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成長とは、恐怖を乗り越えること 1

人見知りのレレッチが雇ったアルバイトとお祭り当日の打ち合わせをする回です。

その後、親睦を深めんとお昼ご飯を食べに行きます。ラーメン屋です。外国のラーメン屋となるとどういう話の展開になるか予想できそうな気がしますが、お察しの通りの展開になります。


レレッチのように消極的で心配が先に立つ系のキャラには他のことに目もくれず、まっしぐらに目標へ突っ走りながら友達の手を引っ張る人と相性が良いです。

まぁ相性も何も、そういう人がいないと話しが進まないんで登場せざるをえないんですけどね。そんなわけで頼れるお姉さんたちが現れます。ウォーターメロンのお姉さんです。




以下、主観【レレッチ・ペルンノート】

 グレンツェン大図書館地下倉庫。

 広大な大図書館の地下に存在する空間。グレンツェン伯爵が戦争に備え、市民を避難させるために建造させたと言われる巨大シェルター。現在でも緊急避難警報が発令された際に利用できるよう整備されている。


 今日はその一画。倉庫区画にて人を待つ。貸出し区画にはフラワーフェスティバルで使用される出店の屋台や、食券機などの機械が保管されている。

 我々が使うかき氷の屋台も置いてある。周辺機材の確認もばっちり。フライヤーものれんも作った。

 あとはそう、アルバイトの2人に当日の予定を説明するだけ。

 するだけなんだけど、直接会うのは初めて。超緊張する。


 何を隠そうレレッチ・ペルンノート。自他共に認める人見知り。以前にあった前祝には、知り合いのティレットたちがいたからなんとかなった。

 だけど、今回は全く新しい戦場。

 助け船はない。

 縋ることのできる大樹はない。

 正直言って逃げたいっ!


 だけど決めたの。故郷の地を離れた時に決意した。

 友達をいっぱい作るって!

 今日はその最初の一歩。

 逃げ出すことは許されない。


 時計の針が進むにつれて、呼吸がどんどん荒くなる。

 喉が渇いてきて、体温が下がっていくのを感じた。

 やばい、体が痺れてきた。

 こんな時に、こんな時に限って、本能が現実逃避を始める。

 意識が……遠のいて…………。


 数分後。


 誰かが私の名前を呼んでる。

 聞いたことのない声色。1人はおだやかで優しそうな大人の女性。もう1人は怪しくも不思議な、艶やかだけど清純な雰囲気の音。

 誰だろう。というか、なんで私はこんなところで失神してるんだっけ…………そうだ、会う前から緊張しすぎて目の前が真っ白になったんだった。

 や、やばい!

 人を待たせてるじゃないか。


「ふわぁっ! す、すすすすすすすみません! 緊張しすぎて気を失ってました!」

「緊張しすぎで気を失って!? 大丈夫なの? 医務室行く?」

「だ、大丈夫です。もうばっちり目が覚め――――――ッ!?」


 大丈夫かと心配してくれる見慣れないお姉さんが目に飛び込んできた。次いで、すんごいセクシーな色香が脳天直撃。

 魅惑的な女性らしい服装。

 艶やかな薄いピンクの唇。

 明るい紫色の長髪。

 目にかかるほど伸ばした前髪はミステリアスレディのそれ。

 そして…………メロン、いやもうこれは――――――ウォーターメロンッ!?

 少し動くたびに揺れ動くウォーターメロン!?

 何を食ったらこんなに成長するの!?

 何を食べればこうなるの!?

 私にも教えてッ!!


「あ、あの……本当に大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですけど……」

「ふふぁッ! ダイジョブデス。モンダイナイナーイデス!」


 めちゃくちゃに声が裏返った。緊張を通り越して、なんだかもう頭がおかしくなりそう。

 視界がぐるぐる回って焦点が、焦点が定まらないどころか無意識にウォーターメロンへ吸い込まれていく。

 やばい。いくら同性だからってこれは失礼。頭では分かってる。頭では分かってるけど、本能が、願望が、言い知れぬ嫉妬心が、思考を搔き乱して爆発しそう!


