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距離は遠くとも、心は近く、温かく 4

以下、主観【シャルロッテ・ベルン】

 ところ変わってベルン王国。

 今日も今日とて、浮き沈みの激しい1日でした。

 キッチン・グレンツェッタ。プレオープンの抽選に当たった時は、それはもう嬉しくて嬉しくて、待ち遠しくて仕方がなかった。

 あとはどうやって抜け出すか。勉強の最中、食事の時も、夢の中でさえ、それだけを考えて今日を迎えた。


 なのにッ!

 なんでッ!

 わたしはッ!

 まだベルンの自室にいるのッ!?


「国王の許可なく抜け出そうとするからです」


 涼し気な顔のソフィア(侍女)はさも当然のことのように語った。


「許可があったら抜け出せるのッ!?」

「そんなわけありません」

「じゃあどうやってキッチンに行けばいいのッ!?」

「国王の許可をとって下さい」

「じゃあとってくればいいのねッ!」

「許可をとっても行かせられません」

「意味分かんないだけどッ!?」


 小さなため息をつくソフィア。

 激高するシャルロッテ(わたし)

 この温度差はいったいなんなのでしょう?


「そもそも、プレオープンに参加する抽選の条件は『グレンツェン居住者』でしょう。裏アカウントを作って抽選を受けたなんて知れたら、どうなることやら」

「だからこっそり抜け出して『ジュリエット・ロマンス』として行こうとしたのにッ!」

「ジュリエット・ロマンスだってベルン居住者って公言しちゃってるじゃないですか。どうせ門前払いです」

「友達を無碍にするはずないわッ!」

「エマさんは公私混同をするタイプの人間ではないと思いますが? それこそ友達なれば、なおさら。彼女は『友達』の重みとその意味をきちんと理解している女性です」


 言い返す言葉もない。

 言葉はないので歯ぎしりをして睨みつけてみるも、慣れた様子で受け流される。

 彼女はどうしようもない人間を見るかのような目をして、深く大きなため息をついた。どうしたのでしょう。恋の悩みでもあるのかしら。


 心の赴くままに扉へ突進しようものなら、開かぬ扉にぶつかるだけ。

 ソフィアはわたしをここから出さないために結界を張って仁王立ち。いや実際には優雅にティータイムを決め込んでいるのだけれど。

 とかく、こんなに必死になっているお姫様を後目に、余裕をかます姿が気に入らない。

 ちくしょう!

 こんなことなら解呪(ディスペル)の魔法をもっと磨いておくんだった。

 そもそもなんで一般人のアルバイトがこんな魔法を使えるわけ?

 転移魔法(テレポート)も使えるとかありえないんですけど。宮廷魔導士レベルじゃん。どういうことなのありえない!


 あああぁぁぁぁぁぁ…………あと1時間で11時になっちゃう。

 ここからシャトルバスに乗っても3、4時間の道のり。今なら終了時間ギリギリに間に合う。

 ここでなんとかしなくては。

 せっかく当選したチケットが無駄になってしまう。

 おいしいお肉が食べられなくなってしまう。


 満を持して、最後の手段を使う他ないでしょう。

 これだけは、この方法だけは使いたくなかった。

 でも仕方がない。

 おいしい料理のために。

 エマに会うために。

 プライドを捨てるのも――――時には必要っ!


「お願いっ! 一生に一度のお願いだから、キッチングレンツェッタに行かせてっ!」

「…………それ、何度目の人生分ですか?」

「………………てへっ☆」


 何度目の人生だろう。そうだ、まだ1回だ。

 ソフィアが言うにはもう100回くらいは人生をやり直してるらしい。わたしの記憶にはない。

 記憶にないのだからこれが1度目。これが最初。


 なぁ~んてことを言ったが最後、ソフィアの怒りがドロドロのスライムのようにわたしの足元を満たしながら、ねちょねちょと首元へ迫ってくる。

 今日は休日。久しぶりに妹たちが集まる予定だったのに、突然呼ばれて計画がパーになって、彼女たちを置き去りにしてきたとか。

 あれだけ絞られて、まだ懲りずに抜け出そうとするとか。

 無断外出しないと約束したのに、舌の根の乾かぬ内に飛び出そうとするとか。

 それはそれは小姑のようにネチネチネチネチネチネチネチネチネッチネチチネチネチネッチネチと小言を並べたててきた。

 途中で飽きたので寝たら起こされて怒られる。

 怒ったっていい事ないと諭すも逆効果。

 眉間にシワを寄せて詰め寄られる始末。

 はぁ~、いったいどうしたものでしょう。やれやれです。


 彼女の機嫌を直すためにも、少し早いけれどお昼にしようと提案すると、キッチンに行くのは諦めてくれたのかと勘違いして怒りのボルテージが下がっていった。

 火に油を注ぐようで申し訳ないけど、と断って、『お昼ご飯はキッチン・グレンツェッタに行きましょう』と笑顔を作ると彼女の機嫌が急降下。


 ふざけないでと頼まれて、ふざけていないと胸を張る。

 途端に無表情になってしらんぷりを決め込んだ。どうしよう。これは怒りを通り越して呆れている顔ではありませんか。

 …………いやちょっと待てよ。

 よく考えたらこれ、チャンスなのでは?


 彼女は今、わたしに無関心でいる。その証拠に、ソフィアは部屋の隅の椅子に腰をかけて読書を始めたではないか。

 仕事中に読書とはいい度胸。でも、今日だけは許してあげる。

 さぁこの隙に部屋を出てしまいましょう。堂々と、正面から!

