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心に残る物語 4

 話しを遮って扉の向こうでなにやらこそこそ話しをしている様子。

 アルマちゃんの言葉にうなずきながら、最後に何かを思い出したような返事をして帰ってきた。

 帰ってきて早々、突然の爆弾投下。

 曰く、『フェアリーはふわふわぁ~って飛びます。キラキラしないです』。あわてふためくアルマちゃん。やれやれと肩を落とすヤヤちゃん。どういうことか理解できないでいるわたしたち。


 まさかフェアリーが存在してると思ってない我々は、まさか見たことがあるのだろうかと思いながらも、小さい子供特有の希望的願望のようなものだろうと話しに合わせる。

 事情を知っているヘラさんはそれとなく話題を逸らし、キキちゃんが魔法の練習をしてると切り出した。

 将来は暁さんのような、かっこよくて強い女性になるんだと、夢見る少女の瞳が輝く。

 そのためにはまず魔法をいっぱい使えるようになって、アルマお姉ちゃんのようにたくさんの人を幸せにできるようになりたいと語った。


 だからわたしは会話を繋げるように、『それでそんなに魔力の最大容量が大きいんだ。とっても努力してるんだね』と、彼女の頑張りを褒め称える。

 キキちゃんの魔力容量は10歳の平均を遥かに超えている。それどころか、大の大人よりもずっと多い。

 彼女の雰囲気は先天的に恵まれたものではない。後天的に容量を大きくするためには、日々、自分の魔力を放出しながら練度を鍛え、魔力の質と量に耐えうる器になるよう意識的に努力しなければならない。と、神父様が言っていた。


 神父様の言葉通りなら、彼女はまさに努力の天才。

 毎日、日常生活が送れるギリギリまで魔力を使い、将来のために準備している。彼女はきっと素晴らしい魔法使いになるに違いない。

 人の魂の色が見え、内在する魔力量と魔力容量の大きさを目視できるわたしはそう思っていた。

 そして何より、皆、これらの情報が見えるものだと思っていた。

 周囲のきょとんとする顔を見るまでは。


「…………みんな、どうしたの? わたし、何か変なことを言った?」


 問うて、やっと声を出したのはアルマちゃん。

 あんぐりと開けた口のまま、疑問と期待を込めた声色を漏らす。


「…………えっ、ベレッタさんって見るだけで他人の残存魔力と最大容積まで見えるんですか?」

「え、うん。――――――えっ、見えるものじゃないの?」

「私は見えない。直接触れれば分かる」


 ハティさんは見えないらしい。


「そもそも見えるものなの? 魂の色が見えるっていうのは聞いてるけど」


 ヘラさんも同様のようだ。


「ふへぇ? キキってそんなに魔力の容量が大きいの~?」

「――――――はッ! これはアレなやつです!」

「アレなやつだ。ちょっとベレッタさん、こっちに来て下さい!」


 ヤヤちゃんに手を引かれるままに階段を駆け上がり、アルマちゃんの部屋へ通された。

 何が何やら分からない。ともかくここがアルマちゃんのお部屋。本棚には魔法に関する書物が並び、ガラス棚にはマジックアイテムが説明書付きでずらりと揃っていた。

 几帳面な彼女の性格の表れか、あいうえお順に鎮座している。


 部屋の装飾は落ち着いたもので、ふりふりフリルの普段着からは想像できないような色合い。

 明るい茶色をメインにしたアラベスク模様の絨毯はもふもふで柔らかい。

 ふっかふかの羽毛の詰まった掛布団。

 ベッドの下にはマジックアイテム(雑貨)の入った大きな収納箱。

 衣装タンスにはきっとふりふりフリルが掛けられている。

 とかく他人の個室に入ったことがないわたし。とってもとっても緊張します。

 まるでここは異世界のよう。右に左に目移りしてしまう。


 そわそわする世間知らずに、アルマちゃんは落ち着くように促して絨毯の上に座るように指示を出す。

 それからひと呼吸置き、珍しく難しそうな表情を浮かべたヤヤちゃんが――――――懇願するようにキキちゃんの過去を語った。


 それは絶望と悲しみの物語。

 業火の中、家族を失い、故郷を失い、生きる希望を失いかけて、それでも未来へ進むことを決意した。強くか弱い少女のおはなし。

 悲しみで心が壊れてしまえば生きていくなんてできはしない。だから、全ての記憶を新しく作った、自分とそっくりの【姉】に託し、守られる立場として希望を繋ぐ。

 か弱い少女が、明日になれば幸福が訪れると…………それだけを信じて。

 信じるモノが、他に何もなかったから。

 信じるモノが、炎の中に消えてしまったから。

 だけど彼女は、根拠も何もないものを『信じること』ができたのは、両親から真実の愛を受けて育ったから。

 それが、彼女の強さだった。


「――――――と、そういうわけで、今のキキに過去の辛い記憶を思い出させるわけにはいかないんです。思い出してしまえば…………もしかしたら心が壊れてしまうかもしれません」


 見たこともないほど真剣な眼差しのヤヤちゃん。

 普段見せる天真爛漫な姿はない。切に誰かを想う、決意を胸に抱いた魂の輝きをしてる。


「…………キキちゃんは、自分の固有魔法(ユニークスキル)がなんなのか知りません。事情を知っているアルマたちも、そのように振舞っています。もし知ってしまえば、必ず過去を聞いてくる。今はその時ではないと、暁さんの判断です」


