決闘 1
今回はバトル回です。
日常物なのにバトルあるのかよ、と思うかもしれません。
あります。日常物ですが。
魔法大好きアルマがどうしようもない男子二人をぼっこぼこにしちゃいます。
実はこの小説は学園バトル物の予定でした。バトル物が受けると思って。しかし異世界バトル物の行きつくところって最強を最強で被せる感じたと思ったんです。某カードゲームみたいに。
なんかおもんないなと思って日常物に変更したのです。結果よかったと思っています。
でもバトルさせたいのでそんな回もあります。今後も出てきます。
以下、主観【アルマ・クローディアン】
速達で届けられたシェリーさんからのメールボックスの中身は、件のマジックアイテムが封入されている。
騎士団での演習や、周囲に被害が及ぶ際に好んで使われる、結界の魔術回路が刻まれた四角柱状の黒い棒。
四方にこれを埋め込み、点と点を線で描いた内側のモノを外に出さないようにできるすぐれもの。
通常であれば魔法の練習で周りに迷惑をかけないためとか、流れ弾で怪我人が出ないようにするとかっていう使い方が一般的。
今回は人の乗ったしゃぼん玉が風に煽られて、あらぬ方向に行かないようにするために使います。
さっそく仲間を呼んで実地試験だ。
本日お越しいただきましたるは、キキちゃんヤヤちゃん、ライラック、マーガレット、バカ2人。それからベレッタさんにハティさん、ゆきぽん、ローザさん、アダム。
前出の6人は空中散歩のメンバー。当日に結界のマジックアイテムを使うことになるだろうから当然の呼び出し。
後出の4人と1匹は、個人的ないざこざを解決するために、わざわざご協力を頂いた次第であります。
いざこざというのは――――お祭り本番前に魔力の練度を上げるためだとバカ2人を調教していると、突然逆ギレをしてアルマに手袋と暴言を叩きつけ、決闘を申し込んできたことに他ならない。
マジに正式な決闘というわけではない。とにかく辛くて地味な修行と、なにより他人にコキ使われるのが我慢ならないらしく、勝者に従えと前時代的な思想を振りかざしてくるのです。
この単細胞生物のためにご足労いただいたキッチンのみなさん。本当に申し訳ございません。
「なんか俺のことを心の中でバカにしてる気がするんだけど?」
「心外ではあるが僕もそう感じた」
「うるせぇよ、黙って仕事を、やらんかい。お前らはこれを持ってさっさと所定の位置につきなさい」
イッシュとネーディアが苦虫を噛み潰したような顔をした。とはいえ、ライラックや年上の人々の手前、とりあえず指示通りに動く。
こうした物言いが彼らの心情を逆撫でしていて、人を使う場合において言葉を選ぶべきなのはわかっている。
が、アルマは2人の高慢チキチキな鼻っ柱に頭をつんつんどつかれた苛立ちがあるので、わざと怒らせるような言動をとる。
暁さんにはよく窘られて分かってるつもり。
だけど、ともかくイッシュとネーディアにはこれで十分。と、こんな姿を見たら暁さんをがっかりさせてしまうので、気を付けようとは思います。
しかしこんなストレスとも今日でおさらば。
なにせ相手方のほうから、『決闘に勝ったら勝者の言うことは絶対順守だ』なんて言ってくれたのだから、まさに棚から牡丹餅どころか、夜空から金平糖の流星群と言わずしてなんと言おう。
なにより合法的にぼっこぼこにできるうえ、これからは文句を言われることもなくなる。
嗚呼、なんと良き日かっ!
