成長とは、恐怖を乗り越えること 4
次に訪れたるは知る人のみぞ知るアンティークショップとカフェの館。
本場の華国料理が楽しめる鉄の店。
グアダラハラ国の文化と料理が楽しめる情熱の舞台。
最後にグレンツェンのお菓子の家【アトリエ・ド・ショコラ】。
おいしいお菓子に綺麗なガーデンテラス。優雅なひと時を味わえる店としてグレンツェンでは有名なお菓子屋さん。
季節のイベントも催されていて、ハロウィンの時なんかはこの店を中心に、居住区の人も踊りあかすことで知られている。
そんな素敵メルヘンな場所を目の前に、私たちはグリムさんに願いでた。
「あんたどんだけ食べれば気が済むの!? もう無理。ここでラストにしてお願い!」
ルクスアキナさんはグリムさんの肩を掴んで揺らす。
「私も、さすがに歩き疲れました。食べ歩きの続きは、また後日ということでお願いします」
私は足が棒になってショコラの塀に背を預けた。
「…………そうですね。結構な距離を歩きました。ラストに甘いものは鉄板ですし。ここで最後にしましょう」
すごい残念そうなんですけど。
まだ歩く気だったんですか。
まだ食べる気だったんですか。
見た目は破廉恥だけど常識的なルクスアキナさんとは対照的に、普通な見た目に異常な中身。美人には変わり者が多いと言うが、まさに地を行く変人っぷり。
いやまぁ、素晴らしい野菜の成る土を食べたり、土に埋まって昼寝をしたりする私が言えた義理ではないので、深くは突っ込まないことにしておきます。
小腹も空いてきてお菓子の時分。もとい、お菓子を胃に入れるための別腹を用意。
鉄板メニューのチョコレートケーキに紅茶を追加。
さてさて綺麗な花を愛でながら、素敵なティータイムと洒落込みますか。
するとある一画に見知った顔が並んでいた。
彼女たちはキッチンのメンバー。呼び止められて、卓を一緒に囲むことに。
どうやらグリムさんとすみれさんは知り合いらしく、最近はスーパーで一緒に仕事をしてるらしい。
アルバイトか。ちょっと憧れちゃうなぁ。
できれば農業に関係した仕事がしたいなぁ。
畑はちょっと違うけど、お花屋さんなんていいかも。
青果屋さんもアリかな。
消費者の声が直接聞ける現場はよい経験になるだろう。
「レレッチさんもアルバイトするんですか? であれば一緒に働きたいです」
すみれさんと一緒の仕事。料理の仕事。かなり魅力的ではある。
が、
「う、うぅん……パーリーは素敵なところだと思うけど、アパートからはかなり遠いかも。オーロラ・ストリートにも青果店があるから、そっちのほうがいいかな (レレッチ)」
「それは残念です。でもアルバイトをするなら頑張って下さいね。きっといい経験になります (すみれ)」
「オーロラ・ストリートの青果店ってめっちゃ高級感のあるところじゃん。しかも超一級 (ペーシェ)」
「この前食べたマンゴーはすっごくおいしかったですね (ティレット)」
「さすがお嬢様。ええと、パーリーには大量生産された大衆的な果物を配荷されるけど、オーロラ・ストリートの【シニティラー】は特注品や、その年に収穫された中で一番いいものを卸してる。少なくともうちで採れた果物は大量生産にも自信はあるけど、シニティラーで扱ってるものは特に良いものが選別されてるよ (レレッチ)」
「ペルンノート農場で採れる野菜も果物も、とってもおいしいですからね (ティレット)」
そう、我が父自慢の作物を扱ってくださってるのです。
私もそんな父のようになりたくて、日々精進を続けてます。
多くの人々に果物の素晴らしさを伝えるため、努力と研鑽の毎日です。
「ですです。ショコラでもよく使わせてもらっています。特に木に成るタイプの果物に力を入れていて、秋に採れる栗を使ったモンブランは絶品です。……っと、栗は厳密には果物ではないですね。でもどれもおいしくて、ついついつまみ食いしてしまいそうになりますよ♪」
「えぇと…………誰?」
誰だこのウェイター。とんでもなくきらきら盛り盛りの美少女が現れた。
「仕事人モードのヴィルヘルミナさん。相変わらず整形ばりの変貌っぷりには惚れ惚れします。本当にメイクだけなんですか?」
「とりあえずみんながびっくりするやつですね。私もそうでした」
嘘でしょこの子がヴィルヘルミナ!?
キッチンで見た時はほぼすっぴん。髪も殆ど手入れした様子はなかった。仕事だからとはいえ、メイクだけでここまで変わるの!?
気合い入れすぎでしょッ!
別人じゃんッ!
不自然に胸を寄せてる!
もっちりほっぺは見る影もない。
あざとかわいいを目指した媚び接客には定評があるらしい。
いいのかこれで。これでいいのか!?
実際、常連客の女性客には人気である。
信じられん。信じられんが、現実は認めざるをえない。
前祝の時に撮った集合写真と見比べる。
…………別人じゃん。
♪ ♪ ♪
今日は驚きに満ちた1日だった。
訪れたラーメンショップは兵士入り乱れる戦場。
超大食漢のグリムさんの行動力。
ヴィルヘルミナの整形紛いのメイク術。
それら全てをどうでもよくしてくれるほど、甘くておいしいスイーツの数々。
楽しい女子会は幼少の頃に憧れた楽園の姿。
やっぱりこの時間だけはたまりませんなぁ~♪
別れ際、グリムさんとルクスアキナさんは今度はお祭り当日にと手を振って、電車に乗って帰ってしまった。
他の人たちともお別れして、思い出を胸に家路へ戻る。
今日は大収穫だった。
お友達が2人もできた。
行ってみたかった場所にも行けた。
最後に3時のティータイム。
終わりよければすべてよしっ!
それに、優しいお姉さんたちのおかげで人見知りも少し治った気がする。
グリムさんが呼び水になってくれたおかげで、知らない人ともいっぱいおしゃべりをした。
お肉屋さんの店主さんとも、カフェの主人とも、街行く人とも会話ができた。
少し成長した気がするぞっ!
よぉ~し、このままかき氷の屋台も大成功だ。
やってるやるぜい!
見事に耳を爆撃されましたね。オリンピックが予定されていたころはヌードルハラスメントなんて言葉もありましたが、郷に入りては郷に従えと言いますか、我慢するか諦めるかしかなくない? と思ったものです。逆に我々が外国に出てそういう立場になっても通用しないでしょう。するとは思えませんね。覚悟と容赦を持って外国に行かない自分が悪いように思えます。
さて、今回のことでちょっぴりかもしれませんがレレッチが成長しました。
今後も彼女たちの成長に期待ですね。
次回はお隣さんのハイジにカルチャーショックを受けながらも、良き隣人として過ごす牛革職人主観の小話です。




