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洋服屋さんに出会いを求めて 1

今回は洋服屋さんで服を選びに行くお話しです。

己の個性を表現するのに最も威力を発揮するアイテムの一つではないでしょうか。


作者はダメになるまで着まわす人種なので親からは着たきり雀と言われますが、そんなにたくさん服要るか? と思う訳です。そりゃあオシャレは男女問わず大切でしょうけど、そんなにほいほい買いません。長く使っていくスタイルです。

まぁ美的感覚が麻痺しない程度に新調しろってことでしょうかね。




以下、主観【小鳥遊すみれ】

 ダイナグラフ・キングダム。

 南半球にあるその大陸は高温多湿の環境。大きな森林と広い川、周囲を山脈に囲まれた原始の世界。北部には巨大な壁と渓谷を隔てて人間の住む国がある。

 ダイナグラフの王は時折やってくる人間とも交流があり、外国の人とも友好的な関係を築いていた。


 南部には山脈を挟んでコカトリスの住まう土地。彼等は発情期になると、山脈を越えてダイナグラフ王の土地へと侵入しては彼らを困らせる。

 山脈のいたるところに背の高い樹木を植えて天然の壁を作ったのだが、発情期で身体能力が上がり、元々頭の悪い巨大な鶏は20メートルを超える熱帯林をジャンプして跳び越えたり、激突してなぎ倒したりした。

 着地に失敗、あるいは樹木に激突して勝手に屍になる分にはいい。運悪く生き残った個体は、王と王の愛する臣民の生活を脅かすのだ。

 これを討たんとするも、コカトリスは石化の息を吐き、羽には猛毒の毛が生えていて、まさに命がけの攻防となった。

 そんな魔獣を狩ってしまうハティさんとは一体何者なのか。


 少しだけ気にはなるけど、今日のところは彼の地に備えてショッピング。

 高温多湿でも快適に動けるよう、新しいお洋服を選びに来たのだ。

 洋服屋さんに訪れて最初に驚いたのは種類の多さ。

 世の中にはこんなにも沢山の色や形をした服があるのか。今までは定期船から支給された甚兵衛かスカートにTシャツがスタンダードだった私には、どれも新鮮に映ってしまう。

 出発当初、プレゼントと渡された洋服に目を輝かせていたばかりだったのに、今度は右に左に胸が躍る。

 自分で好きな服を選んで着られるなんて夢みたい。

 だったら赤色。赤色の服がいい。

 何を隠そうこの私。夕焼け色の赤色が大好きなのです。優しく輝くその色が心をあったかくしてくれるんです。


「すみれってこういう場所に来るのって初めて?」


 ペーシェさんの手を繋ぎながら、右に左に引っ張りまくる。


「洋服屋さんなんて初めて。みんないろんな服を着てるなぁとは思ってたけど、こんなにたくさんあるなんて。カラフルでキラキラしててとっても素敵!」

「カラフルでキラキラかぁ。とってもいいね。でも今回の一番の目的は、高温多湿の環境でも動きやすくて快適な装備だからね。まずはそれを探そう。ジャングルだって言ってたから、長袖長ズボンが基本かな。となると」


 天井に吊るされている看板を頼りにまっすぐ進んで回れ右。

 どんな服と出会えるのだろう。きっとかわいくておしゃれな服なんだろうな。赤い色をしてたらいいな。

 そんな期待を胸に膨らませていたのに、ペーシェさんの手に取った服はかわいらしさのかけらもない。緑と茶色と濃い緑色だけで構成され、やたらとポケットの多い服。

 迷彩服である。かわいくないのであります。


「ま、まぁ通気性が高くて長袖長ズボンの服の見本ってことね。別にこれを着るわけじゃないから大丈夫。他を探してみようか」


 絶望のオーラを身にまとった私の心を察してそれらしい言い訳をしてくれる。気を遣わせてしまってごめんなさい。

 気を取り直して服の波を大冒険。

 フリルのついたスカート。

 ロングコートにワンピース。

 清楚なブラウスからパンクなタンクトップまで目白押し。っと、いけないいけない。ついつい目的を忘れてしまう。

 あ、赤いリボンの麦わら帽子っ!


