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心に残る物語 2

 世間話しに華を咲かせて談笑していると、キキちゃんとヤヤちゃんの配膳が始まった。

 大きな平皿に2種類のパエリア。

 1つは晴れやかな香り沸き立つ海鮮パエリア。もう1つは強烈で力強い香りを放つ野菜パエリア。どっちも出汁がよく効いていておいしそう。


 不思議なことにこのパエリア。どっちもとっても真っ赤っか。

 2種類のサフランを使ってるということだ。サフランを使ったパエリアは通常、黄色いはず。他に香辛料をいくつか使ってはいるが、赤くなる着色料は入ってない。

 疑問が湧くも、鮮烈に輝く赤色が疑問符を吹き飛ばした。


 共に出されたもう1枚。お皿の中で白くて大きな菊の花が咲いたようなそれはイカのお刺身。生でイカを食べる習慣のないわたしには少し勇気がいる食べ物です。

 醤油にちょんとつけて食べれば、噛めば噛むほどに甘味が口いっぱいに広がるという新食感。新感覚な初体験。

 海の食べ物と聞いて最初に出てくるものはやっぱりホタテ。

 シャングリラで食べたものは本当においしかった。

 思い出すだけでよだれがでちゃう。海の幸に興味が湧きます。


「サフランを使ってるってことだけど、海鮮と野菜で分けたのには理由があるの? どっちをどっちもに使ってもおいしそうだけど」


 好奇心の塊のヘラさん。すみれ(料理長)の饒舌に期待する。


「聞くと香りが強いのは砂漠地帯のオアシスで獲れて、そこは野菜も多くとれるそうなんです。お昼に海鮮パエリアにしてみたんです。おいしかったんですけど、香りが強いもの同士だと少し喧嘩しちゃうかなって。なので火を通すと甘くなる野菜を中心に味がマイルドになるように仕上げてみました。こっちは同じように砂漠地帯で獲れるそうなのですが、海の近くにあるせいか海産物と相性バッチリ。ターメリックのように後味にキレがあるので、濃厚魚介スープと合わせて味の濃淡をハッキリ出してみようかと思いました」

「想像以上に本格的な料理の構築をしてる! やっぱりアレなのかな。同じ品種でも育った環境で食材の相性って変わるのかな」


 驚いた。まさかそこまで考えて料理してるなんて。

 驚きと感心を乗せた質問に答えてくれたのはヘラさん。2種類のパエリアに舌鼓。指を立ててサムズアップ。


「たしかある研究では、海洋ミネラル水と地元の水道水を飲み比べてどっちがおいしいかって実験があったわ。すると成分的にはミネラル水のほうがおいしいのだけど、殆どの人が地元の水道水のほうがおいしいって結果が出たんだって。食材同士にもそういう関係性というか、親和性みたいなものがあるのかも」


 ヘラさんの弁舌に感動する双子。感嘆のため息を漏らして前のめり。


「そんな研究があるのですか。実に興味深いです。それで野菜パエリアにされたのですね。個人的には海鮮パエリアも好きですが」

「キキは甘い野菜にパンチの効いたサフランのパエリアはちょ~おいしいと思う。それに色合いも綺麗だよね。カボチャにパプリカ。インゲン豆とかスイートコーンもカラフル♪」

「本当に、見た目も香りも味も抜群です。それにしてもサフランって、結構お高いのでは?」

「そうなの? 好きなだけ持って帰っていいよって言われた」


 相変わらずのハティ節。

 いくらなんでも友人が多すぎませんか?

 ご友人は気前がよすぎませんか?


「持って帰ってって……サフラン農家に知り合いがいるの?」


 ヘラさんも少し驚く。


「友達がすっごく頼りになる。それにきっと、すみれが作ってくれたクッキーのおかげ。みんなおいしいって喜んでた」

「まぁ! そんなにおいしいクッキーなの?」

「なんの変哲もないアイスボックスクッキーだったんだけど…………でも喜んでくださったみたいでよかったです」


 料理上手のすみれの普通が普通だったことないんだよね。パエリアを見下ろして、手間と工夫の数々を目の当たりにするとそう思う。


「シンプル・イズ・ザ・ベストです。凝ったものも良いですが、シンプルでストレートなものは素朴で素敵です。間違いないおいしさです。でもこのシンプルって、言うは易し行うは難しでなかなか難しいものです」


 アルマちゃんの言う通り。

 ローザもシンプルな料理には苦戦するみたい。


「分かる。簡潔だから誤魔化しがきかないというか、ちょっとのミスで全体のバランスが崩れちゃうの」


 わたしも料理をするから分かる。シンプルな料理ほど、ストレートに味が出るものはない。


「野菜炒めでも塩と砂糖を間違えただけで、全然味が変わっちゃいますよね」


 それはそうだと思うけど……。

 どうやらヤヤちゃんは過去に大失敗をしたようだ。

 

「ですです! 魔術回路も点と点を結ぶ線が1°ずれただけで不発になったり、威力が激減したりします。そこは料理にも通ずるところです」

「凄いところに通じてるのね、アルマちゃん。イカの刺身って全然食べないんだけど、食べてみると結構おいしい」


 もむもむと口の中で咀嚼するイカは噛めば噛むほど甘味を感じる。新食感で初体験。異文化コミュニケーションの醍醐味を感じます。


「グレンツェンにも寿司屋さんがあれば、生魚を食べる機会が増えるかもだけど、出店はないんだよね。ベルンは倭国食ブームに乗っかった際に、結構な倭国料理店ができたみたい。最近はフグ料理店が人気なんだって」