 心の爆弾を理性で消火。頭の隅っこに追いやろう。

 そしてできるだけ、ウォーターメロンの女性のほうは見ないようにしよう。そうしよう。そうでなければ胸元にばかり目が行ってしまう。

 おっぱいと会話する変人だと思われてしまう。


「す、すみません。かなり人見知りなもので、知らない人を前にすると、呼吸が荒くなって気を失いそうになるんです」

「そうなんだ。私も知らない人としゃべるのは緊張してしまいます。今も少し強張っちゃって。でも自分のペースでいいと思います。焦らずゆっくり慣れて下さい。ではええと、自己紹介しますね。私はグリム・クレール。よろしくお願いします」

「あたしはルクスアキナ。グレンツェンに住んでるわけじゃないけど、グリムに誘われて参加しました。よろしくね♪」

「レレッチ・ペルンノート、です。こちらこそ、よろしくお願いします」


 2人ともいい人だ。物腰柔らかな抑揚。会話を焦らせないところなんて、心の余裕のある素敵な女性の姿そのもの。

 気を失っていた時も一番に心配してくれた。怪訝な顔なんて一切見せない。

 こんなにも人見知りで、頼りない子供が雇い主だなんて、と、もしかしたら思ってるかもしれない。

 だけどそんな雰囲気は全然見せない。

 嫌な思いをさせてないだろうか。

 不安が先に立って前日にドタキャンされないだろうか。

 あぁ~~……自分の不甲斐なさのせいで心配ばかりが脳裏をよぎる。


 わたわたして俯く私を見かねたルクスアキナさん。大丈夫と囁いて抱きしめてくれた。

 彼女を意識の外に置いていた私には、いきなりのことで何がなんだか分からなかった。けれど、じんわりと暖かくなっていく心を感じながら、彼女の優しい言葉にほだされて落ち着きを取り戻す。

 彼女の抱擁はなんというか、ママの腕の中で抱き寄せられるような、そんな安心を感じる。


 少しホームシックだったのかな。

 電話やメールでやりとりはしてるけど、両親にはここしばらく直接会ってはいなかった。

 フラワーフェスティバルには訪れると言ってたから、お祭りの最中には会えるだろう。

 それが心待ちで、それまでは少し寂しくて。やっぱり私は心細かったんだ。だからルクスアキナさんに心まで温めてもらったようで、なんだか少し安心した。


「いきなりごめんね。でも少し落ち着いた? 顔色がよくなったかも」

「はい、ありがとうございます。少し落ち着きました」


 彼女は屈託のない笑顔で安堵の意思を示した。

 正直言って、最初の見た目から受ける印象はビ●チの露出狂。

 白昼堂々、背中どころか横乳が見えるセーターを着る女性なんて、頭がおかしい人でしかないと思い込んでいた。いや、その点に関してはどう考えてもおかしいのだけれど。

 でも彼女は私の心を気遣って、ぎゅ~って抱きしめてくれた。

 それはとても暖かくて、優しくて、ルクスアキナと言う人物が素敵な心の持ち主だということを表している。


 安心して、それからひとつ深呼吸。

 もう大丈夫。

 ちゃんと話せる。

 きちんと向き合える。


 それから私は改めて挨拶をし、お祭り当日の役割や注意事項を伝えた。

 広報、受付、かき氷作りの役割を30分ずつ交代で行うこと。

 広報や列の案内はするけれど、勧誘はしてはいけないこと。

 何かトラブルが起きた時はエリアリーダーを呼ぶこと。

 受付の人は必ず注文の品を確認すること。

 金庫から目を離さないこと。

 作り手は急ぎすぎてケガをしないこと。

 屋台の中は狭いから、お互いが声をかけあって連携すること。

 それからこまめな水分補給。

 のどが渇いたらではなく、時間と量を決めて水分を摂取すること。

 などなど。とりあえず伝えなければならないことはこんなところ。

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