 アルマちゃんも真剣な声色。

 心からキキちゃんを愛し、大切に想ってる。抑揚から見てとれた。力強い言葉。優しい魂の色。


「そう……だったんだ…………キキちゃんは、本当に強い子なんだね。ヤヤちゃんも、本当に、本当に凄いよ」


 絶望の中で希望を信じた小さな少女。

 記憶を失くし、守るべき尊い命を、それこそ命がけで守り続けた姉。

 希望を信じ、光を手繰り寄せた彼女たちの強さは、この世の何よりも力強い。

 愛し、愛される。そんな当たり前のことが、どうしようもなく愛おしく、今日ほど輝いて見えたことはない。

 気づけばわたしはヤヤちゃんを抱きしめていた。尊敬とか、労いとか、そんな感情かもしれないのだけど、胸に宿るこの熱さはどうしても言葉にできなくて、わたしは彼女の小さな体を抱きしめている。


 こんなに細い腕で、小さな体で、辛い過去を乗り越えて今ここにいる奇跡を称えずにいられない。

 そう思うと、不思議と『ありがとう』の言葉が漏れた。

 これは、あぁそうだ。すみれが白鯨に伝えたそれと同じ。

 心からの感謝。

 きっとそうに違いない。


 キキちゃんとヤヤちゃんの過去と、その生い立ちに関して口外しないこと。キキちゃんが自分のユニークスキルに対して興味を抱くような発言をしないことを約束し、みんなの待つリビングへ。

 隠れて内緒話しをしていた我々に、キキちゃんがつっこみを入れてくるのではと懸念していた。けれど、アルマちゃんは事前に彼女たちの素性を暁さんから聞いているヘラさんの目配せがあったから大丈夫だろうと安心でいる。

 憶測通り、ヘラさんがキキちゃんを丸く収めていてくれた。


 魔力の最大容量に対して魔力量が少ないのはまだ幼くて、1日に回復する魔力量自体が少ないからという結論で納得した。

 本当はヤヤちゃんを創造したキキちゃんのユニークスキル【(イミテーション)(・ゴールド)】の魔力を、同じく固有魔法【将来性への投資(マギカ・ブロウ)】で返済し続けているから。

 いつ返済しきるかは目途が立っていない。

 いつか全てが終わってキキちゃんが、魔法が自由に使える日が訪れますように。


     ♪     ♪     ♪


 家路への帰り道。頬を撫でる風は涼しく、花の香りを纏っていた。

 お見送りとしてヘラさんと一緒のエンドステーション。

 基本的に修道院には門限がある。だから夜に出歩くことはほとんどない。

 夜のグレンツェン。星空と電灯でライトアップされてるみたいに輝いてた。


 グレンツェンの知らない表情を見たせいか、最後にとてつもなく刺激的なエピソードを聞いてしまったせいか、胸の高鳴りが収まらない。

 おいしい食事しかり、楽しい会話しかり、何よりホタテ貝の器があればいつでも貝焼きが楽しめる。あれは本当においしかったなぁ。

 不謹慎かもしれないけれど、凄惨な過去の思い出が吹き飛んでしまうほど、心と舌に残る味だった。思い出しただけでにやけてしまう。

 子供たちにも食べさせてあげたい。でも器は1つしかない。そのうえ割れ物注意。みんなには悪いけど、わたしだけの秘密にしちゃおう♪


 シェアハウスを出てそのままさようならかと思ったら、ヘラさんが『せっかくだから散歩がてらに駅まで送ろう』というので、もう少し影を並べることになりました。

 本当にちょっぴりの時間。その時間だけは母と娘のような気がして嬉しい気持ちになる。

 ローザはいつもこんな風に歩いているのだろうか。とってもとっても羨ましいなぁ。


 夜間の路面電車はセントラルステーションで待機されており、グレンツェンアプリで呼び出すことによって動き出す。

 夜は飲み歩いている人以外に利用客もなく、時間で運行するだけ経費の無駄ということで、その都度連絡を入れる形式になったのはつい数年前。

 極限まで経費を削減するというヘラさんの意向で始まった政策のひとつ。

 全ては有意義な税金の使い方を模索するための行動。無駄を嫌い、効率と情緒を好む彼女はグレンツェンに住む全ての女性の憧れである。

 そんなヘラさんが最後に、私の耳元で囁いた。


『貴女のその【固有魔法(ユニークスキル)】、今後一切、決して口外してはダメよ』


 理由を聞くよりも早く電車は走り出し、次第次第にヘラさんは遠くなる。

 なぜダメなのか。

 それは分からない。

 分からないけど、彼女の声色は真剣で、誰かを思う優しさを帯びていた。

 もしかしたら――――わたしは生まれもった才能を目当てに魔術協会に目をつけられた?

 だとしたら、いや、これ以上は考えないでおこう。考えてしまうと、少し怖い気持ちになる。

 今日はもう、素敵な思い出だけを胸に抱いて、温かい家族の待つ家へ戻ろう。

自分のことは自分が一番よく分かっていないなんてことは往々にしてあるものです。

人生はいかに客観的に自分を見て省みることができるかだと思います。

しかしそういう自責が先に立つ人は、一方的に他責するアホに飲まれがちなところがあるので冷静且つ時間を掛けて対応しないといけませんね。

ベレッタがこれから深く関わるユノは、ある意味で最も面倒くさい性格をしているので、彼女がいかにして難関を超えていくのか。

その様子はもう少し先になりますが、こうご期待ください。

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