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心に残る物語 1

今回はベレッタ主観の物語です。

物心ついた頃から修道院で育った彼女は面倒見がよく、子供たちはもちろんのこと、育ての親というべきシスターや神父のことを尊敬しています。特にひと回り歳の離れ、超人的な教育者であるシスターズに育てられて育った子供たちの相手をするベレッタは、自分で思うよりもずっとしっかりした性格且つ、物腰柔らかな印象とは裏腹にガッツのある女性です。

そんな彼女も17歳のお年頃。今夜は赤面必死の忘れられない思い出を作ります。




以下、主観【ベレッタ・シルヴィア】

 日も暮れ始めて夕暮れ時。いつもなら子供たちの晩御飯を作る時間。

 今日はハティさんたってのお願いということで、アルマちゃんの家で晩御飯をいただく運びとなりました。

 以前、シャングリラに行ったあとのホームパーティーにも誘われたけど、修道院での手伝いがあると言って断ってしまった。

 本当は参加したかった。

 でもシスターたちと約束があった。

 門限もあるからと帰路についた。


 今回はどうしようかと悩んでいたら、電話を聞いたシスターから背中を押された。

 せっかく友達からのお誘いなのだから行かなきゃ失礼だと。それに貴女はしばらくすればベルンへ赴く。その時のために、子供たちには貴女がいない環境に徐々に慣れておいてもらう必要もあると告げられた。

 小さな子なんかはわたしにべったりで、それはとても嬉しいのだけど、そのせいでなかなか独り立ちできないでいる。

 物心がついたなら、自分一人でなんでもできるようにならないと、大人になって困るのは彼女たちなのだ。

 ここは心を鬼にして、彼らの眼差しを振り切りました。ごめんっ!


 そんなうしろめたさを背負ったままに、アルマちゃんたちの待つシェアハウスへとやってきました。

 今日はローザとヘラさんも一緒ということで少し緊張しています。

 見知った仲ではあるけれど、基本的に修道院の人たち以外と一緒にご飯を食べるという経験がない。

 シャングリラでは子供たちに囲まれていたためか、緊張というよりは安心感があって普通でいられた。

 まぁそれよりも、不甲斐ない義兄に注視していてそれどころではなかったという理由もある。

 ひとつ深呼吸をして、いざ、ぴんぽん。

 颯爽飛び出すアルマちゃん。

 満面の笑顔でお出迎え。

 緊張が一瞬で吹き飛んだ。


「お待ちしておりました、ベレッタさん。さぁさぁどうぞ上がって下さい。今日のディナーはスーパーウルトラスペシャルデリシャスですっ!」

「誘ってくれてありがとうね。でもごめんなさい。わたし……手ぶらで……」

「何も気になさることなんてありません。どうしてもと呼んだのは我々です。今日は是非、ベレッタさんに食べて欲しいものがあるとハティさんが言ってます。それにベレッタさんがいてくれるだけで楽しいんです!」

「そう言ってくれると本当に嬉しいな。改めて、誘ってくれてありがとう」


 本当に、本当にできた子だなぁ。

 グレンツェンで行われるホームパーティーの基本は、主催者が場所と、ある程度の料理の提供。ゲストは出来合いの料理や総菜、お菓子やケーキなどを持ってくる。のだけど、修道院育ちで就労をしていないわたしは、個人で自由に使えるお金に制限がある。