「フグ! 食べたいです。唐揚げが食べたいです!」

「アルマは断然、てっちりです!」

「キキは皮引きが食べたーい」

「キキちゃん、渋いところをチョイスするのね」


 前祝の時にマーリンさんが話題に上げたフグ料理店。お酒とよく合う料理が出てくるから、たびたび利用してると言ってたな。

 ベルンに行ったらわたしも食べてみたい。

 願わくばホタテが置いてありますように。


 素敵な香りに舌鼓。次に出てきましたるはロブスター。丸々2匹茹で上げた豪快な姿がテーブルにどかんと居座る。

 厚い殻をアルマちゃんが魔法で横一文字。湯気と共にぷりぷりの白い身がこんばんは。等分に切って好みのソースにつけていただきます。

 バジルもレモンもシーザードレッシングにも合う。やっぱり一番はマヨネーズ。ど定番の味とロブスターの旨味が口の中でランデブー♪


 なんとこれも貰い物。今朝獲れの新鮮食材。どうりでおいしいわけです。

 相変わらずハティさんの交友関係には驚かされる。

 恐竜王に一国の女王や騎士団長。

 鯨漁師にサフラン農家。

 砂漠の民と幅が広い。

 いや広すぎる。彼女のように強くなれれば、わたしももっと素敵な出会いができるかな。


 楽しい会話においしい食事。最高の時間はあっという間に過ぎ去って、お腹もいっぱいもう限界。

 お皿の上もすっかりなくなって、椅子に腰深くかけてひと呼吸。

 もう食べられないと幸福を漏らすと、アルマちゃんからまさかの待ったがかかってしまう。

 もう入らないだなんてそれは困る。これからメインディッシュなのに、と。

 さっきの巨大なロブスターがメインじゃなかったのッ!?


 まさかの展開。ローザもヘラさんも驚きの色が隠せない。

 ちょっとおかしいとは思ってた。普通、人を呼んでのディナーであれば、それなりの順番で料理が出てくるはず。

 定説を無視した料理の出方は倭国式なのかなと思って口には出さなかった。けど、それにしても、この分量で、まだ次があるとは。

 まずい。本当にお腹が限界を叫んでいる。

 かと言って断るわけにもいかない。

 どうしたものか…………というか普段、どれだけ食べてるの?


 どうしようかと無意味に悩んでいたけれど、疑問も、狼狽も、満腹すらも吹き飛ばすものが目の前に現れた。

 例えるならそれは神の食べ物。

 誰もが欲してやまない魅惑の君。

 あぁ、神様。ハティ様。ありがとうございますっ!


「ベレッタちゃんが泣くほど喜んでるんだけど、これってベレッタちゃんの好物なの?」


 そうですヘラさん。わたしの大好物なんですっ!


「エリストリアが教えてくれた。ベレッタはホタテ貝が大好きだって。だから今朝獲れた中で一番いいものを貰ってきた」

「ありがとうございます、ハティさん…………本当に、ありがとうございます…………ッ!」


 ハティさんが女神に見える。


「わぁ……本当に大好きなんですね。ホタテはすっごくおいしいですからね」


 アルマちゃんもわっくわく。

 ヘラさんも、こらはなかなかお目にかかれないと頬が緩む。


「それにしても本当に大きい。小さいサラダボウルぐらいあるわ」


 奇跡。


 ただただそれしか頭に浮かばないほど巨大なホタテ。シャングリラで食べたホタテの5倍は大きい。

 それは貝ごと火にかけられ、ホタテ貝の旨味を全て閉じ込めた海の至宝。

 純白の貝柱とふつふつと沸き上がる波しぶきがわたしの心をとらえて離さない。


 ごくりと固唾を飲み、暴れる鼓動を抑えようと必死に制止しようとするけど、もうテンションが上がって仕方がない。

 こんな贅沢をしていいのだろうか。

 これ全部、1個まるまる食べてしまっていいのかしら。

 なんだか分からないけど、バチが当たりそうなほどに贅沢。

 こんな、こんな高級なものを修道院育ちのわたしが口にしていいものなのか。

 もはや背徳的な行為なのでは!?


 意味もなく逡巡するわたしの背中を押すアルマちゃん。冷めないうちにどうぞ、と自然な流れで勧めてくれる。

 いやまぁ、何も悪いことをしているわけでもない。

 出されたなら食べるのが礼儀。

 そう、これは礼儀なのよ。

 何を恐れる必要もない。

 いざゆかんっ!


 ぱくりっ。

 もぐもぐ。

 すすぅ~…………ふはぁ……。

 ――――――お~~~~い~~~~し~~~~い~~~~☆


 なんという幸福の味。

 この世のものとは思えない上品な旨味。

 ぷにぷにの食感は歯が触れるたびに幸せを呼びこんでくれる。

 まさにここは楽園か。


「なんというか、とても幸せそうに食べていらっしゃいますね」

「うん、本当に。ここまで幸福感を露わにするベレッタさんは初めて見た」

「見てるとこっちまで幸せになっちゃう笑顔ですね。とっても素敵ですっ!」

「ベレッタに喜んでもらえてよかった。また手に入ったら招待するね」

「よろしくお願いしますっ!!」


 自分でも驚くほどの声が出た。また手に入れることができるのか。

 ハティさんのお友達に貰ったと言っていた。わたしもぜひ、その人と友達になりたい。

 せめてお礼を言いたいと申し出ると快く承諾してくれた。また時間ができたら誘ってくれるとのこと。やったぁ!


 さてさて次のひと口といきましょう。

 でもなぁ、食べたいけど食べるのがもったいないなぁ。

 これを食べ終わってしまうことがどうしようもなくもったいない。

 でも食べないと食べられない。

 あぁ~……なんというジレンマ!

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