「とりあえず下はジーパンで上は長袖とジャケットってことにしようね。このままだと一生、買い物が終わりそうにないや」

「ジーパン、ってこの紺色の。赤色は?」

「赤のジーパンは聞いたことないなぁ。まぁでもほら、上の長袖とジャケットに赤色を取り入れればいいんじゃない?」

「う~ん。分かった」


 紺色のズボンにはちょっと納得がいかない。

 代わりに赤と黒のチェックのジャケットが見つかったのでモヤモヤが吹っ切れた。

 長袖はペーシェさんとお揃いの、劇画調の鶏のキャラクターの入ったシャツ。キャラクターの足元には《不死鳥》という漢字が筆書きで入ってる。


 まぁアレだよね。英語でとても発音できない文章であっても読めないし、字体が入ってるのがかっこよく見えるし、字が景色的なやつになっていて内容に意味はなく、デザイン的な意味でデザインされてるやつ。

 多分これもそんなやつ。明らかに鶏。不死鳥ではない。ペーシェさんがいいって言うなら何も言わないでおこう。


「あれ、ペーシェにすみれ。2人も服選び?」

「あ、ハイジにベレッタさん。2人も明日用の服を選びに来たの?」


 カジュアルにアレンジされた伝統的なタイドレスが似合うハイジさん。

 全身をダークグリーンで統一するベレッタさん。

 コントラストがはっきり分かれてる凸凹コンビのようだ。


「そうそう。あたしもこっちに引っ越してきて半年くらいだし、ジャングル向きの服なんて持ってないからさ。私服にあればよかったんだけど、殆どタイドレスしか持ってないから。新調がてらお買い物。昨日、そんな話をしてたらベレッタさんも買い物に行くっていうから一緒に来たんだ。2人はもう決めたの? 他にも誰かいる?」

「あたしたちはおそろのジーパンとシャツにしたよ。ジャケットは別々だけどね。2人もどう? おそろにしない?」


 ハイジさんは難しい顔をして目を細めて悩んだ。

 ベレッタさんはズボンもジーパンも似たようなものに見えた。だから安いほうを選ぶつもりでいる。


「う~ん。おそろはいいんだけど、ジャングルに入るならやっぱりズボンにした方がいいよね。草木が生い茂ってるのは間違いないし」

「ハイジはズボンが苦手なの?」

「苦手っていうかあまり穿かない部類かな。手持ちの服の殆どがタイドレスかワンピース」

「タイドレス好きだな」

「故郷の伝統衣装で子供の頃から愛用してるんだ。自前で刺繍を入れられてオリジナルにするのが楽しいよ」

「タイドレスって今着てる服?」


 ドレスアップシーンで着用されるきらきらな生地のタイドレス。普段着のためにカジュアルに落とし込んだオリジナルデザインはハイジさんお手製。

 雲のような優しい白のトップス&サバス。

 南国を思わせる爽やかなクリアブルーのパ・ヌン。

 片方はサバイを巻いて長く、もう片方はスリーブレスで健康的に。

 随所に散りばめられたアジアンテイストな刺繍とアクセサリーがチャーミング。

 私も着てみたいです。


「足元のタツノオトシゴの刺繍は自分で入れたんだ。キラキラしてて綺麗でしょ」

「うわぁ、とっても素敵。触ってみてもいいですか?」


 布地に通された糸の集まりはすべすべでふわふわしていて触り心地がとてもいい。それに光を乱反射させてキラキラしてる。なんだかとってもワンダフル。

 ハイジさんはテキスタイルデザイナーを夢見てる。刺繍を扱った服を着てもらって、みんなに笑顔になってもらいたいって思ってる。


 私たちと同じ紺色のジーパンと、それぞれが選んだ服のお披露目会の始まり始まり。

 ここからは欲望という名のエンジン全開。

 片っ端から気に入った服をカートに詰めて、おしゃれな女の子に私はなるっ!


