楽しまなくっちゃ 2
最先端と言われるエクスプレス合衆国の研究チームの発表では、肉体強化を4回起動できる程度の魔力保管器の開発に成功した。
画期的ではあるが、まだそれでは実用レベルとはとてもいえない。保存する魔力の練度も弱いものしか内包することができず、あまりに高い練度の魔力は素材の耐久値を超えて破損してしまう。
レナトゥスとハイラックスが共同開発している魔力保管器は、宮廷魔導士並みの練度の魔力を保管できるまでに至ってはいる。
しかし、やはり素材と魔術回路の強度が足りず、あまり多くの魔力を内蔵することはできない。
列強各国も我先にと研究するが、目立った成果は見られない。
そんな状況で、彼女の持つマギ・ストッカーの威力には目を疑うものがある。
触れただけで理解できた。保存できる魔力量はマギ・ストッカー全体の98%。これは従来の試作品を遥かに凌駕した。
魔導防殻を破壊したという天崩のデータと比較するに、アレを2発は撃てる魔力量を持っている。
練度については中の上といった具合。訓練された宮廷魔導士見習い程度のレベルと同等である。マギ・ストッカーにおいては十分すぎるレベルの魔力。
捻って弁を広げる広さで魔力の出力を調整できる機構部分は職人技どころか、神業と以外に形容できない。
場合によっては極秘情報の塊という見方もできるこんなものを、さも当然のように持ち歩くアルマ・クローディアンとは一体何者なのだろう。
紅暁から留学を薦められてグレンツェンに来た少女。
しかしどこから?
てっきり倭国からの留学生かとも思ったが、名前は倭名ではない。顔立ちも東洋人とはかけ離れてる。
故郷はメリアローザと言ったか。両親が西洋人で仕事で倭国に?
それなら推挙するのは両親のはず。紅暁ではない。
うぅむ。考えれば考えるほどに謎が深まる。
あまり個人のプライベートに踏み込むのもよくないし、ここは持ち物にだけ興味を示そう。
「ひとつ聞きたいんだが、アルマはこのマギ・ストッカーをどこで手に入れたんだ?」
「これですか? これはメリアローザで有名なおもちゃ屋さんが作ったおもちゃを参考に発展させたものなんです」
「お、おもちゃ…………!?」
ひとつうなずいて、ふりふりフリルから取り出したるは色鮮やかな伝統工芸品。
きらきらと厳かに輝く組紐に巻かれた木製の筒。これがおもちゃなのか。どうやって遊ぶのだろう。
アルマの取り出したそれは万華鏡。ただの万華鏡ではない。魔力を取り込み、粉砕された魔術回路に色を添加し、様々な色と形の変化を楽しむという、倭国に古くから存在する玩具。
筒の外殻を海の近くや人の肌、川の水の流れ、森に生える苔などに近づけると、流動する魔力を取り込み、それらが放つ色を転写する。そうして様々な場所で採取した色を小さな穴から覗いて鑑賞するという、ただそれだけの遊び。
綺麗で不思議な景色を楽しむと同時に、自分で採取した様々な色の世界を堪能できるとあって、子供から大人まで人気のヒット商品。
ここで未知の可能性を示したアルマ・クローディアン。
中身の構造はどうなってるのか聞いて閃いた。
外から魔力を取り込んで、小さな筒の中に閉じ込めてしまう機構。
これを応用すれば魔力を吸収したのち、長期間保存できる素晴らしいマジックアイテムが開発できるのではないか。
思い立ったら吉日と、アルマは魔導に精通した大人を集めて作戦会議。ものの半年で試作・完成にまでこぎつけた。
というか…………これ、アルマが作ったのッ!?
