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明日までのお楽しみ 3

以下、主観【アルマ・クローディアン】

 ご飯を食べたらお片付け。

 食べただけのアルマは率先して動きます。

 腕がないからといって侮るなかれ。魔力の扱いに長けたアルマならば、水を張ったタライに食器をつけて、渦潮のようにぐるんぐるん回してセルフ食洗器ができるのです。どやぁっ!


 そういうわけでアルマがいる時は、いつも食器の片付けをさせていただいております。

 ご飯はすみれさんとハティさん。時々ヤヤちゃん。お片付けはアルマとキキちゃんが主な仕事。家事も掃除も役割分担をしながら仲良く楽しく暮らしています。


 暮らしに便利な魔法に、家庭的なローザさんは興味津々。


「アルマちゃんのその魔法、すごく便利そうなんだけど、わたしにも習得できるかしら」

「魔法と言うよりは魔力を使ってぐるぐる回しているだけなので、慣れれば誰でもできますよ」


 片付けに奔走するスパルタコさんも興味はあるみたい。渦をのぞきこんで、難しそうだと唸りをあげた。


「それは言うは易しってやつだろ。でなきゃ食洗器が世界から消えてるよ」

「うん、普通に難しい。個体と違って液体は掴めないから櫂で漕ぐようにしてみても、食器の汚れなんか落とせる気がしない」


 ローザさんとスパルタコさんが挑戦するも、水面が波打つだけで食洗器のようにはならない。

 コツはですね、


「こう全体を包んでですね、川の流れを掴むようにして、タライの中で水を循環させて、汚れを、落として、いきます。ね?」

「真上から見てるけど、どう考えても一般人には不可能レベル。さすがアルマちゃん。ナチュラルぱねぇ」


 うぅむ、そんなに難しいかな。主観的にもやや難易度高めだろうというのは自覚している。しかしそれほどまでに難しいだろうか。

 暁さんからは、『アルマは魔法に関して常軌を逸した練度だから、常人には理解できない域だと評されたことがある。だからこそ、人には人の価値観があって、必ずしも自分の常識が相手に伝わらないこともある。それはそれとして受け入れなければならない』と注意されたことがある。


 気にしたことはないのだけれど、周囲の人々から、アルマは魔法を敬愛しすぎて、魔法を否定する人に対して露骨に塩対応をするらしい。そんなつもりはないのだが。

 でも大人たちが口を揃えるのならばそうなのだろう。気を付けなければなるマイマイカブリ。


 そしてなにより、アルマに対する彼らの好感度を下げないようにしなければ。

 理由は明白。いい子いい子して欲しいからです。

 人が聞けば、なんだそんなことかとため息をつくかもしれない。けれど、アルマにとって、誰かの役に立って褒められることは至上の喜び。ただそのためだけに頑張れる。アルマは意外と単純なのです。


 食洗機が終わって、食器を水切り場に並べ終えると懐かしい香りが鼻をくすぐった。


「あ、いい香り。紅芋を蒸かしてるんですか?」


 晩御飯でお腹いっぱいになったのに、どうして甘い香りをかぐと食欲が湧いちゃうのでしょう。

 世界七不思議の中にくわえてもよい案件ではないでしょうか。


「そう。お芋を漉して餡を作る。滑らかなのと、皮入りで食感の強いやつ。タルトにして食べたい。絶対おいしいっ!」


 ハティさんのガッツポーズが力強い!


「もしよかったら俺も手伝わせて。お菓子ってあんまり作ったことなくて興味ある」


 意外にもスパルタコさんがお菓子作り。


「わたしもわたしも。焼き菓子が主だから、こういうのってあんまり作ったことない」


 お菓子作りが趣味のローザさんは当然の参戦。


「味のついてる芋ってあんまり食べたことないな。あたしの地元のはバナナも芋も揚げ用のが主食だったから新鮮だなぁ」


 バナナを揚げるですとな?