 本当はソフィアとも一緒に行きたかった。だけど、チケットは1枚しかとれなかったから仕方ないよね。

 そういえば、いつもはソフィアとタッグで散歩をしていたものだから、1人で外を出歩くのって初めてかも。

 わくわくとドキドキでたまらないわっ!


 が、しかし、扉が開かない。

 そうだった。わたしを外に出さないために、ソフィアが結界を張ってるんだった。外してもらわなきゃ。


「ねぇソフィア。外に出るから結界を解いてちょーだい♪」

「…………外って、どこにですか?」

「もちろん、キッチン・グレンツェッタよ?」

「…………………………………………」


 何も言わずに本を読み始めた!?

 ちょっとなんでどうしてよ!

 あなたが張ってる結界なんだから、あなたが解いてくれないと出られないじゃない。

 椅子を揺らせど、本を取り上げようとしても微動だにしない。

 枕を投げても暴言を吐いても無視一筋。

 殴ってもわたしのへなちょこパンチでは受け止められた挙句、本を読みながら羽交い絞めにされる始末。

 どこの世界に羽交い絞めにされるお姫様がいるっていうのッ!?

 いくらなんでも扱いが雑じゃないかしら!?


 両手を後ろに締め出され、押し倒されるがまま床に膝をつく。

 腕が、足が、ちょっ、変な方向を向いてるんじゃないのコレ。

 絶対にまずいって。てゆーか痛いから。ギブアップだからとにかく放してっ!


「これはこれは。護身術の稽古ですかな?」


 神出鬼没の妖怪(セバス)が佇んでいた。

 いったいいつからいたんだ?

 扉は結界のせいで開けられないはずなのに。


「いつからいたの…………というのは今はいいです。ソフィアを、ソフィアをなんとかしてください。私を部屋から出すまいと羽交い絞めにするんですっ!」

「先ほどから見ていましたが、姫様が一方的に彼女に暴力を加えていたように見えましたが…………?」

「いったいいつからいたのッ!?」


 結構前からいやがった、このジジイ!


「セバスさん、今日は非番だったはずでは?」

「ええ、そうなのです。ですがまぁ、こんなこともあろうかと、先手を打っておきました」

「“こんなこと”というのはどんなことでしょうか。ソフィアが私に羽交い絞めをすることですか?」

「そんなわけないじゃないですか」

「そうです」

「そうなんですか!?」


 さすがセバス。そんなこともあろうかと手を打っておいてくれるとは。

 いつも驚かされてばっかりで、だけど素敵なサプライズを用意してくれる彼は心強い味方。今日はいったいどんな贈り物を用意してくれたのかしら。


 もしやソフィアの目を盗んでグレンツェンへ行く算段かも。

 もしやもしや、ベルンとグレンツェンを繋ぐ転移魔法(テレポート)の使用許可を取ってきてくれたとか。

 だったら帰りも楽ちんになる。少し観光を楽しむのも乙でしょう。

 グレンツェンのフラワーフェスティバルは本番こそ華なれど、お祭り1週間前の忙しい準備期間も活気があって面白いという。

 通な人はお祭り3日前から宿をとり、活力に満ちた街の風景を楽しむ。それがフラワーフェスティバルの醍醐味らしい。

 できることならわたしも見てみたい。

 お祭りとはまた違った賑わいを見せるグレンツェン。

 きっととっても素敵なんだろうなぁ。


 期待に胸を膨らませ、妄想に酔いしれるわたしは、夢いっぱいに咲く笑顔でセバスに詰め寄る。

 どんなアイデアが飛び出してくるのだろう。わくわくしちゃう♪


「申し訳ございませんが、事前の許可がないとグレンツェンへは行けませんな」

「そんなこと言って、本当は何か策があるのでしょう?」

「お昼ご飯はこちらでお召し上がりください」

「そんなこと言って、本当はグレンツェンのキッチンでランチでしょう?」

「…………………………………………」

「…………………………………………?」


 やけに沈黙が長いですね。

 珍しく言葉を詰まらせるセバス。いや、きっと立ったまま寝てるだけに違いない。

 元気なようで、もういい年をしてるのだから仕方がない。

 でも今は時間が惜しい。寝るのはわたしがグレンツェンへ行ってからにしてもらおう。


 さて時間も無いことだし、さっさと起きてバスでもテレポでもなんでも使ってもらいましょうか。

 期待の眼差しを送り続けること、1分、2分、2分10秒、2分15秒、2分17…………このおじいちゃん、本当に寝てるッ!?

 ぐすぅ~ぐすぅ~と寝息を立てて、直立したまま夢の中。

 おじいちゃんなのは分かるけど、おじいちゃん起きて!

 今はそれどころじゃないから。

 もう少し頑張ってっ!


「…………はっ! 鯨肉の夢が」

「それは私に喧嘩を売っているのかしらッ!?」

「まぁまぁ、そうカリカリせずに。そろそろ料理長がアレを温めなおして持って来て下さる頃ですな」

「アレ?」


 アレとはいったいなんの話しか。

 そもそもお昼はグレンツェンで食べる予定なのだから、料理を持ってきてもらっても困るのだけど。

 はぁ~、頼りになると期待したセバスも役に立たず。

 ソフィアは依然として、わたしの願いを叶えてくれる様子はない。

 結界を破壊できないわたしには、どうすることもできません。


 ………………でも、諦めたくない!

 なんとかして、なんとかして脱出したい。

 いっそ窓から飛び降りようか。箒があれば飛行(フライ)だって使えるわたし。魔法適正は結構高いほうなんだから。

 しかし窓が開かず。ソフィアの結界が邪魔でどうしようもない。誰かどうにかしてよ!

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