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孤独に気づく 3

 ゆきぽんの肉球をぷにぷに。

 ゆきぽんの肉球をぷにっぷに。

 いやぁ、相変わらずちっこくてかわいいですなぁ。

 こんなに愛らしい動物ならうちでも飼いたい。しかしやはり、まとまった収入のない我々には荷が重すぎる。なので、すみれの家でゆきぽんを思いっきりかわいがって癒しをチャージしておくのだ。

 手の甲を差し出すと肩に乗ってくる。そのまま走り抜いて反対側から机に着地。まるで曲芸師になったような心地。


「ゆきぽんもすごく楽しそう。遊んでもらえて嬉しいって言ってる」

「ほんとに? いやぁ嬉しいですなぁ」


 親指の付け根を頬ずりされてこしょばゆい。ちっこくてなんてかわゆい生き物なのだ。

 そういえば、ゆきぽんって魔法が使えるんだったよな。どうしてだろう。


「ゆきぽんって魔法が使えるみたいだけど、ハティさんとアルマちゃんが教えたんだっけ?」

「うん。ゆきぽんは両親のような戦士になりたいって思ってる。だから簡単な魔法から覚えてみようって、教えてみた」


 当然のように答えるハティさんがナチュラルに怖い。


「簡単な魔法が空間移動(テレポート)とか魅了(チャーム)とか……上級魔法からってどゆこと? そういえばベレッタさんが使ったっていうきらきら魔法、すみれは使えるようになったの?」

「頑張ってるんだけど、全然できなくて。他の魔法も練習してるんだけど」


 あたしも教えてもらって習得した。特段難しい魔法ではないはず。人によっては魔法との親和性というものがあって、苦手な魔法とか得意な魔法という意識はたしかにある。

 しかし、きらきら魔法は四大元素に依るような属性系の魔法でない。俗に無属性と呼ばれるものに分類されるこれらの魔法は癖が少なく、簡単な魔法であれば誰でも習得可能とされる代物。


 そういえば、すみれが魔法を使ってるところを見たことがない。

 街中にいればそうそう魔法を使う場面っていうものはない反面、最近では家事系スキルが流行している。なればこそ、料理が好きなすみれであれば、そういった魔法を習得していても不思議ではない。


 他に使える魔法はあるのかと聞くと、ひとつも使えないという。

 きらきら魔法以外にも教えてもらったが全く使えない。

 生まれてこのかた、魔法を使ったこともない。教えてもらったこともないらしい。

 にわかには信じがたいが、彼女は嘘を言う人種ではない。あたしのフェアリーだからね。嘘を吐くメリットなんてない。そもそも嘘を吐くのが下手そう。

 特殊な環境で育ったせいなのか、小さい頃から魔法や魔力に親しんでないせいか、理由は分からないが、先天的なものでなければ訓練次第でなんとかなるはず。

 よし、ここはあたしがひと肌脱がなくっちゃねっ!


 と、意気込んだ矢先、ハティさんがあたしの足元を掬ってきた。

 悪気はないんだろうけどね。ちょっと残念な気持ちになっちゃうよね。


「すみれが魔法を使えない理由は分かってる。もし魔法が使えるようになりたかったら場所を移さないといけない。暴発すると世界が滅ぶ。大丈夫。私がついてる」

「え、ええっ!? せ、世界が滅ぶほどのかわいさってことだよね。よね?」


 脊髄反射的現実逃避。


「どういう解釈をしたらそうなるんだな。あぁ~、もしかしてそれって、先天性魔力暴走症ってやつか何かかな。ひとたび魔力を外へ出そうとすると、止められなくなって自壊するっていう」


 ハティさんは静かに首を横に振る。

 よかったー。暴発してすみれが死んだら、寂しくならないように付き添うところだったわー。


「そういうのとは違う。すみれはとても特別。詳しいことはきちんと調べないといけない。固有魔法(ユニークスキル)のせいなのか、生まれもっての性格なのか、すみれは自分の意思で魔力を外に出せない体質。それどころか、魔力が一切、外に漏れない」


 魔力が一切、体外に放出されないとはどういうことか。

【魔力と人間の関係】という講義では、人は無意識に口・肌からの呼吸によって体外の魔素を取り込み、同じ程度の量を全身から放出すると説明していた。

 そうやって空気中の魔素と体内の魔素を循環させることにより、魔力の滞留を防ぎ、魔力症と呼ばれる病気から身を守る機能を備えている。

 それがないということは、彼女は淀んだ魔力による魔力症にかかりやすい体質。

 過去に行われた実験では、滞留した魔力を数日間保有し続けた場合、1日で体調不良を起こし、3日目には全身に麻痺が現れて実験中止になった事例があった。


 ハティさんの言葉が本当だとすれば、彼女は今ここにいない。

 体循環が行われてないということは、体外から取り込んだ魔素を全て体内で使い切ってるということだろうか。

 魔力にも質量保存の法則は適用されるのだから、何かしらのものが体外に出なければおかしい。しかしそれもないと断言された。全くもって理解できない。ハティさんの言う通り、すみれは特別な存在なのか。