 ハイジさんの故郷の味が気になる。


「バナナって味がないやつがあるのか」


 スパルタコさんの疑問に、ハイジさんは携帯で撮影した写真を取り出して解説。


「ピサン・ゴレンって言って、熟す前の青いバナナを揚げて食べるスナック菓子。これ用のバナナは味がしないしめちゃ固いの。砂糖をまぶしたりチョコレートをかけたりして食べるんだけど、これがまたおいしいのよ。よく食べたなぁ~」

「揚げバナナ。すっごくおいしそうっ!」

「なんでもおいしそうなのね。ハティさんは」


 食べることが幸福と豪語するハティさん。おいしいものだと聞くとなんでも興味を示す。

 本当に好きなんだなぁと感心すると同時に、ちょっとかわいいなって思う。

 見た目はすっごい美人のお姉さん。なのに、こういう子供っぽいところを見ると、ハティさんも女の子なんだなぁと思うのです。


 さてさてお芋の蒸かしたいい匂いに誘われて、すみれさんも夢から覚めました。

 みんなで餡子を盛り付けましょう。様々な形をしたサクサクのコーン器に、ゴムベラで掬った餡をぺちぺちしていきます。


 すみれさんとハティさんはさすがの器用さで綺麗なドームを作っていく。

 我々はなかなかどうして不器用なもので、2人のように綺麗にいかない。なんとなく乗せて、なんとかゴムベラから餡を切り離すので精一杯。

 そうこうしている間にすみれさんはドーム状の宝石にナイフを入れて、一枚一枚切り拓いて薔薇を作ってしまった。


 さっきまでアルマの魔法の練度が凄い凄いと言われたけど、アルマからしてみると、こういう魔力や魔法を使わない技術というものこそ、どうなってんだと疑問符が湧いてくる。

 よくまぁ道具ひとつでこんな器用なことができるなぁ。


 道具といえば、ステラ・フェッロの職人さんたちもそう。彼らは全て手作業で、恐ろしいほど精巧な時計や歯車を使った工芸品を作り出すわけだけど、よくまぁそんなことができるなと感心せざるをえない。

 工房の職人さんたちには、魔法万能説を唱え続けていたアルマの晴天が霹靂させられること幾星霜です。


 楽しい盛り付け体験も終わったところで、ローザさんが手作りしてくれたクッキーを少しだけ焼き直す。

 ティレットさんたちは紅茶の準備。

 ハティさんはアップルパイ。

 すみれさんはお芋のタルト。

 ヘラさんはチョコレートケーキ。

 ミーナさんはベリーボウル。

 なんという第2ラウンド。

 絶対食べきれないっ♪

 でも絶対に食べ尽くしたい♪


「う~ん。オーブンから香るこうばしい匂い。もしかしてはちみつですか?」


 オーブンから香るはちみつの香りに誘われて、ローザさんのスイーツスイッチをぽちっとな。


「そうそうそうなのよ。グレンツェンでしか採取できない特別なはちみつで『琥珀の蜂蜜』って呼ばれてるものを使ったの。グレンツェン固有のミツバチが作る蜜は通常のものより色が深くて、ものすごくコクが強いのが特徴なの。グレンツェンにはたくさんの数と種類の花が咲いてるんだけど、そのおかげでいろんな花の蜜を集めてできあがる。それらをブレンドして、その年で最もおいしいとされるはちみつを調合するの。でも流通量が少なくて、グレンツェンに住んでる人でさえ、なかなか手に入らない貴重品。それを今回は少し練り込んでみました。スプーン1杯分だけど、すっごく強い香りがするでしょ?」

「これだけあってスプーン1杯分だけなんですか。信じられないほど強烈で、だけどしつこくないというか、風に吹かれて消えてしまうような儚さがあるというか、めちゃくちゃいい匂いです。アルマは好きです、これ」

「はちみつの香りが猛烈にしますっ!」


 おっとっと、大好きな甘い匂いに誘われて、お腹いっぱい幸せいっぱいになって夢の中へダイブしたキキちゃんとヤヤちゃんが覚醒した。

 キキちゃんは寝起きのヤヤちゃんに殴られてご機嫌斜めのご様子だ。背中から抱き着いて頭を背中にこすりつけて唸っている。

 しかしかぐわしい小麦色のクッキーを目の前にかざすと、そのお皿を鼻で追って夢心地。怒ってたことなど忘れ、ガーデンテラスへワン・ツー・スキップ♪

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