小話 ~すみれの髪質~
ちょっとしたおしゃれの話しです。
男女問わず身なりは気になるもの。
人は見た目が9割ですからね。どんだけ中身が聖人であろうと、今時ボロ布にばっさばさの髪では浮浪者でしかありません。ここまで極端でないにしろ、身なりは整えておきたいものです。
以下、主観【ウォルフ・カーネリアン】
お風呂上りにドライヤーをかけ、ピンとゴムを用意。
すみれの髪はくるんくるんの強い癖っ毛。赤、ピンク、オレンジの毛先がまとまってくるんくるんに跳ね上がってる。
普通、髪が濡れたあとはストレートになるもんだけど、乾かしたさきからぴょんぴょん飛び跳ねる。
なんて面白い髪質なんだ。これをロングにしたらたいへんそうだ。
どんな髪型がいいか聞くと、おまかせしますと言われてしまった。
さぁたいへんだ。美容師という生き物は、基本的に仕事人なんだけど、『おまかせします』という言葉は『何をされてもOKで~す』と変換されて聞こる。
あたしもそのくちです。
このおしとやか元気娘をどう変身させてやろうか。
目の色が変わるとはこのことよ。
さぁどこをどういじってあげましょう。
うなじが見えるくらいの髪の長さのように見えて、まっすぐ引っ張ってみると肩にかかりそうなくらいある。
これは…………片方のモミアゲを細い三つ編みにして、耳にかけてアシンメトリーにしてみるのも良いかもしれない。
小柄な美少女のボーイッシュデビュー。アリだな。
そうと決まればさっそくブラシで梳きとって3本にぐはぁッ!
分け目を抑えておくためのヘアピンが吹っ飛んで額に直撃。
いったい何が起きたんだ。誰かがいたずらをしたわけでもない。そんなくだらないことをするような人はいない。そもそも誰もヘアピンに触ってない。本人は何が起こったのかわかってない様子。
どういうことだ。
まさかすみれの癖っ毛が元に戻ろうとして、ピンを跳ね飛ばしたのか。
いや、それこそまさかでしょ。
理解できないことだけど、とりあえずまぁもう1度チャレンジするか。
念のために3本のピンをクロスさせて止めておこう。
ここまですれば飛び跳ねることはあるまいて。
それでは気を取り直してぎゃあーッ!
「どうしたのウォルフ。そんな大きな声を出して」
「いや、すみれの髪質が強くて苦戦してるだけだ。仮止めしたピンがはじけ飛んで額に当たった」
「…………何を言ってるの?」
だよねー。
それが普通の反応だよねー。
でも本当なんだよ。
でこぴんよろしく飛んでくるんだよ。
超痛いんですけど!
半信半疑のままにエマもすみれの髪に挑戦。
結果はあたしと同じくでこぴんピン。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして棒立ちでいる。
何度挑戦しても結果は同じ。
すみれの髪、形状記憶剛毛とでも言うべきか。なんなんだこの面白い髪は。
しかしこのままでは負けたような気がしてならない。なにより、自分の髪のせいでと申し訳なさそうにするすみれにも申し訳ない。
ここは視点を変えてみるんだウォルフ。
逆にこのぴょんぴょんのはね髪を利用するんだ。
頑張れあたしっ!
「――――――と、いうわけで……グレンツェン風、スミレおさげ」
「後ろ髪をまとめてヘアゴムでくくっただけっ!」
エマめ、余計なことをっ!
「か、過程はどうだっていいんだっ! 結果的にスミレの花の花弁みたいになってるからスミレでいいの!」
エマの言う通り、後ろ髪をまとめてくくって、少し整えたらぴょんぴょん髪が5枚に分かれた。だからスミレおさげ。
本人が気に入ってるし、似合ってるならそれでいいのだ。
現に鏡を見て飛び跳ねて喜ぶ姿なんて初々しくてかわいいではないか。
簡単にできてかわいくなれる。これが大事です。
これが大事なんですっ!
すみれの髪はくるっくるの癖強子ちゃんです。
しかも地毛で三色という謎設定。
昔、駅で七色のモヒカンをしている男性を見かけました。
物珍しいのか、モヒカンの男性の後ろをぴったりとくっついて歩くオッサンがいました。
出社前っぽい雰囲気だったのですが、遅刻せずに会社に行けたのか今でも心配です。
もしかしたらモヒカン男性は会社の同僚だったのかもしれません。
世の中には目を疑う景色で溢れています。




