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楽しまなくっちゃ 3

 次の問題は結界内にグレンツェンの景色を投影すること。

 決められた範囲を映し出す魔方陣を甲乙に割り振って配置。結界内に投射するということであれば技術的には問題はない。

 問題があるとすれば防犯の観点。当日は大勢の人々がいる中、自分たちの知り得ない場所で覗き見られるようなことをされては気分のいいものではない。

 解決のために、あらかじめ告知して、当該地域の了解を得ておく必要があるだろう。

 この点においては市長で警備主任のヘラ氏に相談しなければならない。

 彼女は市長でありながら、グレンツェン全てのセキュリティを掌握している。

 つまり防犯上、クリアできる範囲を模索し、あわよくば市長の力をもって周囲の了解を得られれば万々歳。

 なんとか忙しいヘラさんを捕まえて交渉ができれば可能性はある。


「あっはっはっはーっ! 息抜きがてらに様子を見に来たよ~♪ 進んでる?」

「これ以上ないほどにグッドタイミングッ!」


 踊り出すアルマ。

 私はタイミングがナイスすぎることに疑念を抱く。


「もしかして盗み聞きでもしてたのですか? まさか監視カメラを私的流用したんじゃ」

「え、なんの話し? もしかして私のことを呼んでた?」


 アルマの願いを聞き届けたヘラさん。少し悩んで、いけるいける、と大合唱。しかも新しい提案を付け加えてくれた。

 監視カメラの映像を結界内に投影するよりも、スイッチを切り替えるようにして、術者の網膜に映る景色を、監視カメラの情報に切り替えてしまったほうが単純で手っ取り早いと助け船。

 簡単に例えると、オフ時には裏庭庭園の景色。オン時にはカメラの見ている情報を、監理棟でテレビに映る映像を見ている警備員のようにして、記念公園の情景を楽しむことができるというわけ。

 システムも簡単。空中浮遊のために使うマジックアイテムに、スイッチとなるオプションをくっつけるだけで完成する。


 目から鱗と感動の涙を流すアルマ。

 孫を愛でるかのように頭を撫でてやるヘラさん。

 感心する周囲のみんな。

 当日は超忙しくて遊ぶ暇がないから、せめて今くらいはとしゃぼん玉に乗ろうとするヘラさん。

 仕事中に何をやってるんだと部下に連行されるヘラさん。

 お昼時になったら連絡して欲しいと、引きずられて行くヘラさん。

 さすが、市長はとても忙しいようです。


 気を取り直して、まずは延長した高さでもって、どこまでの景色が見られるのかという検証。

 アルマがその気なら飛行(フライ)で確認しておけるのだが、グレンツェンには飛行(フライ)の飛行制限が設けられているためにそれは叶わなかった。


 さて、10m級の針葉樹を超えた景色はどんなものだろうか。

 私も見たいから自然な流れでしゃぼんに乗れるようにしよう。


 しゃぼん玉の中は疑似的な無重力。しゃぼんの内膜と身体の表面に斥力力場を生成することで、お互いが柔らかく反発して宙に浮く。

 姿勢を制御するための空中散歩専用のマジックアイテム(チャーム)はステラ謹製。

 革紐からぶら下がった、骨組みで構成されたような球体。

 魔力を流すと、中心部分が高速回転してジャイロ効果を生む。


 暴れ狂う童心を抑え、アルマたちを空へ打ち上げる。

 ぽっと空に浮いて、ふわふわと天を目指した。

 魔力の注がれたチャームがわずかに燐光を纏う。

 結界の壁にあたって立ち止まり、風に吹かれて流される。

 見える景色は遥か彼方に、大地と空と雲を臨んだ。

 言葉にならぬ、色と景色と人の夢。


「いやぁ……やっぱりいいなぁ~、空中散歩は」


 超ビッグサイズの宇宙服を纏っているような感覚。

 しゃぼん玉の中は無重力。マジックアイテムのジャイロ効果を身体にリンクしてるとはいえ、慣れてないと姿勢を制御するのは難しい。

 だけど、ここでしか味わえない体験。

 なにものにも代えがたい、夢のような時間。


「空は広くて高くて少し怖かったが、遠くの景色が見渡せるというのがこれほどまで素晴らしいものだとは思わなかったぞ」

「気に入っていただけて何よりです。シェリーさんのおかげでまた素晴らしいものになりました。結界の中で気流を発生させるのも解決できそうですし、最も懸念していた景観についてもクリアできそうです。本当にありがとうございました。あとは……」

「あとは?」


 うっとりとした表情で地平線の彼方を眺め、言葉の続きを伝えようとする言葉には一抹の不安が隠れていた。


「一応、我々は運営側で、何回もマジックアイテムを使って反復しています。しかし来場される方々はその時に初めて使います。もしかしたら上手く使えない人がいるかもなので、そこをどうしようと思いまして」

「それはまぁ、その可能性はあるかもしれないが、考えすぎじゃないか? その時は知らない人同士でも2人1組になってもらう、でいいと思う。そういう決まり事は、はっきり断言してしまえばいいんだ。しまえばいい、というよりは、するしかないんだが。文句を言うやつがいても門前払いし続ければいい。もしもごねるようだったら、売り子をしているステラの大人に助けを求めろ。グレンツェンの運営側の人間には、保安委員としての役割が義務付けられている。それは君たちもそうなのだが、まだまだ世間を知らない子供だ。存分に大人を頼りなさい」


 グレンツェンのフラワーフェスティバルに参加する運営側には、治安保持を行う保安委員としての役割が義務付けられている。

 監理棟での機械警備が主流のグレンツェンでは、人間の警備員が街を歩くということは殆どない。

 魔法・魔導工学・機械。3つの視点でもってスマートで堅牢な防備を備えているといえ、これで事足りるのは普段の日常のみ。

 お祭りとなれば多くの人間が出入りする。

 多種多様な価値観が交錯する。


 基本的には街の出入り口の顔認証センサーが検知して、悪さをするつもりで入ってくる人は門前払い。

 しかしそのつもりが無くても、祭りの熱気にあてられて、あるいは酒の飲みすぎで暴れたりする輩も過去にはいた。

 本来なら本業の警備員を各所に配置すべきなのだが、参加者に対して警備員の人数が足りない。ならば運営側の参加者に協力を要請すればいいじゃないか。

 そうして祭りをよりよいものにしようと、結束したグレンツェンの人々のおかげもあって、フラワーフェスティバルの事件事故数は同規模の祭りに比べて格段に低い数字を叩き出した。

 場慣れしている大人の背中を見て学び、尊敬してもらえれば、これほど嬉しいことはない。


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