 命に別状がないのならいいのだが、やはり気になるというか心配になってしまう。


 と、あたしが勝手に心配する隣で、すみれは明るい未来を見据えた。


「魔法。どうにかして使ってみたいです。私もキラキラしたいですっ!」

「大丈夫。明日、私の故郷に行こう。そこで試してみたいことがある。いいかな?」

「ハティさんの故郷? 行きます。お願いしますっ!」

「あたしも行くっ! ハティさんの故郷、行ってみたい!」

「ボクもなんだな! ハティさんのこと、もっとよく知りたいんだなっ!」

「それじゃあ明日の朝に出発しよう。今日は泊まってく?」

「「泊まるっ!」」

「やったぁ~♪」


 久しぶりのお泊り会。パジャマパーティーなんか小さい頃にローザの家でした以来だ。

 しかも夢にまで見たお風呂。倭国式の露天風呂。すみれと一緒のお風呂。テンション上がって仕方ありませんなぁ!


     ♪     ♪     ♪ 


 ヒートショック対策なのか、湯舟に張られた湯気のおかげでほどよい湿気が体にまとわりついてくる。

 裸になると当然寒いわけだが、風呂場は特に寒いのでシャワーを出すまでのわずかな時間が意外に辛い。

 しかも冷えた体にあっついシャワーを浴びた時の温度差ダメージがきつい人は多いのではなかろうか。あたしもそんな1人です。

 なので空気が温められてる倭国式屋内露天風呂は気持ちよく、フェードインするように体温を上げてくれる素敵空間。


 にしてもお風呂場、広くない?

 基本的に個室のイメージのあるお風呂。倭国式露天風呂風だからか、複数人で入浴できる設計になっている。湯船は追い炊き機能付き。天井からシャワー。浴室乾燥機。エトセトラエトセトラ。

 極めつけはマジックミラー張りの屋根。

 お風呂に身を投じながら、天を仰げば満天の星。

 まさに贅沢極まれり。

 前のオーナーの趣味で作られたと聞いているが、どんだけお金かけてんだよ。

 本当にありがとうございますっ!


「初めて入るけど、広くてなんだか落ち着かないんだな。これが噂の露天風呂。みんなで一緒に入れるんだな」

「温泉地のサウナ部屋を思い出すわ。それにしてもハイテクだな。オーナーさんには感謝感激だね。それにしても……」


 すみれ、おっぱい大きいな。

 あれだけ食べてれば胸に栄養がいくもんなのか。

 私生活も食事もバランスよさそうだしな。

 あたしは小さい頃から夜更かしばっかりしてたからな。

 あぁ~、タイムスリップできるなら、早寝早起きの大切さを幼い自分に説きに行きたい。

 涙がこぼれぬよう、天を見上げ、湯舟を肩まで浸けてみる。

 それを見たすみれは隣で一緒に天を見上げた。あたしとは違う意味で。


「星の綺麗な夜はみんなでお風呂に入るんだよ。それから屋上テラスでココアを飲んで、明日は何をしようかなぁ~ってお話しするの」

「それいいなぁ~。あとで屋上テラスに出ようよ。今日はいい風が吹いてるから、きっとココアも格段においしいよ♪」

「それじゃあ、あとでお芋()かすね。おいしいお芋さんを貰った」

「お芋さんっ! さつまいもですか?」

「それはね、えっと、よくわかんない」


 ココアに芋って合うのだろうか、という疑問は口に出さないでおく。

 それにしても、の先にはすみれの姿。本当に綺麗な体してんなぁ~。倭国人の肌はきめ細かいっていうけれど、しっとりとなめらかでたまんねぇっすわぁ。

 ハティさんは…………服越しから分かってはいた。やはりでかい。身長もあるし胸を支える大胸筋も発達してるだろうから当然と言えば当然。それにしても、目のやり場に困るほどのとてつもない破壊力。

