アルマの幸せ、ここにあり! 4
ティレットさんと合流したのち、サンジェルマンと呼ばれた男性の話しをすると、それはペーシェさんのお父さんだということが判明した。
アルマはグレンツェン、もといこっちの世界に来て日が浅く世界特有の知識が薄い。
サンジェルマン・アダンとは、我々の年代で魔術師や騎士を志すなら誰もが知るビッグネームらしい。知らないと言って驚かれてしまった。そんなに有名だったのか。
サンジェルマンさんはペーシェさんのお父さん。世界的に有名な人の娘さんがこんなに身近にいるとは驚きです。
それほど凄い父親を持ってるような素振りを見せないペーシェさんは奢らない人だ。
出会った時から親切で優しい。
ユーモラスに溢れていて笑顔も素敵なナイスレディ。
くわえて特徴的な魔法も魅力的。
彼女について気になるのは、やっぱりあの日に見せてくれた魔法。ペーシェさんは自分の魔法について家族以上に語らない。知るにはお父さんに聞いてみるのもアリかもしれない。
エイボンさんの言う通り、現在は休暇を利用して家族水入らずの時間を過ごしていた。
貴重な時間に水を差すのもどうかと悩んだ末、好奇心が勝ってペーシェさんに電話。
最初はいつもの調子だったのに、サンジェルマンさんの名前を出した途端に声色が変わった。どういうわけか会わせたくないような雰囲気。
それもそのはずサンジェルマンさん。超が7個は付くほどの女の子好き。
妻子がいるのにベルンで女の子に話しかけまくったり、お尻を眺めたり、お茶に誘ったりとやりたい放題。
騎士団の中でも問題視されてるとかなんとか。
そんなことなど知る由もなく、渋々承諾してくれたペーシェさん。電話の端っこから聞こえる嬉しそうな中年男性の声はおそらく件の女たらし。お茶菓子を用意して待ってくれるようだ。ありがたや。
でも、もてなしてもらってばっかりでは申し訳ないので、クッキーを買って行こうと思います。もちつもたれつ。お互い様です。
フュトゥールパーリーから2区画奥。広い庭にバルコニー付き。2階建ての一軒家。
モダンなデザインが特徴的なカッコイイ外装のお家がアダン家の住まい。有名人というだけあって、他の家よりひと回り大きく、土地は我らがシェアハウスの倍くらいある。
ここで疑問がひとつ浮かぶ。何不自由なさそうな雰囲気の漂う家を持ってるのに、なんでペーシェさんはルーィヒさんとシェアハウスをしてるのだろう。
従姉妹なら、実家に住みながら勉学に励んでいてもおかしくない。むしろ金銭面的にそっちのほうが良いはず。
くわえるなら、お父さんと弟さんがベルンに行ってるということは、お母さんが独りぼっちなのでは?
それはなんだか寂しいなぁ。何か特殊な事情があるのか。詮索は厳禁だけども気になって仕方がない。
聞きたいことがどんどん増えてしまってしょうがない。今日はクリスタルパレスについて聞くだけ。
あまり長居して家族団欒の時間を邪魔してはいけない。
小一時間程度で切り上げる。でないときっと質問責めをしてしまうだろう。魔法の質問をガトリングする自信がある。
扉が開くとペーシェさんの笑顔が出迎えてくれた。待ってましたと歓迎してくれてそのままリビングへ。
癖で靴を脱ごうとしてしまうのはご愛嬌。
そうだそうだ、殆どの家庭は靴のまま家に上がるんだった。居間と土間の感覚がごちゃ混ぜになっちゃう。文化が違うとうっかりしちゃうなぁ。
廊下の奥から複数の声。あぁそうだ。マルコたちベルン寄宿生が集まってるんだっけ。
フラワーフェスティバルに際して授業が休校になる寄宿生たちは、実家に戻ったり自主トレに励んだり、選んでいる課題を進めたりと忙しくしていた。
休みなのに忙しくしてるとはこれいかに。
そういう勤勉なところこそ、彼らの持ち味なのかもしれない。
マルコたちのフィールドワークは妖精図鑑を手本にした花魔法の研究。それもとても興味深い。
残念ながら今日は別件。寄り道をして目的地に到達できませんでしたでは、どうしようもない。
キッチンとリビングが同じ空間にある部屋。
台所で料理を作って振り向くとテーブル。
効率的な設計をしている。温かい料理を瞬時に運べる。片付けも楽々なお手軽仕様に効率厨のアルマは感激。
今住んでるシェアハウスも、食卓から台所までの距離は短けれども、短ければ短いほど良い。
扉を開けてそんなところに目が行くのは、興味を示している魔法が建設関係だからだろうか。
それともキッチンに立ってクッキーを焼く女性に見覚えがあるからか。この人の後ろ姿は見たことがある。スーパーの総菜コーナーで働いているお姉さんだ。
愛想がよくて親切で、キキちゃんとヤヤちゃんが試食コーナーにダッシュする要因のひとつでもある彼女。
なんと、ペーシェさんのお姉さんだったのか。名札には名前しか書いてなかったから気づかなかった。
でもあんまり似てない。父親のサンジェルマンさんとペーシェさんは異性ということもあって似てない部分が多いのは分かる。
しかし姉と妹もあまり共通する部分が見当たらない。そういう場合もあるのかな。
「おっ、アルマおいっす~。ちょうどクッキーが焼けたからさ、食べながら話ししようぜ!」
「エディネイおいっす~。アルマたちも手ぶらじゃ申し訳ないから、お菓子とジュースを買ってきたよ。マルコとアナスタシアさん、それからサンジェルマンさんは?」
