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決闘 3

 棒立ちでいること約3分。息切れを起こしたネーディアは膝をがっくりと落としてアルマの顔をねめ上げる。

 そんな憎悪満点の視線を送られても、困るのはアルマなんですけど?

 それにしても、最初に使った氷襲(スニーク・アイス)を除いて、氷玉(アイスボール)氷狼(アイス・ウルフ)しか使ってこないんですけど。

 まさか魔法のレパートリーがこれだけしかないだなんてことないよね。仮にも宮廷魔導士志望なんだよね?


「ふっ、ふふん。なかなかやるじゃないか。この僕の魔法を前に悠然と立っていられるだなんて。少しだけ見直したよ」


 KOITU,UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!


 何が見直しただよ。そもそも見直されるようなことしてないから。

 負け犬の遠吠えにしても、もっとなんかあるだろ。

 てゆーか負けを認めろよ。お前の貧弱な魔法なんかじゃ、アルマのふりふりフリルスカートに傷一つすらつけられないんだよ。

 傷つけたらぶっ殺すけど。


 あぁ~もうこいつ本当に面倒くさい。

 ダメだもうこれもうダメだ。攻撃が通用しないって分からせて負けを認めさせようと思ったけどダメそうだ。

 なるほど、確かにローザさんの言う通り。言葉でダメなら暴力もアリというのはあながち間違ってないのかもしれない。

 であれば仕方がありませぬ。ちょっぴり本気を出しませう。


「あのさぁネーディア。一応勧告しておくけど、あなたの魔法はアルマの魔法の前に無力なわけ。魔力の残量だってもうないんでしょ。元々少ないようだけど。だから負けを認めて、みんなで進めてる企画を仲良くやろうよ。アルマとしてはどっちが上とか下とかどうでもいいと思うわけ。対等じゃダメなの?」

「ここまでバカにされて黙っているだなんて、男じゃないだろ」


 …………それ、カッコイイと思ってんの?

 結界の外でローザさんが笑顔で両手をクロス。バッテンしている。

 どうやらアルマの物言いにも問題があったようだ。

 コイツが苛立つだろうなぁと思う言葉を選んだのは認めよう。

 しかしこういう時、アルマはいつも思う。アルマにこんなことを言わせたのはネーディア(こいつ)だ、と。

 つまり言わせた相手も悪いのだ。これが世に言うアルマ理論。周囲の大人からは(かぶ)いてるなぁと褒められる (笑)。


 しょうがない。埒が明かない。なので現実をつきつけませう。


「…………分かったよ。負けを認めさせるのは諦めましょう。ただ1つだけ言わせて。魔法っていうのは魔術回路が形成されて初めて発現する。ただね、その威力に関しては魔術師の経験や魔力の練度によって大きく違ってくる。同じ魔法だとしても、使用者の力量で別物になるんだよ。それが戦場では生死を分ける。はっきり言うけどネーディアは下の下だよ。知識は蓄えてるようだけど、魔力量も少なければ練度も低い。先天的な場合を除けば、本来魔法は後天的な努力によって得られるもの。だからさ、あえて聞くけどネーディアって…………宮廷魔導士になりたいって言っておきながら、魔法の鍛錬、してないでしょ?」


 ぎくりと口を真横一文字に結んで言葉を失う。

 図星をつかれて冷や汗が流れた。

 よくあるやつだ。努力をしなくても願うだけで夢はいつか叶うと本気で信じる輩。

 彼もそのタイプ。でもね、アルマは知ってるんだよ。夢は自らが願い、自らの手で叶えるということを。

 祈るだけでは叶わない。

 実現しない。

 現実には成り得ない。

 努力して初めて、それでもようやく叶うか叶わないかの瀬戸際に立てるんだ。


 だからアルマは、こういう奴には決まってこの言葉を贈るのだ。


「…………ナメルナヨッ!」


 瞬間、彼の頬を巨大な氷が通り過ぎていった。

 それは死を予感させる巨人の槍。

 思考を掻き消す怒りの鉄槌。

 氷襲(スニーク・アイス)