「ねぇアルマ。本当にいいの? 2人と決闘だなんて」
決闘だとかなんだという暴力沙汰が日常にないライラックは心配でならない様子。
当然の反応である。だからアルマも当然のように、朝の挨拶をするような心地で笑顔をむけた。
「いいのいいの。むしろいいの。シェリーさんのありがた~いお言葉を空の彼方へ忘却した2人は、一度死んだほうが…………もとい、へこんだほうがいいの。バカは死んでも治らないだろうけど」
「バカは死んでも治らないだろうけど、2人はあれでも騎士団志望で、魔法も剣も使えるんだよ。やっぱりやめておいたほうがいいんじゃ」
「大丈夫大丈夫。魔法と剣が使えるのは何もあいつらだけじゃないから」
「そうなの?」
心配そうに眉を顰めるライラックにも仕事を頼み、借りた10個の四角柱を25m間隔で設置。
円形になるように配してスイッチを入れると透明な膜が空を覆い、触れると見えない力で圧し返される。
点と点の距離が遠くなればなるほど、圧し返す力が弱くなり、近ければ近くなるほど強くなる性質を持つ反重力結界。
騎士団の演習用とだけあって、かなり強力なマジックアイテムのようだ。
きっと高価なものに違いない。こんなものを個人で所有してるとは、さすが騎士団長。
そしてこれを簡単に融通してくれるだなんて、さすが騎士団長。
まさかシェリーさんがストレスを発散するためだけに、魔法をぶっ放すためだけに購入しただなんてつゆ知らず、アルマはシェリーさんがこの結界の中で切磋琢磨する素敵な姿を妄想した。
見えない結界を見てみよう。魔法や物理的な衝撃にも耐える強度。これならしゃぼん玉程度、なんの問題ない。
問題ないけど、ハティさんにも査定してもらいましょう。念のために。
「ハティさぁ~ん。この強度なら人が乗ったしゃぼん玉がぶつかっても、どっちも壊れないと思うんですけど、どうでしょう?」
「うん。大丈夫。すっごく頑丈で柔らかい」
ハティさんの査定があれば安心できる。
彼女は見た目だけだとぽわわぁ~んとした雰囲気。しかししかし、こと魔法の扱いに関しては天上天下に唯我独尊な存在なのだ。
暁さんを除けば、ハティさんこそアルマの理想の女性像。ゆったりとしていて落ち着き払い、いざとなれば烈火の如く舞い踊る。
強く気高く美しい。まさに女神様ですっ!
あとは実際にしゃぼんを浮かせて実証実験。それからマジックアイテム自体に強度強化の魔法をかけて、いざ本番で万が一のことが起こらないように処置をすることと、念のために四角柱を箱に入れて、地面に埋めてもきちんと作動するか確認しなきゃ。
本番は子供から大人まで沢山の人々が押し寄せる。
特に子供はテンションマックスで視野が狭くなりがち。珍しいものに触りたくなる衝動を抑えきれず、こちらが用意したものを手当たり次第に触る危険もある。
大事なものは小さな子供の手の届かないところに置きましょう、なのです。
今回の場合は埋めてしまえばよろしいのよ。
そしてあえてキープアウトのテープは使わない。触るなと言われると、触りたくなる子供心をアルマはよく知ってる。
なぜならアルマがそういう少女だから。
「分かるわ。神話でも御伽噺でも、触るなと言われて触らないやつはいないもの」
ローザさんにも心当たりがあるらしい。
「トラブルが起きないと物語が始まらないっていうのもあるけれど、今回のこれに関しては上手な対応だね。結界が外れてしゃぼんが外に出てしまったら命の危険があるから」
アダムの言葉通りなら、物語を始めるアルマはチャレンジャーということではないでしょうか。
そう胸を張ると、隣に並ぶローザさんもベレッタさんも呆れた顔をしてみせた。
よし、これについては無視して話しを進めよう。
「ですです。企画の中身も大事ですが、それ以上に危機管理が徹底されてないと監査の時点で禁止されかねないと聞きました。特にアルマたちのやろうとしてる空中散歩は野外系なので、異常なくらい徹底します。こういうのは異常なくらいがちょうどいいんです」
「やっぱりアルマちゃんは凄いなぁ。しっかり考えてるんだね」
「いやぁ~、それほどでもぉ (照)」
尊敬する人に褒められると照れちゃうな。
いい気分になると、どういうわけか害虫が現れる。イッシュとネーディアだ。
「それじゃあそろそろ始めようぜ」
「大勢の前で恥をかきたいだなんて、君も変わり物だね」
クソがッ!
知的な会話を楽しめない原始人の登場で、雲の上から地面に叩きつけられた気分になった。
こうなればもうボッコボコのボコにしてやんよ。
くじ引きの結果、ネーディアが初手。イッシュは後攻。アルマとしては面倒だし、2人いっぺんにかかってきてくれてもよかったのだけど、そこは1対1の真剣勝負だと声を荒げる。
めんどくせぇー。