はて、電話口で聞こえた声がないぞ。
辺りを見渡すアルマにレーレィさんが庭を指さしてひと言。
「いらっしゃい、アルマちゃん。2人なら魔法の実演を兼ねて庭の草刈りをしてるわ。それからサンジェルマンは資料を取りに自室に行ってるけど、すぐに戻ってくると思う。それにしても気を遣ってくれなくってよかったのに。わざわざありがとうね」
「いえそんな。教えを乞うのに礼を尽くすのは当然です。それによそ様の家にお邪魔するのですから、手ぶらというわけにはいきません」
「まぁ出来た子!」
座って待っていてと笑顔をもらって椅子を引く。同時にティレットさんも座ったので、その拍子に耳元でペーシェさんのお姉さんについて囁いた。
するとティレットさんは奇妙な顔を見せ、頭の上にハテナマークを浮かべる。
アルマとペーシェさん、レーレィさんを順番に見渡すこと5回。6回目に入ろうとしたところで、ペーシェさんが驚愕の真実を告白した。
「えっと…………アルマちゃんが『お姉さん』っていう人なんだけど、アレね、あたしの母さんなの」
「………………ッ!? え、でもペーシェさんって今年で16歳ですよね。ということは少なくとも40近いはずでは」
「うん。今年で41だよ」
「はへぇッ!?」
素っ頓狂な声が漏れてとっさに口を覆うアルマ。
信じられない。どう見ても20後半…………シェリーさんと同い年くらいだと言われてもそうだと信じてしまう容姿。
ヘラさんは特異体質で、若さを司る遺伝子が劣化しにくいらしく、また自己強化の魔法を美容に応用しているためにとてつもなく若く見える。実際、肉体的にもかなり若いらしい。
下手をすれば娘のローザさんよりも年下に見えるほどに外見と実年齢がかけ離れていた。
ベルンにいるライラという人物は、帯電体質を利用して体に微弱な電流を流し、血行を促進させて新陳代謝を上げているから肌もツヤツヤ。
齢38とはとても思えぬナイスバディを維持してるとインタビュー記事にあった。
彼女もその類なのだろうか。
何か特殊な魔法で健康を維持しているのか。
はたまた不老の秘薬を口にしたとか。
なんにしても、なんていうか、みんな揃いも揃って美魔女すぎる。怖いよ。シワのひとつもありゃしないよ。
あぁ~~…………寄り道しそう。
今度は美容と健康に寄り道しそう。
そこへ本題のサンジェルマンさんが登場。
分厚い資料にスクラップ帳をかかえてやってきた彼はガタイがよく、日々鍛錬にいそしんでいる男の顔をしている。
物理的な筋力もさることながら、特筆すべきはその魔力量と練度の高さ。
およそ並みの戦士の質ではない。
魔術師としても超一級であることがひと目で分かる。こんな父を持つペーシェさん、羨ましい!
どういう感情がアルマの中で渦巻いているのかを察したペーシェさん。キラキラした瞳をする少女を横目に心配そうな表情を浮かべた。
彼は女の子が大好き。おっさんになっても若い頃と変わらず、チャラい性格をしてることを気に病んでいるのだ。
魔力と性格は別物であるからして、アルマの魔法の祝福では見破れない。
ただただ凄い人と知り合えたことに胸がいっぱいなのでした。
しかもイケおじ。エイボンさんは優しくも厳格な印象だった。サンジェルマンさんは優しくて親しみやすい感じ。
頼りになるお父さん、という形容がしっくりくる。
「さて、まずは初めましてだね。私はベルン第二騎士団で副団長をしているサンジェルマン・アダンだ。よろしくね。アルマくんにティレットくん。娘から話しはよく聞いているよ。2人とも魔法が大好きで、とても勉強熱心なんだってね」
「はい、魔法大好きです。愛してます! アルマの夢は魔法で世界中のみんなを幸せにすることです!」
「素晴らしい! 噂には聞いてたが実に素晴らしい志しだ。ティレットくんは家督を継ぐ前に見聞を広めるため、グレンツェンへやって来たと聞いているが」
視線を合わされ、背筋の伸びるティレットさん。
やっぱり緊張してるのか。珍しく声色がたどたどしい。
「はい、実家で専門的な魔法を学ぶのもよいのですが、外へ出て広い視野を養うべきだと勧められたのです。本当に来てよかったと思っています。まだ日は浅いですが、でもすぐにそう感じさせられたグレンツェンは素晴らしいところだと思います」
「いやぁみんな実に素晴らしいね。私に出来ることがあるならなんでも手伝おう。さしあたって水晶宮だね。まずはひとつずつ説明していこうかな」
そう告げて、サンジェルマンさんは使い古された1冊の本を我々の前へ差し出した。
元々は厚さ3センチほどだったであろうその本は、台形の形をして膨れ上がっている。ポストイットとブックマークで溢れかえっていた。
きっと印刷された文章の上から貴重な経験が書き殴られてるに違いない。ページをめくる前から興奮が湧きたって前のめりになってしまう。
ただの書物ではない。彼の歴史が、経験が、知識が、知恵が詰まった至極の1冊。
おっといけない、ついうっかり、いつもの調子で乗り出してしまった。
半ば感心、半ば呆れたような顔で、エディネイの鋭いつっこみを浴びて引っ込むアルマ。
ひとつ笑顔が咲いて、サンジェルマンさんが歴史を開く。