 ネーディアがとっておきと言って放ったそれと同じ魔法。

 違うのは、込めた魔力量と魔力の練度。

 魔力量が多ければ多いほど、大きく広く展開できる。

 魔力の練度が高ければ高いほど、氷の密度は高く、術の発動時間は短く、襲うスピードは速くなる。

 反応できないほどの速さで過ぎ去ったそれは、シェリーさんがくれた結界に沿ってネーディアの周囲に反り返った。

 触れてはいない。しかし身動きはとれない。一気に体温が奪われていくのを感じて凍り付いた。


 そう、魔力量と練度の違いでこれほどまでの差が開く。

 当然だ。このくらいのことは子供だって理解できる。息を吸って吐くくらい当たり前の事象。

 そんな当然のことを目の当たりにして、ようやく戦意を喪失した子供は小さく負けを認めたのだった。


 再びアダムの声が耳に聞こえる。


「す、すごい…………アルマって何者なんだ。紅さんの推薦で留学してきたっていうのは聞いてたから優秀だと思っていたけれど、これはもう優秀だなんてもんじゃないよ。魔力量も練度も宮廷魔導士以上だ」


 ふふふ。そういうことはもっと言っていいのだぞよ?

 アダムの言葉にキキちゃんが返す。


「アルマお姉ちゃんはねー、魔法のことがすっごい好きなんだよ。あと読書も大好きで、部屋に置いてある本のせいで、階下の天井が歪んで壊れそうだからって、アルマお姉ちゃん蔵書の小図書館まで作ってもらってたよ。お引っ越しもしたんだって」


 キキちゃん、そういうことは言わなくていいんだよ?

 これを聞いて、ベレッタさんが乾いた笑みを浮かべた。


「どんな状況になれば床が、天井が落ちそうになるのかしら。想像を絶するわね」

「アルマさんは魔法に対する情熱と造詣がとても深い方です。魔法だけに留まらず、剣の扱いや薬学まで収めていらっしゃるのですよ。本当に努力家で、心から尊敬できる人です。ほら、次の試合は剣を使われるようです。剣で戦うアルマさんは貴重な姿ですので、是非ご覧になって下さい」


 ヤヤちゃんは珍しいものが見れると大興奮。


「魔法が大好きっていうのは知ってたけど、ネーディアを圧倒しちゃうなんて凄い」


 ライラックは改めてアルマの凄さに気づいたようだ。


「(あれはアルマが強いというのもあるけれど、ネーディアが弱すぎるっていうほうが正しいかもしれない。けど言葉にはしないでおこう)」


 アダムはネーディアを慮って口を閉ざす。


「あの男の子。すっごく弱いね」


 ハティさん、純粋ゆえの素直な感想。だけどそこが素敵っ!


「きゅきゅきゅう~ (戦士の風上にも置けぬ弱さです。あれで誰かを守ろうなどと、笑止千万。片腹どころか、両腹痛いですな)」


 ゆきぱんの辛辣な眼差しがネーディアに向けられてる。


「ええ、さすがにアレはないわ。宮廷魔導士志望の子と決闘って聞いてわくわくしてたのに、本当にがっかりだわ。しかもアルマちゃんが強すぎて両方ケガしてないし。新しい治療魔法の実験ができると思ったのに…………次の試合ではぼっこぼこにしてもらわなきゃ♪」


 ローザさんからバリバリの罵詈雑言。

 あまりの弱さに同情はなく、あるのはただ憐れみの言葉のみ。


 それはさておき、なるほどそういうことですか。

 ローザさんの笑顔の裏には何かが隠れてるんだろうなぁと感じてた。新しい治療魔法の実験ですか。では僭越ながら、アルマがご提供いたしましょう。

 アルマが実験台になるのは嫌なので、イッシュをぼっこぼこにしてあげます。

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