 一応はお小遣いが支給されていたり、修道院でのお手伝いをすることで配給されていた。ただ、その全ては税金であることから使うことをためらってしまう。


 それに、ベルンへ行く際の引っ越し資金に充てる予定もあり、いよいよ余裕がない。

 そういう訳で恥ずかしながら手ぶらなのです。

 でもユノさんの助手になれば給料が支払われる。そのお金でアルマちゃんや修道院の子供たちに何かしてあげたいと考えています。

 とかく今日の分は借りです。

 いつか絶対に返します。


 もふもふのパンダスリッパに履き替えてぱったんぱったん。

 玄関の扉からリビングに入ると、かぐわしいパエリアの匂いが押し寄せてきた。

 ヘイターハーゼの料理人さんが修道院の子供たちのためによく作ってくれる、みんなが大好きなパエリア。

 ふわっと香るスパイスが印象的で食欲をそそられる。

 だけどこれは、今ここに漂っている香りはもっと強烈。猛烈に鮮烈でグッと心を惹きつけられる。どうやらメインディッシュはパエリアらしい。


 他にも色々と用意されていて台所が賑わっていた。キッチンが気になるので、手持ちぶたさを理由に厨房を手伝うと申し出たのだけれど断られてしまう。

 なんでも、驚かせたいものがあるから立ち入り禁止とのこと。

 ちょっとがっかり。だけど、驚かせてもらえるのは嬉しいな。


「あらら、断られちゃいましたか?」


 リビングにはローザとヘラさん。

 どうやら2人も、サプライズを待たされてるらしい。


「うん。何かしていないと落ち着かなくて。ゲストだって分かってるんだけど」

「ベレッタちゃんは世話好きだもんね。聞いてるよ、修道院ではよく働いてくれて助かってるって。子供たちの相手もそうだし、訪れた人たちへの対応も丁寧で礼儀正しいって」

「それは、まぁ、教会のお仕事ですから。でも喜ばれてると聞くと嬉しいです」

「でもお祭りが終わったらベルンへ行ってしまうんですよね。すごく寂しいです」

「アダムが彼氏だから、ベレッタちゃんはローザのお姉さんだもんね。どうか妹になる予定の私の娘を、よろしくお願いします」

「ちょっ、やめてよ母さん。他人事だと思って、もうっ!」


 わたしがローザの姉。

 妹のほうが立派すぎて萎縮してしまう。

 恐縮して、だけどアダムのため、義弟のため、精一杯の笑顔を作る。


「はい。アダムからローザのことはよく聞いています。とても頼りになって素晴らしい女性だと。アダムは人を見る目がありますから。ローザなら安心です」

「ちょおッ! ベレッタさんまで……」


 珍しくたじたじのローザ。彼女だって乙女なのだ。

 畳み掛けるようにアルマちゃんが爆撃。


「ローザさんは本当に頼りになります。以前にお世話になった時も、迅速かつ確実な判断力で大助かりでした。料理も出来て魔法の才能も優秀。実務経験豊富で判断も正確。どこをとっても素敵な女性です」

「ちょぉおッ!? アルマちゃんまで…………っ! 評価してくれるのは嬉しいけど、面と向かって言われると恥ずかしくて死ぬぅっ!」


 恥ずかしさと嬉しさで頬を紅潮させながら、最後に見せる笑顔は自信に満ちたものだった。

 彼女はアダムと共に野戦演習を繰り返して仲を深め合い、友として、仲間として、異性として信頼し合う絆で結ばれる。

 ローザはアダムのためとあらば、たとえ火の中水の中という勢いで、無理難題も超えていった。

 アダムも年上のローザに認められようと、1人の男として信頼してもらえるようにたゆまぬ努力を続けている。


 ローザもアダムも生まれもっての才能がある。

 彼女は父親譲りの治療魔法の才能を持って生まれ、能力に溺れることなく努力を続けた。

 得意の治療魔法はもちろんのこと、家事全般から補助魔法、医療の知識と技術の習得と向上に余念がない。

 最近ではアルマちゃんが使う炎の法衣(フレイムベール)も練習中だとか。まるで努力に隙がない。


 ただ気になる点がひとつ。ローザの魂の色は医療術者に多い桃色をしているのだが、ちらちらと黒い光が明滅する。

 黒い色というのは基本的に良い印象がない。ペーシェの件もあるし、ローザはいい人だし、何か特殊な条件とか、隠された才能的な何かがあるに違いない。多分。きっと……。


 アダムは神童と呼ばれるほどに魔法適正が高い。それを見抜いた神父様はスパルタ教育のもと、幼いながらにアダムを野戦演習へ出せるほどまでに成長させてみせた。

 実践を主軸に戦場で座学と経験を蓄えていく個性的な方法論は、何も知らない純粋な子供にしか通用しないだろうけど………………。


 聞けばシェリーさんもそのようにして、獅子が子を崖下へ突き落すが如きスパルタンヌ教育を施されながら幼少時代を生き抜いたらしい。

 神父様のことは感謝してると言っていたが、言葉の端々に宿る怨嗟の念が見え見え隠れしていて笑顔が怖かった。

 神父様は普段はにこにこしていていい人なのだ。

 こと戦闘となると、軽やかに、笑いながら、敵を殲滅せしめるだけで。

 その癖が実践教育にも出るのだろう。

 大人は余裕も経験もあって楽勝なのだろう。

 だけど、何も知らない子供は怖くて仕方がない。

 敵も、神父様も。


 わたしの魔法適正も高いらしく、国際魔術協会に目をつけられるほどらしい。断ったためにどれほどのものかを知ることはなかった。

 ユノさんの助手になると決まって、今は少し気になるところ。

 神父様はお仕事が忙しく、殆どグレンツェンには帰って来ないものだから、聞くに聞けずじまい。電話も全然つながらない。今はどこで何をしてるのだろう。

 魔法かぁ。わたしもアルマちゃんみたいになれるよう、努力していかなくっちゃ。

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