「アルマはただ閃いただけで、殆どは龍の工房の職人さんたち。そして連携して開発した魔導士のみなさんのおかげです。いやぁ本当みんな、『おもしれぇことやってんな。俺にもできることは何かないか?』って、楽しそうでした。でも職人さんも魔導士も超一級なので、凄い勢いで進んだんです。これはその完成品第一号です」
「わぁ~、アルマって顔が広いんだね。ってことは、それだけ多くの人が携わってるわけだし、素人目に見ても便利だし、結構高いんじゃないの?」
常識を持ち合わせたライラックは、人の所有物でなおかつ、あまりにも高価なものを預かるのは怖いとい心境。
「ね、値段についてはノーコメントで…………」
珍しくアルマが目をそらした。相当ヤバい値段なんだな。そりゃそうだろうけど。
値段を公開してしまったら物怖じして触れたくなくなるのだろう。危惧して口をつむぐアルマ。
空気を読んで何も言わないライラック。
空気の読めないイッシュがうるさい。
いらぬことを聞いてしまったお詫びに、話題を変えるライラックはよくできた子だ。心の中で素晴らしいと拍手を送ろう。
ミステリアスなアルマについては興味が尽きないけれども、今日のお題目は空中散歩。
話しを軌道修正して前へ進もう。3日間の流れについてだ。
お祭りの3日間の役回りは彼らの仕事であり、残念ながら私は参加できない。ゆえにこの話題は彼らだけのもの。私の出番はない。疎外感が半端ない。
さて次の話題はというと、結界を構成するマジックアイテム。私の出番というわけです。
アルマに渡した演習用結界発生装置。通称サンドバッグ。
個数によって適正範囲の変わってくるこのマジックアイテムは、数が増えれば増えるほど、横幅も高さも広がっていく。今回はもっと高さを出したいということで、追加のサンドバッグを持参した次第である。
以前に渡したものでも高さを10メートルは確保できた。これだけあれば大丈夫だろうと思っていたけれど、実際に空中浮遊をするにあたって致命的な問題に直面する。
――――――景観があまりよくない。
図書館の裏庭庭園は表通りに比べ、静かで落ち着いていて、素晴らしい景色であるということは間違いない。
図書館の窓から見下ろすと、本を持ってベンチに腰掛けたいと思うほどだ。
しかしアルマたちが居を構えたのは演習場。公園から少し離れ、背の高い木々に囲まれた。
景観保持のために隔絶された空間として配慮される演習場。
危機管理の観点から、この場所が良いだろうと思ったアルマの意識の高さは素晴らしい。
だけど、石橋を叩きすぎたということもあり、かつ、実際に空からどんな景色になるかを見てなかったために、石橋を叩いて渡る前に割ってしまったというわけ。
今更場所の変更はできない。ならば高さを出そう。あと5~6m高く飛べれば、裏庭の公園が眺められる位置に出る。
さらに針葉樹の頭を飛び越えて、もっと先の景色が見られる。
それこそ地平線を臨めるほどに。
果てに昇り、沈む太陽を胸に刻める。
心に残る姿を、訪れた人に体験して欲しい。
無茶と分かりながら、でもどうしても叶えたくて、瞳の奥に燃ゆる炎を滾らせて、アルマは私の目をじっと見つめた。
私の心を焦がそうと、彼女は両の手を重ねるのだ。
ならばやってやるしかあるまいて!
さらに被せて彼女は言う。
『結界の中に、しゃぼん玉に触れてそよぐ程度の気流を作れないか』
もっと被せて彼女は願う。
『内部の映像をグレンツェンの街並みとリンクさせて、まるで表通りで空中浮遊をしているような体験ができないか』
はっはっはっ…………ちょっと待ってくれ。
頭を整理させてくれ。
……うん、まぁ、できないことはない。
疑似的な扇風機みたいなのを取り付けて――――。
と、言いかけた矢先。ドーム状の結界の中をしゃぼん玉でぐるぐる回遊できるようにしたいと言う。
んんん~~~~~~~~~~~~~~~………………ちょっと待って、そうなると、また新しい魔方陣を構築するべきなんじゃないだろうか。
てっとり早いのは術者が常に気流を操ること。だけど、そんなことを3日間もやってたら死人がでちゃう。体力も魔力ももたない。
基本的に魔法は攻撃志向が強くて、そういう微妙系魔法ってありそうで聞いたことない。
気流を操るのか、気圧を変化させて風の向きを操るのか、そよ風を発生させるのかで勝手が変わってくる。
よし。あとでユノに電話するからそれまで待ってもらおう。
彼女は気象系魔法が得意分野。きっと力になってくれるに違いない。
そう告げると、善は急げと携帯を取り出してユノに電話するアルマ。
なにやら良い返事があったそうで、颯爽解決したらしい。行動力の化身か。
…………あんまり役に立てなかった。




