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謝蜂葬〘エルンテダンク・ビーネ・ベアディグング〙 2

 キキちゃんはローザさんの手をとってわくわくする。

 ローザさんも楽しそうに微笑む。特に彼女は自宅の庭をバラ園にするほどバラが大好き。それと同じくらい、蜂の羽ばたきを愛してる。

 春に夏に、秋に咲くバラの蜜を求めて蜂が訪れる。花びらの上をとことこと歩き、顔をつっこんで蜜を集める彼らの姿を見て命の営みと助け合う心を感じるのだ。


 なんだか私も誰かと手を繋ぎたい気持ちになっちゃった。

 ハティさんと手を繋ごう。大きな手に抱かれよう。


「ハティさん。手を繋いでいいですか?」

「もちろん。一緒に手を繋ごう」

「アルマもアルマも! 一緒に手を繋いで歩きましょう」

「もちろん!」


 ハティさんを真ん中に、アルマちゃんと私が両隣で手を繋いで歩く。

 秋晴れの朝は寒いけど、おててはとってもあったかいな。


  ♪ ♪ ♪


 かたんことん。かたんことん。かたんことん。

 路面電車は行くよ、カントリーロードまで。

 実はあんまりカントリーロードに行ったことがない。用事があるとすればバゲットを買うためにゴルトヴィントに行くか、シトラスさんの家に遊びに行くか。養蜂場の見学に行ったこともあったっけ。

 今日の会場はセントラルステーションから3つ先の駅を降りて10分ほど歩いたところ。ぽっかりと空いた窪地に藁が敷き詰めてある。

 周囲にはエルビーベアの参加者が集う。受付でグレンツェンアプリを読み取って住民票を提示したのち、藁で覆った蜂さんたちの墓を参加者が囲む。ある人は花を手向け、ある人は手を組んで祈る。

 彼らに日頃の感謝を伝えるため、私はスミレの花束を持参した。藁が敷かれた墓にぽんと投げ入れて合掌して祈る。


「蜂さん蜂さん。おいしいはちみつを集めてくださってありがとうございます。おいしいはちみつを食べさせてくださってありがとうございます。安らかにお眠りください。どうか私たちを見守っていてください。温かな土に還り、世界のひとつとなって未来を行く人と同胞をお導き下さい」


 気持ちを伝えて一拍。目を閉じて祈り、黙祷を捧げる。

 目を開くと同時に深呼吸をすると、太陽に温められた空気が肺を満たす。

 空と大地と、蜂さんたちが羽ばたいた空気の香りが心に沁みる。

 ティレットさんたちも、キキちゃんもヤヤちゃんもアルマちゃんも、みな同様に祈り、心の中で感謝の言葉を捧げる。

 ハティさんはライブラからバイオリンを取り出し、レクイエムのベネディクタスを弾く。

 すると、一瞬空気が膨張して風が足元からふわりと舞い上がったように感じた。風に当てられた心は柔らかく、温かく、とても不思議な気持ちになる。


 演奏が終わるも喝采はない。これは蜂たちに向けた祝福の音。

 それを理解するみなは、ただ静かに沈黙を守る。

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