 ハイジさんはジーパンに白のワイシャツ。清楚系の上下にピンク色のキャスケットを被って大人かわいいを演出。

 ベレッタさんは小麦色のストローハット。赤茶色の長い髪に合う夏用のカーディガンを追加。上着は女性的なラインを強調した白のブラウスでセクシーを足し算。

 2人とも私より身長もあるしスタイルがいいから何を着ても似合うなぁ。


 感心していると、近くから聞き覚えのある声がした。

 スパルタコさんとダーインさん。アポロンさんも一緒にいる。


「おーい、お前らも服を選びに来たの? ハティさんは?」

「スパルタコとアポロンさんにダーインさんじゃん。どんどん集まってくるなぁ。ハティさんは明日、お世話してもらう人のところに連絡しに行くって。ここにはいないよ。なんで?」

「そりゃあナイスバディな女の子の衣装選びにご一緒させていただけるなら、ぷっ! (笑) 男としてはこれ以上ない喜びなわけで」

「おいてめぇ。今、あたしのどこを見て笑ったか言ってみろッ!」

「おっぱ

「ブッ殺スッ!」


 殴りかかるペーシェさん。

 慣れた手つきでやりすごすスパルタコさん。

 幼馴染か。羨ましいなあ。


「ごめんね騒がしくしちゃって。あの2人、仲良しだから」

「「良くなんかねぇよッ!」」


 男の子は胸の大きな女の子が好きなんだそう。

 たしかにペーシェさんはぺったんこ。だけど、人の良さは外見だけじゃないと思う。ペーシェさんはとっても素敵な人なのになぁ。喧嘩するほど仲がいいってことなのかなぁ。

 ともあれ男子も増えて賑やかになってきました。

 スパルタコさんはペーシェさんが最初に手に取っていた迷彩柄の服を購入。

 アポロンさんは普通のパンツに無地の長袖。なんというか服は普通。素体がいいから何を着てもイケメンに見えるのか。すれ違う女性の視線を独り占め。


「ダーインは逆三角形が災いしてか、あんまり選べる服が少ないな」

「もういっそ裸でいいんじゃない?」

「いや、そういうわけにはいかないよ。肌を露出させてたら間違いなく怪我をするからね」

「物が少ないのは仕方ないところだ。とりあえずサイズが合えばなんでもいいんだぜ」


 ダーインさんはマッチョゆえ、体格的に選ぶ服が限定されてしまう。ナイスバルクも困りもの。

 と、そんな会話をしてるとスパルタコさんが自分から地雷を踏みに躍り出た。


「ペーシェは他の3人と比べて選ぶ服が多くていいな」

「死ねタコ野郎」


 嫌よ嫌よは超嫌い。

 2人はちょっと違うのかな?

 仲良しだと信じたい。


 口喧嘩を始める2人をよそに、カーテンの向こうに消えて行ったダーインさんが数十秒で再登場。

 するとどうでしょう。ボクサーパンツ…………だけを穿いた筋肉ムッキムキ出しのダーインさんがマッスルポージングをとってるではありませんか。

 女性陣は絶叫。内1人発狂。スパルタコさんは爆笑。アポロンさんがカーテンを閉めようにも、なぜかそれをハイジさんが阻止。


「お前、服着ろよッ! なんで試着室に入ったんだよ! それからハイジは手をどけてっ! 写真撮ろうとしないでっ!」

「やっぱり俺の肉体美を体現しようと考えたらよぉ。これしかないと思ってなっ!」

「ちょっ、まっ、1枚…………1枚だけ撮らせて! 筋肉! おふっふわぁっはぁっはぁあああはっははああっ!」

「今じゃなくてもいいでしょ、ちょ、連写とフラッシュがまぶしいからっ! お前もポーズ決めてる場合じゃないから!」


 それから一般客の悲鳴を皮切りに、ちょっとしたパニックになってしまった。

 その後はみんなでアンティークショップに行ったりランチを食べたり。総じて楽しい1日でした。

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