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アルマの幸せ、ここにあり! 1

今回はアルマ主観で進むお話しです。最後は少しサンジェルマンのターンが回ってきます。

空中散歩の最終調整をしている最中、新しい魔法の話しを聞いて知識人のところへ突撃していきます。

そこにいるのはサンジェルマン・アダン。ペーシェの父親であり、ベルン第二騎士団副団長を務める中年男性です。騎士団長のライラは産休のため、しばらく海外へ居たのですが、このたび家族を連れてベルンへ帰ってきたので、サンジェルマンに休暇をとらせているところです。それまではずっと騎士団長の代わりに仕事をしていたのです。


その間も、言葉には出さないもののギリギリセーフな距離でセクハラチックなことをしていたので、ライラ騎士団長の帰還をみんなして待ち望んでいました。

そんな彼の元にアルマが出向くというのですから、母と娘は内心ピリピリしています。余計なことを言わないかハラハラしています。邪悪な気配を察知したらパンチが飛んでくるのが分かっているので、サンジェルマンもハラハラしています。ストレスのかかる家庭ですね。




以下、主観【アルマ・クローディアン】

 日を追うごとに緊張する。

 万全の準備はしてきた。

 しかし、いざその時になると足りないものがあるんじゃないかと不安になってしまう。

 人員、立地、安全管理から考えられるトラブルシューティングまで。

 初めての、しかも超大規模なお祭りで自分の考えた企画を運営するとなると、心配が先に立ってしまう。


 メリアローザでは、お祭りの企画と運営の殆どをミーケさんが仕切る。彼女も本番前はこんな風にそわそわしちゃうのかな。

 きっとミーケさんのことだから、何が起こるのか分からないなら、俯くよりも前を見て笑おうと言うだろう。そうだ、くよくよ考えたって仕方がない。

 その時になって考えればいいのだ。

 だってアルマは1人じゃない。

 信頼できる仲間がいる。売店には経験豊富な大人たちが控えてくれてる。

 思いっきり楽しもう。それが一番大事なはず。


 今日は以前にお願いしてた、『網膜にグレンツェンの映像を映し、南側の景色を見ながらの空中散歩をしてみよう』の会です。

 それと同時に、我々が展開する結界の位置とステラの売店の場所決めです。

 位置取りは結界の出口の導線にテントを張って、お客さんを待ち構える。遊び終わったお客さんをステラの方々が捕まえて小物を売る。

 空中散歩を体験した思い出におひとついかがと促されれば、購買意欲もあっぷっぷするに違いない。


 その辺はプロがやるので心配ない。

 問題はアルマたちのほう。スイッチを起動すれば術者は別の景色を見ることができるというアイテムの動作確認。

 事前にミレナさんと警備部門で話しを詰めてくれているということなので、今日は実際に体験してみて、どんな感じになるのかを運営側が知るために集まりました。


 チームの面々にミレナさん含め、ステラからいらっしゃった職人さん。それからベレッタさんも参戦。結構な人数で調整を行います。

 準備したアイテムの全てがちゃんと動くのはもちろん、綺麗な景色になってるか、空中散歩で使用して意味があるのかを検証です。


 なにせ南側の景色って言ったって、大図書館の屋上からでもグレンツェンを見渡すことができる。だったらわざわざしゃぼん玉に乗らなくてもいいんじゃないか。そう思う自分もいた。

 そこは空気感とか違うだろうけど、一応は確認しておかなければ気がすまない。

 やるからには意味のあるものにしたい。

 全員集まったので始めたいと思います。ふんすふんす!


「それでは準備もできましたので、さっそく始めようと思います。今回追加されたチャームは簡単なもので、魔力を使ってスイッチのオンとオフを行います。オンにすると大図書館を挟んで南側の景色が映ります。結界内の映像はそのままなので、しゃぼんに乗ってる人たちが見えなくなるとかはないはずですが、念のために予備を含めて全てのチャームの確認をしていきます。よろしくお願いします。ふんすふんす!」


 みなぎったやる気が鼻息から漏れまくる。という演出。笑いを誘って場を和ませる作戦は成功だ。

 くすりと笑ったミレナさんが握手とともにチャームの仕様を教えてくれる。


「こちらこそよろしくね。それとチャームについてなんだけど、投影される景色はグレンツェンの警備事務所から送信される。防犯上の都合で使用許可はその日その都度、電話で確認とシリアルコードを送ってもらわなきゃなの。アルマちゃんを信用してないわけじゃないんだけど、警備への連絡とシリアルコードの打ち込みはあたしがやることになったから。そういうことでよろしくね」