 不意にガン見してしまう。

 こんなもんにビンタされたら心が死ねる。

 精神が吹き飛ぶ自信がある。


 体を洗っていざ入浴。心地よい水圧が全身を包み、体の芯まであったまるようだ。

 ため息を空に打ち上げて夜空を楽しむ。ガラス張りの天井は特殊な加工が施されていて曇らない仕様。マジで金かけてんな。

 おかげで綺麗なお星様を眺めて贅沢な時間を過ごせるの。文句なんて言ったらバチが当たっちゃう。


「どうですか。今日の夜も素敵ですよね」

「いやぁ~極楽極楽♪ 本当にもう、この家に住みたいくらいだわぁ」

「住むのは無理でも、またこうしてお泊りしたいんだな。しっかし、ハティさんの髪、超長い。ボクも伸ばしてるけど、大変でしょ」

「うん。お風呂の時なんかはこうやって……頭の上にまとめるんだけど、少し重い」

「ちょ、今のどうやったの。ボクにも教えてっ!」


 こうやって、と言葉を切って一瞬で髪がまとまった。三つ編みを解くと足首ぐらいまで伸びる金色の髪を、ものの1秒でセットする速さたるや神業。

 ハティさんが使った魔法は、過去にセットした髪型になるように記憶されていて、知ってさえいれば誰でも簡単に習得できるらしい。

 あたしはセミロングでポニーテールにするくらいだからそれほど重要ではない。

 時と場所によって髪型を変える信条を持つルーィヒにとって、一瞬で髪型をセットできる魔法はまさに目から鱗。

 普段のサイドテールからローポニー。シニヨンまで色々と変身する彼女の髪には朗報である。


 場所を移して屋上テラス。

 ほかほかの体を春風が通り抜ける。甘くふわふわなココアの香りが鼻をくすぐった。

 グレンツェン大図書館の屋上テラスを小型化したようなこの場所は、春のお花で彩られている。

 朝日に輝く花々もよいが、月明かりに映える色もなかなか風情があってよろしいですな。

 ハティさんが用意してくれたお芋も甘くておいしい。

 2つに割った中身が赤色だった時はびっくりした。黄金色やオレンジ色とは違う品種。いざお口に運んでみると、ねっとりとした食感にあま~い香り。芋特有の甘さを極限まで追求したかのようなそれはもはやお菓子。

 蒸かしただけなのにこんなにもおいしくなるお芋があるとは、目から鱗ですわ。


「どう? おいしい?」


 問いかけるハティさんの両手に焼き芋。とっても満足そうな笑みを浮かべる。


「これめっちゃおいしい。ココアと交互に飲むとさらにおいしい。たまりませんなぁ~。うまうまです」

「本当にこれ超おいしい。ハティさんの故郷で栽培してるやつなの?」

「ううん。これは友達がおすそわけって、沢山持ってきてくれた」

「んん~♪ ねっとりあまあまでおいしいですぅ。素敵なお友達なんですね」


 すみれも両手に芋。リスみたいにほっぺを膨らます。


「うん。すっごく頑張り屋さん。今は砂漠化した故郷を緑でいっぱいにするって一生懸命になってる。明日もまだシャングリラにいると思う」

「そっか。だったら何かお返しがしたいね。朝一で何か買っていかない?」

「賛成なんだなー! あ、流れ星!」


 言われてすかさず、脊髄反射的に出た言葉が、


金金金(かねかねかね)

「お、お前……マジにドン引きなんだな……」


 自分でもちょっとヒいてる。


「えっと、えっと、あ、明日天気になぁ~れっ!」

「それでいいのっ!?」

「え、あ、うん。明日も晴れればいいなって。雨も好きだけど、やっぱりお日様が出てるほうが嬉しいなって。ハティさんは何かお願いしないんですか?」

「私はね、叶えたい願いは全部叶ってる」

「文字が読めるようになるっていうのは?」

「はっ! そうだった!」


 思い出したように流れ星を追いかけるも時すでに遅く、宇宙(そら)の彼方へ消えてしまった。

 がっくりと肩を落とすもすぐに起き上がって、子供たちに絵本を読んであげるんだー、と決意表明。ある意味これが一番理想的かも。


 純粋すぎて微笑ましくなってしまう。すみれもハティさんも、見ていて全然飽きないや。

 そんなハティさんの故郷ってどんなところだろう。今からとってもわくわくだ。

 流れ星ではないけれど、明日も良き日でありますようにと、瞬く星に願います。




~~~おまけ小話『やはりかわいい』~~~


ヤヤ「お芋ッ!」


すみれ「大丈夫。ヤヤちゃんたちの分もとってあるよ」


ヤヤ「すみれさん、大好きっ!」


ペーシェ「ヤヤちゃん、相変わらずの甘党。だがそこがすごくいい」


ルーィヒ「このくらいの歳の子は、このくらい純粋なのがちょうどいいんだな♪」


キキ「純粋とは、わがままではない」


ルーィヒ「ぐはぁっ! キキちゃんってボクたちの想像以上に精神年齢が高い時あるよね」


キキ「自由奔放なヤヤを見てると、なんかこう、しっかりしないといけないなって思うの」


ペーシェ「達観してらっしゃる。爪の垢を煎じて愚弟に飲ませてやりたい」


すみれ「キキちゃんのぶんの蒸かし芋もあるよ~。ねっとりあまあまですっごくおいしい!」


キキ「ひゃっほ~♪ お芋お芋!」


ルーィヒ「やっぱりかわいいもんはかわいいんだな♪」

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