみよう。
クリスタルパレスの名前の由来は諸説あるが、日記の男の故郷が雪国を示唆していたこと、魔法の説明の端に書かれたイラストから察するに、氷のブロックを積んだアイスドームで間違いないであろうと言われている。
アイスドームは極寒の地で実際に存在しており、例年を通して涼しい温度を維持できる天然のワインセラーとして活躍した。
その氷の美しさをたたえ、クリスタルパレスという名がついたそうな。
まずはイメージ。同じ大きさのレンガを並べて積んで、接着剤で隙間を埋める。以前に見た大工さんの仕事を思い描きながら1個1個、錬成していく。
ごとっごとっ……しゃっしゃっしゃっ…………。
ごとっごとっ……しゃっしゃっしゃっ…………。
4段目まで積んでひと息ついた。染色剤を混ぜてカラフルになったレンガのモザイク。
目を閉じればキャッツウォークの町並みが瞼に映る。ミーケさんは元気に、してるだろうな。
修道院の庭には薔薇の花がたくさん咲いた頃かなぁ。
あぁ、久々にホノオガニを使ったミートスパゲティが食べたいなぁ。
前祝で食べた茹でガニもおいしかったけど、ラ・ミストルティンの活気の中で食べるパスタがこれまたおいしいんだよなぁ。
まだまだ花より団子なアルマなのです。
「初めてにしてはかなり上出来じゃないか。もしかしてレンガ積みの経験があるのかな?」
サンジェルマンさんに褒められた。かっこいい大人に褒められると嬉しいなぁ♪
「いえ、知り合いに大工一家がおりまして、以前彼らの仕事を見たことがあるので、それを思い出してました。でもなかなか集中力が必要ですね。意識しすぎなのかもしれませんが」
「たしかに最初は集中しちゃうよね。今は大工仕事のようにひとつずつ丁寧に並べてたけど、慣れてきたらオーロラが空にかかるように、すわぁ~って出来上がるよ」
「なるほど、すわぁ〜ですね」
「す、すわぁ~ってなるのですか?」
すわぁ~、って擬音がうまく掴めないティレットさん。
よけいに難しそうな顔をする。
「それじゃあ、すわぁ~ってやってみせようか」
前へ出てかっこよく指パッチンのサンジェルマンさん。
すると地面から盛り上がるようにしてレンガが出現。魔力によって生成されたそれらは最初こそ半透明だったものの、実態を伴うにつれて色が付き、重厚感を発するレンガの建物となる。
本当にすわぁ~っと現れた。
なるほど素早く連続して生成し、組み立てようとするとこうなるわけだ。勉強になります。
続いてティレットさんも挑戦。すわぁ~っとはならないけれど、普段から魔力を鍛えてるだけあって筋が良い。
なにより土系魔法が得意なティレットさんと相性抜群。見ただけで分かるほど、相当な防御力を誇る壁を築いた。
ちなみにクリスタルパレスは、出現させた元々の物質と同じ性格を持つだけでなく、魔術回路を付加して耐性を加えることもできる。
レンガであれば耐火性、耐水性がポピュラー。氷のブロックで積んだものであれば、魔法攻撃による対氷性はもちろん、発火温度を下げる魔法を付与することで疑似的に耐火性をもたらすという変化球も投げられる。
術者の創意工夫でいくらでも便利になるという面白魔法なのです。
面白いのでレンガの壁を作っては補助魔法を付与して攻撃しまくってみた。
小さな攻撃魔法を当てます。派手にやるとヘラさんが現れるから。
レンガの表面をサメ肌のように細かく特殊なトゲトゲにして、水を当てると特殊加工していないレンガと比べ耐久性が変わるのかとか。
レンガの密度を3段階に分け、同じレベルの耐火術式を行使した場合にどれだけ防御力に差が出るのかとか。思いつく限りのことをやってひとしきり満足しました。
夢中になっていたので日が暮れようとするまで時間を忘れていました。うっかり☆
「いやぁ、話しには聞いていたけれど、本当に魔法のことが大好きなんだね。君さえよかったらベルンに来ないかい? グレンツェンも学ぶに素晴らしいところだけれど、専門的に魔法を学ぶなら、きっとベルンが一番だと思うのだが。どうだろうか」
「あぁえっと、申し出は嬉しいのですが、アルマはグレンツェンで学びたいことがまだまだたくさんありまして、それにここにはハティさんもみんなもいますし…………ベルンに行くことはできませんが、何かある時は今日みたいに助けて下さると嬉しいです。あと…………お庭を滅茶苦茶にしてしまってすみません。夢中になって、つい…………」
気付いたらたいへんなことになってた。
夢中になって気づかなかった。
やべえ。どうしよう。
「いいのよ気にしないで。サンジェルマンが片付けるから。それより今日の晩御飯、よかったら食べていかない? きっとまだ話し足りないこともあるでしょう」
レーレィさんが女神に見える。名指しされたサンジェルマンさんはちょっと悲しそう。
「俺も聞きたいこといっぱいある。対魔法対策的な意味で」
マルコ、お前はあんまり取り巻き女子以外に構ってやるな。視線が痛いから。
「ええと、お誘いはありがたいのですが、明日は監査があるので」
「監査というと、お祭りの企画がちゃんと出来上がってるかっていうアレですか。基本的に企画書が通った時点でほぼほぼ大丈夫って聞いてるです。しかもアルマちゃんは何度もテストを重ねてるみたいですし、少しくらい大丈夫です。きっと」
ニャニャさんも魔法について話したいみたい。気持ちはアルマも同じですっ!
でも、
「そ、そうかもしれないんですけど、いざ本番が近づいてくると緊張してしまうと言いますか…………それに、それに今日は…………」
「今日は、何かあるのかい?」
「今日は……アルマの大好物のモツ味噌煮込みうどんを作ってくれてるんですっ!」
「「「「「モツ味噌煮込みうどん?」」」」」
そう、それは世界一おいしい料理と言っても過言ではない!
モツのもつおいしい旨味とお味噌のコク。野菜の甘味がたっぷり溶けだしたスープ。そこに打ち立てのもっちり弾力のあるうどん。これに勝る料理なし!
モツをほぼ毎日食べてたがゆえに、冷凍庫にあった大量のモツは品切れ。せめて最後にモツ味噌煮込みうどんが食べたいと漏らすと、なんとすみれさんがうどんを打てると握りこぶし。神降臨の瞬間を目の当たりにした。
いかんせん、うどんの文化どころか、うどん玉の販売もないグレンツェン。アルマにうどんを打つ知識と技術があればとどれだけ後悔したことか。
頬をつたう涙をぬぐうように、彼女は微笑んでくれたのだ。うどんが打てると!
ひゃっほぉ~ッ!
噂をすればすみれさんからの着信。そろそろご飯にしようとおもうけど、いつ頃帰って来られそうかと連絡ひとつ。
すぐに戻ると返し、みなみな様には深く深くおじぎをして、いざ帰還。
とても良い時間を過ごさせていただきましたっ!




