謝蜂葬〘エルンテダンク・ビーネ・ベアディグング〙 3
時刻は11時。グレンツェンの市長であるヘラさんが登場した。
儀式の最後は必ず市長が蜂墓地に火を灯し、蜂たちに祈りを捧げる。歴代の市長がずっと守り続けてきた伝統は、きっとこれからもずっと続いていくのだろう。
言葉は最小限に、粛々と儀式が終わる。
振り返ると、とてもたくさんの人たちが集まっていたと気付く。それこそグレンツェン中の人々がいるんじゃないかと錯覚するほどに。
次第次第に人の群れが解けていって、最後はお祭りを主導する人々だけが取り残された。
私たちは少し余韻に浸りたくて、猛る火炎の海を見つめ続ける。
すると葬儀のお手伝いに参加していたベレッタさんとシェリーさんが声をかけてくれた。
「やぁ、すみれ、みんな。早朝からご苦労様」
「シェリーさん。ご苦労様です。ベレッタさんも」
「おはよう、みんな。はいこれ、命の土。一人ひとつずつ受け取ってね」
「ありがとうございます。これが命の土。不思議な温かさを感じます」
「そうだね。きっと蜂さんたちの心が宿ってるんだよ」
「そうだといいですね」
命の土とは、エルビーベアで火葬した蜂さんと藁と土を混ぜて作られた肥料のこと。これを一人ひとつ持ち帰り、花々の根本に置いて土に還してあげる。ここまでが蜂謝葬。
落っことしたりしないようにポケットに入れておこう。
最後にベレッタさんたちのお手伝いをして帰ろう。彼女たち修道院の人々はエルビーベアのために働きづめ。この日のために準備を整え、火葬ののちに袋に土を詰め、丁寧にリボンをした。
早朝からカントリーロードに繰り出しては、キャンディーとソル・ド・ヴィを運び込み、訪れる人々に手渡す。これを4日ずっと続けた。彼女たちは街に生かされる立場だから、街の行事に参加することが義務付けられる。とはいえ、私たちもなにかお手伝いがしたいのです。
「シェリーさん、ベレッタさん、私たちもなにかお手伝いがしたいのですが、なにかできることはありませんか?」
シェリーさんは感心した笑顔を浮かべ、そうだな、と小さく呟いて周囲を見渡した。
「最終日は資材の撤去があるんだが、机や椅子は子供たちには大荷物なんだ。いくらか運んでくれると助かるよ。半分はカントリーロードに住む人たちのものだから、残り半分を頼みたい。いつもなら修道院OBがもっといるんだが、仕事の都合で前半3日間しか参加できなくてな」
「お任せください。どれどれ運べばいいか教えてくだい」
「恩に着るよ。それじゃ、あとはアダムとベレッタに任せよう。私はシスターと一緒にカントリーロードの人たちへ挨拶に回るから」
「わかりましたっ!」
ベレッタさんとアダムさんに向き直って指示を仰ぐ。
ベレッタさんがジェスチャーとともに指示を飛ばした。
「わたしから見て右側にある資材を修道院に返却していただきたいと思います。主に机と椅子。それからキャンディーを入れていた空箱をお願いします」
「わかりました。みんなで手分けして運びましょう。おーっ!」
「「「「「おーっ!」」」」」
というわけで、机と椅子と空箱を運びましょう。路面電車に乗り入れて、彼らのおうちへ戻すのだ。せっかくだから子供たちのお話しも聞きたいな。
たいへんそうだと思いながらも、わくわくが勝る私はスキップしてしまいそう。