 なるほど言われてみればその通り。景色は用意された画像や過去の映像を流用するわけじゃない。

 生配信される情報なわけだし、あらかじめ呼びかけがあるとはいえ、一般人が監視カメラの情報を見ることになる。防犯を仕事とする人としてはあまり芳しくないことだろう。

 映り込む人々の顔や目立った特徴は、自動的に認識阻害がかけられる仕様とはいえ、チャームをコピーして悪用しようとする輩がいないとも限らない。

 もしそうなれば、個人の行動を把握して空き巣に入ったりだとか、組織的な犯罪を行う上で有用な材料になってしまうかもしれない。

 今思うと、結構危ない橋を渡ってるのでは……?


 と、考えていても仕方がない。それに警備主任のヘラさんの許可もある。なので大丈夫でしょう。

 そういう理由もあり、しゃぼんに乗る前にミレナさんが電話をかけて、チャームの入った箱にシリアルコードを入力。これでチャームに魔力を流せば、グレンツェンの景色が楽しめる。


 予備を合わせて25個。ミレナさん考案のお花のデザインがキラキラ光る。色のついた合金が立体的な表情を浮かべた。

 かわいらしい金木犀の花に柔らかな紫色のすみれ。

 たんぽぽの絨毯を歩くてんとう虫。

 金属的な美しさと女性らしく、かつ洗練されたデザインは、バッグにつけて持ち歩けばおしゃれさんの仲間入り。

 カッコよさと美しさとかわいらしさを兼ね備えたアイテム。

 基本的にマジックアイテム以外のものに興味を示さないアルマですら、欲しいなと思う逸品に仕上がっていた。


 よし、完成品のチャームを首にかけて、いざ参る。

 ふわり。

 ふわり。

 ふわふわり。

 宙に浮いて空を目指す。

 風を受けて、たなびくしゃぼん。

 波打つ虹色がとっても鮮やか。

 見える景色は背の高い針葉樹を超えて、静かな裏庭に咲く花を臨む。

 顔を上げれば緑の大地。

 海と空と地平線。

 このまま宇宙まで飛び立って、青い地球を見てみたい。


 人間の造った建造物が点々と輝く。

 自然のままの大地が横たわる。

 人と自然の交わる歴史。

 なんて美しい景色だろう。

 こんな眺めを世界中で堪能できるなら、それはどれだけ素晴らしいことだろうか。

 なんだかとっても、胸が熱くなる思いです。


「あらよっと。やっほーアルマちゃん。お邪魔しまーす♪」

「わっ、びっくりした。そうでした。合体できたんですね」


 2つが1つになるしゃぼん。

 ミレナさんと抱き合うようにくっついた。

 なんかいいですな。


「うっかり忘れてた? で、チャームの方はどうかな。ちゃんと機能する?」

「あっ、はい。今から起動します。景色に見とれてまして。えへへ」

「だねぇ~。本当に綺麗だよね。大図書館の屋上テラスから見る景色も素敵だけど、しゃぼん玉に乗って見る景色は格別だね。空気感が違う!」

「浮遊感があるのって、最初はちょっぴり怖いけど、慣れたら楽しいですよね」


 満面の笑みで肯定を作り、満足げな表情を見て自分まで嬉しくなった。

 魔法でみんなを幸せにする。

 その願いがひと欠片でも叶ったのなら、アルマにとってそれは最上の喜びだ。


 さてさて本題のチャームはっと…………切り替えた途端、掻き消えるように景色が変わる。

 目の前のここは裏庭演習場ではない。グレンツェンの表通り。鮮やかな花々が咲き誇り、人々の喧騒で賑わう見慣れた姿。

 屋上テラスで見渡した世界とはまたひと味違う感覚を覚えた。

 見えてるものは殆ど同じかもしれない。でも、こうしてふわふわと浮かんで、ゆったりと眺める景色は、なんて言うか、こう、なんて言えばいいんだろうなぁ~~~………………すごく素晴らしいっ!

 ――――としか表現できない。


 ミレナさんの言うところの、格別な空気感というものである。

 高い建物から見る景色とも、気球に乗って感じる風とも、飛行(フライ)で浮遊するとも違う特別感。

 どうしようもなく胸がどきどきする。

 頑張ってよかった。

 グレンツェンに来てよかった。

 みんなと出会えてよかった。

 たくさんの感謝の念がアルマの頬を紅潮させる。

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